目が覚めたが視界が真っ暗じゃないか、まだ夜なのか?
あれ? 身体が動かないぞ! 金縛りか!?
それになんだか良い匂いがする。
昨日はリグルド、クロベエ、ハクロウの四人で夜遅くまで飲み明かして‥‥最後はちゃんと小屋に帰って寝たはずだよな?
「重くて動かせ‥‥痛っ!」
そう呟くと左右から肘打ちが飛んできた。
葵とハヤテか? 腕が動いたおかげで、少し視界を確保することができた。
葵、ハヤテ、ハンゾウの三人が俺の腹の上で寝ていた。
「お〜い! 起きろお前達。てか葵はなんでいるんだよ?」
ハヤテと葵が目を擦りながら欠伸をする。
「ああーう」
「おはようリヴェルさぁ〜ふぁ〜〜ま〜〜」
「おはようさん。ハンゾウも起きろ、朝だぞ」
「う〜ん もう少し‥‥」
ハヤテがハンゾウの鼻を詰まんで起こしている間に葵に言う。
「葵は茜と長屋で生活するんじゃないのか? 小屋が狭いんだからそっちで寝ろよ」
「リヴェル様のお腹の上は凄く気持ちいいからね〜」
「もしかして怖いのか? 茜の隣で寝るの」
「‥‥‥‥うん」
顔を伏せ泣きそうな顔をする葵。
能力は制御できてるし、茜に噛みつくとは思わないけどな‥‥。
無意識に何かを食べたりするなら俺の劣化分身でも渡しておくか?
バン! と小屋の扉が吹き飛んだ。
「リヴェル様! 葵が朝起きたらいなくなってしまいまして!」
てへぺろをした葵ちゃんに茜がゆっくりと歩み寄る。
「ひえっ! ごめんなさいお姉ちゃ‥‥」
葵の背に腕を回して弱々しく抱きしめる茜。
「母も父もいなくなって‥‥貴方まで。ひっく‥‥いなくなっちゃやだ‥‥」
「ごめん。ごめんねお姉ちゃん」
ポロポロと泣いてる茜の頭を優しく撫でる葵。
「ハァ〜〜‥‥。ハヤテもソウエイの長屋で泣きじゃくるから一緒に住むことになったがお前達も一緒に住むか?」
葵は茜の頭を撫でながらコクコクと高速で頷く。
茜は年相応に見えたが、クロベエが言うには人間で例えれば高校生ぐらいだそうだ。
大人に見えてもまだまだ子供ってことだな。
茜も心に傷を負ってたか‥‥さすがに心のセラピー関係はしらんぞ。
「リムルが地下を使わないし、そっちを茜と葵の部屋にするか」
「失礼します。ここにいましたか、あか‥‥茜?」
茜に会いに来たシオンが、泣き崩れている茜を見て困惑している。
「うぅ〜〜シオォ〜ン〜」
「ああ! もうどうしたのですか茜? ほらこれで鼻チーンってしなさい」
布切れで茜の顔を拭きながら、シオンの胸に顔をうらや‥‥埋めて茜が優しくあやされている。
「何か気が抜けました‥‥昨日のお礼をしに来たというのに」
「お礼ですか? 何かシオンに上げましたっけ?」
「あ・な・た・に! 不意打ちを貰いましたから!」
茜の頭を両サイドからグリグリと拳で押し付けるシオン。
「痛い痛い! もう! あれはシオンがリヴェル様に舐めた態度取るからでしょ!」
二人は両手を前に指を組み合い睨み合う。
「やるなら外でやれ! 床が壊れてしまう‥‥遅かったか」
地下室にそのまま二人で落ちていく姿を見送り、割れた板を回収して新しく貼り直す。
ハヤテはキングな俺が好きなので、小屋のドアも部屋のサイズも大きく拡張した。
何故かなんども壊されるからな‥‥。
「んん〜あ」
「はいはい、朝ごはんね」
寝間着から着替えたハヤテが、テーブルに座りお腹を鳴らしていた。
素早く台所に立ち、フライパンに火を入れて朝食を作る。
皿に目玉焼きとサラダを盛りつけ、パンにジャムを塗って配った。
スープはジャガイモと赤い白菜と干し肉だ‥‥いや赤菜か?
