ここはかつて暴風竜ヴェルドラが封印されていた洞窟の最奥。
祭壇、魔結晶、魔鉱石が並んでいた場所も今は二匹のスライムが手当たり次第に回収したせいで、だだっ広い洞穴の空間へと変貌していた。
「ファイヤーランス! 全ての力の源よ以下略! ファイヤーーーーボーーーール!!」
「反動も無くかなり強固だなこの守護結界。洞窟の空間にも結界貼ってるのか? ほんとチートだなお前」
リムルが洞窟全体と俺に結界を貼り、俺を的に手あたり次第魔法を発動してご満悦だ。
「すげー楽しい♪ リヴェル、魔法のせいすい頂戴! 大賢者が改良を張り切っちゃってさ〜!」
「初級魔法のスクロールをカバルに購入して貰ってるから、Aが帰ってきたらさらに魔法を覚えれるぞ」
「オマエが神か! リヴェル様! よっ星大明神! うははは! フレアバァァーーースト!!」
「魔法はイメージが大事なのは共通してるがランスを弄ってアローを作るとか何でもありだな」
「何でもは無理だぞ? 魔法陣を解析して大きさを調整してるだけで他の属性は作れないしな。俺はフレア・アローをマシンガンのように撃ちだせるがお前の魔法は連射には向かないもんな」
俺は袋から魔法のせいすいを取り出し、リムルの体に投げ入れた。
俺の魔法はメラの威力を最大限下げても、上げても消費されるMPは2で固定だ。
だから連射するより一発の威力を上げる方が効果的ってこと。
「良いこと思いついた! リヴェル! ガンオペしようぜ! お前ザクタンクな」
「あん? せめてザメルにしろ。あぁ〜なるほどな‥‥確かに俺は遅いから固定砲台ってか! ちくしょう!」
「大賢者。俺達の結界にHPを設定してほしい、そうそう結界を二重にして外が割れたら負けって感じで」
「お前の魔素量での魔法の方が有利じゃん。俺のMPの魔法回数によるダメージ調整はしっかりな」
へいへいと言いつつもお互い楽しくなって魔法設定を盛り込んだ。
フィールドも殺風景なので障害物を置いていく、イメージは某地下基地だな。
「フハハハハ! 俺のマシンガンアローに手も足も出まい!」
「元からないですけども!! てか蝙蝠の翼はずるいぞ! ジムっていう設定どこ行ったんだお前!!」
変幻自在に空を滑空して、翼を消したり生やしたりするので軌道が全く読めない。
「スラスターですけどーーー!! お前もギラは反則だろうが! ザメルにそんなビーム兵器ねーよ!」
「はぁ? これはミサイルですぅ! 自由に曲がって着弾するナパーム弾ですけど何か?」
洞窟に結界は張ってあるが、防音機能は無いのでゴブリン達は二人が大喧嘩を始めたのではないかとヒヤヒヤして見守っていたのだった。
あと、この景色を羨ましそうに見ていた竜がいたとかいなかったとか‥‥。
一方その頃。
リヴェルAはゴブリン達と森を駆け抜けて目的地に辿り着いていた。
森付近までカバル達が運んできたのか、そこには食料が満載に乗った荷馬車が止まっている。
俺は岩に腰掛けて休憩しているカバルとギドに話しかけた。
「ご苦労さん。これハンコのサインね」
俺はリムルの似顔絵が描かれているハンコを、依頼の紙に口でくわえて押し付けた。
「リヴェル!! てめぇ! 歯を食いしばりやがれぇ!」
怒りに身を任せたカバルが俺を殴るが、逆に痛みに拳を抑えて地面を転がる。
「ぎゃあぁぁ〜かてぇ〜なんだその体! ぷにぷにしてろよてめぇ!」
「すまん、リムルの守護結界が貼ってあるんだよ。いや、そもそもいきなり殴るなよカバル」
ギドはゴブリン達に馬車の荷物を解いて、狼の背に積み直すのを手伝ってくれている。
「何やってるんでやんすか‥‥今回はリヴェルの旦那に助力を頼む手筈なのに」
「でもギドよぉ! リヴェルのせいで俺達は王城で面倒な式典や勧誘とか受けたんだぜ?」
「カバルも金貨30枚を貰って喜んでたじゃないでやんすか‥‥」
報酬で300万貰って喜んでたのに勧誘が面倒で殴って来たのかこいつ‥‥拳の怪我を治してやらんからな。
「じゃー皆帰ろうか! じゃあなカバル、ギド」
「まてまて、これがいらないのか?」
スクロールをチラつかせてニヤニヤ笑うカバルに、俺は道具袋スキルで袋にスクロールを全部入れた。
「じゃあの」
「悪かったから! 話を聞いてください! リヴェルさん!」
料金は既に支払っているので所有権は俺にある事になる。
なのでスキルで仕舞えるのだ馬鹿めっ!
