「う~ん。あれ? あたいは……」
「目が覚めたか? ティア」
俺の部屋のベットで目が覚めたティアは辺りを見渡す。
「……ハッ!? 魔王ミリムは!!」
「自分の国に帰ったよ。伝え忘れたが、ミリムは俺の娘だ。いざこざは勘弁してくれ」
「は? ふざけないで! 魔王ミリムの父親なんておとぎ話の神様じゃない!」
「娘のヴェルベルの姉になったんだよミリムは……だから俺が親代わりをしている」
俺を睨みつけるティアにため息を吐いて告げる。
「……肉親をミリムに殺されたのか?」
「親しい使用人は魔王に皆殺しにされた。混沌竜が暴れた場所はクローバー家の領地なんだ。お父様とお母様がどうなったのかは……わかんない」
元凶はジャヒルだがティアの親しい人を殺したのはミリムとガイアか……。
「お前はミリムがソーマを滅ぼした理由を知ってるか?」
「知るもんか!! いきなり国の真ん中で極大消滅魔法を放ち、大勢の同胞を皆殺しにした魔王の理由なんて!」
「じゃー知っとけ、ソーマの王がミリムのペットであるガイアを持ち去って殺したんだよ」
「だとしても! あんなにも大勢の人を殺してあんまりじゃないのさ……」
涙をポロポロと流すティアの涙を拭いてやり、ティアの目を見て優しく話しかける。
「ミリムは母親と父親をテロで亡くしている。唯一の友達は子竜のガイアだけだったんだ……それをソーマ王が奪った」
「……リア様は知ってるの? なんで王様がそんな事を……」
「ミリムの精神を破壊して意のままに操ろうとしたんだよ、ソーマ王は……ん?」
まだ魂を修復中だがセシリアが話したいようだ。
「ティアすまない、我が父の愚行のせいで国が滅びたのだ……」
「いえ、リア様もソーマ王に実験体にされて酷い目にあわされたんです! 貴方が悪いわけではありません! しかし、何故あのお優しい王が豹変してしまわれたのか……」
全部、ジャヒルが元凶で~す! と言えたらいいんだけど……。
ミリムがブチ切れるし、全てのエルフはブチ切れるし、ヴェルドラが俺の視界を通して盗み聞きしてるからブチ切れるし、世界中を全員が暴れまくって【ジャヒルを探せ!】が始まっちゃうんだよね……。
あいつの魂が今も天界にあるんか知らんけど。
「お困りのようね! リヴェっち!」
地下に置いてある転移門から、急に飛び出してきた親友が親指を立てて聞いてくる。
「困ってないよ、むしろ困ってるのはシルっちだろ? 服が穴だらけじゃないか……パンツも見えてるぞ?」
そう俺が言うと、シルビアは顔を真っ赤にして物陰に隠れて着替え始めた。
研究機材の裏でぶつくさと文句を言ってる。
どうやら家出したあとに俺を探していたが、竜の都にいると思ったら突然気配が消えて色々探し回っていたらしい。
素早く魔法陣から替えのスカートを取り出して、何事もなかったように戻って話しかけてくるシルビア。
ティアは困惑顔で、リアは声しか聞こえないので沈黙してる。
「お困りのようだね! リヴェっち!」
「うん、しれっとテイク2する親友に困ってるところだよ」
「酷いじゃないかリヴェっちが呼んだくせに! 私の名に誓い精霊の真名で話しかけてきたろ? おかげで簡単に座標が割り出せたよ」
「あーー! いや、お前それで来ちゃうの?」
困惑していたティアが驚いた顔でシルビアを指さして叫ぶ。
「シルビアって!? 始祖様!! どうしてこんなところへ!」
「何!? シルビア様が来ているのか?」
シルビアが指を鳴らすと結界が展開し、ティアとリアの入ったサマタマを囲んだ。
《警告。シルビアの雷による消滅魔法で結界内のティア、リアが消滅します》
俺は急いでまふうじの杖をシルビアに向けて振る。
これで
のほほんと来たのも油断させるための演技か?
