ジュラの森にある。リムル王国の外れに、ひっそりと小さな小屋が一軒建ってある。
早朝、鳥の囀りもまだ聞こえない、そんな時間に職人は仕事を始めるのだ。
古く時代を感じる小屋に住んでいる職人。
精霊工房職人の朝は早い。
今日の朝も目覚めのコーヒー1杯から始まる‥‥。
「おい‥‥リムル王国は止めろって言ってるだろ」
「ちょっ! 居たのかよ!」
分裂体でナレーションしながら、朝は早い職人で遊んでいたら恥ずかしい場面をリムルに目撃された。
「ある意味究極の独り言だよな‥‥」
「会話してないと本体と合体しちゃうんだよ。時間的な制限なのか、すぐに元に戻ろうとするし」
全く動かずに錬金や交易をしていると隣同士で合体するし、本体に転がって合体してくる。
最初は三人で議論をしたり会話も出来たので気が付かなかった。
話す話題が無くなり、モクモクと無言で作業してると駄目らしい。
「分身も時間制限だし、元に戻ろうとする性質なら‥‥自然とそうなるだろうな」
「そそ、お前の言う通り三人での独り言だから子芝居でもやらないとネタが尽きるんだよ」
「大賢者妹が並列存在を作れるんじゃ無かったのか?」
「あー作れるんだけど短時間で消えるし、距離も短いんだわ」
大ちゃんが自信満々にできらーって言うから期待したのに‥‥結局大賢者はあくまでサポートであり、能力の有無は本人の力量って事だ。
《否定。並列存在は使用可能です。能力を引き延ばすのも修練により可能と進言しました 》
ごめん、ごめん。何でもかんでも大ちゃんに頼りすぎてた俺が悪うございましたよ‥‥。
「スライム分裂能力ってゲームだと本体が死んだ時にばらけるとか、的を小さくして回避する為とかだもんな」
「まーそういう事だ。朝早くから一体どうしたんだ?」
「あ〜カイジン達と水路の建設に行くから町の守りは任せたぞって言いに来たんだ」
「あいよ、ご安全にな」
俺とリムルの休暇も終わり、リムルは朝から水路の工事にカイジン達と出かけてしまった。
今日の予定は円状に建設する2階建ての狼厩舎を完成させようと思っている。
設計図はミルドが描いてくれたし、ガルムが骨組みを済ませてくれている。
後は組み立てと内装だけだ。
「じゃー俺はオークの動向を探ってくれば良いんですか?」
隣で大人しく待っていたスライムが話しかけてきた。
「スラぼうも無理せず危なくなったらルーラで帰って来いよ?」
俺はヴェルドラに教えられた通りに現状認識を変えた。
まずは複製や分身という意識は捨て並列存在に別個体として名を付けた。
「四脚も良いけど隠密行動なら逆関節も試したいです」
「俺が歩行と移動用に開発したSA…いやSFか? スライムボディで乗るならバランス的に四脚が安定だろ。機動性重視で魔樹で作ってあるから耐久性に難がある‥‥逆関節はブーストが欲しいよな? ‥‥ぶつぶつ」
現状MSみたいな大きさは上位精霊級の出力がなきゃ不可能だ。
脚や腕だけの単体パーツなら何とか作れる‥‥だが四脚も稼働制御が微精霊一人でこなしているので動作が不安定だ。
俺が思案を始めたので「それじゃー行って来ますと」他の俺に促されてスラぼうは旅立った。
並列存在はMP消費で作れる。
キングスラりんだがサイズ変更は自由なので羨ましい。
能力は全部使用可能だが、魔素量は八分の1って所か?
