あれからリムルが仲間全員に演説をして今回の経緯を語る。
オーク軍の侵攻はジュラの森に住む魔物全体の危機だと。
リザードマンと同盟を組み協力して対処にあたること。
敗戦が濃厚の場合は町を放棄して、トレイニーさんの集落へ退避することを皆に話す。
何故か俺も神輿の横に、豪華な紅白布を敷かれてリムルの横に立っている。
リムルが不安そうに演説を終えると大歓声が鳴り響く。
「「おおおおおおーーー!! 必ずや勝利を!! リムル様可愛いです-ー! リヴェル様また太ったべ?」」
ゴブゾウ‥‥おまえは痩せたな。リリナにこき使われ過ぎだぞ?
演説が終わり、中央広場は作戦本部に早変わりだ。
天幕を立て、テーブルを挟んで俺とリムルは会話している。
中にいるのは、俺達の護衛としてハクロウだけだ。
「はぁ〜〜負けたらどうするよリヴェル?」
「いや、何処に負ける要素があるんだよ‥‥?」
「はああああ!? 俺達の戦える兵数は150人程度だぞ! リザードマンを足したとしても俺達より数倍の数だ!」
俺の腹にタックルを何度もしてくるリムルをSAで止めながら考える。
茜は戦闘慣れしているが葵はまだ中学生だ。
あんな事があったあとだし、戦場には連れて行きたくはないんだがな。
前線にはでないこと、衛生兵として戦場に参加する事が条件で同行を許可した。
茜達と俺という戦力が追加された場合、オーク側の死人の数の方が心配だわ。
「おまえは鬼人の力をまだ理解してない‥‥戦争の決着だがおまえは皆殺しを考えてるのか?」
「‥‥流石に20万も皆殺しは考えてねーよ。鬼達の無念を晴らしてやりたいから総力戦を仕掛けるが、俺としては大将を早々に討ち取って戦を早期終結し、オーク達をジュラの森から追い返したいと考えている」
「鬼人の力を見誤るとオーク達の死体が大量に森に転がる羽目になるぞ? 一騎当千が何人もいる感じで考えろ。ハクロウはさらに別格の強さだ」
テーブルに座り、会話の邪魔をせず静かにお茶を飲んでいたハクロウが少し照れながら咳払いをする。
侵略側がオーク達とはいえ、大量虐殺された場合にオーク達の悪感情はいつか噴き出してくる。
それは国に抱え込む時限爆弾と同じだからな。
ベニマルや茜達も家族を殺されたんだ。
手加減しろとも言えんし、復讐は当然の権利だと思う。
理不尽に悟と俺自身を殺されたんだ、気持ちは痛いほど良くわかる。
「えっ? 鬼達ってそんなに強いの? クロベエも?」
「あークロベエは生産特化だからな。戦闘特化はベニマル、シオン、ハクロウ、ソウエイ、シュ、ハッ‥‥殺気!? 茜と葵に、あー風音もいるじゃん。どう見ても過剰戦力だぞ?」
何かを察知したシュナが天幕を開けて、ウフフと目が笑っていない表情でこっちに歩いて来る。
「リヴェル様? リムル様に余計な事を吹き込まないようにお願いしますね?」
「戦えることは事実じゃない‥‥ひっ!? かっ、か弱いシュナだが鬼人は強いぞってリムルに教えてただけだ」
シュナが一瞬だけ目を細めるが、俺の返答に満足して笑顔に戻る。
「何かおまえが自信満々に言うから、勝てそうな気がしてきたぞ?」
「問題はオーク達に帰る場所がないってことか‥‥」
「ん? 何か言ったかリヴェル? あっ! すまんソウエイからメッセが入ったわ」
俺はオーク達が仲間になる前提で考えてみた。
俺の地図機能で調べた結果、兵20万と後ろに領民6万人が離れながら追従している。
何人生き残るか分からんが、生存者の食料が問題となるわけだ‥‥。
トレイニーさんやリザードマン達の協力があったとして、オーク達の食事を賄える量は手に入るのか?
リザードマンの人口は2万くらいだった気がする。
魚以外も食べると考えても漁獲量は一体いくら何だ? いや、そもそもオーク達の食事量が同じとは限らないな‥‥。
リザードマン達は魚の養殖はしてるのか? トレント族はそんなに多くないはずだ、精霊だしな。
野菜と果物を提供したとしても何万トン必要なんだ? 大地の養分を枯らしてまで食料を提供してくれるとは思えない、それとも今回は原作通り大丈夫なのか?