冥ちゃんの探知に引っかからないように物陰に隠れて、ティア達を殺す準備をしていたとは……超越者はこれだから嫌いなのよ。
「ひゃう! えっ!? 何をしたのさリヴェっち! 精霊の繋がりが……嘘」
「いきなりティア達を殺そうとする奴があるか! 反省しろ! バカシル」
「えっ……」
「……」
顔を青くしたティアがガタガタと震えながら、リアのサマタマをぎゅっと抱きしめる。
「リヴェルあなた何者? 私の力を完全に消失させるなんて……まさかトワイライト!?」
「もうそれでいいよ、神よりはましだわ。俺も実験大好きだし」
「ここにある実験機材といい、やっぱり神祖だったのね! 積年の恨みはらさでおくべきか!」
「あっごめん、やっぱ無しで。俺はただのスライムのリヴェルだよ。トワイライトって誰? 知らない子ですね」
そんなうさみちゃんのような目で見ないでよ、興奮するじゃないか。
「悪いとは思ったけど、風の精霊を通して盗み聞ぎさせてもらったわ。そいつがソーマの姫なんでしょ?」
「違うよ? ティアはその姫さんの侍女をしてた娘だ」
ビシッと指をティアに向けて指すが検討違いだぞ? うちの風精霊はいたずら好きだからな。
「話が違うじゃない! あっ、あの子の声が聞こえない。リヴェっち早く治して! 魔力も練れないし、精霊とも切り離されて凄くつらいの……」
「眠らされて国に強制送還されるのと、しばらく反省してそのままでいるのどっちがいい?」
「鬼! 悪魔! やっぱりトワイライトじゃないあなた! 性格がひん曲がりすぎなのよ! クソ親父!」
俺はシルビアに静寂の玉を使う。
口をパクパクとさせるだけで何も聞こえず、涙目で睨んでくるシルビアに苦笑いする。
シルビアがこんな強行な手段を取るほど憎んでいるとはね……ハァ。
「リヴェル貴方は何者なんだい? 始祖様相手にこんな非道をよくもできるもんだよ……」
「世界中どこにでもいる、一般的なスライムですが? そう睨むなってティア……でも事実なんだぞ? 異世界から転生してスライムとして生まれ変わったのが俺。精霊ルビス様に誓って嘘じゃない」
「そんな精霊聞いたことがないのよさ……」
「確かにお前は異世界人の力を持っているな……古代エルフの技術を再現できるなど異質すぎる。いや、それ以上か?」
リアの声はダミ声から男性のイケボに変化している。
「リア様、ジークジオンって言ってみて?」
「黙れ! 真面目に答えろリヴェル。私達の事情を知りすぎているのがそもそもおかしな話なのだ! 何千年前の話だと思っているんだお前は!」
「セシリアの野望をするなら手を貸そうと思ったのに……うーん。全ての星の記憶と繋がれるって言ったら信じる?」
まあ、嘘だけど。
「……もうそれでいい。当たらずとも遠からずな気がしてきた……体がないのに頭痛がする」
シルッち痛いから、エルフ耳を引っ張るんじゃないよ。
あっ丁度いいところにハイエルフの素材があるじゃないか。
流石に今回はお仕置きしないと駄目だ、リアのためにバッサリいくぞ。
「シルっち、罰として髪の毛を貰うぞ? ハイエルフの髪は精霊力も高く色々素材に使えるしな」
声が聞こえないので目力の圧が強いッス! 結局ビビりながら長い後ろ髪を少し切るだけで終わってしまった。
威圧してくるシルビアの口の中にバナナワッフルを入れると圧が消える。
「リアは~え~とソーマ姫様の事な? サリオンを助けてくれたんだから、殺すなんて恩を仇で返すようなもんだぞ?」
【いつ、そいつがサリオンを助けたんだ!】
器用に乱れた魔力を操って、古代エルフ文字を空中で描くシルビア。
「ん? 我が国って違う違う。サリオン・グリムワルトの事だよ」