「なあ俺A? 並列存在ってオリジナルには絶対服従なのか? まあ現状を見るに親分子分な感じだが」
「今の所、使い勝手はコピーロボットに命令する感じだからそうなんじゃないか? 俺には変わらんし、魂で繋がってるから問題ないだろ。」
「しかも現状は時間制限ありだからな、俺Bが思うよな事にはならんて」
分裂は脳も共有だから合体後の負荷が凄いし、脳内会議がリアルで可能。
でも結局、俺一人に変わらないから多彩な案が出る訳でも無い。
思考整理や分担作業が可能なのがメリット。
並列存在は記憶の共有とかリアルタイムで無いから研究や開発は任せにくい‥‥戦闘メインの使い分けが良いかな。
あと寂しい時の独り言が人形遊びになるだけだな‥‥。
そうそう、俺の戦闘用SAもリムルと協力して作った。
”とっても巨大で何でも破壊するくん”が秒で大ちゃんに却下されてギガントデビルくんになった。解せぬ‥‥。
俺はリムルの様に一度体内に取り込んで自分の魔素と馴染ませるなんて出来無いから、コアの部分は魔樹で腕を作り外側を魔鉱石と鋼の合金で作った。
精霊に魔素を送り込んで重さを解決してるから、魔力の供給が弱いと重くて持ち上がらない。
それに重量と魔素量の関係で俺のSAは右腕だけだ。
両腕でギガデビを使うならMPがゴリゴリ減る事になるので実践向きではない。
共同研究と言えば、どくけし草は上手くいってフルポーションに猛毒の解毒効果が付いた。
肝心の魔法の小瓶は研究して魔素回復促進・小という薬の結果になった。
「それじゃー厩舎作りに行ってくる」
「「あいあい」」
小屋を出ると風音が外で待機していた。
「主様。狼厩舎の作成に行くんですよね? お手伝いします!」
ふふっ風音も自分の寝床が楽しみなんだな。
嬉しくて尻尾が‥‥竜巻に。
「ストップ! 風音! 俺達の小屋が死ぬ!!」
「す、すみません主様! 嬉しくてつい‥‥」
急いで外に出た分裂達が壊れた場所を補強している。
風音が分裂体に謝った後、俺を乗せて現場に向かって歩いて行く。
「手伝える奴を念話で呼ぶか‥‥」
ゴブテ、ゴブゾウ、ゴブタ、ゴブツ、ゴブエモンも駄目か‥‥皆リリナに取られているみたい。
「すまんなゴブイチ、ゴブア‥‥組み立ては俺も出来るんだが内装の飾り付けには手伝いが居るんだ」
ゴブイチはコクコクと頷く。
「が、頑張ります!」
ゴブアが元気に返事する。
ゴブアもゴブイチも普通に優秀だし大丈夫だろ。
四人で現場に到着して作業開始だ。
円状の二階建てで内側が全部オープン仕様。
正面には二階からスロープが下りている。
「雨風も凌げるし、開放的だな。風音は干し草とベッドどっちにするんだ?」
「ベッドでお願いします」
「了解〜」
板をハメ込んで屋根を貼り、待機してる狼達に寝床の家具や素材を運んでもらう。
後は内装を皆で分担して仕上げていく。
「ゴブイチは料理だけじゃなく何やらせても手際が良いな」
照れて頭をかくゴブイチ。
「ゴブアも助かったよ。組み立てをしてる間に狼達に内装を聞いてくれていたんだな」
「いえ! 自分の役目ですので」
ほんとこの二人は優秀だな。
昼になる前に全部仕事が終わっちゃったよ‥‥。
「ゴブイチもゴブアも俺が昼飯作ってやるから調理場に行こうぜ」
ゴブイチは目を輝かせてゴブアは申し訳なさそうに頭を下げている。
「主様! 私も! 私も食べたいです」
「あ〜風音にもちゃんと御馳走するって」
風音に咥えられて急ぎ調理場に急行した俺は、作業SAで親子丼を作る。
米が無いから麦飯100%の親子丼だけどな‥‥卵はダチョウみたいなモンスターの卵だ。
ドワルゴンには醤油は無いがナンプラーはあった。
ドワーフの酒と砂糖でそれなりの味になる。
「どうだ美味いか? 風音、ゴブイチ、ゴブア?」
風音は器を無言で掻っ込み。ゴブイチは吟味しながら頷いてる。ゴブアはスプーンを物凄い速さで動かしている。
「うーんこのネギみたいな奴は駄目だな‥‥香りがきつすぎる。三つ葉モドキで良いか」
「「「「お代わり!!!! ‥‥コクコク」」」」
「はいよ」
俺は皆が満足するまで親子丼を作った。
今日の仕事は終わりだし呪文の練習でもするか。
俺はルーラを使い封印洞窟の訓練広場に来た。
「まだリムルの結界の効果が残ってるみたいだな」
進化してから必要経験値が多いのか全然lvが上がらないんだよな‥‥。
現在のlvは10に上がり呪文は3つ覚えている。
バイキルトとライデインだ。最初の魔法なんて無かった‥‥いいね?
