テンペストの冒険者ギルドが完成したので、報告も兼ねて俺はドワルゴンへ来ていた。
暗部の支部からでた俺は、カイジンさんを連れ添って歩いて行く。
珍しい、ドワーフの冒険者が俺達の横を通り過ぎていった。
「へぇ〜冒険者達は護衛依頼や、武具の新調でドワルゴンに来ていたのか。でも、冒険者ギルドがないから、兵士さんは大忙しじゃないか?」
冒険者ギルドは街の何でも屋さんだ。
配達、ゴミ掃除、収穫の手伝い、荷物整理、戦う以外にも仕事は沢山ある。
「おう、でも東の村や町には冒険者ギルドはあるぜ? ドワルゴンの王都には置いてないってだけだ、冒険者ギルドがあると色々な奴が出入りしちまうからな」
俺はカイジンさんと新しく作る予定の……といっても例の本屋があった場所なんだけど。
いつか潰れるとは思ったけど、あっさり逝きやがったな……ザマァ。
「しかし、お前ホントにリヴェルの旦那なのか? 鬼の小僧にしかみえないぞ?」
「人に化ける術を覚えてね。忘れたのか? 夜の蝶で俺が教えた野球拳をママさんに挑んで、パンツ一丁にされた
「ば、馬鹿野郎! こんな街中で言うんじゃねーよ! し~わかったから、お前はリヴェルの旦那だ間違いねえよ!」
俺の口を押えて、静かにしろというジェスチャーは悪目立ちした。
「なんか奥様方からの視線が痛いな……早く冒険者ギルドに行こうぜ、カイジンさん」
「誰の所為だよ……たくっ」
急ぎ向かった都市の角にあった大きな本屋は、改築中だが冒険者ギルドの看板に代わっていた。
「邪魔するぜ」
「アンリさんいる~? リヴェルですけど~」
ギルド内に入ると、元が大きな本屋だっただけに空間が広く、二階も本が片付けられて図書室のような造りになっていた。
「おや? これはカイジン殿、よくいらっしゃいました。リヴェルさんですね、アンリエッタ様は奥の部屋におられますよ」
「あっ、あぁ……ベスター様お邪魔しますよ」
「ははは、もう大臣ではないのですから、敬語も様も必要ありませんよ」
何でこんな所にベスターが? 大臣じゃなくてもミラノの後釜でいいんじゃないのか?
「ありがとうねベスターさん、それじゃー失礼します」
俺はベスターさんに礼を言ってから、手を向けてくれている部屋の奥へ歩いて行く。
「カイジンさん、なんでベスターさんが?」
「ん? 詳しいことはわからねーが王が信頼のおける人物に、ギルドを任せたかったとか近衛のおやっさんから聞いたな」
じゃーここのギルマスになるのかな? ベスターさん。
俺はギルドのドアをノックする。
「入りなさい」
「失礼します」
「へっ……リヴェルさん!? もう、また勝手に来て! 連絡くらいよこしなさい!」
「やっぱり、リヴェルの旦那みたいだな……気配も姿も変わるってのは困ったもんだぜ」
俺はアンリさんにモシャスを唱えてドワーフの女の子に変身する。
「まだ疑っていたんだ? ひどいなぁカイジンおじさん、一緒に裸を見せあった仲なのに」
「やめろ! 俺を社会的に殺す気か! スライムのお前と銭湯に入っただけだろ! えっ!? 本当にリヴェルの旦那なのか? 頼むから……もうスライムでいてくれよ……」
呆れた顔をしたアンリさんが、涙目のカイジンさんに同情して「あとは私が対応しますので」と、カイジンさんを帰してしまった。
「面白かったのに」
「悪魔王の称号の名に恥じない外道ですね」
俺はアンリさんの言葉をスルーして、お構いなしに話を続けた。
テンペストのギルド建設が終わってブルムンドにもよる予定なので、一緒に付いて来て欲しいとお願いする。
「私が名目上ギルドマスターですが少し所用が……ここは副ギルドマスターのベスターに行かせましょう」
「なんで忙しいアンリさんがマスターやってるの?」
「隠れ蓑に使えますからね。配下も冒険者を装い世界を旅させられますし、肩書に丁度よいのですよ。知っての通り我が国では冒険者ギルドなんて、他国のスパイをわざわざ入れる余地なんてありませんでしたから」
「あーこっちは独立した冒険者ギルドじゃなくて、国が直接管理するのか……なるほどねぇ」
ジュラの森から流れてた強力な魔物が、テンペストの影響で抑えられると見越しての決断かな?
