トレイニーさんが事態の収拾を図る為の話し合いをしましょうと提案し。
その話し合いは今日の早朝に行うらしい。
「俺は病み上がりなんだが‥‥」
身体はプルプルボディーに戻ったが大きさはリムルより小さいくらいだ。
「俺もそう言ったんだが、トレイニーさんが必ず連れて来いって言うんだよ」
何故トレイニーさんが俺を? と首を捻っていると素早い動作で俺は布団に包まれたまま、糸でグルグル巻きにされてリムルに連行されていた。
既に話し合いの出席者は集まっており、俺は布団から解放された。
「リムル様。お待ちしていました」
「リヴェル様。こちらへどうぞ」
リムルはシオンに抱えられ、俺は茜に抱えられて席に座り話し合いが始まる。
リザードマン、オーク、鬼達と代表者達が席に着席する。
俺はトレイニーさんを横目でチラリと見るがニッコリ微笑むだけで意図が見えない。
『議長さん。トレイニーさんは何を企んでるんだ?』
『お前も副議長に指名されてるからな? タヌキかキツネみたいな人? 精霊だからわからん』
全員の視線がリムルに集まる中。気まずくなり咳払いしてからリムルは告げる。
「まず初めに、お前達に言い分もあるだろうが結論だけを言う。俺達はオーク達の罪を問うつもりは無いし、今回の件はどの種族にも当てはまるという事だ」
「我々が納得できる理由が其処にはあると?」
リザードマンの首領。アビルがリムルに問う。
「今回被害が一番多いリザードマンからしたら不服な決定かもしれんが聞いてくれ。まずはオーク達の経緯と俺とリヴェルの見解だ」
リムルはオーク達に起こった出来事、ゲルミュッドが企んだ人工魔王計画について語った。
「そんな事が‥‥大飢饉ですか。ゲルミュッドなる魔人が企んだ計画が始まりというわけですな」
「補足するなら、オーガ、リザードマン、ゴブリン、違う種族ですら起こり得たかもしれないって事なんだ。あいつの名付けは最後まで謎だったけど、ガビルも名付けで異常な力をもしも得ていたら? 今回はジュラの森全ての種族があいつの実験場だったって事だよ」
俺が皆にそう説明するとふむと深く考え込むアビル。
「今回の件はオーク達にも情状酌量の余地があるって事だ。だからオーク達の罪は全部俺達が背負う事にした。文句があるならリヴェルに言え」
「おい! そこはお前だろ! 首領さん。死ぬ怪我だったリザードマン達の多くを救助しましたし、貴方もご息女も助けました。その件も考慮していただけると助かります」
「お待ちください!! それではいくらなんでも道理が立ちません!!」
黒いマントを被ったゲルドに名付けが確定しそうなオークが言う。
だって数名同じ黒マントを被ってるオークが居るし、なんなら最後尾のオークさんの方がガタイが良いんだもん‥‥。
「それが俺達が魔王ゲルドと交わした約束だからだ」
リムルがそう言い放つと、呆然とするゲルド。
「リヴェル殿がいう様に、多くのリザードマンが救われ、儂や娘の命まで助けられた。其の上でこれ以上不満を申せばリザードマンの沽券に関わりますな‥‥」
「ありがとうございます。首領殿」
俺がそう礼を言うとリムルがベニマル達に話す。
「ベニマル、それにお前達の気持ちを聞いておきたい」
「頭では理解はしています。今回の件はリヴェルが言う様に親父がそう為っていたかもしれないって事も。親父は嫌な予感で跳ねのけましたが、名付けしてからゲルミュッドを殺し力を手にするのも悪くねえとも言ってましたからね」
「心情的には別って事だよな?」
「思う所が無いって言えば嘘になりますが‥‥。俺達が弱かった。それが事実です」
「俺の決断に納得できそうか? もしできないなら‥‥」
「出て行っても構わないですか? 忠誠を誓って配下に為ったばかりなのに、御免蒙りますよ。それに魔物は弱肉強食が基本です。弱者のままでは納得出来ない俺をあんたは強者に変えたんだ、最後まで責任取って貰うぜ大将?」
色々葛藤があった筈なのに最後は気持ちの良い笑顔をリムルに向けるベニマルにリムルは笑い返す。
「ははっ! ああ、よろしくなベニマル。皆も大丈夫か? 言いたい事があったら遠慮すんなよ?」