「‥‥美味しい」
「何でシオンも一緒に食べているのですか!」
「別にシオン姉がいてもいいじゃん」
「あむあむ」
「葵姉様! それ僕の目玉焼きですよ!」
「なるほど‥‥貴方はリムル様の料理番ということですね」
「おかわりはいるかシオン?」
「ええ、いただきます!」
張り合うようにして、茜も皿をだしてきたのでスープとパンをよそってやる。
葵に取られた目玉焼きがなくなった皿を見つめて、泣きべそをかいてるハンゾウ。
ハヤテが半分に切った目玉焼きを分けているのをみて、ほっこりしていると壊れたドアからリグルが現れた。
「リヴェル様いますか? 来客が来たのでリムル様がお呼びです」
「ん? 念話すりゃいいのに客人? そういやリムルは小屋にいないな」
「リムル様は私の美味しい朝食を食べていましたので、中央の食堂の方にいると思います」
美味しい? と首を傾げるリグルを一睨みして退散させるシオン。
「念話じゃないなら緊急でもないな‥‥客人ってお姫様か? いや、それだと緊急だな」
朝食を食べ終えた俺達一行は、客人が来ている西口の方へ向かって歩く。
門の入り口でシュナに抱っこされたリムルがいた。
「おっはーリムル。客人って誰?」
「おっはーリヴェル。なんかリザードマンの集団が来て配下にならないかってさ」
あーガビル達が来てるのね。
リムルがシュナとシオンに大岡裁きをされているのを眺めていると、ゴブタが話しかけてきた。
「丁度いいところにリヴェル様! オイラに補助魔法をかけて欲しいっす」
「相手にかけるのはいいけどお前は駄目だぞ?」
「何でっすかーーーー! しかも敵じゃないっすか」
「つべこべ言わずにいってこい!」
俺はゴブタの襟首を捕まえてガビルの前に放り投げる。
「そもそも、なんでおいらが〜〜〜」
「吾輩も侮られたものだな‥‥ホブゴブリンが相手などと」
始めの合図と共に、盾を構えて相手に直進するゴブタにするどい槍を突き入れるガビル。
ゴブタは盾でパリイをしてガビルの体制を崩し、銅の剣をガビルの首元で止める。
「なっ!? 待て! 今のは吾輩が油断しただけだ! もう一度だ!」
「あれ〜〜? なんか手応えがないっすね‥‥」
「儂が鍛えてるからのぅ。当然じゃ」
「フッ‥‥ゴブタなら当然だ」
ハクロウとランガが、ウンウンと頷いてる。
魔素量も既にガビル抜いてるのに、補助魔法とかアホかって話。
下手すりゃ命にかかわるし、ゴブタは自分の力量を全く把握できていないな‥‥。
二戦目はあっさりと決着した。
ガビルは警戒し防御の構えで槍を隙きなく構えるが、ゴブタはあっさり銅の剣を手放し投げ付けた。
それに注意を取られている隙に影移動で背後に回り込み、蹴りをガビルの後頸部に叩き込んで気絶させた。
「勝負あり! 勝者ゴブタ!」
俺はそう言ってゴブタにSAで親指を立てた。
リザードマン達は、リムルに帰れと言われてしぶしぶ帰って行った。
「こらこら、ハヤテ危ないから銅の剣を持つんじゃありません」
ゴブタが投げ捨てた銅の剣を、ハヤテが拾って剣を構えだした。
子供相手だからと、オロオロしながらゴブタは見守ってしまう。
「ハヤテ危ないから剣をゴブタに返しなさい!」
最初はフラフラしていたのに妙に剣捌きが美味いな‥‥。
「あうああーあ」
「ハヤテちゃんはまだ小さいから駄目っすよ?」
ほっぺたを膨らませたハヤテがゴブタに剣を返したあと、俺の頭に上りぺちぺちと顔を叩いてくる。
「ほっほっほ。儂が見たところ、ハヤテに剣術の才能はありますぞ。リヴェル様」
「そうなの? でもまだ小さいからな‥‥」
「あうああー」
「わかったよ‥‥クロベエにハヤテのサイズに合った小刀の制作を頼んでみるよ。でも大人が周りにいるときじゃないと振るっちゃ駄目だぞ?」
それでも不満そうにしながら、ハヤテは分かったというように俺の頭をぺしぺしと叩く。
俺はハヤテを頭に乗せたまま、クロベエの鍛冶場に辿り着いたが‥‥急にリムルから念話が届く。
『中央の食堂で会議するぞ〜』
『あいよ』
「リヴェル様じゃねーか? ん? ハヤテも一緒だべか」
「あークロベエ悪いけどハヤテに合う小刀を作って貰えるか? あとハヤテをここに置いて行くな?」
「ああう?」
「食堂で会議があるんだよ」
「ハヤテに小刀だべか? う〜ん‥‥駄目だもう少し大きくならねーと武器に振り回されるだけだべ」
「俺もそう思ったんだけどな‥‥ハヤテの剣の扱いが結構様になってんだよ。すまんクロベエ! あとは任せた!」
置いて行くなとハヤテは抗議するも、俺は既に走り去る最中だ。