俺も国とズブズブの冒険者ギルドだし、民間でやる余力なんてどこのギルドもないもんな……。
アンリさんに呼ばれて、ベスターと受付嬢がギルドマスターの部屋にやって来た。
「何か不備でもあったのでしょうか? アンリエッタ様」
「ごめんなさいねベスター、職員は揃えれたから少しは楽になるはずよ。私は商業ギルドとの話し合いがあるから、リヴェルさんの付き添いをお願いできるかしら?」
「助かります。ですが……ギルドにはこの娘だけになりますが?」
「ええぇ……私だけですか?」
オロオロとしているこの娘はアンリエッタさんの副官の人だな。
「リン、貴方なら大丈夫です。ベスターもすぐに帰って来るでしょうし……ね」
「は、はひぃ~」
「それじゃーねアンリさん、ベスターさん行こうか」
「え、あなたはどちら様でしょうか? ちょっと! 引っ張らないでください! し、失礼します。アンリエッタ様」
小さい女の子がベスターを引っ張っていく様子に、苦笑しながら小さく手を振るアンリさん。
ギルドの資料室に入ると、ブルムンドの周辺に俺の配下スライムがいないか探す。
「よし、見つけた。ほい、ベスターさんこの中へ入って」
「ちょっと待ってください! 貴方は誰なんですか! 私はリヴェル殿と用……」
俺は次元門を見て、驚愕して固まるベスターさんを問答無用で引っ張っていく。
「俺があのときの鬼の子だったリヴェルだよ、ほら」
俺はベスターにモシャスして顔は同じだろ? っと証明する。
「……驚きました。いえ、今も混乱していますが……」
「ブルムンドの冒険者ギルドを俺達の傘下に入れようと思ってるんだ。あっちは民間で西方諸国評議会からの支援も滞ってる……ぶっちゃけた話、ブルムンドの冒険者ギルドは完全に切られているみたいなんだ」
「切られている? 資金だけでなく関係そのものがですか?」
「うん、それならテンペストを中心に冒険者組織を一新しようかと思っていてね。その名も自由組合テンペスト! リムルは却下されたんだよね~」
次元門をでると懐かしい、ルーラポイントの小屋前だった。
「あれ? フューズさん片付けてないじゃん。カバルが言いそびれただけか? ルーラも魔法使いのレベルあげて早く覚えたいよな」
「こ、ここは一体……ブルムンドの都市じゃないか!? 転移? 空間と空間を繋いだのですか……貴方は一体」
「あるときは正義の味方……あるときはリムルの手先。良いも悪いもリモコン次第! 俺の名は鉄人……痛いぞ風音」
「何やってるんですか主様。遊んでないで早く行きますよ? 初めましてベスターさん、私は風音と申します。からかうのが好きな主様をお許しください」
俺の影から、背に乗せるようにして出現する風音は、ついでとばかりに風玉を俺の額にぶつけてきた。
「星狼族!? ハァ~〜王が私にギルドを任せた時は何も期待されていないと落ち込んだが、こういう事でしたか……。「弟弟子のリヴェルと上手くやれ」だけって……ははは。王よ……こんな大役、罰としてはあんまりですよ」
何故か膝から崩れ落ちているベスターさんを、風音は不思議そうに首を傾げながらも拾って俺の後ろに乗せる。
門まで辿り着くと門番に囲まれてしまった。
「と、止まれ! 頼む、止まってくれ! 何者だ? 身分を明かすものはあるか?」
風音が何故か興奮しており、やんのかステップで門に近寄る所為で兵士さん達を警戒させてしまった。
お前は猫じゃ無いだろうに……。
「はい、これ身分証明書です。テンペストで冒険者のギルドマスターをやっているんですよ」
俺の差し出すオリハルコンのカードに鑑定をかける門兵さん。
カードを確認して驚いた後に俺の姿を見て固まってしまったが、慌てて首を振り失礼しましたと頭を下げて道を通してくれる。
リムルが周りの国に通達をしていたので、自作のマスターカードも鑑定で適用されてるみたいだな……良かった。
「こっそりとベスターさんの付き添いで入る予定だったのに、なんで急に影から風音は出て来たんだよ!」