シオン、ソウエイ、ハクロウがリムルに微笑み頷く。
「絶対に離れませんからね! リムル様!」
「今後ともあなたの影となり支えましょう」
「ほっほっほ。この老いぼれで宜しければ」
「後でリヴェルと相談して皆の役職も決めないとな‥‥」
リムルに頬ずりするシオンと笑い合う鬼達。
俺も大事な話なので少し場所を移してから、茜や葵に二人は納得できそうか? と尋ねた。
「私はまだわかんないや、若が言ってる事も理解はできるけど‥‥父さんと母さんの顔がどうしても思い浮かんじゃうよ」
俺を見つめながら、言葉が泣き声に変わり葵の頬に涙が流れる。
「私はリヴェル様に命を救われた身ですので何も‥‥」
「茜。本音で話してくれ」
「‥‥納得いかない! 父や母を返してよ! 魔王も! 魔人も! オークも! 絶対許さない!」
泣き崩れる茜と葵に俺は優しく寄り添い、SAで頭を撫でる。
「俺が強く成ってお前達を守るから、どんな理不尽や悲劇も跳ねのけれる様に強く成ると約束する。だから無理やりにでも納得してくれ‥‥」
「リヴェル様。だいしゅき‥‥です」
「しゅ?」
「リヴェル様の作ったシュークリームが食べたいです!」
素早く涙を袖で拭いて、顔を真っ赤にした茜が立ち上がり大声で言う。
「あっずるい! リヴェル様! 私はハンバーグとウインナー!」
「泣いた鬼がなんとやらだな‥‥帰ったら作るけど。ハルナがウインナーは数が無いからダメって言うぞ?」
大きく咳払いをしてアビルが話し出す。
「鬼人達も話に折り合いがついて結構だが、リムル殿、オーク達を許すという事は”全て”森に引き入れるという事でよろしいかな?」
「確かにな、戦で数が減ったとはいえ15万は下だらないだろう。だが労働力としては現在のジュラの森では助かる話なんだよ」
「と言いますと?」
「首領が知ってるか分からないが、ヴェルドラが居なくなってジュラの森各地で住処を追われた魔物が大勢いるんだ。住んでた家も畑も財産も全部捨てるような住民がな」
「暴風竜様がお隠れに為ったのは知っておりましたが‥‥そんな事に。なるほど! 各地の種族の復興を手伝う事により他の種族もオーク達を受け入れやすくなるという事ですな」
「其処でだ! 俺はジュラの森に住む魔物達で大同盟を作りたいと思っている」
皆が驚き大同盟ですかと呟いている。
あれからもゴブリンやコボルト、モグラの魔物まで俺達を頼って来るようになった‥‥。
俺もリムルも知らん! と放り出す事も出来ない。だって皆がキラキラした目で見つめて来るんだもの‥‥。
「オーク達には先ずは各地で労働力として働いてもらう。うちには色々な専門家もいるからオーク達の技術指導も進める。技術を習得したらお前達の町も作れば良いだろう」
「俺達の町も労働力が圧倒的に足りていない! 技術提供する代わりにオーク達はしっかりと働いてくれよ? 交通も広げてお互いの種族が行き来しやすい街道も作りたいから仕事は山ほどあるぞ」
俺とリムルがオーク達にそう言うと、小さな歓声を上げてオーク達が喜び合う。
「その労働力の見返りに我々が土地と食料を与えるというわけですな」
「そうだ。各地の街道を繋げ、種族を繋げて最終的にはジュラに住む魔物達で多種族国家を作れたら面白いんだけどな」
皆が驚愕した表情で驚く。
「我々も、その同盟に参加してもよろしいのでしょうか?」
恐る恐ると言った声でオークの一人がリムルに聞く。
「その予定だ。ただしサボる事は許さんからな。しっかりと働くように」
「滅相もございません! もちろんです!」
オーク達が一斉にリムルに頭を下げる。
「ぜひ我々もその一員にお加え下さい」
アビル達一同もリムルに片膝を付き頭を下げる。
リムルはシオンから降りようとして呆れられている。
まあ俺もリムルに忠誠をと降りようとしたら、茜に威圧的な笑顔で再び抱えられたんだが‥‥。
俺とリムルは台座に乗せられて、鬼達も皆頭を下げる。
手をパンと一つ鳴らしてトレイニーさんが宣言する。
