東方神聖軌 ~ 零のスペルカード   作:超絶暇人

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 "瞬殺"────

 言葉にすると何と薄っぺらくて簡単なのだろうか、実際に成し得るには数々の条件が必要なのに対して……

 "無双"────

 顕現した俺の力、先程の瞬殺を容易に実行出来る比類無き『終焉』の力、此の世に存在し、此の世を破壊する、創造の反対属性……

 こんな、何も無い俺に、如何してこんな強力な能力が宿っていたのか、皆目検討が付かない。でも、選ばれたってんなら、やれるだけやるさ


4章

「まだこの状態に慣れないんです、出来れば一瞬で終わらせたいので、覚悟してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【4章】

〔繰り出すは必殺、成されるは瞬殺〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度目を閉じてから全神経を研ぎ澄ますように無に集中を努める事僅か1秒、晃太の目は澄んだ空の如く青く光り、全身から澄んだ空気が爆風として吹き荒ぶ。純粋な力の象徴にして悉く全てに於いて綺麗な力、純粋故に恐ろしい破壊の力、それが無双、それこそがこの能力。

 

 晃太の全身から放たれる透明で、何処までも清らかで美しい無双の波動に見惚れ、その奔流に押し流されつつも此の世のモノとは思えない極めて純粋な力を目の当たりにして、美鈴は目を見開いて無言のまま感動した。美鈴はまだ晃太の持つ"無双"を知らない、知らないがしかし、美鈴にはわかった。

 

 これ程までに綺麗な力が幻想郷に存在した驚愕、殺意の無い、傷付けるつもりも無い、純粋な破壊の意志を目前とした自らの後の光景、不条理で理不尽な、それでいて尚無垢な存在、それこそが"無双"と言う事実。それを理解した美鈴は戦闘に入る前から白旗を上げ、構えすらも執りはしなかった。

 

「────行きます」

 

 一言、晃太の口から漏れ出た呟きと同時に、ホンの瞬きにも満たないそれ以上の刹那、美鈴の体は空中を舞っていた。何が起こったのか、そんな事すらも些細で、認知する暇さえ許容されぬ一瞬で、美鈴は2億4012万3880回も殺された。

 

 幾ら手加減と言えど、この常識外れな数まで殺された美鈴は体は生きているとしても、意識は当の昔に死んでしまっている。10回殺された辺りから既に美鈴の意識は肉体を離脱してしまっていた、以降は御察しの通り、死体蹴りの様な具合だ。

 

「如何ですかね? 優さん。右手の小指だけ使いましたよ」

 

「張り切り過ぎだな、本気以上を出しただろお前。次からは左手の小指にしろよ?」

 

「あんまり変わらない様な気がしますが、そうしますかね」

 

 美鈴が落下して地面の冷たさを実感している間に晃太と優は門に向かって歩みながら軽く談笑(?)を始めた。いや少し待とう、優はわかる、この空間の調和者本人だからだ、しかし晃太は普通に優と同様の対応を成すのは色々とおかしい。

 

 恐らく『郷に入っては郷に従う』精神を働かせたのだろうが、それにしても順応が良過ぎる。彼の今この状態が能力や幻想郷や優に宛てがわれた所為である事を願うばかり……いや、それはそれでまたおかしいのだが、今は変化としてそれが一番マトモだ。

 

 言葉を交わしながら二人は美鈴が背にしていた鉄門を強引に押し開け、館内にもそれが伝わる様に優は開けた鉄門を引っこ抜いて入口の扉に向かって全力投擲した。野球選手宛らの投擲フォームを晃太に見せ付け、対して見せられた当人は呆けた眼でそれをまじまじと眺めていた。

 

 もう既に慣れたものなのだろう、晃太の目は館で見えない地平線の遥か向こうを見詰めているようにも見えた。ある意味悟りを開いたと言っても過言では無い────かもしれない。

 

 豪速で鉄門を投擲して破壊した館の扉は見るも無惨に破片を周囲に撒き散らしていた。その影響は、最早扉が無くなり隔りが失くなった館の外にまで及んでいる。散らばった扉の木片は、正に骸と言えよう。

 

「おい咲夜、出て来い。侵入者の御来場だぜぇ?」

 

 瞬間、世界の動きが一瞬止まったのを晃太は全身で感じ取った。同時に白っぽい髪の女性が館内の奥から高速でこちらに飛んで来て手元の刃物を優に向けた。しかし優はそれを人差し指と親指で、まるで誰かの鼻でも摘むかの様に女性の向けた刃物を静止させた。

