「「乾杯!」」
俺とリムルは建国記念を祝おうと、二人だけでリムルの執務室に来ていた。
「ハア~~旨い……。星、これ本当に1本しかないの?」
「味わって飲めよ悟? 熟成しない方でも一年は飲めないからな」
お代わりで自分の分を多めに入れようとする悟の手をペシッと叩く。
「いや~この半年色々あったなぁ~」
数ある料理の皿から、ポテチを手に取って齧りながらリムルは呟く。
「そうだな……牙狼族の襲来、リムルの投獄、イリーナの救出、オークロード事件、ミリムの突撃訪問、リムル王国の建国か」
「あれは無実の罪で取り調べを受けたの! リムル王国好きだよなお前……他で呼んで定着させる気じゃないだろうな?」
ギロリと睨んでくるリムルの目の前に羽根つき餃子を置いてやる。
「ジュラ・テンペスト連邦国は長いんだって、ワイン切れたらちゃんぽんにはなるけどクロヴェでいいだろ?」
「ういうい、レモン入れてハイボールにしてくれよ」
ハイボールを入れたあとにレモンを輪切りにして、好きに追加できるようにリムルの前に置く。
「オーガの里の神社はいつ頃完成しそうなんだ? リヴェル」
「今年の秋かな? 正月の初詣には間に合いそうだよ」
「じゃーあとは夏定番のアレをしないとだな」
「お祭りなぁ……」
俺も祭りは楽しみたいがエレン、イリーナは姫君だ。
万が一があったら非常にまずい。
別荘の下見を口実に頻繁に遊びに来るイリーナと、冒険者の拠点をテンペストに変えたエレンが入り浸っているんだ。
リムルの結界があるとはいえ、うちは警備体制がまだ整ってないからな。
おまけにガゼル兄貴やエルさんまでお忍びで来る事になったらと思うと胃が痛いぞ。
娘が世話になっていますと良い笑顔のエラルドさんが来ても困るしな……。
「どうしたんだリヴェル? 変な顔して、お祭りは嫌か? まあ、花火がしょぼいもんしか作れなかったしな」
「ん? いや、花火ならお前の魔法で派手に打ち上げたらいいじゃん。大賢者さんの計算もありゃ~見ごたえのあるもの作れそうだぞ?」
「おお! 確かに! 花火は火薬と変にこだわりすぎてたな」
ミリムの
ドワーフも花火は祝砲とか空砲で、お祭り用の見て楽しむ花火という火薬の発想がそもそもなかったようだ。
あれこれ試行錯誤を繰り返してドワーフ達は楽しそうだから、いつかは星も改良して面白い花火玉が作れそうだけどな。
「依頼に提灯作りとのれん作りも出しとくか、そうすりゃ子供達も祭りで色々と買い食いできるだろう」
学校はまだないけど、通貨の意味や貨幣の使い方を子供の時分になんとなくでも学べるのは大切だからな。
「冒険者ギルドって魔物を狩るのが仕事と思ってたけど、便利に使ってるよなお前」
「ファンタジーの冒険者ギルドが殺伐としすぎてるんだろ……街のなんでも屋さんが市民に好かれていいポジションだと思うぞ」
ハイボールをチビチビ飲みながらリムルは呟く。
「なあ、リヴェル。俺達ってずっとこのまま老いないのかな?」
「あぁ~成長して大人になっても、女のままだと娼館に行けないもんな」
「ち、違うわ馬鹿タレ! 寿命があるのかなって話だ」
「あれ? そっち? 俺達は寿命がないから不老だぞ?」
ピシッと岩のように固まってしまうリムル。
なんだ? 悟の奴、スライムの平均寿命が気になって自分の寿命を調べなかったのか?
