封印洞窟から北西にあるジュラの森で異変が起きていた。
進行方向に木々が薙ぎ倒され、辺りに轟音が鳴り響く。
魔物は自ら倒した巨木に齧りつき、養分を吸い上げて枯らしていった。
枯れた巨木を辺りに乱暴に投げ捨てた魔物は、即座に次の行動にでる。
身体の至る所からキノコの魔物を次々と生み出していく。
さらに魔物が種子を飛ばすと、それはキノコの魔物に深く突き刺さり寄生する。
種子は宿主を糧にして異常な速度で急成長し、おぞましい木の化け物の姿になった。
あまりの異様さに一瞬言葉を失ったゴブツが慌てて報告をする。
「見つけました! リムル様! こいつ巨大な木の魔物で擬装が得意みたいです。今も姿を見失いました」
「おう! でかしたゴブツ。お前は離れてリヴェルに合流してくれ」
リムル達の探索から半刻が経過する。
森から未だ魔物は現れず、俺達はリムルからの連絡を今か今かと待ち構えていた。
『リヴェル! 面倒な事になった。ゴブツが巨大な木の魔物を見つけたんだが、光学迷彩を使ううえに自身の分身を増やしてブルムンドの方向へ侵攻している』
『よりにもよってジュラの森で木のモンスターかよ‥‥。本体は見つけられそう? 大賢者で探せないのか?』
『結界を細く伸ばしてそれを‥‥邪魔だっ! んでそれを地面に配置。結界を起点に索敵可能らしいから今森を横断中だ!』
リムルが戦闘をしている場所をスキルの地図で見てみると、表示される無数の赤い点はジャイアント・アントと表示されている。
結界を森全域に貼るとかは流石にリムルでも無理ってことか。
だからランガに乗ったまま地面に沿って結界を貼り、魔物が触れたら地図機能で検知する作戦ってことね。
「カバル、ギド。標的は見つけたんだがヒューズさんに話さなくていいのか?」
「こっちが状況を把握してからだな。今は国と国との問題にしたくない。向こうに非があるかも分かんねえしな」
「それに今のあっしらは能力の限定解除をされてやすから、キノコ程度の魔物なら楽に対処出来るでやすよ」
暫くして森からゆっくり出てきたのは木の魔物か? 数体が順番に森から出てきた。
人形? どろにんぎょう? でも目や口が無く顔にぽっかり穴が空いていて気持ち悪いな。
考えている間に魔物は俺達の方に走ってきた。
「キノコじゃねーな? ありゃウッドドールだ、ムチの様に腕をしならせて攻撃してくる。弱点は火だが剣でも斬れないことはっ! ねえ!!」
カバルがあっという間に二体を斬り伏せた。
残りの1体は投げ斧をギドが投げて仕留める。
カバルとギドがドヤ顔で俺を見て褒めて欲しそうだが、俺はそれどころじゃなかった‥‥。
LVが上がり新たに覚えた魔法に戦々恐々としていたからだ。
俺は見なかったことにして、記憶の彼方に消し去った。
大勢とパーティーが組めるとおこぼれの経験値が美味しいなぁ〜と現実逃避していたのだが、カバルが不満そうに俺を足で軽く小突いてきた。
「どうしたんだよ急に惚けやがってよ? 俺達の実力にビビったわけでもねーだろうに。早く補助魔法をかけてくれよ、団体さんがおでましだぞ!」
「悪ぃ、カバルとギドが格好良すぎて惚けてたわ。スクルト! 皆にピオラ!」
カバルとギドがにやけ面でウッドドールを次々と薙ぎ払っていく。
カバルはピオラの速度上昇を生かして剣術スキルで素早く数体を切り伏せ、スクルトで上がった防御で相手の攻撃を難なく凌いでいる。
ギドが投斧とシミターでカバルの死角を上手くカバーしている。
ゴブタも負けじと狼に乗りながらこん棒で敵を殴り飛ばし、狼の相方が風魔法で止めを刺す。
「良いコンビネーションじゃないかゴブタ。俺も後方に魔法を撃つぞ! メラミ!」
カバルとギドの殲滅速度が予想以上に速いので、俺は巻き込まないように大声で魔法を撃つ宣言をした。
メラミが中央に着弾し、奥にいる団体を一度に焼き払ったが数体生き残ってしまう。
「主様ーーー!! リムル様から合流しろと言われたんで加勢します!」
森を飛び出し両サイドから囲むようにして、生き残ったウッドドール達を風音とゴブツ達が殲滅していく。
『リヴェル、捉えたぞ! お前の位置から北に300メートルってところだ。マーキングもしてある、奴は森を抜けて出て来るぞ』
『了解だボス! っておいリムル! こいつの名前見てみろよ』
