――――――とある魔界の辺境――――――
side:レイン
リヴェルに頼まれた染色を求めて里帰りをしていた頃。
次元門からでた私は辺りを用心深く探り一息つく。
「都合よく、森の奥深くに出れましたね」
鑑定魔法を広範囲に展開し、素材を探し始めることにした。
「食材ばかりで肝心な染料が見つからないわ……確かキノコも染料になったわよね?」
「はい、キノコも乾燥させて粉末にすれば染料になるものがあります。ですが、レイン様が自ら探す必要などありません! あとは私にお任せください」
無理やり付いてきたミソラがテキパキと木箱に食材を詰め込んでいく。
下界に逃げ帰るときに邪魔だから置いてきたというのに……この子はまったく。
「レイン様の領域に帰らないんですか? 眷属に任せれば早いですよ?」
「そんな事をしたら感づかれるでしょうが……いえ、むしろこっちから行く方が面白い?」
ジョーヌの所に行って資源を貰おうかしら? 自分で探すより手っ取り早いわね。
「貴方はここで探していなさい、私はジョーヌの所に行くから」
「ひぇ! ジョーヌ様の所へですか? 危険では……」
私はニヤリと笑うとリヴェルから貰った消え去り草を咀嚼して飲み込んだ。
味がしない? 多少は苦みを予想したのだけれど……。
「フフ、これで大丈夫よ!」
「おお! あの悪辣スライムは道具作りの腕だけは一級ですからね」
私はミソラに危なくなったら青の領域に帰りなさいと告げると、ジョーヌの城まで飛んでいく。
結界をすり抜けるなんて簡単だわ、ジョーヌの城は景観の為に滝が流れているんだもの。
戦って奪ったものを宝物庫に放り込んでいたから、資源置き場も兼ねてるでしょ。
「確か宝物庫は二階の右奥だったはず……」
ジョーヌの配下とすれ違うが誰も私に気が付かない。
ベル様の父親という事を軽く見ていたけど、想像以上だわリヴェル。
私はあいつがヴェルダナーヴァなんて信じてないけど、それ同等の力はあるかもしれないわね。
宝物庫の扉は鍵もかかっておらず、簡単に部屋の中に入れた。
「何よ……武器や鎧ばかりじゃないジョーヌの奴」
古めかしい箱を開けても、フルプレートや呪われた武具が入ってるだけ。
棺を開けてみると、中にはマントや勲章が入っていた。
「駄目ね……ジョーヌは装飾品やドレスにも興味がないし、服も配下の貢ぎ物だけで染色なんて見つかりっこないわ」
腹いせに部屋の壁にギィ・クリムゾン参上! お洒落くらいしろよジョーヌ! と書いて部屋を出る。
ヴィオレやブランとは違ってジョーヌは面白ければ許すところがあるし、何処まで消え去り草が安全なのか試してみましょうか。
ジョーヌは玉座にドカッと座り退屈そうに足をぶらぶらさせていた。
私は小さいテーブルの上にクロヴェを入れたグラスと燻製チーズを置く。
「何だ? これは」
自分の城の中ということもあって警戒もせずにジョーヌは酒を飲む。
「な、な、な、何だこれ! なんだこれ!!」
「どうしたの? ジョーヌ様」
「いや、何でもないぞ。ううぅ~うみゃい!」
独り占めをするために何事もなかったように真顔でエスプリに答えるが、チーズを口に放り込んだジョーヌがあまりの旨さに変な声を上げる。
「何なに? それ私にも下さいよ」
「駄目だ! これは私のだ」
「おお! こいつは旨い!」
「あっ! アゲーラなに勝手に食ってんだてめぇ!」
クッ……勿体ないけど実験には必要経費よ! あとでリヴェルに請求しましょう。
「しかし、これは見たことがない食べ物でござるな」
「お前達が私に持ってきたんじゃないのか?」
「えぇ~違いますよ。わわわわ! このお酒凄くおいしいっす!」
「あぁ! もう無いじゃないか! どうするんだよ!」
これは凄いわ……ジョーヌに気が付かれないなら大したものよリヴェル。
三人で口論している途中でアゲーラの口の中にサケジャーキーを咥えさせる。
「これは、なかなか……」
「あーー! お前だけ何食ってんだよ!」
「ずるいぞアゲーはむはむ。わお~これお酒に合うかも~」
ついでにエスプリの口にもジャーキーを差し込む。
「やっぱりお前達が持ってきてたんじゃないか! 早くよこせ! あの香りと旨味が詰まった……うみゃい! そうそうこれだよ!」
最後にジョーヌの口に燻製チーズを放り込むと、テーブルの上にヴェルドラ殺しを一杯だけ入れて私は細く笑む。
良いことしたあとは気持ちがいいわね!