魂の回廊でヴェルドラと繋がってる限り、このスライムの肉体には寿命がないってことを。
正直、俺はこの幼児からちゃんと成長できることの方が心配だわ……。
「ハッ!? まじで!?」
「うん、ヴェルドラの兄弟になったんだから当たり前だろ?」
「当り前じゃねーよ! 確かに暴風竜さんはラスボスみたいな兄弟だけど!」
「いやいや悟くん、ヴェルドラ兄さんは創造神の弟ですよ? そんな竜と兄弟に為って寿命なんてあるわけないじゃん」
眉間を指でつまみ、何度も揉み解して悩むリムル。
「いや、まあ……そう言われたら返す言葉もないんだが」
「そもそも生まれからして俺達まともな魔物じゃねーからな」
「お前は怖くないのか? ミリムもその、なんだ。一番別れが怖いって……」
「少なくとも俺はお前とヴェルドラがずっと一緒だからな。長兄様に至っては不老不死だぞ」
俺がケラケラと笑うと、リムルもお前らしいなと笑い返してきた。
酒が進み、昔話を交えながら他愛もない話をして笑い合う。
ほろ酔いになってきたところでシエルさんにラリホー草を使われて眠るリムル。
未来の話をコイツにしても、本当にその流れがくるかなんて怪しいもんだ。
「ケセラセラってね……」
気持ちよさそうに眠るリムルを眺めながら、俺もクロヴェをストレートでクイッと煽ると横になった。
早朝にリムルから体をゆすられて起こされる。
「起きろリヴェル。祭りの用意をするからお前も手伝ってくれ」
リムルは盆踊りをする櫓の建設の為にカイジンの所に行くそうだ。
「おはようリムル。ふぁ~~じゃー俺は屋台の料理だけでいいんだな?」
「おう、ゴブイチの所に行ってくれ! 祭りの料理を総括しているからな」
ランガの背に乗り、部屋を出ていくリムルを見送る。
体内に保存してあるモシャスで鬼人になると欠伸を噛み殺しながら、3階の執務室の窓から飛び出す。
空中の足場に次元門を出現させて、ゴブイチの食堂まで駆け抜ける。
「焼きトウモロコシ、綿飴、りんご飴、かき氷、たこ焼き、焼きそば、ベビーカステラ、チョコバナナはチョコがねえな……おわっ!?」
空中で誰かに抱きとめられたようだ。
「旦那様ゲットですわ! 昨夜はリヴェル様が家にいなくて寂しかったです!」
「心臓に悪いからやめてくれよ茜……男同士で飲み明かすぐらい良いだろう別に?」
スリスリと頬をくっつけて嬉しそうに笑う茜さん。
「なにやら食べ物の名前を呟いていたのが耳に入ったものでつい……うふふ」
食べても太らないから試食係には丁度いいか。
「祭りの屋台で作るものを考えていたんだよ、ゴブイチの所で色々作るから付いてくるか?」
「是非!! じゃー葵やハヤテも呼んできますね」
「昼に呼べば? 朝から色々作って食べれるのって茜ぐらいだぞ」
俺は茜に頬を抓られるが、事実なんだから仕方ないだろ!