食べていたワッフルを落として、物凄い勢いで突撃してくるシルビアは俺のスカラに激突する。
【痛~~い! なにすんのよリヴェっち。それより、リオンは無事なの! 早く言いなさい!】
俺を掴もうと結界をガンガンと叩いてくるが、涙が次々に零れ落ち泣き声に代わる……泣くのは反則だぞ、たくっ。
「悪かったよ、少し意地悪が過ぎた。でもお前がリアとティアを殺そうとするからだぞ?」
「うっ……うえぇぇ~~ん! だってあの人が死んじゃったのこいつのせいだもん!」
「ほら、これ食べて落ち着け。緑茶と羊羹だ美味しいぞ? 事情はリアからゆっくり聞けよ」
俺は子供のように泣きじゃくるシルビアを椅子に座らせて背中をさすり、リアに向かってラプラスについて話してやれと告げると、ため息交じりにわかったわと返答が返る。
「じゃーその変な仮面のピエロを見つけてくればいいのね?」
「変ではないです、始祖様。愛嬌があって可愛い仮面です」
「まだ貴方を……いえ、あなたの父親を許してはいませんが夫の件には感謝するわ」
「我が父のしでかした事は重く受け止めて御座います。我が民を、数多くの同胞を救って頂いた勇者殿には感謝の念に堪えません」
あーもう! 言いてえなあ! 全部あいつだってばよ! 君達被害者だってばよ!
「リヴェルは何を百面相してるのさ? お茶入れてあげようか? あたいは紅茶を入れるのが上手いんだよ」
「ん? うちには紅茶がないんだよ、まだジスターブを侵略してないんだ」
「ちょっ! お前、やめろ! 紅茶ぐらいやるからうちの国を侵略するな!」
「ほらリヴェっち、紅茶あげるからいい子にするのよ? まったく……」
空中の魔法陣から様々な種類の紅茶の入った袋が落ちてくる。
俺はわ~いと喜んでリムルコンロにケトルを乗せ、ティーポットを並べる。
「凄い綺麗なポットだね。装飾も凄いじゃないのさ」
「うちの国王様が作ったんだよ、すげーだろ?」
驚いたティアが感心しながら、あとはアタイに任せてと告げる。
俺はモシャスが解ける前にシルビアに使って、ケーキを切り始める。
「リヴェ……リヴェル様はハイエルフになれるのかい?」
「ん? 最近なれるようになったんだよ、見た目が同じなのによくわかるな」
「全然違うよ……精霊力が桁違いじゃないのさ。アタイも元のエルフの姿に戻りたいのよさ」
ハア~とため息をつくティアはケトルを眺めながら呟く。
「元のリーフ、白エルフに戻せるぞ? でもお勧めはしないかな~」
「えっ!? アタイも元の姿にもどれるのかい?」
「……なぜお勧めしないのだ? リヴェル」
「リア……さては無茶な要求や意地悪で言ってると思ってるな?」
沈黙の後に少し遅れて「……違います」と返答が返る。
「リアやティアに他の仲間も元には戻れるが、ジスターブの民はダークエルフのままだぞ?」
「「なんで!!?」」
「真実の姿に戻すことができるアイテムがあるんだが……。ジスターブに住むダークエルフはすでに2世、3世の世代だからダークエルフの種として定着してると思うんだよ。ジスターブに帰って女王として過ごすつもりなら、元に戻るのはお勧めしないぞ?」
「「……」」
「ティア、あなただけでも元の姿に戻りなさい」
「嫌です! 姫様と一緒じゃなきゃアタイは嫌だよ!」
「ダークエルフも呪いなのか、変異なのか、いちど遺伝子を調べてみたいよな」
俺は沸いたケルトを取って紅茶を三人分入れる。
フフン、ジャンピングは得意なんだ! 文化祭で練習しまくったからな。
イチゴのショートケーキと紅茶をテーブルに置いていく。
「あっ! アタイが入れるのに! ……美味しいじゃないのよさ」
「ほんとね、リヴェっちは何をやらせても一級ね。一家に一台リヴェっちだわ」
最近それ流行ってるの?
