カジノを出て、中央区へと続く出口の階段を上る。
階段を上る途中も、フォビオは怒りが収まらないのかグチグチと文句が続く。
「貴様という奴は! 魔剣を偽装してまで勝とうとするとはな!」
「フォビっちはカルシウムが足りないんだよ、ほらコカトリスの軟骨唐揚げ食っとけ」
噴水広場でテーブルと椅子をだし、皿に軟骨の唐揚げをのせてやる。
馬鹿にするなと怒っていたが、鼻を引くつかせて皿を凝視し始めるフォビオ。
俺は手羽先の皿を追加してテーブルに置いてやると、黙々と食べ始めた。
「リヴェル! お姉ちゃんは悲しいです。あなた戦いを何だと思ってるのですか! ただでさえ闘技場は血飛沫も舞わなくてつまらないというのに!」
「シオンそこじゃねーよ! どうせ防具にもステータスが盛ってあるんだろ! 卑怯者! 武器なんか捨ててかかってこいよ、リベネット!」
「お前もマリカーや、桃鉄とか、自分が得意なゲームなら散々嫌がらせしてきただろうが! お前がタケシくんを泣かせたせいで、家に遊びにこなくなったんだぞ! いたストでは俺のフローラ店を5倍買いや株で妨害ばっかしやがって! 性格の悪いビアンカめ!」
悟の奴、自分の性格の悪さを棚に上げやがって! お前のトリプルバナナのドリフトは糞だ!
「お前の腹黒フローラが序盤で独占阻止してくるからだろう……グハッ!」
俺がリムルを右ストレートでぶっ飛ばすと、頬を抑えて睨んできた。
「親父にもぶたれたことないのに! ってアレ? なんで痛覚無効や結界が発動しないんだ?」
「殴られもせずに一人前になった天パがどこにいるものか! なんだ? ついに茜の愛情パンチみたいに友情パンチが効くようになってしまったのか?」
《告。妹より提案された漫画知識、男は拳で語れを採用いたしました。マスターはリヴェルに激怒していますが『類は友を呼ぶ』この言葉を進言します》
《肯定。魂の回路を使い、互いのスキルだけを無効化しました。自動回復だけは発動しますのでご安心ください》
俺とリムルは顔を見合わせて、フッと笑い合うと殴り合いを開始した。
「フォビオ、この俺と勝負しろ。リヴェルの所為でテンペストの者が卑怯者と思われても敵わんからな」
「まあ待て、俺は今忙しいのだ。旨い……タレも最高だ。おい! お前ら、それは俺のだぞ!」
ベニマルがフォビオに挑むが、獣人達はフォビオの皿を奪い合っているので無視される。
「この野郎……俺も手羽先や軟骨はまだ食ってないんだぞ! よこしやがれ!」
そして獣人一行がシオンに蹴散らされて、フォビオ、シオン、ベニマルの三つ巴の奪い合いが開始された。
「リヴェル様、この防具を着込めばフォビオと互角になれるのですか?」
「痛ってぇなぁ~この野郎!! えっ!? うん、ソウエイだと亀の甲羅だけで勝てると思う、よっ!!」
「間柴さんの顔したってなぁ〜! お前のフリッカーは伸びねーんだよ!! クタバレ!」
俺のフリッカーをかいくぐったリムルにクロスカウンターを合わされる。
ガツッ!! 重く鈍い音が辺りに響き渡った。
ソウエイは葵を呼んでから、置いてあるゴームの手袋と亀の甲羅を装着した。
「ぶはは!! なんだソウエイその恰好は! あはは、やめろ! 俺を笑いころす気か!」
ベニマルが笑って噴き出した手羽先の骨が、ソウエイの頬に当たる。
無言で始まってしまった場外乱闘は、ソウエイが素早さでも力でも、全てにおいてベニマルを凌駕していた。
「クソ、速いっ!? 重っ……お前なんだその蹴りの威力! グアッ」
受け流す事も出来ずに連打をモロに食らってしまう。
「ふむ、鬼としては己の肉体のみでと思ったが……付与の効果はすさまじいなっ!」