葵も食べれますよ! とプンスコ怒って妹を捕まえに行く姉。
ゴブイチの食堂に入ると、朝から醤油のよい匂いが漂っていた。
「あっリヴェル様じゃないっすか、ゴブイチと料理を作るんっすか?」
「プハーうめぇ~腕をあげたなゴブイチ。おぉ~リヴェル様、おはようございます」
ゴブタとゴブゾウが仲良く朝から、ラーメンを試食していた。
「うん、色々作る予定だぞゴブタ。ゴブゾウおはよう、お前達も食べていくか?」
「いや~流石に朝からは無理っすよ、茜さんじゃあるまいし」
「んだ、んだ。茜さんみたいに沢山腹に入れてたらオラ倒れちまうだよ」
ワハハと笑う二人の後ろに赤鬼がいた……。
「すみません、リヴェル様。葵はレインさんと、のれんや垂れ幕に祭りの文字や絵を書いてるそうで来れないみたいです」
「じゃー二人にあとで差し入れ持って行ってやってよ」
仕事があるのに床に倒れ伏す二人を見つけ「サボって寝るな!」とリリナに引きずられていく哀れな羊を見送る。
ゴブイチがコクコクと身振り手振りで俺に伝えてくる。
「醤油ラーメンに合うスープが中々決まらなくて難しいって? どれどれ……醤油が主張しすぎだなって! ゴブイチ、お前まだエルフ産醤油使ってるじゃん! あれ柑橘強くてダメだって」
「いやいや、なんでコクコクと顔と左手を動かすだけで、ゴブイチと会話が成立してるんですかリヴェル様!」
「むしろ料理の事になると早口になるから困るんだよな~ゴブイチは」
照れて頭をかくゴブイチに、意味が分からないという顔をする茜。
ゴブイチはコクコクと俺と会話しながら、楽しそうに包丁でネギを刻む。
「とりあえずソウエイが作った醤油を使いなよ、まずはシンプルに魚と昆布のダシでいいんじゃない? 俺は鶏ガラ派だけど、そうそうキノコもいいよね。へぇ~スパイダーの……いいんじゃないか?」
「男同士通じ合うモノでもあるのかしら? ありがとうゴブイチ、いただくわね」
茜の目の前に静かに醤油ラーメンを置くゴブイチ。
最初にスープを味わい、メンを啜って嬉しそうに片頬を抑える。
「うん、優しい味わいなのにしっかりとスープが麺に絡んで凄く美味しいわ」
「もう少し、醤油を入れようか。ダシが勝ちすぎてる、薬味を追加していくか……おろし生姜。あれ? エルフ産の醤油も組み合わせ次第で悪くないじゃん」
真剣な表情で醤油を少しずつ足していくゴブイチ。
いかん、いかん。ゴブイチとラーメンを試作してる場合じゃない! 祭りの用意しなきゃ!
「ラーメンに夢中になりすぎだって! ゴブイチはたこ焼き作るんじゃないのか?」
あっ!? という顔をして慌ててタコ焼き用の鉄板を用意するゴブイチ。
俺は試作していた魔道具の綿菓子機をセットする。
ザラメを入れてスイッチを押して、クルクルと棒で綿を巻き取っていく。
「うん、美味しいより懐かしさが勝つな……大人になったら食べなくなったんだよねぇ」
「何ですかそれ? 私にも味見させてくださいよリヴェル様」
「はい、どうぞ」
俺は手で千切って食べたので、残りを茜に全部渡す。
「うわ~なんか凄い触感! 雲を食べてるみたいですわ」
「ん? ゴブイチも欲しいのか? はい、どうぞ」
俺はゴブイチに綿菓子を渡すと、ゴブイチのたこ焼き鉄板の横でベビーカステラを焼く。
「トッピングにチョコが欲しいけど仕方ない、メイプルシロップとカスタードでいいか」
「うん、たこ焼きとあんま変わんないだろ? ふたにして最後にピックでくるっとするだけ、簡単だろ?」
ゴブイチがタコ焼きのついでにやるから任せてというので、出来立てを道具にしまっていく。
祭りが開始されたら、保温機能のある箱に移せばいいだけだからな。
「これは、何個も食べちゃう味ですね。飽きませんわ」
焼きそばを塩と醤油で茜に味見をしてもらい、デザートにりんご飴をコーティングしていく。
続いてとうもろこしに砂糖醤油を付けてクルクル回して焼いてると、お兄様が入り口から恨めしそうに見ていたので渡す。
「すまんな、シュナのプリンに手を出してしまって朝飯が食えなかったんだ。焼いただけなのに旨いなこれ……」
