――――――とある地下の豪邸――――――
都市の地下に巧妙に隠されたもう一つの都市。
法衣を纏った身なりのよい男が話かける。
「よろしかったのですか? お嬢様」
「構わぬ、こちらの戦力も整った故な。あのトカゲの役目も終わりよ」
竜の血風呂に漬かりながら、美しい銀髪の美女がコロコロと笑う。
「暴風竜の消滅をこちらで管理し、我が国の意図でいつでも仕掛けれます。いよいよですな」
「クックックッ…トカゲの素材は爪も鱗も全てが貴重品。良い財になったわ」
ヴェルドラの肉体は分割管理され、時の牢獄の効果で剥ぎ取った素材は再生される。
ただし再生には膨大な魔力が必要になるので、彼女が竜の心臓に直接魔力を送り込むことでそれを可能にした。
竜の素材は捨てる場所がないほど貴重なもので、その多くは自軍の武器や防具に使用されている。
だが素材一つとっても簡単に売りさばける物でもなく、裏に流れる物がほとんどだ。
肉体が消滅しても剥ぎ取った素材は残るが、竜眼や心臓は希少性が別格である。
「首に施した偽装にて、封印洞窟での自然消滅‥‥。常に魔力が健全な状態なので、他の竜種にも我らの仕業だとはわからぬでしょうな」
ぴたりと笑顔を無くし、無表情になった彼女が言う。
「頭だけでは魔素が抜け、脳が無ければ生物は死ぬ。最強の生物も死からは逃れられん。散々苦痛も味合わせた、まだ怒りはあるがもはやどうでもよいわ」
「帝国の動向は常に目を光らせています、来たる大戦にも問題なく」
「うむ、我らがこの大戦を終わらせる!」
―――所かわって此処は広大なジュラの大森林
二匹のスライムが、元気に自然破壊をしていた。
「木材で作れる物は経験値が美味しいな! はい、帽子できたぞリムル」
「バケツじゃん。もっと可愛い感じにしろよな」
「形は好きに変えられるから、気に入ったの持ってけよ」
リムルは水刃で、俺もギラで焼き切りながら木の伐採を続ける。
切り株に座り、木材を消費して帽子の錬金を繰り返す。
色々な形や模様を描いたオシャレな帽子が沢山できた。
「もう木はこれで十分だろ? 俺は新しいスキルの練習してくるわ」
気に入ったのか? 帽子を色々吟味したあとに、とんがり帽子をかぶって移動を始めるリムル。
「あいよ、俺はここに居るからな」
竜物語の解析が更に進み、取得経験値や能力の一部である地図が使えるようになった。
マップ機能は便利でワールドマップの縮小・拡大が可能。
味方の現在地もわかる便利機能だ。
姉の大賢者にジュラの森の地図情報を勝手に持っていかれたらしく、ご立腹の妹の大ちゃん。
解析鑑定の攻防戦の結果、何故か妹にされた大ちゃんは納得がいかず不機嫌だ。
「1本から木材100個も取れるから、楽しくてつい木を50本も伐採してしまった‥‥」
今更だけどトレイニーさんに見つかったら、かなり不味い気がするぞ‥‥。
好きに生きるとは大見得を切ったものの、生活拠点を考えるとゴブリンの集落一択なんだよな。
だって俺魔物だし。
考え込んでると、突然リムルからの念話が届いた。
『おーーーい! リヴェル。ゴブリンたちが村に案内してくれるんだと』
『展開はえーよ! この魔力お漏らしスライム』
『知ってたなら早く言えよな! めっちゃ恥ずかしかったわ』
『俺は隣に居ても気にならなかったからな、今行く』
急いでリムルの場所に向かうが少し反省。
勢いあまって未来を知ってるような発言には注意しないと、あとで大賢者さんの追求が怖い。
「こっちだ! こいつはリヴェル。二人で旅をしている」
「スライムのリヴェルです。よろしく」
バンダナのゴブリンが俺に話しかけてきた。
「その…リムル様のお連れの方は、強さが全く感じ取れないのですが?」
俺も魔力感知で初めて自分を俯瞰的に見てみる。