「あうあーあ!」
「終わったらちゃんと迎えに行くって〜〜!」
食堂に着くと主要なメンバーが既に着席していたので、俺は急いで部屋の隅で待機した。
物を壊さずに身体を伸ばして、ぬるりと移動できるようになったからな。
「議題だが、ソウエイが調べて来た情報によると、オークの軍勢20万がジュラの森に侵攻中ってことだそうだ」
「現在本体は北上して、シス湖を通過すると思われます。詰まりはリザードマンの支配地域が戦場になりますね」
リムルとソウエイが会議内容と補足をしてくれる。
「遅かれ早かれこっちに来るだろうな」
「だな‥‥オークの目的ってなんだと思う?」
カイジンが髭を弄りながら答える。
「リヴェルの旦那の情報だと、オークロードの王が兵を率いて進行してるって話じゃねーか。森の支配権を欲してるって線が濃厚だろうな」
「だが俺達の里をオーク共に襲わせた奴がいる。ゲレ「ゲルミュッドだ」そう! そいつが後ろで糸を引いてるのは間違いない」
ベニマルがソウエイに突っ込まれながらも黒幕を語る。
でも黒幕はクレイマンで、ゲレなんとかさんはただの捨て駒なんだよな。
「特殊個体のオークロードと20万の兵に正体不明の黒幕ですか‥‥なんとも厄介な相手達ですな」
腕を組みながら困り顔のリグルドがぽつりと呟く。
「攻めるにしろ、守るにしろこの町は防衛に向かないぞリムル?」
「そうだな‥‥結界があるとはいえ、この町は防衛を考えて作っていないからな」
「話の途中で申し訳ございませんリムル様。私の分身体に接触してきたものがリムル様に会いたいと申し出ていますが、いかが致しますか?」
「俺に? 一体誰だ? ガビルのような好戦的な相手だと面倒だから会いたくないぞ」
「それが珍しい種族でして、ドライアドなのです」
「何! それは素晴らしい! ぜひお呼びしたまえ」
リムルが言うや否や煙が立ち込めてボン! と小さい音がする。
煙が晴れると目の前には、緑色の髪をした美しい妙齢の女性が立っていた。
「初めまして、魔物を統べる者とその従者の皆様方」
警戒した鬼達が俺達の前に立つ。
こら葵! 俺の背に隠れるな! ハンゾウを見習いなさい。
「突然の訪問申し訳ございません。私はジュラの森に住む森妖精のトレイニーと申します。どうぞお見知りおきください」
「うすしおさん‥‥」
「はい? うすしおですか?」
「あっすみません。私はリヴェル=テンペストと申します。よろしくです」
可愛く首を傾げるうすしおさんは地獄耳だった。
「俺はリムル=テンペストです。先に紹介した方が愚兄です」
「ひでえぇ」
トレイニーさんは上品にクスクスと笑う。
「私にも妹がおりますが、皆可愛い子達ですよ」
そう言いながら俺の頭を優しく撫でるうす‥‥トレイニーさん。
『見ろ! 兄はモテ期だぞ悟』
『ば〜〜か! 違えよ、お前のは加護のせいだろ‥‥あっ』
『ん? 加護? 一体何の加護なんだ?』
『しまった‥‥言いたくなかったのに』
えっ凄く気になるんですけど! ヴェルドラの加護のことか?
俺達が惚けていたのでトレイニーさんが咳払いする。
「それで本日はお願いがあってここに参りましたの」
「すみませんトレイニーさん。お願いですか?」
「リムル=テンペスト。魔物を統べる者よ‥‥貴方にオークロードの討伐を依頼したいのです」
「討伐ですか‥‥対処はするつもりでしたが」
「リヴェルさんはあれがどういうモノか知っていますよね?」
何言ってんだこのうすしおさん‥‥知るわけ。
「しっ・て・い・ま・す・わ・よ・ね?」
「イエス! マム!」
「どういうことだ? 特殊個体の上にまだなにかあるのか?」
ん? うすしおさんにストーカーされてたのか?
ひっ! 睨まないで! なんでもないです!
森のことならなんでも知ってるだけですよね! へへへ! これどうぞ!
「あら! 美味しいですわね」
うすしおさんが、うすしおを食べてご満悦だ。
「葵と似たようなユニークスキルって部下のオークが言ってたんだよ、我が王に似てるってな」
分身の術よろしく、同じように消えればスラぼうの記憶も本体に渡るようだ。わけた魔素が戻るからだと大ちゃんが言ってた。
「貪食者だったよな? 食べることに固執する‥‥まさか! 際限なく食らう系なのか?」
「葵の貪食者も自我が崩壊して暴走するリスクがあるみたいだが‥‥今は良い。暴走してるなら誰かが止めないと際限なく食らい続けるぞ? それこそジュラの森の魔物がいなくなるまでとかな」
全員が息をのみ静かに戦慄するなかで、沈黙を破り威風堂々と一人が言い放った。