ソウエイのトドメの三連脚でベニマルは地面に倒れ伏した。
「覚えていろよ……てめぇ」
「知らんな。だが、この勝負はカウントしないでおいてやる」
テーブルで乱闘していたシオンとフォビオがピタリと手を止め、ソウエイを見る。
「あっ! この角女! 意識逸らせて最後の手羽先を食うんじゃねぇ!」
「モグモグ……ソウエイ貴方そんなに強かったでしょうか?」
サッとソウエイの方を向きながら、皿から手羽先を奪ったシオンが呟く。
「食べ終わっただろ? フォビオ、俺と腹ごなしに一戦勝負せんか?」
「良いだろう、リヴェルの所為で不完全燃焼もいいとこだしな」
俺はリムルとダブルKOでノックダウンしていたので、ソウエイとフォビオの試合は見ていないんだよね。
置いてある俺の防具を、シオンやフォビオ達も着込んでハンデ戦を楽しんだらしい。
起き上がったベニマルが亀の甲羅を背負うと、ソウエイが耐え切れずに大笑いする。
ベニマルが青筋を立て、ソウエイの腹に炎を纏った拳を叩きこんで沈めた。
白目で気絶する珍しいソウエイと、大笑いのソウエイを見て鼻血を噴き出したソーカが仲良く運ばれていく。
議事堂の医務室へ次々と運ばれてくる患者に、葵が我慢できずにキレたのは仕方ない。
俺達はすぐに目が覚めたので、再び議事堂の会議室に皆で集まることになった。
シュナが茶を入れ皆に配り終えたところで、俺はフォビオに話す。
「じゃー約束通りフォビっちが負けたんだから、言う事を聞いてよ」
「ぬかせ! あんなのノーカンに決まってるだろ!」
「えー獣人は嘘つきの集まりなんだ……残念だよ」
「こいつ……いうだけ言ってみろ。無茶な要求は聞かんからな!」
俺は扉を開けてコボルト族のコビー君を呼んだ。
「お、お初にお目に掛かりますフォビオ様! コボルト族で商人をしている、コビーと申します」
「コボルト族か……で? そいつを俺に紹介してなんの意味があるんだ?」
「ユーラザニアと商売させてくれよ、フォビオなら許可貰ってこれるでしょ?」
「何だそれぐらいなら構わんぞ」「お待ちください、フォビオ様!」
フォビオの部下が耳打ちして止めている。
「チョロすぎだよフォビっち。条件とか商品の確認とか色々精査してからじゃないと駄目だぞ?」
「なにがだ? 俺の国は豊だからモノが欲しい奴は沢山いる。だが売りに来る商人は極わずかだ、条件なんて売る側が強いに決まってるだろ」
「まー俺もフォビっちが気に入ってるから教えるけど、まずはこのリンゴ食べてみ。お仲間さんもどうぞ」
フォビオの部下が鑑定し、順番にシャクリと食べ始める。
食べた瞬間、全員固まって動かない。
「どう? うちの果物も負けてないでしょ? 他にも果物を加工した食品はうちには沢山あるんだ、市場を決めるのは国民なんだから旨い、安い方に皆動いちゃうぞ?」
「リヴェル様……我が国で足りないものは鉄と塩です。競合する産物は勘弁して頂きたい」
猿人の配下が俺に頭を下げて言う。
フォビオ君は族長の長男だそうで、国の通商免状は簡単に手配できるそうだ。
「だってコビーくん。ユーラザニアで売る物は鉄、魔鉄、塩が喜ばれるそうだよ」
「ひゃひゃい! 塩はミリム様が少し持っていきましたが在庫はまだあります」
「なに勝手に人の国の塩持っていってんの? あの魔王……」
「何が
ドン! と机を叩いて怒るリムルに「まぁまぁ、そんなにミリム様を怒らないでくださいませ」と笑うシュナ。
シュナが怒らないのは自分の分はちゃっかり確保してあるからだ、持っていかれたのはリムルの蜂蜜とシロップらしい。
ミリム様がジャイアニズム発動するならこっちもやぁってやるぜぇ!