『知ってるよ‥‥。お前の地図スキルを共有して見れてるんだから』
「風音! 北の方でターゲットが見つかった! 場所は俺が示すから乗せてくれ」
カバルとギドが大声で叫ぶ。
「見つかったのか! 俺達もいくぞ風音ちゃん、乗せてくれ」
「あっしも失礼しやす。風音さん」
三人が乗り込んだあとに残ったゴブリン達に俺は言う。
「お前達は森から出て来る魔物の対処と言いたいところだが、ある程度倒したら退却だ! 残りはカバルの仲間達が対処すると思うから巻き込まれないうちに帰れよ!」
皆の返事を背に風音は一目散に駆け抜けた。
「‥‥あれか? 解析したけど光学迷彩じゃなくて擬態の固有スキルだな。森から出ても風景に溶け込んでやがる」
「そんな能力を持っている報告は受けていないぞ! 何でリヴェルは見えているんだ?」
「高位のエルフが魔物化したんでやすから能力は高いでやしょう」
「私は匂いで探知できました。攻撃してもよろしいですか?」
俺はカバルに見えてないが場所はスキルで分かると簡潔に話す。次いで風音に風魔法で足止めを頼んだ。
「わおおーーーん!!」
風音の風魔法が刃となって直撃するが固い樹皮に守られてダメージはないようだ。
だがこちらを標的に変えた魔物が進行を中断し、襲い掛かってきたので足止めには成功した。
「俺達も降りて戦うぞ! カバルとギドは魔法は使えないのか?」
「「・・・・・・・」」
二人とも苦虫を噛みつぶしたような顔で黙る。
「おい二人とも! リムルが来るまで足止めが必要だ。風音は近接タイプだから下手したら傷つけちまうぞ?」
「俺の魔法は火の系統だ‥‥お前と同じだよリヴェル」
「あっしの魔法は闇の系統で得意は毒でやす‥‥」
「「「・・・・・・・」」」
「使えねーな!!」
「うるせぇ! お前だって燃やしちまうから同じだろうが」
「あっしの毒魔法も触媒と血で武器に纏わせたり、毒霧を出したりと罠として使えるでやすが、生物である限り多少でも効くはずでやすよ?」
「風音の魔法が効いていないんだし、多少の火魔法を撃っても大丈夫だろカバル?」
大きく嘆息し、ヤレヤレと首を振り俺を見るカバル。
気合を入れて剣に魔力を込めた次の瞬間。
赤と黄色が混じった炎が剣を起点に垂直に迸る。
「これで斬ってお前は無事だと思うか?」
「何でお前はそう極端なんだよ! 中級火魔法とかねーのかよ!」
「うるせえ付与魔法は得意だが遠距離魔法は苦手なんだ馬鹿野郎!」
醜いのの知り合いが始まり俺はカバルの足首に噛みつき、カバルは俺の頭を引っ張る。
「仲がいいのは結構でやすが、馬鹿やってないで早く加勢するでやすよ。といっても風音さんは余裕みたいでやすが‥‥」
ピオラと自身の速度を上げる風を纏った風音を相手も捉える事が出来ず、木の根をムチにした攻撃は掠りさえしない。
だがそれはこちらも同じわけだが‥‥。
ギドが投げた斧も刺さらず、カバルは既に相手が居ない場所に斬りつける始末だ。
鞭で反撃され、二人共吹き飛ばされて地面を転がる。
「痛てぇな畜生! 攻撃が全く見えねぇ。スクルトがあるから軽症だが。巨体の癖に素早いぜ」
「風音さんが魔法で場所を教えてくれるでやすが、薄っすらとも見えない相手はやっかいすぎるでやすよ」
「リヴェル様。死なない程度に攻撃して良いですか? このままでは街が危険です」
お互いダメージが入らないので相手は俺達を無視して進行を開始してしまっている。
「「風音さん軽くでやすよ! 風音ちゃんリヴェルが治せる範囲で頼む!」」
だが、風音が爪に風魔法を纏い攻撃を仕掛けようとした瞬間に地面から大量のウッドドールが現れた。
「クソッ! 標的は風音か!? カバル! もうその魔法剣振り回して動きを止めてくれ、時間を稼いだら俺が何とかするから。ギドはカバルの援護を頼む」
「何とかってお前の魔法はシャレにならんから駄目だぞ!! 国際問題だからな? 頼むからやめてくれリヴェル!」
「甘いぜカバル! 俺の十八番は火系統の魔法だけじゃないんだぜ! だがタメ時間が必要なんだ」
ギドが心配そうにこっちを見ているが、俺は大きく息を吸い込んでいるので答えれない。
風音は風の爪で面白いようにウッドドールを薙ぎ払っている。
俺の進化の影響か爪が巨大化してるな‥‥カッケー!