 

 直後、世界が回転を再開した事を晃太はまたも全身で察知した。この異常な瞬間に発生する謎の知覚、それは全て女性が現れた時から生じている事に、晃太は疑問を覚えた。

 

「ちぃッ、相変わらず貴方には能力が通じないわね。存在そのものが反則なんだから少しは手加減しなさいよ」

 

「手加減ならずっとしてるんだが、生憎レベル合わせが苦手でな、経験値不足の勇者に魔王は手を振り翳すだけだぜ」

 

「……って、すんなり攻撃を止めてるんですけど一体どうしたんすか優さん!? この人誰ですか!?」

 

 目の前で普通に女性と(憎まれ口風味に)会話を繰り広げる優に晃太は驚愕を隠さずツッコミを放った。晃太のツッコミに優は疑問符を頭上に浮かべる勢いの顔で彼の方へと向いた。

 

「何だ? お前今のやり取り見えてたろ、この女が『時間』を止めてから俺に襲い掛かってきたのを」

 

「はぁ、はい────何だって?」

 

「だから『時間』だよ時間。でも意味が無かった、何故なら俺やお前は世界そのものの力を持ち、その称号を名とする二つと無い存在だからだ。まぁ他にも色々と理由はあるが、今はそれが一番通じ易い。お前も感じた筈だ、"世界の動きが一瞬止まった"のを」

 

 なるほどと相槌を打ちたくなる、ワケが無い。世界の動きが止まるなど到底理解し得ない夢の御話だ。況してやその動作の停止を感じるなんてのは夢遊病紛い、そして晃太は考えるのをやめた。

 

「考えるな、感じろ。この難儀な話について考察するのは幻想郷に一人で良い、お前は取り敢えず感じるだけ感じとけ」

 

「片手間に片付けんでください、ただでさえ現状の不幸でのたうち回りそうだってのに、これ以上は卒倒モノですよ……」

 

「────あの、蚊帳の外なのだけど、そろそろ良い?」

 

 刃物を優に摘まれたまま佇む女性が唐突に二人の会話に割り込んできた。このまま放置しておくのも申し訳無いと思った晃太は、取り敢えず女性の素性を優に訊く事にした。

 

「優さん、この人は一体?」

 

「こいつは十六夜 咲夜(いざよい さくや)。この館のメイド長にして主人(あるじ)に忠実な従者、"時を操る程度の能力"を持つ最強のメイドだ。っで、合ってるよな?」

 

「御説明どうも、最強は余計だけどお嬢様や妹様とか一部除いて最強なのは正直自負しても良いくらいよ。まぁ時と場合にも依るけど」

 

 その時、優は鼻で軽快に嘲笑(わら)った。優の説明を受けた咲夜が返答で口にした言葉に可笑しさを覚える部分が有ったが故に────

 

「時間を能力とするあんたが"時と場合"か! おい晃太、次の相手はコイツだ、他にも控えてんだ、修行も兼ねて使い慣れない(・・・・・・)なら温存も覚えろよぉ?」

 

 優は言葉を言い終えると指で摘んでいた咲夜の刃物を放し、その場から飛び退いて晃太の背後まで離れた。元々の目的がスペルカード探しであるのと同時に晃太を鍛える為の道程(かてい)であるので、少々無理矢理の切っ掛けを作って闘わせたがる。

 

 無双を使えるのは一瞬。その一瞬は彼や優の体感から言わせれば永劫にも近い時間となる。即座に倒すのは簡単故に使えば刹那に敵は倒れる、逆に慣れるまでは無双は一瞬しか使えず、その一瞬を過ぎれば幾らかの余韻(インターバル)を経過しなければならず、その制約下での闘いに慣れるにも大切な事となる。

 

「温存か……それが出来る相手じゃ無いような気がするんですがね」

 

「修行に勝手に付き合わされるのか、私も嘗められたものね。良いわ、但しハンディキャップを求めるわ。貴方の持つ能力は一度のみの使用とする、と言うので如何かしら?」

 

「良いねぇ、その案貰った。晃太、今からお前に補正を掛ける。内容は、『能力の使用回数限定化』だ、一回しか使用が許されないから考えて使えよぉ?」

 

 マジかよ、と心の内で晃太は驚愕した。つまりは安易に無双が使えなくなり、もし一度のみの解放を終えれば必要な時に限って決定打が無いという野壺(どつぼ)に嵌まる事になる。

 

 未だ自身の身体能力の高さは無双解放時の状態しか知らないと言う状況。もし無双の解放無しで能力が一般人程度だとしたら話にならない。やはりここは先ほどの美鈴同様に最初から一気に決めに行くしか無いのだろうか?