南東の領土で港を作って漁と塩を生産開始するか? 魔王様が好き勝手するなら、こっちも好き勝手にするだけだ。
「フン! 結局お前の作る装備が凄いというだけで、お前自身は大した力はないんだ。精々攫われないように気を付けろリヴェル」
「ツンデレ乙! じゃーユーラザニアまで送ってやるよ。カリブッても困るしなっと……ほれここでいいか?」
やっぱ獣人は好きだわ。モフモフだし、耳ピコピコ可愛いし。
喧嘩早いが行動原理が分かりやすく、駆け引きが要らないのが凄い楽。
獣人達が警戒しながら門を開けると国境の前だった。
「凄い力ですねリヴェル様……ありがとうございます。これなら夜になる前に帰れそうです」
「ご苦労、リヴェル。肉ならこっちも旨い鳥がいるから今度持って行ってやる。ではな」
「おう、期待してまってる。じゃーなお前達!」
俺が手を振ると、フォビオはシュッと片手を上げ、部下達は頭を下げて去っていった。
翌日、俺は冒険者ギルドのカウンターで、ゴブタが持ってきた依頼書にハンコを押していた。
「じゃー頼んだぞ、ゴブタ」
「任せておくっすよ! このリヴェルと愉快な仲間達に!」
「そのパーティー名やめない? いじめはよくないよ……俺が折角考えたのに」
ゴブタ、ゴブツ、ゴブテ、ゴブゾウが良い名前じゃないですかと口々に言う。
ゴブタが鋼の剣、ゴブツが鋼の槍、ゴブテがクロスボウ、ゴブゾウが鋼の斧で武装していた。
「華麗なゴブリン四天王なんて嫌っすよ。それじゃー行ってくるっすよ~」
「じゃーねリヴェル様。美味しい土産を取ってくるよ」
「それじゃーいってくるだよリヴェル様、オラに斧と防具ありがとな」
「本当に大丈夫なんですか? この槍に仕込んだ魔法……」
心配そうにゴブツが槍を見て言う。
「それスカラの効果で頑丈になってるだけだよ。攻撃魔法はゴブテとゴブゾウの武器だけだぞ?」
矢じりに仕込んだ魔法は一度発動すると壊れるが、使い捨てには便利だ。
「ほっ……いや、そんな危なっかしい武器を妹に持たせないでくださいよ! ハァ~それじゃー行ってきますリヴェル様」
俺が名付けをした魔物は魔素をMPに変換して魔術刻印の武器を使用できるが、燃費が凄く悪い。
武器に刻印する補助魔法は効果時間は長いが、消えると魔素を注がないといけない。
葵とベルは問題なく付与した武器で戦えるんだけどな。
華麗なゴブリン四天王にはフューズさんを迎えに行ってもらってる。
冒険者の経済状況の改善や、ポーションの出どころ、奇跡を起こした少年の噂などがベルヤード大臣の耳に入ったらしい。
俺に報告と相談があるらしいが、ソウエイも詳しいことは聞いてないようだ。
「シュナ! 本当にリムル様と行くのか? 俺も一緒に!」
「駄目です! お兄様は侍大将の仕事があるでしょ? シオンもランガもいるんですから、心配ありません」
「空気を読めベニマル」
呆れた顔をしたソウエイが、リムルにドワルゴンの依頼書を渡す。
シュナが「そうですよ、お兄様は空気を読んでくださいませ」とプイと顔を逸らす。
リムルと二人きりにはなりたいが、シオンとランガのお邪魔虫もいるうえに、お兄様まで冒険に付いて来ると困るらしい。
「じゃーリヴェル、ドワルゴンのオーブ調査に行ってくるわ。やばそうなら来てくれよ?」
「次元門は開いて置いてあるから、大賢者さんが操作すればすぐに帰ってこられる。それに、もう散々アンリさんと調べたじゃん……魔王もいないし、ガゼル兄貴も早く回収しろと煩いんだから」