争う三人を後に私はヴィオレのところへ向かうことにした。
ヴィオレは色々と毒の植物も揃えてるから染色もありそうだわ。
「城全体に強固な結界が張ってあるわね、ヴィオレが相手だと少し壊すだけでも面倒だわ」
私は地下の水脈から城の中に潜入する。
庭園には様々な植物が置いてあり、予想通りお目当ての染色素材も沢山置いてあった。
壺の中に小分けして入れていく、乾燥された草や花も粉末で仕分けされているようだ。
あとはブランのところで鉱石を手に入れたら帰りましょうか。
「これぐらいで十分ね、ヴィオレのおかげで大体揃ったわ」
「へぇ~ボクのおかげでねぇ~? ノコノコとやってきたと思ったら盗みを働くとはいい度胸じゃんレイン?」
ニコニコと笑顔のヴィオレが庭園の噴水に腰を掛けて私に問いかけてきた。
「え? 貴方私が見えているのですか?」
「ハア~? 何を馬鹿なこと言ってるんだよ、堂々と姿を見せて盗みをしてるじゃないか」
シマッタ!? 効果時間が1時間しかないことを忘れていたわ!
「取引しましょう、ヴィオレ。美味しい酒もありますよ?」
「やだね! 私の城に許可なく侵入したお前を許すわけがないだろ!」
口ではああ言ってるが、庭園を破壊したくないのかいつもの爆炎が飛んでこない。
私はチャンスとばかりに噴水に飛び込み、地下へ逃げようとする。
「それでは失礼します、ヴィオレ! お詫びはまた今度ね」
「逃がすか!!」
噴水を地面事黒炎で巻き上げ、拳に毒を纏わせ殴りかかってくる。
「あーもう、綺麗な庭園が滅茶苦茶じゃない……」
「よくも私のお気に入りの庭園を! お前のせいだぞレイン!」
周囲に結界を張って被害を最小限に抑えたつもりが、空に巻き上げた噴水台の瓦礫は次々に庭園に突き刺さっていく。
涙目で殴り掛かってくるヴィオレを水のヴェールで受け止め流す。
「いや、あなたが自分でやったんでしょうに……喧嘩をしに来たわけじゃないのよ引いてくれないヴィオレ?」
「お前とギィやミザリーも受肉してずるいぞ! ボクだって頑張ってるのに、さぁ!!」
お互いの
「戦闘中に随分と余裕じゃないか! 舐めやがっ……へっ? 一体どこに隠れたレイン!?」
気配もまったく掴めないのはさぞ不気味でしょうね。
すみませんがヴィオレ、これで失礼しますよ。
氷結地獄のおかげで濃い霧が発生しているので、結界を魔法で破壊して逃走する。
「そこかっ!
結界が割れた方へ魔法が発動するが……残念、そっちはミストですヴィオレ。
私は噴水の残骸から地下へ降りる。
「だと思った……急に気配が現れたからおかしいと思ったんだよ。姿や気配が掴めないのは流石のボクも焦ったけどね」
「しつこい女は嫌われますよ?」
「水に溶けてる間は気配が漏れるみたいだね? レインの行動パターンなんてボクにはお見通しなんだから」
クスクスと楽しそうに笑うヴィオレは用心深く魔法を展開していく。
地下水を組み上げる為のトンネルで待ち伏せしたヴィオレが、狭い空間に毒を散布し充満させていく。
「これは使いたくなかったんですが……水がある場所で私を追いかける方が悪いのです!」
「チッ!! これは毒? 違う……これは!? あんた何てモノを扱ってるのよ!!」
「
逃げろとの言葉とは裏腹に相手を渦に引き込む青の奔流。
「グアッ!! ああつつつ! お前、こんな力をどこで! 覚えていろよレイン!」
私の言葉を聞いていち早く離脱したおかげで軽傷、いやかなり重症だが……違うの! これはリヴェルが悪いのよヴィオレ!