私の体を早く作れと嫌な念が流れてくるが、片手で払いのける。
「ごちそうさま。それじゃー私は失礼するわね! リヴェルの研究はサリオンが全力でバックアップするわ。だからリオンの肉体もお願いね?」
「いや、だからハイエルフは無理だって! 覚醒勇者も相まって作れるかなんて保証はできないよ。それに肝心なブツがないとどうしようもない。ミスリル銀は貰うけど、貴重なオリハルコンを入手するにも精製するのにも時間がかかるんだ」
「シ、シルビア様、姫様にラスさん、クレイヴさんが先に蘇生……ヒッ」
ティアを睨みつけるシルビアの間に入る。
「先客は姫様と従者からだ! ティアをいじめるんじゃないよ」
「リヴェル様~~! シルビア様怖すぎるんだよ~」
「ありがとうございます。リヴェル……」
フン! と鼻を鳴らしたシルビアが風のように消えた。
ティアを連れて地下室を上がり、廊下に出るとオベーラが溜息をついて庭を眺めていた。
「どうしたのオベーラ?」
「ヴェ……リヴェル様!? いえ、なんでもありません」
慌てて手を振り、仕事に戻ろうとするオベーラを引き留める。
「まあ、待ちなさいよ。ケーキも紅茶もあるから台所にいこう」
「はい……」
「どうしたんでしょうね? オベーラ姐さん」
「さあ? やっと始原がメイドするのはおかしいって気づいてくれたのかもよ?」
俺とティアは小声で話しながら台所に入って行く。
ティアがさっき切り取ったケーキを皿に移して、紅茶をオベーラに淹れている。
「すまんなティア」
「いえいえ」
頬を緩ませてケーキを幸せそうに食べるオベーラ姉御。
「それで? ついにミリムの所へ行く決心がついたのか?」
「はい? ミリム様はほぼ毎日この家にいますが……はっ!? もしや私が何かをしでかしてお暇を出すということですか!!」
「ごめん、何でもないです許してください! 困りごととか、悩み事があるんでしょ?」
「実は……」
う~ん。えっ? 誰?
「ですからコルヌですよ、ヴェルダナーヴァ様に会わせろと煩くて……」
「ピコ、ガラシャ、ニート、オベーラ、ロンゲ、うぇ~い、そういやあと一人いたな」
「誰ですかニートって……まともに始原の名前を呼ぶ気がありませんね? 原初はパッと全員言えるのに酷いです主様!」
「男はどうでもいい。どうせ今後も関わらんし、原初にも関わる気もないからな」
俺は自分のコーヒーをテーブルに置いて椅子に座る。
「色で覚えるのと名前で覚えるのは違うだろ? お前とも関わる気なんてなかったんだから……嘘! 嘘に決まってるじゃないか! 泣くなよ、ほら美味しいマロンケーキもあるぞ」
「そのコルヌって方が神様に会わせろって言ってるんですか? 流石に無茶ですよ姐さん」
「だよね~神は死んだ!」
「縁起でもないこと言わないでください! あとティア、あなたの目の前にいる方が神ですよ?」
ティアが笑いを堪えきれずにプッと噴き出すと、オベーラに絶対零度の視線で睨まれてコクコクと涙目で何度も頷く。
「こら! やめなさいオベーラ! 神を信じなさいの宗教みたいじゃないか、正直に言えばいいじゃん。スライムが神でした~って、たぶんザラリオもコロネ? フェルドうぇーいも鼻で笑うだけだよ」
「うちの長をうぇーいと変なイントネーションで呼ぶのはやめてください……泣きますよ? リヴェル様に心酔してるのですから……あとコルヌです、違う意味で泣きますから覚えてくださいませ主様」
「異界から自由に下界に降りてこれないからどうでもいいわ」
「
「何だと! 絶対に阻止しろ!」
空間がゆがみ、いかつい顔のおっさんが腕を組んで立っていた。