「だってドラクエの品だぞ? 石化したり、魔人がでたり、神がでたりと用心するに越したことはないじゃないか。まあベルちゃんの件もあるし、騒ぐ前にパッと回収してくるよ……流石に爆弾岩は困る」
「ベルが冒険者やりたい、ドラクエ魔物を仲間にしにいくとか言って困らせてくるから、サッとすませてきてくれ。頼んだぞリムル」
シュナは魔法使いの格好の白いローブ姿、リムルは皮の装備で初心者冒険者風、シオンは騎士の恰好で大剣を担いでいる。
「リムル様、髪をお揃いにしますね! ふふ」
「いや、リヴェルにヘアバンド貰ったから……ポニーテール良いよね! シオンとお揃い嬉しいな〜」
絶望して目からポロポロと大粒の涙を零すシオンに、慌ててリムルがヘアバンドを仕舞ってシオンに背を向ける。
ニコニコとシオンはリムルの髪を結い、金と銀のリボンで髪を整えた。
「ムムム、私もお揃いのポニーテールとやらにしてみようかしら? あっ、シオンそのリボン可愛いですね」
ベニマルはリグルに警備関連で連れて行かれたが、最後までシュナを悲しそうに見つめていた。
世界に散らばったと思われるオーブの一つ、イエローオーブ。
冥ちゃんが詳しく調べた結果。
オーブは特殊な力を秘めているが、ラーミアや七賢者に大樹へ行ける効果は存在しなかった。
この世界に異変を撒き散らすだけの迷惑品には違いないので、回収は急がないといけない。
「じゃー行ってくるわ~留守番は頼んだぞリヴェル」
「あいよ、気を付けて行ってこい」
リムルパーティが出て行くと、入れ替わりに誰か来たようだ。
乱暴にギルドのドアを破壊しながらガキ大将がやってきた。
「父上、ドーナツタルトプリンにも仕事をよこすのだ」
三人娘が好物を並べただけというパーティーネームにしたらしい。
ミリム、ハヤテ、ピリノ、風音に乗ったベルとレインがカウンターにやってきた。
慌ててミソラが飛んで入り、レインの後ろにふわりと降り立つ。
俺の能力で竜の都への行き来が簡単になったおかげで、ミリムは週1くらいの頻度で向こうに帰っている。
「ねーね達だけ冒険してずるい! ベルも冒険者になりたい!」
「ベルはまだ小さいから駄目なのだ、外には怖い魔王や強い勇者もいて危険なのだぞ?」
「私が付いてるので心配ありません……冗談です」
ミリムが睨むとレインは素早く引き下がった。
「むーハヤテやピリノも15さいじゃないのに冒険者してるのずるい、ずるい!」
ハヤテとピリノのお尻をベルはペシペシと叩く。
二人は交互にベルの頭を優しく撫でて、ごめんねと笑う。
「ミリムは年齢的にはおば……グボラッ! 痛ったた、ハヤテとピリノは何故か水晶に登録されたんだよな?」
スカラの結界が割れて吹き飛ばされたが、ミリムが手加減をしてくれてるのかダメージはなさそうだ。
「私はもう大人なんだから、当然でしょ」
「今まで生きた年齢を合わせたら、私も大人になるのかな?」
腰に手を当てフフンと満面の笑顔で笑うハヤテ。
う~ん、とピリノは首を傾げながらこめかみに人差し指を当てて考えこむ。
ステータスの年齢表示はハヤテが8歳、ピリノはホムンクルスで生き返った事により0歳と表示されている。
二人共、水晶の規定である15歳はクリアしてる判定になった。
13歳と8歳まで生きた年月を足されて21歳ということなのかもしれない。
ピリノもハヤテの中に8年いたことになるからかな?