すると驚いたことに、俺の魔素は全く漏れていなかった。
「MPという殻によって覆われている状態だから、魔素が漏れないらしい」
って大ちゃんが言ってた。
「つまり、完全に力を隠しておられると?」
「俺なんてただの雑魚スライムですよ」
「ご謙遜を。名持のスライムが弱いはずありませんよ」
既視感あるやりとりやめろとリムルに怒られ、俺たち一行はゴブリンの村へと向かう。
暫く森を歩くと開けた場所に小さい村があった。
俺たちは居並ぶゴブリン達の視線を浴びながら、村長の家に入る。
簡単に話をまとめると、牙狼族が攻めてくるからお二人の庇護が欲しいとのこと。
『どうする?』
『もう決まってんだろ? 俺も同じだ』
どうもこうも見殺しにはできんだろ。
「お前たちは俺たちになにを差し出せる?」
「強きものたちよ! 我々の忠誠を差し上げます!」
牙狼族の遠吠えが聞こえ、怯えるゴブリンたちに俺たちは言った。
「「暴風竜ヴェルドラに代わり、リムル&リヴェル・テンペストがおまえたちの願い聞き入れた!」」
跪き、頭を垂れるゴブリンたち。
安堵し涙を流すもの、喜び笑顔を見せる者もいた。
戦える戦力を確認していると、牙狼族に傷つけられ負傷した者が多くいることを村長から聞かされる。
まずは療養小屋へ俺とリムルは村長に案内されて向かうことに。
「この中ですじゃ‥‥」
小屋の中は戦場の負傷兵の如く、酷い有様だった。
裂傷による怪我が特に酷い。満足な包帯も無いのでボロ布で縛ってるだけだ。
12人が左右に規則正しく寝かされている。
立っている者も軽症だが所々に怪我をしているな。
俺は寝ている重傷者を、右端から順にベホイミをかけた。なんとベホイミは部位欠損も治るのだ!
「反対側は任せた」
「任された」
「おおお、奇跡ですじゃ! 流石リムル様に、リヴェル様!」
残りの重傷者は全部リムルに任せて、俺は軽傷者を見る事にした。
MPがないので、上やくそうを口に放り込み飲み込ませる。
やくそうはすり潰して傷に塗る方が回復が早いんだけどな。
リムルが柵を作るから木材をだしてくれと言ってきたので、俺は柵を立てる位置に丸太を並べて置いていく。
MP回復のために寝ようか迷っていると、女性のゴブリンが持っている籠の中に見覚えのある青いキノコが見えた。
「ちょっと君、その青いキノコを貰いたいんだけど駄目かな?」
「だだだ大丈夫です! でも数はありませんよ」
ヴェルドラに全部使ったから補充したかったんだよね〜。
食べたいけど仕方ない、魔法の小瓶作ろう。
ゴブリンの装備はジュラの森での拾い物なので、錆と刃こぼれでボロボロだ。
俺が作れるのは木シリーズのみ。
錆ていても鉄の剣の方が良いだろう。
現状で使えそうなのはこんぼうと、木の盾、木の帽子だな。
「無いよりはましか? 木の棒の奴もいるしな」
せっせとゴブリン達の装備を作っていると夜が更けてきた。
今宵は満月か‥‥綺麗だな。
月に見惚れていると、木の上で監視していたゴブリンが大声をあげた。
「来た! 来たっすよ!」
大勢の牙狼族がいる目の前で、”木の帽子”を被ったリムルが言い放った!
「一度しか言わないからよく聞け! このまま引き下がるならなにもしない、立ち去るがいい!」
結論から言うとリムルがブチ切れた。
戦闘の結果はこちら側は負傷者0の圧勝で終わる。
俺はリムル、リグル、ゴブタにパーティー申請して元から戦う気はなかった。
魔法の小瓶も生き残っている牙狼族の回復に使う気でいたからだ。
だって俺犬好きだし! 家で飼ってもいたから殺すのはちょっと‥‥。
話を戻すが、親父殿が言い放った一言がまずかった。
「ふざけおって! 頭にク〇を被ったスライム風情が!」
うん、これは酷い。
ちなみに俺が作ったとんがり帽子は、巻き〇ソではないんだがな?