「主様! 主様! ここでレモンのジャムが買えるんでしょ? 早く行きましょうよ!」
「落ち着けって風音。ハァ~さては、エレンが余計な事を教えたな? 用事が終わったら買ってやるから、大人しくしていてくれ」
放心したベスターと一緒に冒険者ギルドに降りて中に入る。
帰るまで影にいろというのに、ジャムを買うまで外にいると言い張る食いしん坊は、サイズダウンして俺の腕の中にいる。
「すみません、受付嬢さん。フューズさんに会いたいのでリヴェルが来たと伝えて貰えませんか?」
「ふふふ、一人で偉いわねボク。マスターの親戚の子かしら? 少し待ってね」
ベスターはフラフラとギルドのテーブルへ向かい、崩れ落ちるように椅子に座った。
俺は机に笹茶と饅頭を置いてやる。
「おぉ、ありがとうございますリヴェル様……旨い。落ち着く、優しい風味の味わいですね」
「失礼しました! リヴェル様、こちらへどうぞ!」
身分を明かしてないのになんでだ? カバルかエレンが余計な事を喋ったな?
「行きましょうベスターさん」
「はい、リヴェル様」
待ってる間に茶を飲んで落ち着いたベスターさんと、受付嬢さんの後に付いて行く。
彼女に案内されて、二階のギルドマスターの部屋前までやって来た。
「では、これで失礼します」
「案内ありがとうね、お姉ちゃん」
硬い表情で緊張していた受付嬢さんは、俺の言葉にフフっと笑ってくれたので安堵する。
部屋に入ると、腕を組み、難しい顔をして座っているフューズさんがいた。
「ようこそリヴェル殿。でいいんだよな?」
「うん、あのときのスライムだよフューズさん」
事情はガゼル王とイリーナがお忍びに来たときに、色々とフューズさんにだけはカバルが話を通していたみたいだ。
「私はベスターと申します。今はドワルゴンの首都で副ギルドマスターを務めさせていただいております」
「ベスター? ドワルゴンの大臣のベスター卿か!? これははるばる遠い所から申し訳ない!」
フューズさんは立ち上がり、綺麗な礼をする。
「はは、今は大臣職を辞していますよフューズ殿」
「フューズさん、単刀直入に聞くけどここの運営やばいだろ? 国とは掛け合ってるのか?」
「いきなりだな……おい。俺の友人がここの大臣をやってるんだが返事は芳しくない、評議会から援助は打ち切られたし、国からの支援は厳しい。正直、お手上げだな……はは、ハァ~」
「そいつは良かった。いい話があるんだけど乗らないかい?」
「何が良かっただこの野郎!」と机を叩いて怒るが、いい話だと? と訝し気に俺を見つめてくるフューズさん。
「ここの運営資金は俺が援助するよ。ポーションも支給するし、ドワルゴンとサリオンの後ろ盾もついてくるぞ?」
「何だと!? いや、そんなうまい話があるか! 条件を早く言えリヴェル」
「条件は自由組合テンペストの傘下に入ること、魔物が冒険者になることを認める事かな?」
「魔物が冒険者だ? なんの冗談だそれは……本気か?」
ベスターが本当ですと告げ、フューズさんに話しかける。
「我が国は元々魔物と共存していますからね。貴方がた人間側には受け入れがたいのもわかります……ですが、我々ドワーフやエルフも大昔は知恵ある魔物と言われていました。それに人間も死ねばスケルトンやゾンビになり、我々と魔物もそれは同じです……つまり魔物や人も死ねば生者を襲う人類共通の敵になる。違いますか?」
「教会に属していない国の弱点ですな。聖水や祝福がないと弔った者が最悪の形で蘇る。言いたいことはわかりますがね……だが、冒険者に今まで倒して来た魔物と一緒に戦えってのは無茶ですよベスター殿」
「難しく考え過ぎだってフューズさん、人間だって人間同士で殺し合うだろ? 魔物だって同じだよ。もちろん人間にも魔物にもそれぞれ事情があるのは知ってるよ」
「……魔物が冒険者になる理由はなんだ?」
俺は真面目な顔でフューズさんに告げる。
「ここだけの話にしてくれよ? 評議会の決議で、冒険者ギルドの支援は打ち切り、各国が独自でギルドを運営する方針に決まったらしい」