私は逃げ去ったヴィオレに謝罪のメッセージとリヴェルからくすねた魔法の聖水、チーズケーキを氷の箱に仕舞って置いていく。
魔法の聖水があれば肉体を損傷したダメージもすぐに元に戻るでしょう。
「ハア~~もうブランお姉様のところにいくのはやめようかしら? 苦手なのよね、お姉様は」
気乗りはしないが仕事はキッチリこなさないとまたミザリーに怒られ……ハア~弱気は駄目よレイン!
ヴィオレの件での失敗もあり、私はブランの城前で草をはむ。
自信の表れか城に結界なんて張ってないから、堂々と姿を消して中に入ってやったわ!
ビクビクしながらお姉様に見つからないように倉庫へ行くと、口紅や化粧品の為に精製済みの染料が見つかった。
「やっぱり来て正解ね、ブランお姉様の所はなんでも揃ってるわ」
画材に使う絵の具もあるわね、少しもらっておきましょうか……おぉ、この筆は穂先が綺麗に整って毛先が柔らかく高級品ね。
どうしましょう? こんなにも品を頂いて、流石にお姉様の顔くらいは見に行かないと無作法かしら?
私は玉座に行くと退屈そうにシエンに爪を磨かせているお姉様を見つけた。
配下のモスは食器をかたずけている最中だ。
ブランお姉様! 画材と筆と染色と髪飾りと宝石をありがとうございました!
よし、お礼も言ったし帰ろう。
「待ちなさい」
ピヨッ!?
「はい、なんでしょうか? ブラン様」
何よ! モスを呼んだのね! ビビらせないでよ、お姉様!
「ヴィオレの城が襲撃されたらしいわね? 情報は?」
「分身が探ったところ原初同士の争いと判断いたしました」
「飽きもせずによくやるわね」
早すぎでしょモス! どんな情報網があれば数分前の状況が掴めるのよ!
クスクスと笑うお姉様にいたずら心が沸いた私は、モスを懲らしめるための策を思いつく。
私の予想だとかなり強い認識阻害も働いているわ。自然に、無心でやればいけるはず!
「ブフォ……ごほん、申し訳ございません」
「何よモス? 突然せき込んで」
私はお姉様の髪を垂直立ちに仕上げる。
シエンは研ぎ終わった後にお姉様を見て、自分の指を折って耐えていた。
困惑するお姉様の髪の毛を三つ編みでリボンだらけに変えていく。
「その……ブラン様、これはお遊びでしょうか?」
「ええ、あの子達のいつものじゃれ合いでしょうね」
違う、そうじゃない! 貴方のことですよぉ! と言いたげなモスをニヤニヤ見つめる私。
私はお姉様の髪をとぐろに巻いていく。
モスは耐えきれずに噴き出すと、お姉様の折檻で片足が吹き飛ぶ。
「グアァッ! 申し訳ございません! ブラン様!」
「何がそんなに可笑しいのかしらモス? シエン、貴方までなに自分の両目を潰してるのよ……」
よし、ブランお姉様の髪の毛を元に戻したし帰ろう。
そのあとは黒には見つかるし、ミソラは足手まといになるしで聖水と魔法薬は全部使い切ってしまった。
フフン! 黒の奴、いつもの余裕顔も驚愕に変えてやったしスカッとしたわ! ざまーみろ!
レイン様のお帰りよ! 酒とお菓子を所望するわリヴェル!