「はぁ〜リヴェルの旦那、例のキノコの件でやす。馬鹿カバルは無視してあっしらで話しましょう」
皆が荷物を積み込みリムル王国に帰還していく。
俺、風音、ギド、カバルの4人だけでお喋りタイムだ。
「で? キノコの発生源が分かったのか?」
「へい‥‥だけどすいやせんが、風音さん内緒話があるんで少し外してもらえやせんか?」
俺が風音に頷くと遠くに離れて行ってくれた。
「旦那はどこまであっしらのことを知ってるんで?」
「ん? 何のことだ」
「とぼけるんじゃねーよ! エレンの偽装薬のことだ、お前が処方したんだろう?」
「ワレ、シラナイ。ワレ、ヒミツマモル」
「あの薬はでやすね。本来の効果は一日ってところなんでやすよ‥‥何故か帰国まで効果が切れなかったでやすが…」
「何故だろうな? リヴェルさんよう?」
二人が凄んでくるが俺は負けんぞ!
「ワッ‥‥ワレ、エレントノヤクソクダイジ!」
二人はヤレヤレと首を振り話を続ける。
「旦那を責めるつもりはないでやすよ。姉さんの秘密が何故バレてないのかも聞きやせん」
「じゃー話を変えるぞ? エレンの秘密は知ってる。じゃー俺達のことも知ってるな? それだけでいい」
「エレンは魔導王朝サリオンの大公の娘で、本名はエリューン・グリムワルト。お前達は父親であるエラルドの命令で動いてるの? それともエルメシア? シルビア? 今回はメイガスの件も絡んでいるのか?」
二人は地面に手を付き項垂れている。
「全部知ってるんじゃねーか‥‥この糞リヴェル」
「シルビア様のことも‥‥やっぱやべースライムだった」
「くっくっく‥‥これでお前達は逆に俺に秘密を洩らした側だと疑われるかもなぁ〜ニヤニヤ」
二人は顔面蒼白で食ってかかる。
「てめぇ! ペラペラ喋ると思ってたらエルメシア様みたいな腹黒かよっ!」
「カバル! 死にたいのか! エルメシア様の暴言はやめるでやすよ! 何が望みでやすか? リヴェルの旦那」
「別に何も? エレンは貴族令嬢で籠の鳥だったんだろ? 冒険者で息抜きしてんだから、今後もお前達がお守してやればいいさ。お前達も何だかんだで冒険を楽しんでんだろ?」
ギドとカバルは顔を見合わせ項垂れる。
「もういい。こいつはどうしようもないスライムだわ」
「そうでやすね。悪いスライムだけど良いところも少しはあるでやすよ‥‥」
俺達は秘密を公言しないと約束し合い、風音を呼んでから会話を再開した。
「えっ? 何でそうなったんだ?」
「わからないでやす‥‥はっきりしているのはひめ‥‥身内の一人が魔物化してキノコの魔物を生み出してることだけでやす」
「そしてターゲットが何故かブルムンド王国だってことだけだ‥‥」
メイガス達が何者かと戦闘し、危機的状況で禁術を発動した痕跡はあったらしいが…その姿は誰も見ていない。
駆け付けた現場には魔物化し、キノコモンスターを生み出す存在だけを確認した。
生き残りが監視をしていたが生み出されたモンスターが群れになり、ブルムンドに侵攻を開始したのを報告してきたらしい。
護衛部隊は全部で12名。4名は死亡を確認。
生存者は8名でそのうちの4名は意識不明の重体で、現在治療を受けている。
二人に聞いたが精鋭ではないが全員実力はB級冒険者クラス。
「リヴェル様、ゴブテとゴブツに捜索の中止を! 二人が危険です!」
「そうだな、調達班にも伝えておくよ」
俺は念話でゴブリン達にキノコの捜索を中止にさせた。
「禁術の一つで成功すれば自身を精霊化する魔法だ。失敗すれば魔に落ちる‥‥が成功しても自我を失い暴走するのは変わらんがな」
「いいのか? 禁術の話なんかして」
「相手を道連れにする自爆魔法としては結構知れ渡ってるでやすよ。精霊化は魔力と寿命が尽きるまで暴走するので、そもそも熟練の精霊使いだけにしか使えやせんが‥‥」
「それでカバルさんとギドさんは、主と一緒にその魔物の退治をお願いしに来たのですか?」
「「‥‥‥‥」」
二人が神妙な顔つきで黙り込むが、やがてカバルが俺に頭を下げて話し始めた。
「その魔物化したってのがエレンの乳母姉妹でな‥‥。必ず助けたい! 頼む助けてくれ!」
続けてギドが頭を下げて言う。
「お願いでやす! あっしらじゃ助けることも出来ねえ‥‥。リムルの旦那も、リヴェルの旦那も何か不思議な力がありやすよね? それに頼るしかあっしらには方法がねえんでやすよ! それにあの方が禁術を失敗するなんてありえないでやす‥‥絶対何か裏があるはず」
メイガスの命令はターゲットを捕獲してサリオンに連れて帰ることだが‥‥恐らく助からないだろうとのこと。
タイムリミットはメイガス部隊の再編成が終わるまでの短い間。
思考加速発動!