「はぁ? まてまて、切られたのはうちだけじゃないって事か?」
うちの配下スライムが世界中でちらばってるのを有効活用しなきゃね。
食事を取ったり、魂を集め中に盗み聞きをする程度の情報だけど。
スキル通信で冥ちゃんとシエルさんが、必要な情報だけを精査して俺に渡してくれている。
「教会の違法なお布施に、貴族の専横と腐敗、評議会が冒険者ギルドに資金を提供しても魔物が減らない理由は……色々あるってことだよ」
「魔物であるリヴェルが自由組合を作って、俺の国を助けてくれる理由を教えてくれ!」
「俺は魔族を人類の敵と言う枠から外したいんだよ。人間って敵を作り過ぎじゃない? 魔物と手を取り合って平和に暮らす人間国があってもいいと思うけど? フューズさん」
教会の支援を受けていない国は、必ず死体は焼いて灰にする。
だが、強い人間の場合はゴースト系になるし、エルフやドワーフはソレになりやすい。
戦争や魔物で死んだ死体の処理は遺棄されがちだ……モモンガ様も有効資源の廃棄に悲しんでおられるに違いない!
片手で顔を抑えて考え込むフューズさんの目は真剣だ。
「まずは人の見た目に近い魔物を亜人と呼ばせるところから始める予定だよ。うちのオーガとゴブリンは人にかなり近いからね……あと聖水なんだけどうちが融通しようか?」
「本当か!? いや……お前魔物だよな? 聖水なんて扱って無事なのか?」
俺の肩をギリギリと掴んで「聖水の件は聞いていないのですが? リヴェル様」とよい笑顔のベスターに問い詰められる。
そんなこと言われても、死者の埋葬で聖水や祝福が教会の利権とか初めて聞いたんじゃよ。
教会と仲のよくないドワルゴンも使者を弔うのに聖水は欲しいのか……ポーションも捌きたいのに、聖水も需要高かよ!
教会の聖水は対魔物に特化してるのか? どこかで入手して調べてみたいな。
「そういやドワルゴンも教会とは疎遠でしたね……ベスターさんからガゼル兄に聖水の件伝えて貰える? 俺から言うと兄貴はまた、莫大な金銭を払ってくるに決まってる。食料やポーションも高値で買い取ってくれてるんだ、生活に必要な聖水なら無料で渡したい。何か断られない方法はない?」
「我が国の利にしかならないから構いませんが……王を兄と呼ぶのですね。ふふ、ですがリヴェル様。聖水とは一瓶、銀貨5枚が相場です。提供する数にもよりますが、かなりの損をすると思いますけど構いませんか?」
「同盟国なんだ、値段は気にしないで良いよ。でも、大量生産を考えてなかったから、今から用意する分だけになっちゃうよ」
「ふむ、そうですね……ガゼル王は義理と人情に弱いので、鎮魂や蘇ってしまった死者を冒涜しないで済む事を訴えれば、あのお方なら首を縦に振って頂けると思います。それでも駄目なら、貴方が返さなくていい貸だと笑って言えば素直に受け取ってくれるはずですよ」
情に訴えるなとかリムルに言ってなかったか? 自分への戒めかよ……。
「まず聖水だが……プハッ! この通り、うちの魔物なら平気で飲める! 聖水なんて水と……げふんげふん。大量に作れるから問題ない!」
魔物の区別も聖水ぶつけたら善か悪か判断できないかコレ? ソウエイが拷問に使いそうだから慎重にだな……。
「水で? 大量に作れるんですか? ふむ……詮索は止めておいた方がよさそうですね」
「おいおいおい! 何で魔物のお前が飲んで平気なんだよ……いやリヴェル様でいいのか? ガゼル王を兄とか呼んでましたよね?」
「様はやめてくれって、フューズさん。そうだ! グランドマスターと呼んでくれよ! 略してグラマスだな」
ギルマスも捨てがたいが、グラマスも悪くない。
「そこは略したら駄目だろ。グランドマスターか閣下呼びが通例だぞ? ふむ……お前さんは偉ぶらないし気軽な上下関係が築けそうだな。よし、この話に俺は乗るぞ! どのみち俺はもう、リヴェル閣下にすがるしかないからな」
悪魔王閣下……いう事を聞かない冒険者は全員、蝋人形にしてやろうかー!
