ソウエイの小屋は街の東側で一番端に当たる場所に建ててある。
今その場所に数百名のリザードマン達が訪れて来ていた。
「久しぶりだな! 我が友よ!」
「おう、元気にしてたか? ガビル」
「我輩はいつも元気であ〜る!」
ガビルは俺を抱き上げてクルクル回る。
俺がアビルさんに養殖の話をした所為で、牢獄から直に解放されたガビルは、俺に恩を感じたらしく友と呼ぶ関係に為ってしまった。
「あ、兄上がすみません‥‥リヴェル殿」
鬼姉妹にガビル共々睨まれてソーカは涙目で居心地が悪そうだ。
「いや、ガビルは何時もこんな感じだし大丈夫だぞ。でも今、街にリムルは居ないんだよな‥‥」
「そうなのですか?」
「うん、鬼の里を整地してから大きな神社を建てる計画でな。将来的には神事や祭り事を行う予定で‥‥ってそれはいいか。リムルは現地に行ってるから此処には居ないんだ」
鬼達の許可も得ているし、鎮魂の意味でもそうした方が良いなと俺とリムルは考えた。
「リムル様と連絡を取りましたが、リザードマンはリヴェル様に全て任せるとの事です」
「了解。ソウエイはリグルドの所に行ってリザードマン達の寝床を用意して貰えるように頼めるか?」
「承知いたしました」
消えたソウエイを寂しそうに眺めるソーカ。
「恋ですな‥‥ご息女殿」
「ちちちっ! 違います! リヴェル殿! い、いきなり何を言うんですか!?」
顔を真っ赤にするソーカをニヤニヤしながら揶揄う。
「じゃーぱぱっと皆の名付けしていくか! 列に並んでくれ」
「待つのだリヴェル! お前が名付け何て出来るのか!? 失敗するだけでも大量の魔素が消費されて死ぬ事もあるのだぞ!」
「兄上の言う通りです! 危険です! お辞め下さい!」
「それじゃ〜ご息女さんは蒼華な」
「えっ!?」
ソーカは光り輝き進化していく。
「お前達はソーカのお目付け役か?」
「はっはい! そうです! リヴェル様!」
「お前は‥‥北槍、南槍、西華、東華だ。お前達とソーカはソウエイの部下に為って貰う予定だから、そのつもりでいてくれよ?」
四人が進化を終えて、戸惑いながらもしっかりと了承の返事をする。
ソーカが遅れて返答をしたが、こちらも嬉しそうに声を弾ませるのだった。
俺が名付けてもちゃんと人型に為って良かったぜ‥‥。
「本当に何ともないのだな? リヴェル」
心配そうにガビルは言うが、姉妹が咎める。
「大丈夫に決まってるでしょ! 数万だって余裕何だから!」
「リヴェル様は凄いんです! 敬いなさい」
俺はリムルみたいにヴェルドラE缶が無いんですよ、葵ちゃん。
貴方の隣で魔法の聖水をガブ飲みして、苦しんでるスライムの姿が見えないんですか?