結界も無視して来れるってことは、ワープ系か? やっかいだなコイツ。
「ハア……コルヌ、私の神力を辿ってきたのですか」
「オベーラさん、早くお帰り願って……」
「私の目を欺こうとしても無駄だ。お前だけがヴェルダナーヴァ様の寵愛を受けるなど……主様はどこだ?」
俺は怒られないように、小さい動作で塩をまく。
「あ、貴方がオベーラ姐さんが言ってたコルヌさんですか?」
「囀るな虫けら! 失せろ」
ティアに手を向けた瞬間、俺は金縛りの杖を振る。
「ぐっ!? 何故だ、私の体が動かん」
「囀るな咬ませ犬が……何度もティアを殺されかけて久々にキレちまったぞ?」
俺はエスカリボルグを出して、ファイト一発を飲み干す。
どんなにお前が強かろうが弱体化したうえで、霊力が抜け落ちていく今なら殺せるぞ。
「左手はバイキルト、右手はルカナン。合体魔法バイカナン……これでお前の防御は紙くずだ」
俺は自分にバイキルトx2をしてエスカリボルグをゆっくり構える。
「な、なにをする気だ小娘!! やめろぉぉ~!!」
「消えてなくなれ! アバンストラッシューーーー!!!」
「っ……、お止めください主様。ほら、コルヌも謝るのだ」
チッ……オベーラめ、そんな奴を庇うんじゃねーよ。
神格顕現でセラフィム化した紫髪のオベーラが片手で受け止めコルヌを助ける。
「お前……その姿は……ではこの小娘が?」
「リヴェル様と言わんか馬鹿もんが! 折角お前も元の姿に戻れるように調整していたというのに、勝手に来た挙句……あ~~主様がツーンとしておられる……あれは長引くぞ」
誰がこんなゴリラ元に戻すかよ、知らん早く帰れシッシ!
ティアにマホカンタとスカラをかけて、これでもう大丈夫だろ。
「リヴェル様! ありがとうございます、えへへ」
「何度も怖い目に合わせてすまんなティア」
俺を抱き上げてくるティアの頭を、よしよしと優しく撫でてやるとニヘラと笑ってくれる。
「申し訳ございません! まさかお姿だけでなく力すらお隠しになってるとは思わず……お許し下さいませ」
「くにへかえるんだなコロスケ。お前にも家族がいるだろう」
「主様、コしか合ってません。あと天界にも帰れませんよ」
滝のような涙を流して「お許しを~ヴェルダナーヴァ様」と泣き叫ぶ、見苦しいゴリラをどうするか悩む。
「俺はヴェルダじゃねーよ、リヴェルと呼べ。お前の力って日本に帰れるの? 地球がある世界なんだが」
「おおおぉお許しを~はっ!? 地球でございますか? 今は機械という文明が発達した場所にしか行けません」
「はぁ~~~使えねーな!」
「うおおおおーーん!! あんまりですリヴェル様!!」
汚い泣き声で抱き着こうとするコレヌスにビンタしてから、色々聞きだした。
アルムスバインの世界から別の世界を繋いで、綱渡りしていけば日本に行けそうだな。
こいつの能力は日本に帰りたい子供や、舞衣ちゃんには必要かもしれん。
ユウキ君がいないとはいえ、誰がこっちに召喚されてるかわからんからな。
「ほら、この祈りの指輪を使え。八咫鏡で元に戻してやるよ」
「婚約指輪ですか!? ポッ……」
「殺すぞゴルヌ! あと異世界侵攻は並列存在に適当に行かせて、本体はサマタマで寝てろ。また変異するだけだからな」
「おしい! あと一文字です主様」
こいつにカールの法衣とか地獄絵図だからな。
指輪に触れてうっとりと感動してるゴリラに鏡を向ける。
鏡が砕け散り、ゴルヌの身体が光り輝く。
黒い霧が体中から抜けていき元の姿に戻っていく。
霧が収まると中から緑髪の美しい女性の姿が……はいっ!?