そんな柄をリムルが嬉しそうに持っていくわけがない。
帽子の前方にロトの印をデザインしてある、格好良いデザインだ。
なので親父殿が盛大に自爆した。
実に素早い退場だったよ‥‥。
「リヴェル様に作って貰ったこん棒凄いっすよ!」
つい名前で呼んじゃいそうなゴブリンが嬉しそうに言ってきた。
「銅があれば銅系も作れるんだけどな、皮は村にあるから鎧作ってやるよ」
「マジっすか! ひゃっほう! リヴェル様大好きっす」
LV上げに貢献してくれたおまえたちの方が大好きっすよ。
お陰で錬金LVも上がったし、リグルにも作ってやらんとな。
俺は怪我をした牙狼族を治療するために駆け回っていた。
そこには、両前足が糸で切断されて激しく出血し、今にも息絶えそうな狼の姿が。
俺は急いで駆け寄る。
「死ぬな! ベホイミ!」
「あっああ〜、ありがとうございます。ありがとうございます!」
「よかったな! 今はもう仲間だ気にするな」
嬉しそうに尻尾を振る狼に後ろ髪を引かれながら、他に怪我をした狼がいないか探し歩く。
一通り辺りを見回したが、怪我をした狼の姿も無くなり手持ち無沙汰になった俺は、大ちゃんと帽子について会話をしていた。
《否定。あの帽子は美的センスが感じられません》
作るときにも言ってたな? 色が付けれたらもっと良いのになぁ〜。
美的センスに自信がある俺は、大ちゃんの苦言を聞き流す。
錬金のlvが上がったので作成できる物の確認をしていると、全員が小高い丘に集まりだした。
俺も列に並んで隊列に加わる。
するとリムルの声が聞こえてきた。
「お前達全員に名前を付けようと思うがいいか?」
いいですとも! と呑気に構えていたのだが、俺も手伝えとのこと。
「いや、俺ネーミングセンスがないから遠慮するわ」
「リヴェル様は美的センスもないっすもんね」
「なんだと! ゴブタッ! てめぇ〜あっ…」
身体から魔素が抜けていく。
やばっ! 大ちゃん消費魔元は?
《肯定。消費MP1です》
はっ!? 消費1? 流石ゴブタくん、コスパも天才か。
「ゴブタ…ありがとうございます! リヴェル様」
その後はゴブツ、ゴブテ、ゴブゾウと数名は名付け出来たが、あとは適当だ。リムルから聞き覚えのある名前が聞こえてきたので、主要人物は大丈夫だと信じたい。
「お前は、牙狼族のボスの息子か」
「あーーー! ストップ! リムル魔法の小瓶数本飲んで」
あぶねぇ‥‥ヴェルドラの魔素が少ないの忘れてた。俺もMPは消費しても魔素までは消費しないように名付けしてるからな。
「ん? 大賢者、俺の残存魔素量確認してくれ。ふむ‥‥結構減ってるな」
「名付けって大量の魔素を消費して、場合によっては命に係わるんだぞ」
「早く言えよ!」
魔法の小瓶を飲んだあとに、ランガの名付けをするリムル。
俺は無事に終わるか心配しながら見守る。
これ、鬼が来たときに絶対魔素足りないよな?
ヴェルドラバッテリーがないし‥‥。
『セルみたいに他の魔物から吸収していけば良いではないか?』
あ〜聞こえない、聞こえない。
何を読んでいるのか分かったけど、あいつから念話が聞こえるのが謎だわ。
『ん? あ〜リムルの中におまえの分身が居たからちょっと細工をな』
『ナチュラルに人の心読むのやめてもらえます?』
『うむ! 解析は一向に進まんし、我一人で寂び…しくはないのだが暇でな。魂の移転でこっちに来てもいいのだぞ!』
『はぁ‥‥分かった、分かった。でも将棋はしないからな』
『ダニィ!?』
野菜王子のように叫ぶヴェルドラを無視しながら、眠りにつく魔物たちを見守る。
大賢者に状況を確認しているリムルに俺は言う。
「魔物の進化みたいだな」
「俺も少し眠…る。魔素を消費し過ぎた、みたい‥‥だ」
「了解。お休みリムル」
「大ちゃんリムルはいつ目覚めるの?」
《肯定。
結局約1日だがダウンしちゃったな。
早いとこ魔法のせいすいに切り替えないと‥‥。
本体での監視活動を大ちゃんに任せて、俺はヴェルドヤと囲碁を打った。
魔樹で作った木の帽子 守備力+12
種族スラりんが作ったと言われる木の帽子、魔素の濃い場所に生息している魔樹を使用して作られ、正面にはロトの印が刻まれている。
一見豪華な装飾を施された帽子だが、見る角度によっては蜷局を巻いた糞に見えるらしい