「冒険者は説得できそう? 面倒ならうちの者と入れ替えるけど?」
「さらっと怖いことを言うな! いきなり冒険者として魔物と仲良くしろは無茶だが、冒険者は実力主義だ。共闘討伐や、訓練などで実力を見せて信頼を勝ち取るしかないんじゃないか?」
「嫌というほど実力の差を知る事になるかもね……鬼の扱いにだけは注意してくれよフューズさん? 死なれても困るからね」
「本当にあの誇りたかいオーガが冒険者なんかやるのか? まあ、結局のところ冒険者はまともな仕事にありつけず金に困る奴らの集まりだ。魔物だろうが金を払ってくれるお上にゃ逆らわんだろ……例外は友人や家族が魔物に殺された冒険者だな。そいつらには悪いが、他国で冒険者を頑張ってもらうしかないだろうな」
冒険者ギルドの1階で冒険者達が集められていた。
「正気かよフューズさん! 魔物が冒険者なんて!」
「俺達を騙して喰らう気なんだ! 騙されるなギルドマスター!」
「ハァ……良いかお前達? 良く聞け、ここの冒険者ギルドはリヴェル閣下の援助が貰えないと数週間で廃業する」
集められた冒険者は意気消沈して静かに黙る。
「魔物と一緒に冒険者なんてやってられるかというものは去っていい、他の国にいくなり新しい仕事を探せ」
「冒険者がいないと困るのはギルマスじゃないか!」
「そうだ、そうだ! 全員去っても構わないんだぞ!」
「別に良いぞ? ここの冒険者が、テンペストの亜人の冒険者に全て入れ替わるだけだからな」
冒険者達は見捨てられた子供のように絶望して喚きたてる。
「むしろ好都合って事か……フューズさん、俺はこんな身体だ冒険者の仕事がなくなりゃ生きていけねぇ。リヴェル閣下に従うぜ」
あれはジーギスさんか? たくっこんな時に限ってカバル達はいないんだもんな……。
「よし、お前達も言いたい事もあるだろうがまずは飴をやるよ」
「ふざけんな! ガキじゃねーんだぞ」
「お前はガキだけどな! まさか貴族じゃないだろうな……ないですよね?」
俺は見回すと片目や腕など怪我をした冒険者を確認する。
「身体に損傷を受けて冒険者を続けれない、家族や仲間がいたら連れてこい! 一度きりだが治してやる。足の不自由な奴、他にも片目や腕がない冒険者は集まれ!」
一瞬ポカーンとする冒険者達が嘘だと怒号を返してくる。
「静かにしろ! これを見ろ、俺は高級ポーションも持ってるんだぞ? お前達を騙したりせんから、つべこべ言ってないで早く並べ!」
半信半疑で集まる冒険者にベホマラーを唱える。
「嘘だろ……俺の足が……ははは」
「うおおぉぉーーー! 腕が腕が生えてきやがった」
「見える……目が見えるわ……ありがとうございます」
「よし、サービスは一度きりだぞ! 仲間や家族がいるなら呼んで来い!」
家族や仲間がいる冒険者達は飛び出すようにギルドを出て行った。
「信じられねえ……俺がまた冒険者をやれるとは……閣下! 俺はジーギスと申します。この度はありがとうございました!」
凄い勢いで頭を下げてくるジーギスさんに、しどろもどろに答える。
「お、おう。でもジーギスさんには教官をやって欲しいんだよね」
「教官? 俺がですか? まあ、試験官もしていましたが……」
「怪我した教訓とか戒めを若い奴らに教えて欲しいんだよ……新人研修すらないじゃん、冒険者ギルド。新人の死亡率見て引いたわ……」
冥ちゃんで調べたら冒険者ギルド真っ黒だもんな……なるべくホワイトにしなきゃ。
「また痛い所を……冒険者は自己責任と簡単にわりきっても、稼ぎ頭に死なれたら困るのも確かだからな」
フューズさんが苦虫を噛みつぶした顔をし、ジーギスさんが確かになと暗い顔をする。
「どうする? 冒険者続けても構わんし、教官のあてはこっちにもあるんだが、ここだと人間の方が良いと思ってな」
「俺……やりますよ。若い頃に村を出て一緒に冒険者になった幼馴染を思い出しました。今はもういませんが……」
「そっか……うん、よろしく頼むよジーギス君」
帰って来た冒険者や家族を治療した俺は、大歓声を浴びながらギルドマスター室に戻ってきた。
「ご苦労様でした、リヴェル様。上手くいきましたね」