「ベルもその玉ですう千年とかでるはずなの! むぅーなんでなのー!!」
水晶は赤く光り、ベルは地団太を踏んで怒る。
次元竜が何年生きてるか知らんが、俺から生まれたんだから0歳からに決まってるだろ……。
「ベルは赤判定で0歳だな。意地悪で登録しないんじゃないんだから、15になったら俺と一緒に冒険に行こうな」
見た目が幼女のベルはどのみち冒険なんて無理だって。
「収穫の仕事は飽きたから、討伐依頼をよこすのだ」
「遠いからだ~め。サリオンとドワルゴンに討伐依頼はあるらしいけど……そもそもお前達はE級なんだからD級に上がるまで遠征はなしだ」
討伐依頼って被害を受けた依頼主がいるか、国が危険だと判断して報奨金をかける感じだろ?
ゲルドやベニマルがいるのに討伐依頼の魔物なんか、何年待ってもうちじゃでてこんぞ……。
ブーブー文句を言う姉妹を他所に、ハヤテとピリノはテンペストの依頼を眺めて楽しそうに選んでいる。
他の子供達は服やお菓子を買う小遣いを稼げるので、依頼内容にはなんの文句も無いからな。
あと、ゴブエモンがリーダでゴブナ、ゴブチ、ゴブト、ゴブアと5人パーティーを組んでる。
「この依頼を発注しますわ」
「ん? トレイニーが依頼なんて珍しいな」
カウンターの前にきたトレイニーさんが、真剣な顔で1枚の紙を置く。
俺は依頼書を見てみると……。
「精霊女王ラミリスの捜索ねぇ……」
「は? 何だと父上それをよこすのだ」
ミリムは俺の依頼書を乱暴に奪い取って眺める。
「ラミリスなんてすぐに捕まえれるのだ、これを受けるぞ父上」
「えっ!?」
「あっ!」
トレイニーは驚いた後にあっと言った俺を睨む。
「ミリム様、ラミリス様についてお話が……ですが少々お待ちを。リヴェル様!! あっ! てなんですか! まさかとは思いますけど、知ってたんじゃないですわよねっ!」
「知らないって! カルビー神に誓って知らない! コイケヤ神にも誓うよ!」
「そんな神様いるわけないでしょ! もう怒りましたわ!」
まじでミリムが知ってるの忘れてた、トゲでグルグル巻きにするのは駄目よ!
「ちょちょ、痛いこれ! ミリムにラミリスの事を聞いてないから知らなかったんだって!」
「父上はなんでも知ってるのだぞ? 多分うっかり言い忘れただけなのだ」
君のような勘の良い娘は嫌いだよ……そういや三人は親友みたいな関係だったな。
「私も知ってましたよトレイニー? ラミリス様のことは」
「はい、私も知っています。ギィ様の元にいて知らないものはいないかと」
あーギィ関連でレインやミソラも知ってるの忘れてた……グエッ! 首が閉まる。
確かソーニャは占い師の姉ちゃんと同じ出身じゃなかったか? 精霊の棲家を聞き出せるかもな。
「トレイニー、父上は場所も知ってそうな顔だぞ? 締め付けを強くするのだ」
「わ・た・し・が! ラミリス様をお慕いして長年待ち続けてると言うのに! こともあろうかつい、うっかり忘れてただなんてひどいですわ! おまけにレイン様やミソラさんまでラミリス様を知ってたなんて!」
「ギブギブギブギブ! 違うんだトレイニー、君が傷つくと思って黙っていたんだ!」
俺が必死に訴えると少しだけ締め付けが弱くなり、トゲが収まっていく。
「今まで黙っててごめん。……ラミリスは精霊女王から魔王になっているかもしれない。そんなあやふやな情報でもトレイニーに伝えるのが怖くてさ」
「いや、父上は最初から知って……もごもご」
もう少しで押せそうなんだから黙っていろミリム!