これ下手したら国同士の争いになるのか? サリオンとブルムンドの?
事件の解決のために天帝降臨とかシャレにならんぞ!? 愛故に人は悲しまねばならぬぅ〜!! とか言ってジュラの森が消し飛ぶぞ‥‥。
成程な。だから安全のためにもエレンを先に帰らせたのか‥‥。
大ちゃん、魔物化したエルフをリムルが捕食して分離できそう? そっか‥‥完全に融合してたら厳しいのね。本人を見てみないと始まらないか。
俺は確認のためにギドに念話で身分を聞いた。
『ちなみにそのお方は高貴な血筋の方だったりします?』
『念話!? じゅ、十三王家の公爵家の一人娘でイリーナ・サントハイム様でやす』
「馬鹿じゃねえ〜の!? 何でそんな身分の人がこんな森に来てんだよ!!」
俺は高貴な身分の姫君が、ジュラの森で事件に巻き込まれる。
そんな迂闊すぎる事態に、驚愕して大声を出してしまう。
「口を慎め! 馬鹿リヴェル! その方は実力が俺達より上なんだ。護衛とは別に御付きの二人も実力者で本来護衛なんていらないんだよ。極秘任務があるだとかで外出許可が下りていたみたいだがな。だがエレンが心配でその任務を放棄し、部隊に無理を言って護衛をしていたんだと‥‥はぁ」
「相当な実力者が大勢いたのにやられたってことですよね? まさか‥‥魔王?」
「それはねぇでやすよ風音さん。相手が魔王なら交戦せずに逃走が基本でさぁ。今回の場合はターゲットを見つけて攻撃に移ってると報告を受けてやすから相手は別でやしょう」
俺は高貴な血筋で天帝降臨が現実的になり、慌ててカバルに念話を飛ばす。
『ホムンクルスで来たりしなかったのか! いや実力がある上でメイガスと精鋭が護衛しているから恐らく‥‥本体か』
『これは思念伝達か? じゃねぇ! お前は何でうちの軍事機密を!! その通りだよクソッ! 俺達がいるのにこのザマだ』
「主様! エレンの姉妹なら助けてあげましょう!」
「とにかく現場に行って直接見ないとどうしようもねぇ! 風音とリムルでターゲットを見つけてくれ」
俺達分身の情報はリアルタイムで共有され続けてるから、Bが状況を伝えてリムルをルーラさせてるところだ。
暫くするとランガに乗ったリムルとゴブタ、リグル、ゴブツが狼に乗ってやって来た。
「まったくお前は次から次へと問題を起こしやがって‥‥ハァ」
「異議あり!! お前も問題起こしてるだろ! 俺は今回は何もしてねーだろう‥‥してませんよね?」
助けてミラえもん‥‥。この世界で異物な存在の俺は急に自信が無くなった。
「大丈夫ですよリヴェル様! 貴方に降りかかる災いも我々が対処いたします」
「あ〜リグルさんや‥‥。それって俺が問題を起こしてる擁護にならんよね?」
ゴブタとゴブツは呑気に俺が塩だけで作ったジャーキーを齧ってる。
皆で話し合った結果。
機動力があるもの達が索敵をし、残りはブルムント側で魔物を倒す手筈となった。
「俺とカバルとギドとゴブタの四人が森から溢れる魔物の対処だな。暫くは出てこないと思うが‥‥」
「‥‥クッチャクチャ」
「一体どこのどいつが犯人なんだ‥‥見つけたらタダじゃおかねえぞ」
「わかりやせん‥‥魔物を生み出す元凶を発見したので対処する。としか報告がないでやすから」
ゴブリンライダー達は見つけたら交戦せず直ぐに撤退を指示している。
メイガスと正体不明の敵との接触場所は封印洞窟の北西辺りだ、まずはこの辺を捜索することになった。
「‥‥クチャ。リヴェル様! この辛い奴! ちょ〜うまいっすよ!」
怒る二人に俺は頷きを返し、哀れゴブタはボコボコにされた。
「ゴブタ…空気読め。あとそれ唐辛子と香草が入ってるやつだぞ」
「早く、かっ…かいふ…くしてくらはいっす」
俺は顔を腫らしたゴブタにホイミを唱え、真面目に仕事しないと装備一式はなしだと言い含めた。
その後はカバルとギドを宥めて、リムル達の連絡を待つしかなかった。