「おおおぉ!!! 私の元の姿に戻れた! あはは! やった!」
「オベーラさん、誰このコルヌさん? 池に落として綺麗な方を引き当てちゃった?」
「何を訳のわからないことをおっしゃるのですか……だから女性ですので名前を憶えてあげてくださいと言ったじゃないですか」
「言ってないよ!! 肝心な女性の部分!!」
オベーラよりも背は少し高い、ボブの外巻きワンカールなボンキュボンがいる。
「主様! ありがとうございます! もう二度とこの姿に戻れないものかと絶望していました……今後も変わらぬ忠誠を貴方様に捧げます」
涙を流して片膝を付くコルヌ様の変わりようにビクビクする。
妖魔化を解くってそういう事なの!? ザラリオやうぇーいも? いやいや、そもそも天使や悪魔は性別なく変身できるはずだ……黒も赤も自由に性別は変えれたはずだし。
「オベーラって男になれるの?」
「なれるとは思いますが……主様からもらった身体を変化させるなど恐れ多いと共に絶対に嫌ですから!!」
「あっ、はい。そりゃそうか、すまんな変なことを聞いて……そりゃコルヌもゴリラは嫌だったろうな」
俺も急に近藤さんで生活しろとか言われたらつれーわ。
こっちの世界の綺麗な近藤さんならいいけど。
「あまり長く顕現してられないんだ、コルヌはサマタマの中に入っていろ。あっ! 並列存在の男の姿作れるか? そいつでばれないようにして戻って欲しいんだが……」
「はい、できますけど……忌々しい奴め!」
「お前だけ戻れるのか! クソッ」
美女と野獣が急に殴り合いの喧嘩を始めてしまう。
並列存在と喧嘩すんなよ! 間に入って止めると俺はコルヌに言う。
「何か一芝居打って消滅を偽装してこいよ。フェルドうぇ~い! にばれないようにするんだぞ? それなら異世界侵攻の役目も続けなくていいだろ」
「「「なるほど!!」」」
「いや、オベーラ様は駄目だぞ? 蟲以外の場所で戦ってるんだろ?」
「……様付で呼んだらもう、髪を洗ってあげませんよ? 主様」
嫌そうな顔をするオベーラは溜息を付いて椅子に座り、マロンケーキを憂鬱そうに食べては幸せそうに頬を緩ます。
オベーラには悪いけど今の地上が、
「この中は姿も見えずに不便です主様!」
「少しの間だけ我慢しろ! 天使は召喚魔法を使用して受肉させるのは簡単だ。ソウルノアで素材さえあればちゃちゃっと冥ちゃんが仕上げてくれる」
「あの~リヴェル様。姫様が先では?」
「あーコルヌ、まずはティアに謝ろうか? それと俺の仲間達も見下すのはやめてくれ」
むむむ、と唸るとコルヌはティアに謝る。
「すまんな小娘、今後は私に話しかけないようにしろ」
「やり直し……減点1な? 減点3になったら男で受肉だ」
「ティア殿! 申し訳なかった! 正直、私は下界の奴らに興味などなく、どう扱えばいいのかわからんのだ……すまない」
「はい、謝罪の言葉を頂きましたのでコルヌさんを許します。私こそ不用意に話しかけてすみませんでした」
ティアが何かを言いたそうにこっちをチラチラと見てくるが、分かってるよリアの事だろ?
「オベーラってすんなり対応してたけど?」
ナプキンで口を拭きながらオベーラは告げる。
「私はヴェルダナーヴァ様とルシア様のお付きをしておりましたので」
なるほどね……。
「はぁ~~伝説の始原の天使が二人もいる国なんて誰にも信じてもらえないよ……リヴェル様、姫様の体は先に作ってくれないの?」
「呪術で乗り移るだけなら適当な女性エルフを作って可能だけど……リアも完全に元の姿に戻りたいだろうし、魂の修復が終わったら本人に聞いてみないとな」
ダーマの神像作ってレベル上げに行かないと、やることがドンドン増えていってないか?
ミスリル銀をサリオンから貰いにいって、オリハルコンを交易で探して、それからエーテルも合成しないと、ブランデーもクロベエに任せきりだから手伝いに行かないといけないし、あー納豆も試食しにいかないとそろそろリリナが怒るだろうし、ラーメンもゴブイチに味見を頼まれて……俺は意識が朦朧として倒れた。