――――――カザリームの居城跡地―――――
side:クレイマン
「魔力灯が付いている? 誰かが訪れていたようだな……」
外壁は崩れて残骸が残っている状態だが、中は綺麗に清掃もされている。
「ふむ……レオンの配下が? いや、魔王になったあいつが協定を破ると思えない」
私は使い魔を放ち、塔を隈なく調べさせることにする。
すると報告に一点奇妙な場所が見つかった。
安全を確認したのちに地下へ続く階段を下りていく。
「確かにここだけ真新しい壁だな……フッ!」
土魔法で壁を砂に戻すが、中は短い通路だけで何もなかった。
「ハズレか……手掛かりくらいは欲しかったのだがね」
帽子を深くかぶり直し、嘆息しながら塔をでる。
ここにいないとなるとだいぶ候補が絞られてきたな……やはりカリュブディスを操り航空戦力を量産する実験を完成させなくては……。
フレイにバレると厄介です、恩を着せるつもりでしたが前倒しが必要ですね。
「クレイマン様~申し訳ございません!」
「離しやがれ! クソ!」
私が調査を終える間、森の守護者を引き付ける役目を任せたヤムザがあっさりと捕まり。
何故かスライムの所へスカウトに向かわせたはずのミュウランが、ヤムザと同じようにツタに絡まっていた。
「ハア……何をやっているのだお前達は」
「申し訳ございません……お一人で行かれたと聞いて心配になり」
「すまねークレイマン様。森の守護者がこんなに強いとは思わなかったんだ……」
「貴方が首謀者ですか? ここは立ち入り禁止のはずです」
私は帽子を取って頭を下げる。
「申し訳ない守護者殿、我が主のカザリーム様の行方を捜してここへ来ただけなのだ。結局無駄足だったのだがね……もう大森林には踏み入れんから二人を放してもらえないだろうか?」
「そう、あなたも……わかりました。今回は許します」
「帰るぞお前達、それでは失礼する守護者殿」
「けっ! 覚えてやがれ木女! ぎゃああーーーーーー!!」
まったく、余計な手間を取らせるんじゃない。
人形の傀儡に気絶したヤムザを運ばせる。
早く城に帰って計画を進めなくては……そうだった。
「ミュウラン、貴方はスカウトのフリだけでいいですから、あのスライムの街へ行きなさい。貴方がいかないと他の魔王達に怪しまれてしまいますからね」
「私はクレイマン様のお役に!」
「たっていますよ……ティアを死なせたのは私の責任です。仕事が山済みなのだから早く済ませて帰還しなさい、いいですね?」
「はい……クレイマン様」
私もティアを失って少し感傷的になっているのかもしれないな……。
フットマンやラプラスの二人がかりでもレオンには勝てなかった、その戦いにお前が加わろうが結果は変わりはしないのだミュウラン。
伸縮性の糸を操り木に括り付けヤムザと傀儡を上空へ飛ばす。
「障壁は張ってはあるが、運が悪ければ骨の数本は覚悟するんだなヤムザ。フフフ」
自身も糸と風魔法を駆使して上空で加速し、森を抜けるために飛距離を稼ぐ。
「強くならなくては、魔王レオンと張り合うくらいにはね!」
森を抜けだしたところで傘を広げてゆっくりと降下する。
その瞬間に森の方から懐かしいティアドロップの気配がした。
「なっ!? ティア! 生きていたのか!」
私は急いで森へ戻ろうとするが、続いて待ち望んだ主の気配が……おぉ、なんという奇跡。
「魔王である私も神に感謝をするべきでしょうか……」
『うぅぅおぉ! クレイマン! ティア生ぎでだ! よがっだよぉ!』
『ええ、フットマン。ティアだけじゃありませんよ、カザリーム様も生きておられます……だがすぐに気配が消えました』
『ティアが生きとったと思ったら会長もやないか! はよう助けに行こうやクレイマン』
『チッ……魔王同士の約束がここで邪魔するとはな。ミリムを怒らすわけにはいきません、丁度ミュウランが向かっていますので情報収集を任せましょう』
涙声で俺は助けに行くというフットマンを何とか抑え、私はミュウランに連絡する。
『予定変更だミュウラン! スカウトは一旦中止でスライムの街へ潜入調査をお願いします。目的はティアの生存の確認とカザリーム様の行方を捜索してください!』
『テ、ティア様が生きておられたのですか!? カザリーム様も……わかりました、お任せください! ですがもし捉えられていた場合、私だけでは救出は不可能です。申し訳ございません』
『ええ、業腹ですが捕らえられていた場合は我々も動きますから陽動で構いません。フットマンも暴れますから火をつけるなりしたらお前はすぐに逃げなさい』
『畏まりました』
ああ、いらつく! レオンの奴の言った通りではないか……最初から隠したりなどしていなかったのだ。
私に嘘も一切ついていない……元はといえばレオンの所為だがティアもカザリーム様も生きていたのは事実。
アイツを敵に回す行動をとりすぎているな、修正しなければ。
『まずい! フットマン、カリュブディスの核は今どこに?』
『あの紅玉でしたか? そいつで死んだ兵や馬を食わせて主核は育て切ったから小核は森に捨ててきましたよ?』
『適当にって言いましてけど! 人間国に適当に放り込んで魂を回収する手はずでしょ! 森に適当に捨てるんじゃない!』
『なんや、別にかまへんやん。そのスライムが対処に追われてる間にティアと会長助けたら』
ティアがいないと仕事が大雑把すぎるんですよ貴方は……。
宿主に宿ったカリュブディスを蟲を寄生させて操る計画をフットマン! 貴方、魂も手に入れてお得ですよって人間国で使う案を出してきた本人だろう!!