残りは数名という所で、ガビルがチラチラと見て来るが無視する。
更に指をモジモジさせて近寄って来るガビル。
「わかった、わかったから。名付けるから顔をくっ付けてくるんじゃないよ」
パッと顔を輝かせるガビルだが‥‥。
「よし! お前はヤシチ! そして次はカクシン! 最後はスケロウだ!」
ガビルの部下三人が光り輝く。
「我輩じゃないんかーーーーーーーーい!」
「お前はその名で良いじゃんよ」
「あんまりじゃないかっ! リヴェル! 我輩との友情は何処に消え失せたのだ!」
「じゃ〜カズマさんで」
「むむむっ! 我輩、何故かその名を聞いて魂が揺さぶられるのだがっ!? 確かに心惹かれる名だが‥‥やっぱり駄目えぇ〜〜だ!!」
「え〜面白‥‥ゴホン! 仕方ない‥‥うっかり八兵衛なんてどうだ?」
「真面目に名付けるつもりが無いのだな! 許さんぞ! このこの!」
「やめろってガビル! あはは! ごめんってガビル うはは! こねくり回すな」
ガビルは光り輝きガビルに為る。
「おまっ! 急に進化するなよ! しかも魔素食いすぎだし‥‥上書きの影響か?」
俺は慌てて賢者のせいすいを飲み干す。
「おおおお! これが進化! 皆の者! 我輩もドラゴニュートに進化したぞ!」
取り巻き三人がガビルを煽て囃し立てる。
「はぁ〜よかったね‥‥」
「感謝するぞリヴェ‥‥いや感謝致しますぞ! リヴェル様!」
「いや、今まで通りで良いぞ? フレンドな感じで」
「そうはいきませんぞ! 名付けの影響でリヴェル様の実力が分かりましたからな」
「それなら命令だ。今まで通り友として接しろ」
ガビルは少しの間惚けると、あははははと大笑いする。
「わかりましたぞ! くふふ、リヴェルさ、いやリヴェル! 親友の我輩がお前を守ってやろうではないか!」
「親友は早すぎだろ‥‥調子が良い奴だな! あははは」
「何か仲良すぎじゃない茜姉? リヴェル様とガビルの奴‥‥」
「若とソウエイも子供時分はあんな感じでしたわよ葵?」
ムスッとした顔の葵に、ふふふと楽しげに笑う茜。
「今まで大変な失礼を致しました。リヴェル様‥‥」
「失礼何て思ってないよ。俺もやっとソーカと名前で呼べるしな!」
謝ろうとしたソーカだが、頭にハテナを浮かべる事を言われて困惑する。
「それより住む場所はソウエイの小屋が良いか?」
「ブフゥーー! ゲホッゲホ。何を言うんですか! 心臓に悪いから止めてください!」
「あ〜すまんソーカ。揶揄うつもりで言ったんじゃ無いんだ。従業員も数十人は寝泊まり出来る様に、小屋を民宿規模に改築してあるんだよ」
「なるほど‥‥そう言う事ですか」
「そそ、そう言う事。ソウエイと一つ屋根の下とか嬉しいだろ?」
「‥‥」
顔を真っ赤にして拳を握り締めてるソーカが面白くてやめられない、とまらない。
一匹狼のソウエイもハンゾウがよく泊まりに来る所為で、共同生活に慣れ始めた様だしな。
「もしかしてソーカの最大の恋敵はハンゾウ‥‥なのか?」
「やめなよリヴェル様! 恋路を邪魔するとスレイプニルに蹴られるんだよ?」
「そうですよリヴェル様。こういうのは静かに見守って楽しむものです」
俺の所為で姉妹にもソウエイへの恋心がバレて、地面に泣き崩れてしまうソーカさん。
「何故倒れているので?」
スタッと地面に降りて来たソウエイが問いかける。
「ソウエイご苦労様。ソーカは旅の疲れがでたんじゃないか? お前の部下に為る予定だし小屋に運んでやれよ」
「部下にですか?」
ソウエイはソーカをお姫様抱っこして聞き返す。
「はわわわわわ」
慌てふためき湯気が出るほど顔を真っ赤にするソーカ。
俺はソーカに向かってニヤリと親指を立てると、顔をプイッと逸らされた。
「うん、この四人と他にも追加予定だ。今までハンゾウと二人だったからな」
「助かります」
「「よ、よろしくお願い致します! ソウエイ様」」
北槍、南槍、西華、東華はソウエイに自己紹介をしてソウエイと共に小屋に向かう。
「ガビルはリザードマン達を中央まで連れて行ってくれよ。ゴブタも今は其処に居ると思うぞ?」
「おお! ゴブタ殿にも是非会いたいですな! ではリヴェル、落ち着いたら飯でも食べに行こうではないか!」
「あいよ〜じゃーまたな」
しばしの別れだ友よ〜! と楽しそうに手を振って去っていくガビル。
「ねえねえ? リヴェル様はこの後予定有るの?」
「ん? 地底湖の水質調査だな。リムルが吸い込んだ時に生物が全く居なかったらしいから念の為にな」
リムルが吸い込んだ後も、何処からか流れてくる水で地底湖の水位は元に戻っている。
封印洞窟の地底湖は三か所に点在している。
ヴェルドラが居た場所、温泉が湧く場所、水道橋に水を供給している場所の三つだ。
「むむむ、忙しいのですねリヴェル様は‥‥」
「研究が一段落したからお前達と遊ぶ時間も作るよ‥‥すまんな」
「ふふふ、何だか、お父さんみたいですね」
「だよね〜あははは」
「いや、実際父親代わりのつもりなんだが?」
「「‥‥」」
何やら小声で姉妹会議が始まってしまった。
「それって私達の事を女として見てないって事だよね? お姉ちゃん」
「でも、リヴェル様はよく私の胸を熱い視線で見つめられますわよ?」
それは娘の成長を見守る父親の行動だからセーフだろ?