「バイキルトは俺やリムルには微妙なんだよな。SAにも反映される方法を何か考えないと‥‥」
俺の予想では本体のバイキルト効果が精霊を間に挟む事で、効果が無くなる感じだと思う。
《肯定。魔法効果が本体と精霊の間で遮断されています。魔術刻印をSAに施す方法を提案いたします 》
流石大ちゃん、ナイスアイデア。
此処で魔術刻印登場か‥‥精霊工学が楽しすぎて本をまだ読んでないんだよな。
続いてライデイン。
俺はやはり勇者だったのか‥‥何てな。
ライオネックやトルネコも使えるから気にしなくても良いだろう。
この世界で勇者を名乗る勇気なんて無いわ。
魔王様がランダムでやって来るとか怖すぎて絶対言わないけども。
「ライデイン!!」
青い雷が落ちて岩が砕け散る。
「ラナリオンは必要無しか。最大威力だと黒雷嵐と並ぶんだろうか?」
俺のギガデビ君の訓練もしないとな‥‥。
「まだプロトタイプだからギガントっていうほど大きくは無いんだよな」
リムルのSAの倍の大きさだと思う。横幅1.2M、縦60㎝くらいか?
否定。横幅1.18M・縦62㎝ですって聞こえてきたが誤差だろ、誤差!
「違和感なく振るえるな。ボディ、ボディ、アッパーー!」
デンプシーロールがしたいからサイズダウンの左腕も作るか?
カイジンに武器を頼んだけど「わりぃな旦那。包丁やら鍋やら注文が立て込んでてよ…」って言われてるから自作するしか武器は手に入らないかもしれん‥‥。
一方その頃。
ジュラの森を四脚で疾駆する化け物が森を騒がせていた。
「ぎゃああああああーーー!」「逃げろおおーーー!!」
ゴブリン達が大型の蛇に襲われている所を熱線が駆け抜ける。
大蛇の身体は四等分されて、切り離された頭部だけが勢いのまま滑っていく。
「た‥‥助かったのか?」
一人のゴブリンが呟くと飛び出してきたのは足だけの化け物。
その化け物は死骸を全て飲み込み跡形も無く消し去っていく。
座り込むもの、気絶するもの、皆が声を出せずにいる。
「‥‥」
四足の化け物はゴブリン達を無視して先に進んだ。
「魔力が無い? 気配がまるでない‥‥不気味だ」
「ヴェルドラ様の祟りじゃ!! 祟りじゃ!!!」
「何で私達がこんな目に‥‥」
「駄目だ、まったく動かせない…」
「嫌! 死にたくないっ!」
巨大な蜘蛛の巣に捕まった兎人族が、三人同時に大蜘蛛に糸でグルグル巻きにされていく。
引き寄せられて牙の毒液を入れられる瞬間に青い閃光が走る。
「助けて! お母さん!」
「眩しい! 何だ?」
二人がゆっくりと目を開けると大蜘蛛は消え巣が半壊していた。
「何が起きたんだ? おい大丈夫か息子よ」
「あばばばばば」
「お兄ちゃん? 生きてるけど痺れてる? みたいね」
「何が起きたか分らんがこのままじゃ巣から落ちる。拘束も解けてるし早く里に帰ろう」
「お父さん! 声しなかった?」
「ん? 私は轟音と光で聞こえなかったが‥‥何が聞こえたんだ?」
「見つけたって‥‥」
蛇の素材は何? 大ちゃん肉にも毒ありそう?
《否定。毒は有りません、食用可能です。道具袋で既に素材は分けられています。鱗、牙、肉、硝酸袋です》
消化液を出すタイプの蛇か恐ろしい。
出来れば蜘蛛の素材も取りたかったな‥‥死体も全部消し炭にるなとは思わなかったよ。
《肯定。並列化による減少に合わせた威力の調節をしています。暫くお待ちください。》
兎人族を見つけられたのは幸いだったな。
食料問題は既に解決したけど‥‥。
手先が器用で装飾品の加工や”付与”を得意としてる種族らしい。
仲良くするに越したことはないからな。
《肯定。麻痺中の男性の毛を入手しましたので所在は把握できます。本体の貴方に情報を送信します》
大ちゃんが優秀過ぎて怖いんですけど‥‥。
「此処がシス湖か〜綺麗だな。リザードマンがちらほらいるけど親子で洗濯してるだけだな」
オークはまだ出現してないな‥‥平和すぎる。
次はオーガの里に向かうか。
「ねーねーガビル様見て! 四本脚の生物が木を蹴って崖を登ってる!!」
「またそうやって吾輩を騙そうとしても‥‥」
木をへし折りながら物凄い力と速度で崖を登っていく化け物が居た。
「嘘じゃないでしょ? 変だよね? 頭も無いし気配も無いや」
「た、ただの虫であろう? もし我が里に来るならこの槍の錆にしてくれようぞ!」
「流石! がビル様! 頼もしい!」
「あっははははははは!!!」
(絶対来ないで! 何あれ〜 怖すぎなんですけど! 怖い!! 怖いわ!!! )