『あぁ~もう! 回収を急いでください! 四方八方に喧嘩を売るのはまずいんですよ……カザリーム様やティアの命をそのスライムに握られていたらどうするんですか!』
しかも森にはミリム、フレイ、カリオンの配下がいるかもしれないんですよ……カリュブディスを持ち込んだ事がバレたら非常にまずい。
回収が間に合わない場合は封印に失敗したと言い、破壊した主核を持参して詫びましょう。
もうカリュブディスは必要ありませんしね……。
――――――ドワルゴンの街道――――――
side:リムル
「いや~助かったよトルネコさん」
「違いますよ、リムルさん。トルネゴです! もう何回目ですか……さては私の名前を覚える気がないですな?」
国に帰る途中の馬車に乗せてもらい、お礼に護衛を引き受けることにしたんだ。
ランガをリヴェルに預けた後に、武装国家ドワルゴンにたどり着いた俺達三人は冒険者ギルドに立ち寄った。
ドワルゴンの冒険者ギルドに寄ると、依頼に探し魔物のリヴェルと書いてあった紙を見つける。
依頼を引き受けて商人に会うと、トルネゴさんだったと言うわけだ。
ジュラの森で急に取引ができなくなってしまい、リヴェルに相談をしようとドワルゴンへ通っていたが、結局会えずじまいだったみたい。
「おなごだけで旅とは拙者は感心せんがな……」
騎士の風貌をしたこの人の名前はライヤンさん。
世界中を旅しているようで今回はトルネゴさんの護衛をしているようだ。
「こうみえても俺達は強いんで、心配無用だよライアンさん」
「ライヤンだ……もう文化的違いでござろうか? わざと間違えて人の名を呼ぶのは失礼で感心せんぞリムル?」
「そうですよリムル様、わざと間違って呼んでいますよね? いけませんよ」
「お腹がすきましたリムル様~」
いや~リヴェルの気持ちがわかるわ~。
一文字だけわざわざ変えて呼ぶ方がモヤモヤするもんな。
俺はシオンに大量にストックしてあるワッフルを食べさせる。
「ごめんなさい、でもあだなという事で許してよ。トルネコさんもライアンさんもそっちの方が呼びやすいんだよ」
二人は苦笑いし、了承してくれた。
オーブが世界に混入したみたいに登場人物がこの世界に混ざったという事か、特にイベントもなく世界の一員として存在してるだけだから関わるか、関わらないかは俺達次第だとリヴェルが言ってたな。
「ライアンさんは世界中を旅しているんだよな? 何か目的があるの?」
「うむ、勇者を探しておるのだ」
「ブフォ! げほっ! げほっ……ごめん。何で勇者を?」
俺はオレンジジュースを噴き出してしまい、シュナに怒られながらライヤンに問い返す。
「魔王の数に対して勇者が圧倒的に足りていないからだ、このままでは人類が滅びてしまうかもしれん……我が王が勇者を見つけ守れとワシに命じたのだ」
「あー勇者の卵を持ってる人はいるけど、覚醒する勇者ってほぼいないもんな」
確か調停者の魔王が皇帝と戦うための駒として魔王を戦力としてるから、間引くどころか増えるのを容認してるんだよな? 駄目だろ……調停者。
今の人類の境遇に魔王の脅威も合わさったら、人間側としたら勇者量産したいわな……現状、魔王10に対して勇者2だし。
「然り……レオンは魔に堕ち、グランベル様は高齢で一線を退かれておられるし、皇帝ルドラもここ数百年勇者の活動はしておらんでござるからな。次世代の勇者が必要なのだ、我々には……」
《告。マスターが勇者に覚醒すれば人類の希望となることは間違いないでしょう》
なりません! 世界のバランスが機能しているなら俺以外にも勇者は生まれてくるだろ、偏り酷いし。
「シュナ……ニコニコとわかっていますよ的な笑顔やめてくれない? 俺はならないよ?」
「そうだと良いですね、ふふふ」
「8人……」