アウトだよぉぉ!!
俺は怒るハヤテの幻聴が聞こえた気がしたので、すたこらさっさと逃げる様にして地底湖へ向かった。
「大ちゃん、魔元が濃い場合だと魚は魔物化する? あと生物が居ない状態の水に何か異変は?」
《報告。ヴェルドラが眠っていた期間は魔元濃度が異常値だったので、水生生物が魔素濃度に耐え切れず死滅していた様です。地底湖の水も自然界に存在する水質の基準値を確認。この濃度なら魚にも耐性があるので魔物化せずに養殖も可能でしょう》
「さんきゅー! 大ちゃん」
調査に来たのに大ちゃんのお陰で一瞬で終わってしまったな。
後は稚魚を産卵期にシス湖から取ってきて‥‥。
『助けてくれ!! リヴェル!!』
『どうしたリムル!?』
『シオンとシュナに俺が着ている下着がバレ‥‥やめろーーーーーー!!』
そういや人型になったら色々着替えさせられてたな‥‥まったく紛らわしい。
俺はガビルに貸して貰った巻物を広げて読む。
ガビルも魚の養殖について色々研究していたらしく、巻物にびっしりとシス湖の魚の生態調査と産卵時期などが詳しく書かれている。
巻物によるとアユに似た魚の産卵時期が近いな‥‥縄張りをする性質なら仕切りが居るか?
『ハァ‥‥ハァ‥‥リヴェル。下着を量産できないのか?』
『無理なんだよ。錬金素材がドラクエの素材で交易でも手に入りにくいんだ』
あまつゆのいと、まだらくもいと、にじいろのぬのきれが居るんだよな‥‥。
大事なモノじゃない、シルクのビスチェ、レースのビスチェが作れる様になったら材料があれば量産できるんだが。
同じ素材が必要なきわどい水着やいけない水着を優先して作りたいから、下着ばっかり作っていられんのだよリムル君。
『もう! お前も女に変身して苦労を共有しろ! 自分だけ男になりやがって!』
『息子は帰って来たが酒を飲むとブッ倒れるし、息子は幼い間々なんだから文句言うなよ。それに女に為ってもな‥‥』
10歳の少女に変化してもツルペタだし楽しくないぞ‥‥。
『女風呂に入れるぞ』
『検討しよう』
リムルは何とか下着の件を誤魔化せたらしいが、シュナが絹や蜘蛛の糸で頑張ってもゴムや装飾部分が難しいだろうな。
「ドワルゴンもブラは無かったもんな‥‥。人間の都市に行けばあるんじゃねーか?」
俺は魚の種類別に分けるために仕切りを銅板で引いて行く。
『父上! 大変だよ!』
俺は突然の娘の声にびっくりして地底湖に落ちた。
『早く! 出てよ父上! 居るんでしょ!?』
「ゲホッ! ゲホッ! ハァ‥‥」
『どうしたんだ? 何があった?』
『死にそうな昆虫さん達が次元を超えて来たみたいで! 助けてあげてよ!』
「ブフッーー!」
ゼギオン様じゃねーか‥‥じゃあアピトも一緒か? 娘の次元に迷い込んじゃったのか。
『次元を開けてくれ! 直に行くわ』
目の前に次元の裂け目が円状に開くので、俺は急いで中に入る。
「もう! 何していたの父上! 早く早く!」
「悪かったよ、何処に居るんだ? その子達は」
次元の中に入ると巨大な竜の姿の娘が、爪で俺を軽く摘まみながら持ち運ぶ。
移動した場所で半身を失い死にかけているカブトムシと、重なるようにして体に無数の穴が空いた蜂が其処に居た。
「二人共死にかけじゃねーか!! ベホイミ! ベホイミ! あれ!? 何で傷が治らないんだ!? リムルみたいに自己再生する細胞を利用できないか?」
欠損部位が治らない傷跡って何をされたんだ? 次元で削られたのか? 何処かの強い悪魔にやられたか?