「うん、ベスターさんも手続きや契約を任せちゃって悪いね。あれ? 風音は?」
「受付嬢さんにジャムを買って貰い、帰りましたよ?」
護衛とは一体……あとでランガに叱って貰おう。
「こんなにいいんですか? 金貨300枚って……」
「ここにあった素材を全部買い取ったぶんも、運営資金に含まれてるからね。新人の育成プランなんだが……」
新人がクエストを受ける際に初級ポーションを1個もたせる事。
不満が出ないように今いる奴らにも初級ポーションを配る事。
いらない冒険者には銀貨1枚をポーションの代わりに報酬に上乗せする形にした。
「よくもま~ポーションをこんなにも持っていますね閣下は、それに新人救済の案も面白い」
フューズさんは初級ポーション5000本を、劣化を防ぐ大きな金庫に仕舞いながら言う。
「ファンタジ―の定番だよね~武器や防具の貸し出しと、ベテラン冒険者の付き添いも報酬アップで組み込もうかな」
「申し訳ございませんリヴェル様、急ぎ聖水の件を伝えにドワルゴンへ帰りたいのですが……」
「うん、じゃーフューズさんあとはよろしく。聖水の件はブルムンドと国同士で話し合う事だから保留ね?」
わかっております閣下と、頭を下げて見送ってくれるフューズさん。
俺は手を振り次元門で王城に出た。
「おっすガゼル兄! 今暇?」
ガゼル王とジェーンさんが話し合っていたようだ。
次元門から出た瞬間、即座に片膝をついて頭を下げるベスターくん。
「この大馬鹿者が!! 玉座の前を何処と心得るのだ! いきなり現れる奴があるか!!」
俺はげんこつを落とされて涙目になりながら、正座をさせられる。
可愛い孫に見えたんだろうか? ジェーンさんが俺を庇ってくれなきゃ、3時間説教コースだったよ……。
――――――とある日の竜の都の市場にて
「母上、あの果物おいしいよ? すっぱいけど甘いの」
「どれどれ、店主この果物を貰えるかのう?」
「あいよ、この皿に塩を入れてくれ」
「母上、ここはおしおがお金の代わりなの」
ふむ、物々交換の国なんじゃな。
「おいおい、塩を出し過ぎだぞ奥さん! それにすげー綺麗な塩じゃねーか……混ざり物がまったくねえ……」
「リュウの塩じゃと交換にはむかんのか?」
「いやいや、価値も変わって来るんだよ。ほれ、この籠の果物全部持っていけ」
わらわはベルと日陰に座り、リュウの記憶にあるキュウイを齧る。
「すっぱ! でも旨いのう」
「この黄色いのどうやって食べるの?」
「バナナじゃな、こうやって皮をむくのじゃよ」
「ふぁふあこれも、おいしいの!」
クロヴェに炭酸を入れてハイボールを作り味わう。
「昼間から飲んだら駄目なんだよ母上? シュナ姉ちゃんがいってたもん」
「プハァ! これはジュースだからセーフなんじゃベル」
「あの~すみません。聞きたい事があるんですが……」
男がゆっくりとこちらに歩み寄り、話しかけて来た。
「ナンパはお断りじゃ! この通り子持ちじゃぞ!」
わらわはベルを抱き寄せ、男にシッシと手を払う。
「お断りなのじゃ〜あはは」
「違いますよ! ナンパ? やっぱり……その麦わら帽子といい、サングラスといい、でも何でそんなダサいアロハシャツなんです?」
「こやつ……リュウと同じでセンスがないのか……」
ベルはわらわの抱擁から逃れて男に話しかけた。
「お兄ちゃんは誰? 何かごようですか?」
「おぉ……小さいのに偉いねお嬢ちゃん。僕はマサユキって言うんだよ。君のお母さんが僕のいた世界……国の服装をしているから気になって声を掛けたんだ」
「何じゃお前、転移者か?」
「うん、そうみたいだね。東に同じ転移者が大勢いると聞いて歩いて来たんだけど……色々あってここで世話になってる」
なんかこ奴を見てるとイライラするのう……。
「そうか、精々頑張るがよい。わらわは娘と酒……ジュースを飲むのに忙しいのじゃ。早く向こうへ行け……シッシ」
「あー母上やっぱりお酒飲んでる~もう!」
「娘の前で昼間から堂々と酒をのむんじゃないよ! まったく、お前は昔から豪胆だよな……昔?」
なんじゃったっけ? 袖捲り合うも多少の縁じゃったか?