「いや木の上に隠れている者を併せて10人だ、シオン殿」
シオンとライヤンさんが前方の通路で待ち伏せを察知する。
盗賊? でも見た目が傭兵ぽいな。
「止まれ商人! 食料を置いていけば手荒な真似はしない!」
「食料はドワルゴンで売り払いました! 武具を仕入れて帰るところです!」
「チッ! 念のために荷物は見させてもらう」
「おいおい、綺麗な女じゃねーか……グボぉ」
ライヤンさんがシオンとシュナに近づこうとした傭兵二人を素早く剣の柄で気絶させる。
「危ないところでござったなおぬしら……危うく首がなくなるところでござるよ」
大剣を抜こうとしていたシオンは鯉口をチンと鳴らして鞘に納め、つまらなそうに口を尖らす。
「てめぇ! 何しやがる」
「待て、お前達! ヨウムさんは食料だけを奪えと言っていた! 変な気を起こすんじゃない!」
仲間がやられたことで激高した男達がライヤンに襲い掛かろうとしたが、ハゲ頭の男が一喝してその場を収める。
へぇ~ライヤンさんも一人旅してるだけあって強いね。
《解。個体名ライヤンは仙人に進化しています。かなりの実力を持っていると推測されます》
ああ、どうりで……ライヤンさんやけに若いと思ったんだ。
「おいおい、こいつは何の騒ぎだ? 金は後払いにはなるが借用書を渡せと言っただろ」
ボサボサ頭の青年がめんどくさそうに俺達の前に顔を出した。
「そいつはすまねぇ商人の旦那! 亜人の姉さん方も申し訳なかった! ほら、謝れおまえらも」
「「すいやせんでした!!」」
まあ、鬼人であって正式にはまだ亜人認定はもらっていないんだけど別にいいか。
「まあ、酒ならありますけど……食料は本当に全部売ってしまったのでないんですよヨウムさん」
「そいつはまいったな……オークロードの噂が流れた所為で商人が通らなくなってんだ」
「ふむ、ヨウム君。事情を話してみ? 何か俺が力になれるかもよ?」
「あん? いや、お嬢ちゃんに頼るほど落ちぶれちゃいねーよ」
俺はスキルから小麦と果物に野菜の入った箱をドサドサっと置いていく。
「で? ヨウム君、俺に事情を話す気になった?」
口をあんぐりと開けて固まっていたヨウムが、目頭を押さえて事情を話してくれた。
マイガム伯爵とやらがオークロードを調査ねぇ……。
傭兵団を率いて調査にのりだした? でもこの規模はおかしいよな? 1000人はいるぞ。
《否。正確には1762人です》
へいへい、どうもありがとうございました~。
「なんで農民や女子供もまじってるんだ?」
「重税や食い物が足りなくて盗賊をしていた奴に、村を追い出された人とか色々集まってきちまったんだよ……俺も最初は30人くらいで調査なんて放り出して大国でこいつらと冒険者でもしようと思っていたんだが」
「断るに断れず、いつのまにか反乱軍のリーダーになってたと……馬鹿だねぇ」
「うるせえな! こんな俺でも国を愛してるし、今の貴族は腐りすぎているんだからしょーがねーだろ!」
こんな状況でオークロードの調査なんてできる訳もなく、オークロードの脅威より現状の窮状の解決の方が先になったわけだ。
「ちなみにオークロードは俺達が討伐したから安心しろ」
「は? 何を馬鹿……なことでもなさそうだよな」
いや、ライヤンさんを見ても一切関わってないからなこの人。
「ぬおおおおおおぉぉーーーーーどりゃああああああ!!」
難民達が使う薪がないという事で、ライヤンさんが大木を次々に斬り刻んで薪に変えている。
シュナが斬った薪を魔法で水分を抜いて民に配り始めた。
トルネゴさんも人がいいのか安酒だが無料で提供している。
「さて、どうしたものか……結局、俺もリヴェルみたいに厄介ごとに巻き込まれてるから相談しにくいぞ」
さんざん悩んだ挙句、結局リヴェルに丸投げする俺であった……。