「だから急いでって言ったでしょ! 父上の阿呆!」
ゼギオンもアピトも虫の息で、俺に反抗する気力も無くされるが間々だ。
「オートモード発動」
「大丈夫よね? 父上‥‥」
でかい図体でオロオロと心配する娘ちゃんに、任せろと言い安心させる。
大ちゃんの協力を得て、分裂体に魔鋼と余ったオリハルコンを融合してゼギオンの体に作り替えていく。
アピトの身体は同じ素材で穴を埋め、透明な羽の部分はミスリル銀で作り整えた。
「後は大量に流れた血液の補充だな。特上薬草で作ってみた特製ポーションでいけるか? 大ちゃんどう?」
《肯定。各部位の適合手術も無事完了いたしました。二匹共、無事に新しい肉体に馴染んでいる様です》
「ありがとう父上!」
「あ〜疲れた‥‥」
リムルが治す方が流れ的には良いとは思うんだけど。
ゼギオンが最強すぎて、俺が治す事で多少弱くなる事を期待しちゃう‥‥。
じっと俺を見つめてくるゼギオンとアピト。
「ナゼ‥‥?」
「ん? 何故助けたって? どっちかっていうと俺の娘がお前達を助けてって、俺を呼んだんだよ」
「ピッ‥‥」
巨大な竜がニコリと笑う笑顔にアピトが固まる。
「治ってよかったね虫さん」
「名前が無いと不便だし名付けるか‥‥ゼギオン! 君に決めた!」
あれ進化しない? 気に入らなかったのか?
「ゼギオン‥‥オレノナ」
ゼギオンは自分の名を呟くと光り輝き角と体が大きくなった。
「もう〜ビビらせないでくれよ! 名付け失敗したと思ったじゃん‥‥」
「じゃー君はアピトね」
こくりと小さく頷いたアピトは光り輝いた後に羽が伸び、胸のフサフサ度が増した。
「娘よ、トレイニーさんの森に繋げてちょうだい」
「はーい」
それから二人にトレイニーさんの森の守護と蜂蜜の件をしっかり頼んだ。
アピトとゼギオンも娘に感謝を伝えて仲良くなったみたい。
俺はゼギオンにリムルという兄弟が居る事を伝えて、守って欲しいと頼んだ。
ゼギオンとアピトはこくりと力強く頷いてくれた。
「父上‥‥ちょっと来て」
「ん? わかった」
ヴェルドラが封印されていた場所に二人で次元移動してきた。
「あのね‥‥父上」
「うん?」
「私、私ね‥‥。もうすぐ消えちゃうんだ‥‥」
「‥‥は?」
「えへへ‥‥呼び出されたけど時間制限付きみたいなんだ。次元に隠れて伸ばしていたけど限界みたいなの‥‥」
「お前は俺に生み出された存在じゃ無いのか!? 何でそんな大事な事を黙っていたんだよ!」
娘は寂しそうに笑うだけだった‥‥。
「何で笑ってんだよ‥‥お前‥‥消えるんだぞ‥‥」
「だって父上が何とかしてくれるもん。また私を召喚したり」
「出来ねぇんだよ! あの呪文は危険すぎて! それに再び召喚してもそれがお前とは限らんだろ‥‥」
俺の言葉に娘は固まり、顔を伏せる。
自分が消えるかもしれない癖にゼギオン達を優先していたのか!?
いらんとこまで俺に似やがって‥‥馬鹿娘が。
「そうだ! 大ちゃん名付けは?」
《否定。この世界とは違う法則の生物に対しての名付けは名を与えるだけに過ぎません。魔物の名付けによる効果は適用外と予測します》
ふざけんなっ!! どうして俺の運命って奴は、理不尽に大切な者を何度も奪っていこうとしやがるんだ! クソったれ!
