悟は、怖気付くこともなく声の方へずんずんと歩いて行く。
「悟、幽霊じゃないよな?」
「おまえ、ゾンビ系は大丈夫なのに幽霊は苦手だよな」
「霊感が高いだけ、近寄りたくないの!」
俺は先に進む悟の背に隠れながら、辺りを見回す。
静寂に包まれた地底湖の奥深くに続く、長い洞穴の通路。
鉱石が鈍く怪しい光を放ち、辺りがいっそう不気味に思える。
ビクビクしながら歩いていると、急に何かにぶつかった。
どうやら悟が立ち尽くし、動かずにいるようだ。
「どうしたんだ? 急に立ち止ま‥‥って」
大きな水晶が囲むようにして配置してあり、祭壇のような場所に首だけの竜が鎮座していた。
「よく来たな、小さき者たちよ」
二人は竜に聞こえないように小声で話し始めた。
「星、やばいってドラゴンだぞ‥‥ドラゴン」
「見りゃわかるよ。でも何で生首? 殺されたのか?」
「我の名は暴風龍ヴェルドラ。なにもせぬから我の話し相手になってくれ」
「べべべつに構いません、なんでもお話致します」
「
「あの腐れ外道の蝙蝠女が我をこのような姿に! 許せぬ!」
話を聞くと300年前に魔王に封印されて、今は首だけの状態にされているようだ。
首の後ろにも宝石の付いた短刀が刺さっており、心臓とリンクしているらしい。
魔王が竜様の心臓を持っており、他の竜種にバレないように小細工してるのだと。
実際は消滅しかけなのに、何事も無いような偽装が魔術で施されているとお怒りだ。
「相手が魔王ということは貴方はマスタードラゴン様なのですか?」
「ん? マスタードラゴンかどうかは知らんが、我が兄が其れにあたるのではないか?」
「星、この世界はドラクエじゃないぞ?」
「あー悟には言ってなかったけど、この世界に来るときにルビス様に会ってるのよ」
「見間違いじゃないのか? 仮にそうだとしたら、俺にだけLVシステムが適用されないの変じゃないか? 大方、お前のスキルが見せた幻影だろ?」
「おまえたちは異世界からの転生者なのか? 我の知る限りでは初めてよ! グハハ!」
あれから色々ヴェルドラさんに聞いたんだが、あ〜竜様はやめろって言われまして。
転生者や召喚者も数多くいるし、天使や悪魔も存在している。
でも世界の成り立ちは創造神の竜なんだよな?
ちなみに光の大精霊は、ルビスという名前では無いらしい。
「ヴェルドラ、俺達もう行くわ。他の異世界人にも会ってみたいし」
「もう行くのか? 我と居ても良いのだぞ? 寂しくないのか?」
「それじゃー友達になるか? また会いに来るからさ!」
「………」
急に黙り込むヴェルドラを不思議に思い首を傾げる二人。
「我はもうじき消滅する。おまえたちに看取って欲しかったのだ‥‥」
「なんだと! 何か無いのか? 何か方法が‥‥」
「魔素が残り少ないって言ってたな? ある! あるぞ!」
俺は魔法の小瓶を全部ヴェルドラの口に流し込んだ。
「おい! 何をする気だ! やめ がぼぼぼぼぼ」
「大賢者! ヴェルドラの残存魔素は? 回復しているか?」
ヴェルドラが無事? 魔素切れから少し回復したあと、俺は残ったキノコを全部魔法の小瓶に錬金した。
「もう良いと言ってるだろうが!」
「うるせぇ! 病人なんだから大人しく飲んでろ」
全部飲ませたあと、急に神妙な顔になったヴェルドラが言い放った。
「おまえたちには世話になったな。その、なんだ‥‥友達になってやっても良いんだからねっ!」
俺と悟は息ぴったりに答える。
「「だが断る!!」」
あまりのショックに、白目で放心状態になったヴェルドラを二人で宥めることになってしまった。
ひと悶着あったが。
その日、スライムたちと竜は友達になった。
「悟、おまえがこの封印? ユニークスキル時の牢獄だっけ? 破壊出来ないのか?」
「解析をかけたけど物理、魔法攻撃は無効。おまえもメラが通り抜けただけだったろ?」
「元々は人間相手に使う拷問スキルのようだぞ」
時の牢獄は、空間に時の属性が施されている。
その空間は無重力状態で、肉体を切り刻んでも血は出ず、痛みだけがゆっくりと襲い掛かる。
体をバラバラにしても死なず、精神が壊れても翌日には健全な状態に時間は巻き戻るようだ。
俺が分裂の中にヴェルドラの魂を詰め込めるのか? と大ちゃんと話していたら、悟が突然言いだした。
「ひとつだけ‥‥方法がある」
「なんだと!」
「お前、俺の胃袋の中に入る気あるか?」
「くくくっ、ぐわっはっははははは! 面白い! おまえに全て任せるぞ!」
「いいのか? そんな簡単に俺を信用して」
「おまえたちは命の恩人! 我が友を信じなくてなにが友か!」
俺達三人は急に恥ずかしくなりそっぽを向く。
「ごほん、じゃー始めるぞ! 準備はいいか?」
「いや待て、その前におまえたちに名をやろう。おまえたちも我ら三人の共通の名を考えるのだ!」
「桃園の誓いみたいな感じか?」
「違うわ馬鹿。ファミリーネームってことだろ」
「我ら三人、同格の存在として魂に刻み込むのだ」
俺はシュトゥルムヴィントがいいのに。悟がテンペストだと譲らない‥‥
そして俺はじゃんけんで負けた‥‥とほほ。
「フハハ! 素晴らしい響きだ! 気に入った! 今日より我はヴェルドラ・テンペストだ!」
「まずは悟、お前にはリムル・テンペストの名を授ける!」
ん? まてまて、なにか記憶に引っかかる‥‥。
なんだこの感じ? りむる、リムル、リムル・テンペスト‥‥リムル!