ウガッーーーーー!! あーもう! ハゲそう‥‥あっハゲてたわ‥‥。
また食料問題とか絶対嫌だぞ俺‥‥。
「おーい! おーい! 聞けって馬鹿リヴェル!」
「あー悪い‥‥考え事してた」
「リザードマンの首領と話がついたみたいで、今から一週間後に現地で落ち会うことになったぞ」
「了解〜! 大賢者さん特やくそう移してフルポ頂戴。うん、ありがとう」
「三日後に出発する予定だから準備を頼むな?」
「あいよ」
リムルはシュナと一緒に武器や防具の準備や点検をするらしい。
ハクロウは今回参加する部隊の訓練の指導に戻った。
俺は修行中のハンゾウを見に行って、そのあとは茜、葵と一緒に護符作成と薬の準備だ。
他にも自分の武器を作らないと‥‥忙しいな。
「主様〜! すみません。食料調達班が忙しくてお待たせしました」
「全然待ってないよ風音。忙しいのに悪いけど俺の一人をハンゾウのとこまで送ってくれ、その後は一緒に調達に行こう」
「わかりました!」
小屋に戻るとテーブルに座った葵が筆を使い、綺麗な字で札に五芒星と祝詞を描いていた。
真っ白とはいかないが、俺が和紙を作れるからな。
「へー上手いもんだな。それが回復護符って奴か」
「えへへ! そうですよ他にも解毒や防壁なんかもあります」
「茜を縛っていた札は?」
「あれは呪符ですね。こうやって‥‥あはは! 呪いって書いても効果があるんですよ」
俺のほっぺたに呪いと書いて魔力を通すが首を傾げる。
「あれ? 金縛りが効かない? リヴェル様はやっぱり凄いね!」
何故か耐性が統合されて、全状態異常無効になっただけで別に凄くないんだよな‥‥。
葵ちゃん‥‥。そんな尊敬の眼差しは止めてくれ胃が痛い。
「そういや茜の姿が見当たらないんだが?」
「お姉ちゃんは叔父さんのところだよ? 武器がないからね」
「金棒じゃないのか?」
「くくくっ‥‥あははははははははは! はぁ〜〜おかしい。お姉ちゃんは力が強いからすぐに武器が壊れちゃうんだよ。普段は槍を使うんだけどね? 金棒は何度も武器を駄目にするから、叔父さんに怒られて金棒を渡されちゃったの」
「あークロベエは武器にこだわりがある職人って感じだから、雑に扱って壊したら怒りそうだな‥‥」
「そそ、その癖に大きい丈夫な槍は女の子らしくないとか、可愛くないとか言って‥‥ん? シオン姉もそんなことを言ってた時期があったような?」
小屋のドアが少し軋みながら、勢いよく開かれて茜が帰って来た。
「もう! 叔父さんのわからずや! 可愛い蝶の彫刻掘ってくれても良いじゃない!」
「お帰り茜。ご機嫌斜めだな」
「ひゃう。こここ、これはリヴェル様! ただいま戻りました! うふふ、ポーションの作成ですよね? 頑張って手伝います!」
「そう思ってたんだけどな‥‥茜も武器が欲しいんだろ? クロベエには作って貰えたのか?」
「聞いてくださいよリヴェル様! どうせおまえはすぐに壊すんだから彫刻なんて意味ねぇべって! おまけに丈夫で大きな魔鋼製なら作ってやるべよとか言うんです!」
彫刻か‥‥鎧なら好きに描けたりするけど武器は何故かできないんだよな。
「俺も鉄の槍を作れるけど‥‥デザインがな」
「あはは! 鉄だとぐにゃぐにゃに曲げちゃいますよ、お姉ちゃんは」
茜にキッと睨まれて、何事もなかったように札作成に戻る葵ちゃん。
「そうでもないぞ? 武器に魔術刻印を仕込むとスクルト効果で武器の耐久が上がるからな」
魔力を通すと呪文もちゃんと発動する。けど俺が作ったモノだけだ。
刻印魔法はリムル達のような魔法陣が発動する形態には使えるが、魔術刻印は魔法陣がいらないのが特徴だ。
