一匹のスライムと出会うまでは‥‥
名を貰い、進化して生まれ変わったが、姿は変わらず自信が持てなかった
だがスライムが言った、お前に装備を与えてやると
力が湧いた、自分が変われる気がした、誇りを持てた
主は強さを誇示しない
主は弱者を助け護り導く
ならば己も同じ道を歩みたい
「リヴェル様に貰ったこの力で! おいらが守れる範囲の者は守ってやるっすよ!」
ゴブタは狼の背を蹴り大きく跳躍する。
地面の摩擦に反抗しながらターンを描くようにして着地し、ガビルの背後に迫る妖気の蛇を盾を叩きつけて霧散させた。
「油断大敵っすよ? あの時、おいらに背後を取られたのに」
己の危機に颯爽と現れた小柄な騎士の風貌に、一瞬言葉を失うガビル。
だが次々に襲い掛かる妖気で具現化した蛇が己を現実に戻す。
四方八方から襲い掛かる蛇を踊るような連撃で切り払い、盾で防ぎ全て消滅させる。
しかし、依然エリートオークは無傷のままだ。
膝を付いてるガビルの襟首を掴み、一度ゴブタは後方へ飛ぶ。
「ど、何方かは存じませぬが助太刀感謝致す!」
青銅の完全装備で武装した格好のゴブタに気が付かないガビルは少し戸惑う。
兜のバイザーを上げてゴブタは呆れた顔で言う。
「何言ってるっすか、オイラっすよ! オ・イ・ラ」
「おおお! 貴殿はあの村の主殿ではないですか!!
「主? 何を訳の分からない事を言ってるんすか‥‥」
ゴブタは再びバイザーを降ろして武器を構える。
三つのレンズが怪しく煌めき、青銅鎧の右肩だけが赤く塗装されていた。
「我が名はランガ! リムル様の命により助太刀に来た!」
「私の名は風音! リヴェル様の命により今より参戦致します!」
威風堂々とした巨狼二匹がゴブタの左右に並ぶ。
「お、お前がリムルなのか? 何処の馬の骨かは知らんが、邪魔立てするなら容赦はせん!」
ゴブタを指さし勘違いするエリートオークは武器を構えるが‥‥。
「ドガガガーーーン! ドゴオオォォーーーーン!!」
背後で物凄い轟音が次々に鳴り響き、オークは慌てて振り向くが其処には地獄があった。
巨大な岩が次々と降り注ぎ地面に衝突しては炎を巻き上げる。
青い矢が巨岩に突き刺さると氷の柱が突き出し同時に大爆発を起こす。
「‥‥一体何が起こっている!? 大魔法かっ!! 嫌、これは魔法なのか? まずい!! 早く部隊を散開させなくては! 何!!」
既にゴブリン達が包囲しておりエリートオークの部隊に逃げ場はない。
「なっ何なのだっ! ゴブタ殿! この力は味方のモノか!?」
「落ち着くっすよガビルさん。あれは味方の攻撃っす。早く部隊を立て直して合流して欲しいっすよ」
「はっ!? 了解した!」
ガビルは惚けている部下を叱咤し軍を纏める。
これは茜さんと葵ちゃんっすね‥‥。土埃が酷くてむせるっすと呟くゴブタ。
「まったく‥‥。俺が殺ると経験が入らないとか訳の分からん事を言って泣き喚きやがって! リヴェルの奴め‥‥」
「何者だ! 貴様ら!?」
砂埃を爆風で吹き飛ばしベニマル達が現れる。
「この姿に見覚えは無いのか? 俺達の里を食い散らかしておいて随分と薄情な奴らだな」
「た、隊長! 角です! オーガの生き残りかと!」
「な、何ィ!? 生き残りが居たのか!」
刀の背を肩に軽く数度打ち付け、ニヤリと笑うベニマル。
「今は鬼人って言うんだよ豚野郎。弱い者いじめは好きじゃねーが、弔い合戦なら別だよ‥‥なっ!!」
エリートオークの肩から膝まで真っ二つになり血飛沫が舞う。
「感覚が狂うじゃねーか‥‥。リヴェルの奴、俺にも強化を掛けやがったな? 心配性めっ」
袈裟斬り、返す刀で首を斬り落とす予定が豆腐を切ったようにスッと斬れた。
隊長を一撃で殺された部下のオーク達が動揺して一瞬動きを止めるが、それが仇となりシオンとハクロウに首を狩られて全滅する。