「次元は空間だから空! 時間でトキ! タイム! 本当に名付けは意味が無いのか!?」
「ふふ、可愛くて良い名前だね父上」
身体が徐々に消えそうになってるのに、俺が助けてくれると信じて笑っていやがる‥‥。
「馬鹿野郎! そんなに震えて‥‥怖いなら怖いってちゃんと言え! バカ娘!!」
「父上の子だから怖くないもん‥‥優しい父上の事が大好きだったよ!」
「過去形で言うんじゃねーよ! 泣き笑いで無理しやがって‥‥俺もお前が大好きだ!」
もっと俺と話したかっただろうに‥‥時間の制限が有るせいで、ずっと一人ぼっちで我慢ばっかりさせてたのかよっ!! 父親失格じゃねーかっ!!!」
俺は良いんだよ‥‥何度死んでも転生できるズル野郎だからなっ! だが娘は駄目だ!
リムルの様な純粋な優しさ何て俺にはない!
俺の自己犠牲は誰かを思っての善意なんかじゃない!
罪悪感からなんだよっ!!
俺は思考加速を使い、無理やり封印を解除して脳に直接ピオリムを使う。
思考加速による負荷も相まって頭痛と眩暈で嘔吐する。
《この愚か者! わらわも力を貸してやる。どうせ貴方が死ねば私も死ぬんだからな》
この声‥‥大ちゃんなのか? ルシアなのか?
《余計な事を考えるな! その娘に未練を抱かして縛り付けろ! この世界に居続けたいと願わせるのじゃ!》
「まだ生まれたばかりで色々遊んでねーだろ? 釣り、トランプ、オセロなんて遊び道具も沢山あるんだぞ! それに俺が美味いもん一杯作ってやる! 見たことも無い料理を腹一杯に食わせてやるぞ!」
「父上のご飯食べてみたかったな‥‥私、シュークリームを食べてみたい」
「シュークリームでもケーキでも何でも食べさせてやるから願え! 此処に居たいと! 俺と一緒に居たいと強く願え!」
「私も此処に居て良いの? 皆に怖がられるよ‥‥」
「此処に居て良いんだよ!! 自分の命より他人を優先する、優しいお前が皆に怖がられる訳無いだろうがっ!!」
巨大な次元竜の身体が足元から順に光に侵食され浸食が更に進む。
侵蝕は既に肩に差し掛かって来ていた。
「ううぅ‥‥ぐすん。うあぁぁーーーん! やだよぉ〜やだやだやだやだ! 消えたくないよ! うわあああぁぁん!! 私!! まだ父上と一緒に居たい!! 独りぼっちは寂しくて嫌だよぉ〜〜助けてちちうぇぇーーーー!」
大粒の涙をポロポロと零しながら巨大な竜の娘はわんわんと泣く。
「父ちゃんに全部任せとけ!! 死んでもお前を離さねえよ!!」
《演算終了。合成魔法を複数同時展開開始します》
俺は大ちゃんの膨大な計算が終わった瞬間、即時に行動に出た。
次元竜の頭に飛び乗りスクルトとベホイミの合成魔法を次々と唱える。
娘を起点に五芒星を形取り、マホカトールを再現している。
効果がしっかり出る様に、大ちゃんに配置と出力の計算をして貰ったので大丈夫のはずだ。
魂や肉体が消滅しない様に、娘が世界に存在し続けれる様に願った結界だ。
娘の身体の消滅が止まるが、これは一時しのぎに過ぎない。
『ヴェルドラ! 力を貸してくれ! 並列存在を俺の娘の魂に直接繋いで欲しいんだ』
『久々に呼んだと思ったら馬鹿者が! 精神生命体でもないお前が使えば心核が壊れるぞ! 死ぬ気かリヴェル!』
『頼むヴェルドラ!! 俺はどうなっても良いんだ助けてくれ!! 俺の娘なんだ!!』
『お前が死んで良い訳あるか! 死んだら許さんからな! お前の並列存在とその娘の魂を繋ぐが‥‥恐らく存在を保つだけの魔素量は足りん!』
ヴェルドラが俺の並列存在を娘の魂に無理矢理繋ぎ、魔素を注いで依り代にする事で何とかこの世界に繋ぎ止めている状態だ。
魔素回復は大ちゃんが自動でアイテムを消費してくれているが、存在にどんどん魔素が食われる。
《大賢者を生贄に竜物語を進化させます‥‥失敗しました。再進化を開始します‥‥失敗しました。ルシアの魂を生贄に再進化を開始します‥‥成功しました。世界の法則に介入し改竄を開始します》
「おい! グハッ‥‥痛ッ。止めろ!! 大ちゃんなんだろ? 俺の魂を使え! お前も勝手に消滅すんじゃねーよ!!」
あああああああぁ畜生がぁっ! 両目が潰れた‥‥。
ハァ‥‥ハァ‥‥グッ‥‥心臓が、今にも破裂しそうだ。
早く何とかしねーと体が持たねぇぞ‥‥。
《呆れた‥‥自分の魂を消費してわらわを助けるなんて。フッ…こうなったら絶対に! わらわ達の娘を助けてあげるのじゃ!!》
「ごめ…んね‥‥父上‥‥シュークリーム、食べれそうに、ないや‥‥グッ‥‥またね」
消滅が再び始まり、首にまで消滅の光が届いた娘に喝を入れる。
「別れの言葉なんて言わんでいい‥‥ハァ、ハァ。任せろって言ってんだろがっ!!」
この世界で娘を存在できる様にするにはどうすればいい?