俺はミリムの口を塞いで、真剣な眼差しでトレイニーさんを見つめる。
トレイニーさんは両手で口を押えて驚愕した。
「何故そのような事に……ああ、すぐさまラミリス様のお側へ馳せ参じなければ!」
ガブッ! 俺の手を噛んで逃げ出すミリム。
「痛っ! もう余計な事をいうなよミリム?」
「フン! 本当の事ではないか! 大体ラミリスは魔王になっても落ち込んでもいないし、いつも能天気に飛び回ってるのだ」
「ミ、ミリム様! ラミリス様に会わせて頂けませんか! お願いします!」
「う、うむ。次のワルプルギスで捕まえて来るからそれまで待つのだ!」
鬼気迫る表情で迫って来るトレイニーに、少し怯えるミリム様。
「ところでリヴェル様、ラミリス様の居場所についてはご存じないのですか?」
「ソーニャが知ってそうなんだが……」
俺は意味ありげに首を振ると、能面のような顔をしたトレイニーが壊れた冒険者ギルドの門からゆっくりと出て行く。
『ソーニャ! この任務が達成できれば、エビグラタンにカニグラタン、クリームコロッケも食い放題だぞ!』
『ファッ!? 大精霊様、この奇跡に感謝します! してその任務とはなんですかリヴェル様!』
『負のオーラを纏った魔王トレイニーからの追撃を躱せ! 逃げろ! 幸運を祈る!』
『えっ……ちょ!? えっ! まっ……』
俺は額の汗を拭うが三人娘に睨まれる。
「知ってるなら素直に教えてあげなさい!」
「トレイニーさんが可哀想じゃないですかご主人様!」
「依頼を受けたのはワタシだから、勝手に連れてきたら駄目なのだぞ父上?」
「ミリムが知ってるのを忘れてたんだから仕方ないだろ……」
ボロ雑巾のような姿の俺をレインが愉快そうにコロコロと笑い、ミソラが手を口に当てぷークスクスと笑う。
「何故トレイニーにラミリスの事を黙っているのか……少し気になるわね?」
「無様だなスライム! トレイニーも、もう少しこいつを痛めつければよいものを」
俺は聖水が入った水鉄砲をレインとミソラに発射した。
「もう止めなさいよね」
「ぎゃああああああ! あふん♡」
レインは飛んでくる聖水を人差し指をクルクルと回して操作すると、水球に変えて魔法陣の中に保存した。
ミソラは直撃して煙を上げるが少し嬉しそうに痙攣している。
「クソ……レインには聖水が効かなくなってしまった」
「レインにはどんどん聖水かけて良いですけど、ミソラさんには止めてあげてくださいよご主人様」
回復魔法をミソラにかけながらピリノは俺を叱る。
「この女狐! 私は原初の青、レインですよ! 様を付けて敬いなさい」
「やです~! 貴方を敬う必要がどこにあるんですか?」
ピリノを捕まえようと追いかけるが、素早く逃げてレインは捕まえられない。
怒ったレインが魔法を唱えようとするが、急に現れたオベーラがレインを睨む。
「何をしているのだレイン!」
「くっ……この卑怯者」
ピリノはオベーラの背中に隠れてあっかんべーをする。
「流石にその魔法は看過できんぞ? 大丈夫かピリノ」
「はい! ありがとうございますオベーラ姉さん」
「悪かったわよ……ついカッとなりすぎたわ」
なんかレインの後ろにいた俺、魔法を中断した余波だけで全身が凍ったんだが?
ミリムもピリノに何かしたのか手を払う動作をしていた。
《肯定。星粒子の結界をピリノの前面に発動させていたようです》
俺にはしてくれないの? あっハヤテさん雷で氷はとけるけど無茶だと思うんだぁばばば。
オベーラを追ってきたティアがミリムを凝視する。
「やっぱり! あれはアタイの見間違いなんかじゃなかった! 魔、魔王ミリム!!」
俺は素早く道具袋からラリホーの杖を振ってティアを眠らす。
「ミリムすまん、後でティアには言っておくから許してくれ……」
ティアの殺気を受けて、ミリムの覇気が爆発寸前だった。
「……パフェで許す。だが次はない、ワタシも我慢できるかわからないのだ……父上」
フォビオが来たゴタゴタで、ティアに説明するのが後回しになってしまったな。
俺に抱き着き、頭を撫でろとグイグイと押し付けてくるミリムの頭を優しく撫でてやる。
早いとこガイアも何とかしてやらんとな……。