「自ら首を差し出すとは殊勝な心掛けじゃのぅ」
「肩慣らしにもなりませんね」
そのまま鬼達は三人で前進しオーク達を次々と斬り倒していく。
格好良く登場したのに周りに居たオークを全て倒され尻尾が垂れ下がる二頭。
「「‥‥」」
「鬼達に全部持っていかれたっすね‥‥。おいらは楽出来ていいんっすけど」
「クッこのままではリムル様に頭を撫でて貰えぬではないか! 前に出るぞ妹よ!」
「頑張ったらリヴェル様に、リンゴのお菓子を作ってやるって言われてるのに! 死ぬ気で行くわよ兄さん!!」
私利私欲の為に駆け抜ける狼達を呆れた目で見送るゴブタは、口をパクパクさせてるガビルと部隊に告げる。
「驚いてる場合じゃ無いっすよ! 取り残されてる部隊も早く助けに行かないとっす。怪我した人は大きいスライムの所に行くっすよ! リヴェル様達が治療してくれるっすから!」
怪我をしたものは肩を支えられ後方に下がり、ゴブタ部隊と合流したリザードマン達は戦線を押し返す。
「あれをやるぞ妹よ! 合わせろ!」
「了解よ兄さん! スイーツの為に!!」
二人は遠吠えをした後に力を溜める、風音は翠色の風が自身を起点にして角に向かい渦を巻く。ランガは黒い雷が角に帯電していき、バチバチと轟音が鳴り響く。
「「
翠と黒の竜巻が横向きに重なり直線状に居る敵部隊を薙ぎ払う。
「ちょっと! 兄さん! 力が強‥‥クッ」
ランガは一鳴きすると角が二つになり黒い竜巻の大きさが拡大する。
「すまんが合わせてくれ風音!」
「もう! 何で急にパワーアップするのよ!」
直線の竜巻が重なり地面に大きな竜巻を形成していく。
「ごめん兄さんもう‥‥無理」
「いやこれで良い十分だ! ワオォーーーン!!」
巨大な竜巻は黒が翠を吸収して破裂し、無数の黒い雷と風の刃が周囲を駆け巡る。無残にも巻き込まれた数千のオークは焼け焦げみじん切りにされた。
「ふふ‥‥これでリンゴお菓子‥‥ゲット」
ランガの背にもたれ掛かるようにして目を閉じる風音をランガは優しく毛繕いする。
「よくやった妹よ、これでリムル様にお腹モフモフも、ありうるかもしれんぞ!」
「リヴェル様〜もう球がありません! 前に出ますね!」
茜は魔術刻印を描いた地面に俺が出した岩を金棒で敵陣に打ち上げて、ある程度の距離で火魔法を発動し、敵陣に着弾させている。
地面に突き刺した槍を引き抜いて、軽く振った後に駆け抜けていく。
みかわしの服をベースに巫女服風に改造した物だが、鉄の鎧は可愛くないと駄々をこねて着てくれないのだ‥‥。
あ〜もぅ! あんな所まで行ってるし! 速いよ! 速すぎるよ茜ちゃん!
「姉様を見失っちゃう! 速く追いかけてよリヴェル様!」
俺の頭上で氷魔法の矢を射続けていた葵が俺の頭をペシペシと叩く。
葵は茜の火魔法の岩に氷結の矢を打ち込み、氷柱で包み込んで大爆発を起し氷の破片も撒き散らす極悪仕様だ。
「衛生部隊はリザードマンの治療を終えたら俺を追従してくれ、リムルの結界があるからこの辺りは暫く安全だ!」
ゴブリナ達は返事を返すと治療行為を再開した。
リムルが監修しシュナに作らせた可愛いピンクの看護服を、ゴブリナが着用し負傷兵の治療を行っている。
頑張って走る途中に上空からリムルが俺の頭上に着陸して話しかけてきた。
「お前の言う通り、色々な意味で見誤ってたわ‥‥。うちの戦力おかしいだろ!!」
ぷるぷるして悶えるリムルに俺は会話用に1体だけ分裂して何度も頷く。
「ランガと風音の攻撃で敵陣に大きな穴が出来たな。リザードマンは隊列を立て直したか? あの穴を広げたら分断出来て良いんだが」
一緒に戦況映像を見てるとゴブタの姿が映り、それを見たリムルが何でレッドショルダー部隊が居るんだよ! と俺を睨むが、知らんな!