「暴風龍ヴェルドラ! そしてリムル! あ〜クソ分かるかそんなの‥‥」
「どうした急に? 我の名前を忘れたのか? ひどくない? 我ちょっぴり傷ついたぞ‥‥」
「転スラの世界じゃねーーーーーーーーか!!」
37年も普通にサラリーマンとして過ごして、ここは転スラの世界ですよってあほか! スパン長すぎだろ! 気が付くわけがないだろうがっ!!
「今度は急に怒り出しおって、困った奴だな。星の名はリアラだ!」
「嫌だ! なんで女みたいな名前なんだよ! ヴェルドラのような格好良い名前にしろよ!」
「ふむ、我の様に勇ましく、格好いい名前か‥‥。よし! リヴェルでどうだ? 星の名はリヴェル・テンペストだ!」
「おお! 良い名前じゃん! 格好‥‥あーダメダメ! 魂の回廊で繋ぐのはまずいんだってああああ〜〜!」
名を認めてしまった俺は‥‥今、この時からリヴェル・テンペストとなった。
あれからリムルは捕食を使い、ヴェルドラと中と外から解析して封印を解くようだ。
「「またな! ヴェルドラ!」」
ヴェルドラがリムルに捕食され、二人きりになり急に寂しさがこみ上げる。
あいつはさみしがり屋だから、一人でやれるか心配だな‥‥。
「おまえの中にいるのに、さよならって変な感じだなリムル」
「最初からこの名前だったかのような感覚だな、名付けって」
「生まれ変わった感じ‥‥不思議な感覚だよな」
正直俺は、魂の回廊で繋がるのは嫌だったんだ。
リムルと魂が繋がると悟の優しい心に触れ、憎しみが薄れる。
心が癒され穏やかになると良い事づくめだが、それは洗脳に近い。
怒り狂っていたヴェルドラも。
両親を殺されたベニマルも。
そう簡単に感情や心っていうのは変わらないもんなんだよ。
現に俺を殺した犯人の事なんて、ムカつく程度になってるし‥‥。
「何を悩んでいるんだよ。LV上げに行くんじゃないのか?」
「そうだな! 強くならないと、魔王や勇者に倒されちまう」
俺は原作との乖離に悩まされていた。
300年前に封印したのが勇者じゃなく魔王なんだ?
大賢者が何故俺に宿った理由は何故?
37年越しの転生は前世の特典なのか?
リヴェルは難しすぎて、そして考えるのを止めた‥‥。
「この辺りのモンスターを片っ端から倒していくか!」
「攻撃は任せていい? 俺が倒すと素材が無駄になる。補助は任せろ!」
「捕食したら部位事に分けるのか?」
「スキル通信があるから、おまえの胃袋から自動で素材がこっちに入るらしいぞ?」
「大賢者‥‥なんて恐ろしい子!?」
あれから蛇、トカゲ、蜘蛛、蝙蝠などを倒した。
リムルも擬態で攻撃方法が増え、相手の魔素を取り込み強くなった。
原作との違いは、ヴェルドラの魔素が少なく発生したモンスターが小型・中型が多く、大型はほぼいないことだ。
「狩り尽したし、そろそろ外に出るか‥‥。こっちだぞリムル」
「俺も! 俺も魔法! つ・か・い・た・い! ギラ格好良すぎだろー!」
確かにギラは薙ぎ払え! の極小版で見た目が非常に格好いい。LVは現在18で覚えたのはギラ・スクルト・メラミ・ベホイミ・ルーラそして! 何故か不思議な踊り!
駄々をこねて動かないリムルを背負いながら、ピオラを唱えて出口の扉に向かう。
其処には丁度、冒険者風の三人組が出口の扉に入ろうとしていた。
「リヴェル、人間がいるぞ? どうするんだ?」
「選手交代。おまえにピオラするから隠れて一気に外に出ようぜ」
三馬鹿が調べに来たか? よし無事脱出! 今はとにかく外だ! 外! いやっほー!
これからどんな人生が始まるか分からないが、俺は自由に生きる! 原作なんか知るか!