ドラクエの魔法には魔法陣が出るタイプの魔法もあるんだが、五芒星を刻印して効果がでるかは覚えてから研究したいと思っている。
刻印魔法は削って書き直したり、反発しない系統を複数組めたりする。
魔術刻印は刻印魔法陣を描き、その上に刻印する物質を置く方法だ。
あとは特定の魔法イメージを刷り込んでいけば魔術刻印は完成する。
デメリットは一度刻んでしまえば変更はできない。
メリットは手で触れていなくてもある程度の距離までは、魔力を遠隔で操作すことができることが一つ。
二つ目は、その物質の性能の限界まで反発せず組み込めるようになる。
属性で例えれば火と水とかだな。
限界までとは言ったが、刻印魔法の方が大きい武器なら沢山書き込めるし、魔術刻印は武器や防具の性能次第で詰め込める制限があるから一長一短だな。
「今のところ、銅と鉄武器だと一つが限界なんだよな‥‥よしできた! 使ってみろ茜」
「はい! えいっ! あっ凄い鉄なのに曲がらないです!」
「外で軽く素振りしてできを確認してくれ。使えそうならステが良いのを選ぶから」
もう少しで鋼も作れるんだが‥‥戦には間に合いそうにないな。
「おおおおおすげー!!」
「うわわ! びっくりした! 急に大声出さないでよリヴェル様! 文字がめちゃくちゃだよ!」
「悪い。ハンゾウが思ってたより強くて、凄く忍者してて驚いたんだよ」
ハンゾウがナルトしてた。
走りながらクナイを連続で的に当てる訓練をしていてビックリした‥‥。
「ハンゾウがねぇ‥‥忍者? そこまで凄くなってるんですか? 鬼人になった影響かな?」
「リヴェル様‥‥その‥‥あの‥‥」
小屋に戻った茜が、申し訳なさそうに小さな声で言う。
「あーやっぱ駄目だったか茜? 今回はクロベエに魔鋼で‥‥」
「ちちち違います。その少し無骨と言うか‥‥飾り気がないというか‥‥」
左右の人差し指をモジモジさせながら、申し訳なさそうに言う茜。
「あほくさ‥‥」
「茜っ!! 貴方は綺麗な薙刀じゃない!」
葵は決めポーズで金棒を指さしクスクスと笑う。
「お姉様にはすでに愛用の武器があるじゃない! 叔父さんが猪も彫ってくれてるよ! ふふふふ、あはははは!」
何かが切れる音がして床が血塗れになった。
俺は即座にフルポを葵にかけた。
ダイイングメッセージに怪力女と余裕がありそうだが念のためにだ‥‥。
「槍に赤と青色の布をこうして‥‥うさぎのしっぽ付けてどうだ? 彫刻は誰かに頼んでくれ」
「うわああぁぁ〜! 凄く良いですわ! 可愛い!」
「もう! お姉ちゃんばっかり甘やかして! ずるいずるい!」
煩い葵の口にカスタードのシュークリームを噛ませると静かになった。
一番ステータスが良い槍を、さらに茜に色々飾りつけの注文を受けながら仕上げた。
その槍をクロベエのところに持って行って、最後に彫刻で飾り付けをして仕上げて貰うそうだ。
小屋を元気よく飛び出し、ご機嫌な茜は槍を綺麗な体捌きで演武のように振り回して歩いて行く。
「あの〜リヴェル様。私もそのお菓子頂けませんか? えへへ」
だが、思い出したのか急いで戻ってきた茜がひょっこり扉から顔を出す。
「はい、どうぞ。茜、危ないから槍は仕舞っていきなさい」
「はーーーーい! おいひぃ」
さて問題は俺自体の武器なんだよな‥‥。
「はい、リヴェル様の笹茶」
「あんがと葵。‥‥ずずずず」
カバルが俺にアドバイスとしてくれた案。
デカブツでぶっ叩けってのも、微精霊の出力だとハンマーや大剣も厳しいんだよな。
精霊とか中精霊だと自我が強くてコントロールが難しい、あいつら気まぐれだからな‥‥。
やっぱ現状ギガデビで持てる大きさの盾がベストか?