死亡率が下がりそうだし別に良いじゃんか。
ゴブタ部隊は合体魔法で大混乱したオーク達を相手に優勢で戦い、仲間を指揮して大活躍だ。
「この混乱を利用してオークロードまで俺単身で乗り込むか?」
「今回は俺も一緒に戦うぞ? 単騎はシオンやベニマルに怒られるからマジで止めとけ、消耗戦を嫌って大将が出て来るまで待ってくれ」
「へいへい、でも時間が経てばお前が嫌ってたオーク側の被害も拡大しちまうぞ?」
「悲しいけどこれ戦争なのよね‥‥」
俺はリムルに軽口を返して、あいつを探すが何処に隠れているのか中々見つからない。
「で? リヴェル。その待機中の魔法で誰を狙っているんだ?」
俺は悪戯がバレた子供の様に狼狽した。
「な、何の事だ? ゲ、ゲルミュッド何か狙ってなんかいないぞ!」
「ゲロってんじゃねーか! そいつには背後にいる奴を含めて聞きたい事があるんだから殺すなよ?」
あーもう! あいつをサクッと殺せばゲルドが魔王化しないんだよ! ちょっと葵! ちゃんと急いでるからぺしぺし止めろ。
「ハヤテやハンゾウの親が死んだ原因なんだ、敵を討ってもいいだろ?」
「‥‥嘘だな? 俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「やめろ! ソゲキングの俺様が嘘をつくわけないだろ!」
「こらっ! リムル様も! リヴェル様も! 戦場なんだから緊張感を持ちなさい! もう少し真面目にして!」
葵に怒られてリムルは上空に逃げ戻り、俺は合体して走るのに集中する。
だが念話に切り替えて話し合いは続く様だ。
リムルは俺が魔人を殺すのに躊躇しない理由を早く言えと促してくる。
『あいつ変だと思わないか?』
『お前がな』
『ちゃかすな悟。あいつの名付けの能力だよ、本来は命を削る行為なのにあいつにはノーリスクで使えるみたいだ‥‥。ユニークスキルか将又別の固有能力か』
リムルは思案しているのか少し間を置いてから話す。
『確かに異常だな‥‥危険な目は早く摘むって事か?』
『そゆ事。いくら能力が強くても馬鹿だと使いこなせないとかあるけどね。それにトレイニーさんが魔人は複数って言ってたろ?』
『聞きたい事はそいつらにって事か‥‥でも状況次第だ。責任は俺が取るからまずは生け捕りだぞリヴェル?』
『責任何て言ってる場合か! 名付けの強制上書きを持ってたらどうすんだよ!』
俺がブーブー文句を言うとリムルの念話が切れたので俺は舌打ちをする。
「リムルは甘いんだよ‥‥俺も人型の相手は躊躇するけどさ‥‥」
「セイッ! セヤッ! ハッ!」
茜は襲い掛かる敵を一突きで正確に急所を狙い突き刺していく、怪力に補助魔法が加わり急所には大きな穴が空く。
「遅れて来ておいて私の獲物を奪うとは何事ですか茜! あとその服可愛いですネッ!」
「ありがと。シオンもそのスーツだっけ? 似合ってるわ、ヨッ! っと」
話し合いながらも、お互い息の合った連携で次々にオークを突き、払い、斬り倒していく。
葵の援護射撃も届き、凍傷を負ったオークがまとめてベニマルに焼かれる。
「若いもんには負けておれんな‥‥セイヤッッーー!! リヴェル様の力で大して溜めが要らん‥‥こりゃ良いのう」
剣速と余力も上がりハクロウの居合が見えない刃となり、数十名のオークが横一文字に斬られて上半身が泣き別れた。
「リムル様の初陣だ! お前ら! 無様は晒すなよ!」
ベニマルが炎の魔法で辺りを焼き尽くし吠える。
「「当然です! 若こそ油断召されるな? もう! リヴェル様も初陣ですよ!」」
戦力差は数より質となり、戦況は鬼達の活躍により覆る。
「見えた! あいつがゲルドか、病人の様な風貌だな‥‥。」
オーク達が中央を開け、その間をユラユラと歩いて来る。
俺が呟くと上空から待ち望んだ奴が下りて来た。
「おのれ! おのれ! おのれ! 俺様の計画を邪魔しやがって!」
俺はゲルミュッドが上空から現れたので待機中のベギラマを三方向から走らせるが、発射口にリムルの結界があり防がれる。
「お見通しか‥‥。もう俺は知らんからな! アホリムルめっ!」
俺は成り行きを見守るが、鬼達にゲルミュッドがリンチされる流れは同じか。
為らばチャンスはまだある! 此処だ!
『茜! ソウエイが動きを止める! あいつを全力で殺せ!』
茜は瞬間に深く腰を落とし静かに息を吐く。
ソウエイが動きを止めた瞬間に無拍子で鋭い突きが放たれた!
空気が割れる音がしてゲルミュッドの胴体に螺旋状の穴を開けた。
「よし! 良くやった茜!」
だが運が悪いのか、歴史の修正力か‥‥吹き飛んだ死体はゲルドの足元に落ちる。
「お‥‥オレが進化‥‥魔王‥‥民が助かる‥‥」
ゲルドは跪き、ゲルミュッドの死体を貪り食うが俺は慌ててメラミで死体事焼こうとする。
だが間に合わない‥‥。食べる速度が速すぎてゲルドに当たるだけだった。
「リヴェル! 何を焦っている!? 説明しろ!」
「魔王に進化しちまうんだよ! 名を与えた子による親殺し、禁忌的な意味でも強化が凄まじいのかもな!!」
ゲルドの身体から黒い瘴気があふれ出し妖気が急激に膨れ上がる。
妖気はやがてゲルドを包み込む繭となる。
そして辺りに告げる世界の声。
【確認しました、個体名ゲルドが魔王種へと進化を開始します】