一人の青年が汚れた施設の廊下を歩いていく、その青年を先導して前に歩いて行く小太りの中年の男性は不適な笑みを顔に貼り付けながら後ろからついてくる青年に言葉をかける
「珍しい事もあるものですな?あなた様の様な高貴な方がこの様な場所に来られるのは」
「……人間は外見と内面は似ても似つかないものだ、違うか?」
小太りの男は青年の答えを聞いて小さく頷き目の前にある扉に目をうつす
「確かにそうですな、ここに来られる方々は外見と内面が合わないこともありますよ」
懐から鍵を取り出し扉の鍵を開け、扉の向こうへ進み始める
「ですがあなた様はそうではない様に匂います、だからこそ不思議なのですよ」
「…事情を聞くのがここのルールか?」
「いえ、これは個人的な好奇心です」
懸念な顔になる青年に対して小太りの男はサラリと流し、部屋の奥へ足を進め…その場所の前で立ち止まる
「では、お買い物のお時間です。どうぞご自由にお選び下さい、『レイ・オーゼイン』王子」
そこには鎖で繋がった人々、見たことのない獣が檻に入れられた空間がズラリと並んでいた
「…『元』だ、よく回る舌だな」
「滅相もございません、私は御客人に敬意を払う事がポリシーですので…おかげで舌も脂が乗ってよく回ります」
はぁ、とため息を吐きながら青年は小太りの男から檻へ目線を移す
そこには様々な人種、異種族の『奴隷』が檻に入れられていた。はては人から魔物のドラゴンまで、まるで一種の動物園に来ている様な感覚にもなる。
「ドラゴンを閉じ込める檻は何でできてるんだよ…」
「ドラゴンの骨と革で作られております、特に年代が古く巨大なものを揃え作りました」
青年の疑問をサラリと答える小太りの男はドラゴンの檻に近づいて行く
「ですがこの個体は、要は敗北個体でして檻からでようとしないどころか何をしてもされるがままにする様な性格でして一度も檻を変えてはいないのです」
「つまり?」
「私の懐的には良い子です」
ドラゴンの頭をぽんぽんと叩く小太りの男はそう言うと、その隣の檻で暴れているドラゴンを見る
「ですがみなさん、獰猛な個体の方が好きな様であの様な個体を取り揃えるのは中々苦労してしまうのですがね〜…主に修理費が」
少し遠い目になってる小太りの男を無視して青年は他の奴隷を見にいく
そこは獣人の奴隷が入った檻の区画、一通りの種類が揃っていた
「獣人なら力仕事に便利です、護衛に土木建築の荷物持ち、趣味のいい方はその奴隷を馬の代わりにあつかったりしてますね」
「……よくわからん」
「わからなくていいんですよ、変態ですから」
そう言って区画を進んで行くと、口枷や太い鎖で完全に拘束された獣人の娘が青年の目に入り小太りの男を呼び止める
「あれは?」
「あー、そいつはやめた方が良いですよ?なんせ計25回主人を殺して売り返されるほど元気ですので、あれでやっとなんとか動きを『鈍らす』程度に落ち着いています」
「鈍らす?……あれで動くのか」
小太りの男の言葉に驚いた青年はその檻に近づく
「あ、近づくのも危ないですよ…?」
「直にこの目で確認したくなった、気にするな」
そう言って青年が檻に近づきあと数歩で檻に触れられる距離になった瞬間
「ーーーー!!!」
「!」
獣の唸り声の様な声を出しながら口枷を噛み砕き、鎖を引きちぎる勢いで青年に飛び掛かろうとする
しかし、檻の格子には届かずその牙は虚空を噛み付くだけで青年の命を刈り取るにはいかなかった
「あーあ、また口枷が…大丈夫ですか?」
「……」
小太りの男は呆れてはいるが慣れているようではある、だが青年はその小太りの男の声は届いておらず、その目は目の前の獣人の娘しか写っていなかった。
「…決めた、まずこいつを貰う」
「は?こいつをですかい?」
「こいつも商品だろう?引き止める理由は無い筈だが?」
「いや、そうですがオススメしませんよ…あなた様が死んでまたここに来られても困りますし」
小太りの男は困った様な声を出すがそれを青年は気にすることはなく、獣人の娘の目を見る
「いい目だ、どれだけ世界を憎んでいるのかわかってしまう程に良い目をしてる…」
「ーーー…!!」
低く唸り目に怒りを宿している娘に、青年も同じく目に炎を灯しながら娘の顔に手を触れようとする
「お、王子様!?」
「ーーー!!」
それを見た小太りの男は仰天し止めようとするがその前に獣人の娘が青年の手首を噛みつき、青年の手首から血が流れ出る
「っ…くく、いいぞ?腕一本ならくれてやる、だがその分お前も俺の力になれ!」
「!?」
噛みつかれ腕から血がダラダラと流れながらも、青年は…『笑っている』
それが狂気なのか、はたまた別の何かなのか…それは獣人の娘にはわからない
だが一つ確かなのは、この青年は
「…ん?」
「……」
「な、舐めた…噛みついた場所を舐め始めて…こんな事は今まで無かったんですが」
自分と同じくこのクソッタレな世界を憎む『同族』だと、その娘は感じ取ったのだった
王子は力を手に入れた、だがまだ足りない。
国を複数相手にし、尚且つ滅ぼす程の力が欲しい。
まだまだ誓いは果たされない