「ほれ、袖捲り合うも多少の縁とかいう奴じゃろ。お前も一杯飲め」
「僕はまだ高校生だ! あと、袖振り合うもな? 君も見た目が15、16歳だよね? ハァ……そうだ、名前! 君の名前は何ていうんだ?」
「名無しの権兵衛じゃ」
「母上は冥ちゃんだよ!」
「あはは、君はお母さんと違って素直でいい子だねぇ」
ハァ? わらわも素直で美しく優しいが?
「ベルはベルっていうんだよ。マサユキだから~ユキお兄ちゃん!」
「よろしくねベルちゃん。なあ、冥ちゃん達は何処に住んでるんだ?」
「鳥肌が立つ! 超キモイのじゃ! ちゃんはやめろ! バカ兄様!」
「俺様に向かってキモイだと! ベルの教育に悪いからその言葉遣いを止めろ!」
睨み合うわらわの間に可愛いベルが割り込む。
「ドウドウなの。ベルはジュラの森に住んでるんだよ」
「ジュラの森? 聞いた事がない森だね。ハァ……もう取り繕うのが馬鹿らしい。俺は帝国に行ってみたいんだけど何か方法はないか冥?」
「悪い事は言わんから止めておけユキ。転移者は戦争の駒に使われるだけだぞ?」
仕方ないのでわらわはこの世界の転移者の扱いや、わらわの事も含めて色々マサユキに教えてやった。
「ハァ!? そんなの拉致じゃないか! 今直ぐに救い出さないと! でも俺は青い髪の女性に連れてこられたんじゃ? あっ!? 時空の穴は今も空いたままなのか?」
「ベルがなおしたよ! でも召喚を繰り返されるとまた開いちゃうかな……」
「へっ? ベルちゃんがなおしたのかい? う、う~ん。不思議な力を持ってる人は沢山いるもんなこの世界」
「行く当てもないならジュラの森に来るかのう? その顔はムカつくが悪い奴ではないようじゃし、召使としてこき使ってやるのじゃ」
青筋を立てて怒るマサユキを眺めるのは実に愉快じゃな。
「性格悪すぎだろ……こんな嫁でリュウって旦那は本当に可哀そうだよなぁ!」
「リュ、リュウは旦那ではない!! 愚か者! まあ? あの唐変木がどうしてもというなら……考えなくもないがのぅ……フン!」
「などと母上はきょうじゅつしており~あはは。父上と母上はとっても仲良しさんなのです!」
「ツンデレかよ……。世話になった人に挨拶をしてからいくよ、ジンライも行方不明だから探さないといけないし……う〜ん、そもそもどうやってジュラの森に行こうかな?」
顎に手を当てて考え込むマサユキに、ベルが次元を開いてニッコリと笑う。天使かの?
「ユキお兄ちゃん、ベルが送ってあげるよ? これパパのスライム、この口の中に何か入れてくれたら。ベルが迎えに行ってあげる!」
「おおお! マジで凄いなベルちゃん! あはは、ベルちゃんは俺の救いの女神様だ! 冥が隣にいるのにこんなに良い子に育つなんて奇跡だね……父親の教育がよっぽど良かったんだろうな!」
ベルの頭を撫でて油断をしている、ユキの顔面を右ストレートでぶっとばすのじゃ!
「ぶん殴ると心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんじゃ~ユキィ~!!」
気絶したマサユキにポーションをかけて、わらわはベルとバナナを齧りながら帰った。