やっぱり最後に役に立つのはオタク知識だよな‥‥。
世界のルール、名付け、次元竜、竜種?
《貴方なら出来るわ! 自分を信じなさい! あ〜もう! 早くして! あの子が死んだら殺すから!》
「だぁ〜もう! 大ちゃん煩い! 頭の中で大音量で喚くな! 要はこの世界のルールに次元竜を落とし込んだら良い訳だろ? 簡単じゃねーか!」
俺は大量の魔素を失う反動で、身体が崩れていく事も無視して世界に干渉し続ける。
魂が摩耗していく感覚を、歯を食いしばり気合で耐えて名付ける。
【確認しました、世界に新たな竜種の誕生を確認。世界のバランスを再構築します】
「生き‥‥てるのか‥‥俺‥‥」
身体の感覚が全く無い。
魂だけの存在に為ってるのか?
「もう少しで消える所だったよ!! 父上の馬鹿! アホ! 私の命を分けてるから喋らないでじっとしていて」
目の前には青と紫の髪が混ざったツートンカラーの小さな女の子が居た。
「止めろ! 自分を犠牲にするな! お前も死にかけじゃねーか!」
消滅しかけで誕生した影響か、ズタボロの身体を再生中らしく痛々しい。
「喋らないで! 父上に似たんでしょ! ゲホッゲホ‥‥ハァ、ハァ‥‥終しまい」
大の字に為って寝転がる娘は生きてる様で安心する。
娘に命を分け与えられた俺は肉体が再生されて元のスライムに戻る。
「くく‥‥似たもの親子だな。ゲホッ‥‥あー全身が痛てぇ‥‥まじ死ぬ。そうだ! 大ちゃんは!?」
《報告。竜物語が進化しアルティメットスキル『
「何か凄い事に為ってるな‥‥まー無事なら何でも良いや‥‥」
「フフフ! ヴェルベル! ヴェルベル! 可愛いし、良い名だね父上!」
バッと起き上がり、嬉しそうに俺を抱きしめクルクルと回るヴェルベル。
「俺の名前で思い付いたんだ。ベルは時を知らせる鐘から取ったんだよ。ドラクエのマスタードラゴンもベルで呼ぶしな! ていうかパパって呼んでくれよ」
血を分けた親子じゃねえけど、魂を分けたんだからもう実質親子でしょ。
今まであやふやな親子関係だったが、正式に父親に為ったんだから娘にはパパ呼びされたいじゃん。
「パパって呼んで欲しいの? う〜ん。私は父上が気に入ってるし、偶になら良いかなぁ~パパ!」
俺はパパ呼びに嬉しくて、悶えながら地面を転がる。
ヴェルベルはその姿が面白いらしく、パパ呼びを連呼して俺を追いかける。
そんな二人の様子を楽しそうに眺めて笑う、大ちゃんの声が聞こえた気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新たな竜種が誕生しただと?
リヴェル‥‥お前は‥‥
いや‥‥クッククク! ハァーーーッハハッ!
お前が誰であろうと関係ない、リヴェルはリヴェルだ!
流石は我が弟よ! フハハハハァッ!