「ちくしょう! しくじったら恨むからなリヴェル! 爆炎陣!」
カバルは地面に剣を差し込み辺りを爆炎で吹き飛ばして動きを止めた。
ギドも地面に両手を付いて毒の霧を巨木モンスターの進行方向に散布し続けている。
俺は溜まった力をそのままにして魔物の目の前に走り寄り、全力でその力を解放した。
「食らえ!! ゲロロロロオロロロロロロロローーーーー!!!」
汚い音を出しながら俺は大量の粘着液体を木の魔物にぶちまけた。
俺も魂の回路でリムルからスキルを貰えたのだ! ブレス系の攻撃でねばつく液体、猛毒の息と焼け付く息だ。
姿が見えなかった魔物も粘液に絡まり姿を現したが‥‥三人の目が冷たい。
「汚ねぇな‥‥ゲロじゃねーか」
「絵面が酷いでやすね」
「リヴェル様‥‥汚い」
「仕方ないだろう! 慣れてないんだから‥‥ぺって飛ばせないの! 練習中なの!」
完全に身動きが取れず姿を現した魔物を見上げていると、リムルがランガと共に駆け付けた。
「さあリムルお食べ!」
「嫌だよ馬鹿たれ」
『お前このモンスターに付いて言うべきことがあるんじゃねーのか?』
ギロリと睨むリムルに俺は首をぶんぶんと振る。
『見た目がじんめんじゅで名前が魔界樹だけども! 俺は知らんぞ!』
「こいつは魔界に生息してる木の魔物でやすね‥‥悪魔が持ち込んだ? でやすか…」
『ほら見ろ! ギドがこの世界の生物だって言ってんじゃん!』
リムルがバツが悪そうに下手糞な口笛を吹くが、今度は逆に俺が睨む。
「どういうことだ? 魔物化したエルフはトレント系やアルラウネになるって文献には書いてあったぞギド?」
カバルがギドに詰め寄り問い詰めるが、ギドも首を振りわかりやせん‥‥と呟く。
急に辺りに膨大な魔力が迸り、巨木から翼の生えた黒く染まったエルフが飛び出してきた。
「貴様ら!! 何度も俺の邪魔をしやがって、絶対に許さんぞ! 死ね!!」
「うるせぇ! 邪魔してんのはお前じゃボケぇ! 牢屋から出たらまた牢屋! 食料が解決したと思えば食糧難! 解決したと思えば問題ばっかり起こしやがって!! 許さんのはこっちのセリフだ!!」
リムルの溜まっていたものが爆発しちゃった‥‥。
小柄で可愛らしいダークエルフの少女なのに。エルフ大好きの悟にしては珍しいな。
ランガに乗りながら火魔法を連射しているが、相手も拳で魔法を全て殴り飛ばしている。
「おいおい! ありゃイリーナ様じゃねーか‥‥魔物化してなかったのか?」
「あの見た目! 悪魔に体を乗っ取られてるでやすよ!」
カバルとギドが驚愕で驚いているが知ってた。
だが問題は魔界樹の中にエルフさんがもう一人いることなんだよな‥‥。
「なあ? カバル、ギド。ネヴァンって女性のエルフさん知り合い?」
「今それどころじゃねえだろう! 姫は助かるのか?」
「いやだか「あっしは知りやせん! てかリヴェルの旦那! 今それどころじゃねぇでやす!」
「聞けって「悪魔を追い出すには聖水や光魔法だ! それに精霊使いの応援も必要だぞギド!」
「だから聞けって!! そのモンスターの中にエルフの女性が囚われていて、今も魔力を吸われて死にそうなんだよ!!」
俺とリムルが地図スキルで見た名前は三つ
・種族エルフ イリーナ=サントハイム(悪魔憑依)
・種族エルフ ネヴァン(魔物化・不活性)
・魔物 魔界樹(魔力を大量に吸い強化された強化種)