「よろしいでしょう。森の管理者として私トレイニーが宣言いたします! リムル様をジュラの大森林の新たなる盟主として! 並びにリヴェル様を盟主代行としてその両名の下にジュラの大同盟は成立と致します!」
俺が顎が外れるくらい驚いてると、ウインクをして優雅に傅くトレイニーさんが見えた。
俺はその場に泣き崩れ隣を見てみると、リムルも滝の様な汗をかいて小刻みに振動していた。
「じゃあ、そういう事に為ったから‥‥皆これからもよろしく頼む」
リムルがそういうと皆が一斉に返事をして頭を下げた。
「すみません、リヴェル様。少しお願いが‥‥」
「何だソウエイ? 塩せんべいか?」
「はい。いえ、そうではなく‥‥」
「これ、その辺に咲いてる花で悪いが‥‥」
「ありがとうございます。竜血花? 珍しいですね」
「帰りも送ろうか?」
「いえ、帰りは影移動で帰ります」
「そうか‥‥じゃあな」
俺がルーラで戻り、ハヤテとハンゾウを迎えに行こうとベニマル達の所に向かう。
すると一人のオークがベニマル達に土下座していた。
「弱肉強食とは言っても憎しみはそう簡単には消えぬはずだ。今でも我らを根絶やしにしたいほど恨んでいるのだろう」
ハクロウに抱っこされていたハヤテが怯えだす。
ハンゾウはハヤテを心配そうに見つめていた。
「俺の首一つで許されるとは思わないが、どうかこの首一つでご容赦願いたい」
「お前達の事情も知った。敵も討った‥‥まあ、茜に取られたのはシャクだがな。だからお前の首なんぞいらん」
「だが! 我々はお前達の里を! 家族を殺したのだぞ!」
ハヤテが怒りの雄たけびを上げてゲルドの首を跳ねようと雷撃の剣を払うが。
「痛てて、ハヤテは本当に剣が扱えるんだな」
俺の身体に深々と突き刺さり焼け焦げる様を見て、嫌々と首を振るうハヤテをASで抱きしめる。
ゲルドの野郎‥‥。ハヤテの殺気に気づいてワザと自分を斬らせようとしたな?
「大丈夫だ、こんな痛み。お前の心の痛みに比べたら屁みたいなもんだ」
「うぅうあ…」
大声で泣き出しそうなハヤテを笑いながら落ち着かせる。
『おい、お前! ゲルド王は子供を悲しませて、心に傷を負わす事を望むような奴だったのか! 違うだろ! 自分の身すらどうでも良い、子供が何よりも大事だと思うような優しい王だ! 王の腹心だったお前が子供を利用して罰せられようとしてんじゃねーよ! 馬鹿野郎!』
ゲルドは一瞬惚けた後に、地面に拳を叩きつけ慟哭した。
「おおおおおぉォ! オレは‥‥愚か者だ‥‥」
「ベホイミっと。ほらもう治ったから泣くなハヤテ。ハンゾウもこっちこい! 急で悪いな、連れて行きたい場所があるんだよ。皆でソウエイの所に行くぞ」
「は、はい」
急いで俺に駆け寄るハンゾウ。
「ベニマルすまん。後は任せた」
ベニマルは早く行けと手を振るう。
ルーラで鬼達の里があった場所まで飛んできた俺はソウエイを探す。
「確かハヤテとハンゾウの家はあっちだな。ハヤテ、お袋さんの墓参りだ。歩けるか?」
「僕が手を引きますよリヴェル様」
ハヤテは片手で俺を抱きしめ、もう片方でハンゾウの手を握り歩き出す。
簡易に作られた小さな墓石には花束と線香が添えられ、ソウエイが手を合わせていた。
「姉上、ハンゾウとハヤテも来た様だぞ」
「母上‥‥ごめんなさい」
「‥‥」
「ハンゾウ。姉上に謝罪は不要だ、感謝だけ伝えよ。俺が姉上の敵を全て討った‥‥」
「母上! 助けてくれてありがとう! 僕、強く成るから! ハヤテも守るから‥‥だから安心、して、ください」
大粒の涙を流して手を合わせるハンゾウ。
「ううううぅああああーーーーーー!!」
俺を置いたハヤテが墓石を抱きしめ涙を流して亡き母と会話をしている。
「リヴェル様、今回はありがとうございました。花や線香まで用意してもらって」
「うううぅああ〜いいってソウエイ。もうぁああああ〜悲しいなハンゾウ、ハヤテ。ごめんなあぁ〜」
俺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらソウエイと話す。
「ふふっ俺達は果報者ですね。よき主君達と出会えましたよ姉上‥‥」
見上げた空は青く、どこまでも晴れ晴れとしていた。