「何ですかそれ? 変な形の盾ですね」
「あーガルムとの合作だ」
葵が覗き込んできたので、作業を中断して返答する。
「何で盾の淵がこんな形に? 強度が落ちるんじゃ?」
「コレはなガルムが魔鋼作った盾を中心に俺の盾をはめ込むんだよ。ほらこうやって」
俺は魔鋼の上から鱗の盾をはめ込みガシャンと良い音がして合体した。
「リヴェル様って好きに形を変えられるんですよね? どうしてガルムさんの盾を覆う形にしないんですか? その方が強度が上がると思うけど?」
「換装機構にした方が格好良いからに決まってるだろう?」
葵は残念な者を見る顔をしたあとに、何か思い出したかのようにポンと手を叩き聖母の様な笑顔で言った。
「男がワケのわからんことを言い出したら取り合えず一度肯定してから、理詰めで言いくるめて馬鹿なことは早めに辞めさせろって母様が言ってました!」
「ま〜俺の話を最後まで聞け葵。素早く換装できることでタイプを変えられるんだよ。防御、魔法、近接特化という風にな」
「リヴェル様は直ぐにスキルから出せるんだから3つ用意したら良いだけじゃん。防御の面で既に強度が下がってるよね?」
「か〜〜これだからロマンが分からない奴は‥‥」
ドルドとガルムとカッケーとはしゃいで換装して三人で遊んでたし、クロベエにも見せたら浪漫だべと何度も頷いてたんだがな‥‥。
一仕事を終えて、地下から上がると泥だらけのハヤテが葵に拭かれていた。
「一体どうしたんだハヤテ!」
「あうあうああ、ああ〜あうい」
「子供達と遊んでいた?」
ふむふむ、ゴブリンの子供達が水路に落ちちゃったから助けてたのか。
「ハヤテちゃんは年に似合わずお姉さんで、良く里の子達の面倒を見るんですよねぇ〜」
「さすがハヤテに面倒を見られてた葵ちゃんが言うと説得力があるな‥‥痛てっ」
俺は葵に軽く叩かれたながら外に出て、ドラム缶風呂を置いて中にお湯を入れた。
スノコを中にに引いてるが、俺の高さなのでハヤテの高さに調節するために段を外す。
「何ですかそれ?」
「ドラム缶風呂だ。気分転換に俺もリムルも偶に使うんだよ」
「あうあ! おうお!!」
物凄く嬉しそうなハヤテが可愛い踊りをおどり始めた。
「俺は洞窟に温泉湧いてるからそこで入ってるけどな。ほれ温泉のお湯だからすぐには入れるぞハヤテ」
俺はハヤテの着物を素早く脱がせて、ドラム缶風呂に入れると顔を真っ赤にしたハヤテが怒る。
「あうあうああぁ! ふああああぁ〜」
抗議してたが気持ちよくなって、溶けたアザラシみたいな顔をしてる。
俺は目隠し用に戸板を四方に置いてハヤテに言う。
「湯加減はどうだ?」
「ああぁ〜〜あうい」
「はいよ水足すな」
「私も入りたい! ここに来てから水浴びしかしてないよ!」
俺は葵を無視してサウナを小屋の横に作ろうと思案する。
公共施設として真ん中に作るか? そういやリムルが温泉作るんだよな? ふむ‥‥。
「私、いらない子なんだ‥‥私にだけ冷たいよ、リヴェル様‥‥」
しくしくと煩いので、リムル用のドラム缶をだしてハヤテの横に置く。
「やったーー! こっち見ないでよねリヴェル様」
ウソ泣きをしていた葵が、素早く服を脱ぎ去ってドラム缶に入る。
すかさず俺は、冷たい水を注いだ。
「ひゃああああああああーーーー冷たい! ひどいよリヴェル様!」
直ぐに水を道具に入れて温泉湯に変えた俺は、葵に愚痴と文句を言われながら他の者が入るときのために薪を割る。
どうにもハヤテは火を酷く怖がるトラウマがあるので、直接沸かさないで熱い湯を入れる方法を取る必要がある。
昔の俺より酷い頭痛の症状だから、凄く心配だ。
なるべく見せないようには皆で注意はしているんだが、何故か料理を見に来たがるんだよな‥‥?
次に帰って来たハンゾウと茜が入り、火番をしながらリムルの帰りを待った。
暫くして点検を終えて帰って来たリムルと俺が最後に湯につかる。
「いよいよ明日に出発か‥‥」
「そうだな〜〜誰も死なない方法があれば良いんだけどな〜」
「‥‥お前はオーク達が何故ジュラの森に侵攻したのか知ってるんじゃないのか?」
「さあな‥‥領土や力欲しさにって感じじゃないよな。兵と民が全員参加してんだから」
「曹操から逃げる劉備かよ‥‥。魔王から逃げてるってか?」
「俺も理由はわからん。オーク全員が国を捨てる理由があったんだろうよ」
二人が短いため息を同時に吐き、その音は静かな夜に消えていく。
パチパチと燃える薪の心地よい音と、異世界でしか見られないような幻想的な星空が散りばめられている。
それから俺達は会話を忘れて、満天の美しい星空を見上げて静かに湯に揺蕩うのだった。