 

「よし、じゃあ始めるぞ。はっけよーい、のこった!」

 

 優は相撲の行司の仕切りが如く開幕の掛け声を口にした。その瞬間、世界が止まったのを晃太は肌身で理解し、同時に体が動かないのもその場で認知せざるを得なかった。

 

(優さんの言葉通りだ、世界が止まっているのを感知出来た。オマケに体の自由が利かない……意識はハッキリ有るのに、何もかもが動かせない)

 

 これが彼女の────『咲夜の世界』。時間を止めて、正に世界を支配するかの様な圧倒的能力。この人並み外れた能力を目の当たりして、晃太は何を思うのか?

 

「さて、優には効かないにしても、貴方には効くみたいね。幻想郷(この世界)の洗礼として受け取りなさい」

 

 手向けたナイフ、実に五十数本。何処からその数が出たかわからないが、咲夜から一斉に放たれた洋式両刃ナイフは時間流に逆らいつつも従い、その刃は全て晃太の肌を肉薄する形に留まった。

 

 全てのナイフを投げ終えた時、咲夜は静かに勝利を確信して腕を組んだ。だがその瞬間、咲夜は目を見開いて自らの異変に気付いた。腕を組んだ直後から、体が石の様に固くなり、一切合切の動作が行えなくなった。

 

(な、何ッ!? 体が、動かない! 時間停止も解けない! 如何して!? 一体何が起こっ────)

 

 途端、咲夜は確信した。自らが動けなくなり、時間停止も解けない理由、それは、目で見るまでも無く明らかだった。彼は咲夜の目を見ていた、そして自ずと繋がり、『ソレ』を借り受けた。

 

「俺は……俺はまだ自分の力の意味、その存在のデカさに自覚出来ない。でも、優さんが言っていた。"世界そのものの力"、つまりそれは、あんたの持つ時間すらも例外に漏れない力。だが支配はしない……俺は飽く迄────借りるだけだ」

 

 晃太が言葉を言い終えると、時間が再び動き出し、五十数本のナイフが停止から解放された瞬間、微動する暇無くナイフを、刃の平を狙って拳打を繰り出し、一瞬すらも遅い表現に感じる程の間に五十数本残らず叩き落とした。

 

 ここで復習に入る。まず振り返るのは、晃太の能力と、晃太の謎の行動だ。"無双を扱う程度の能力"と"力を繋ぐ程度の能力"。一つは比類無き無双を扱う究極の能力。そしてもう一つは────

 

 相手の目を見る事で『力』を繋ぎ、相手の持つ能力や技を一時的に使用する事が可能な能力。今までこの能力に繋がりを持ったのは八雲 紫、優、そして十六夜 咲夜の三人。

 

 紫は晃太の能力を開放した直後に目を見られた、優は晃太の腕を担ごうとした時に目を見られた、咲夜は能力で時間停止を最初に行った時に目を見られた。能力が発動すると、晃太の目の虹彩は相手の持つ目の虹彩の色になる。繋ぐ事が完了すると元の虹彩の色に戻り、いつでも力を借りる事が可能となるのだ。

 

「十六夜 咲夜。あんたの力、少し借りるぞ……」

 

 再び時間が止まる。この時間の停止は決着の合図となるだろう、如実に示される決死の瞬間、それは今……

 

「せぇりゃぁぁッ!!!」

 

 晃太は掛け声と共に時間の止まった咲夜にボディブローを叩き込む。横隔膜の有る鳩尾へ重く残るように────

 

「────ッう゛ぅぅッぅぅ……」

 

 時が動きを取り戻した瞬間、咲夜は呻き声を含んで腹を抱え込むように床に伏せ込んだ。咲夜の意地か、伏せ込むと言う形で踏み止まり、完全に倒れはしなかった。

 

「さすがだ、悪足掻きに見えなくも無いけど、此処は貴女を立てましょう」

 

「気付いたか、能力の使い方に」

 

「えぇ。でも優さんの能力、使えそうに無いんですけど……」

 

「安心しろ、成長すればそれなりには使えるだろうさ」

 

「まぁ、使えない方が良いような気がします」

 

 

 

 

 

 

 

続く




世界を司る力、終焉と原初……


それに伴うように、力を繋ぐ力。一体何の為に……
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