「ほら、りんご飴も食うか? イケメンがそれ持って食べ歩いてるとシュールだけど」
シュール? と不思議そうに首を傾げるが、気にせず嬉しそうにりんご飴を頬張りながら去っていくベニマル。
『リムル、食べ物関係の屋台は用意できそうだ。金魚すくいとか射的はどうするんだ?』
『リグルとゴブキュウが担当してるから大丈夫だぞ? 手が空いてるなら屋台を設置するの手伝ってくれよ』
『あいよ、今行くわ』
「茜、ゴブイチ! 俺は屋台の設置をしてくるから」
ゴブイチは頭を下げ、茜は焼きそばを食べながら手を振っていた。
屋台を貰おうと鍛冶屋を尋ねる。
「カイジンいる? あれ? ミルドだけ?」
「……」
「へーそうなんだ、屋台を引き取りに来たけどできてるのかな?」
「……」
「裏庭ね、ほいほい」
「いや……なんでリヴェル様はミルド君の言葉がわかるだべよ……」
丁度、裏庭からクロベエが出てきた。
屋台を作り終えたところみたいだな。
「おっクロベエじゃん、鬼の祭りって何やってたの?」
「疑問を無視しないでほしいだべ……酒飲んで、肉食って、踊るくらいだべか?」
「日本昔話で出てきそうな光景だな……じゃー別にオーガの風習を取り入れなくていいか」
俺は裏庭で屋台を全部仕舞ったあと、中央広場へ向かう。
そこには地面にわかりやすく、屋台番号が書かれていたので順番に置いていく。
「探しましたぞ、リヴェル殿」
「あれ? そちらの商人の方が来るとばかり、お久しぶりですミッドレイさん」
「ご無沙汰しております、リヴェル殿」
竜の都の交易は商人が来るんじゃないのか? 神官長が全部取り仕切るって言っても重労働すぎでしょ。
「ハハハ、最初の交渉は私が行いたかったものですから。塩の件もありますし……面目ない」
「いえいえ、ミリム様が必要なら仕方ありませんよ。肉と塩の交換でよろしいですか?」
勝手に持って行くのは駄目だけど自国が塩不足だったから仕方ないよな。
「ハァ~本当に申し訳ない。水や食料、そのうえ塩まで援助いただき感謝に堪えませぬ」
「こちらも香辛料に、鉱物資源、かん水に果物など色々と交換できますからね。お気になさらず」
俺は取引の商品を書いた紙をミッドレイさんに渡すと、静かに読み始めたので屋台の前にテーブルと椅子を置く。
「どうぞこちらへ、飲み物はお酒がいいですか?」
「いえ、あのシュワっとしたレモン水でお願いできますかな?」
俺は炭酸レモンをテーブルに置くと、ミッドレイさんに竜の都の鉱物資源リストを渡される。
へー金と銀にミスリルも……これって。
「アダマンタイトってオリハルコンなみに貴重な金属じゃないですか!」
「そう言われていますが……加工できる職人がいてこそ意味がありますからな。現状、我が国では物凄く硬い石という認識しかないのですよ」
「……そりゃそうか。でも、これ凄く欲しいです!」
もしかするとオリハルコンの代用に仕えるかもしれないぞ!
「それはこちらとしても助かります。ぜひお願いしますよリヴェル殿」
お互いの欲しいものをリストアップし、次元門で商品を交換し合う。
「便利ですな次元門は……ですが」
「わかっています、緊急時にしか使いませんよ。被害にあった竜の民には緊急でしょ?」
ミッドレイさんは頭を軽くたたき、ワハハと笑う。
「職業柄、説教くさくていけませんな」
「ご忠告感謝いたします。世界の物流を根本から変えるようなことはいたしません……リムル以外はね」
最後の俺の小声はミッドレイさんに届かず、風に掻き消える。
「母上のそういうところだぞ! ワタシが許せないのは」
「一丁前に言うではないか~ウリウリ。テーブルマナーのマの字も知らんお主が悪いのじゃ」
「ワハハ、やめるのだ母上! 大体ナイフとフォーク1本あれば食べれるのに、馬鹿みたいに数を並べて何がしたいのだ!」
ミリムと冥ちゃんが親子仲良くじゃれ合って会話をしている。
「……」
「いや~今日は暑いですね。お代わりいりますか? ミッドレイさん」
なんでサングラスしてないの! 素顔隠さないと駄目でしょ冥ちゃん!
「ん? 父上ではないか、ハゲも一緒だな? おーい……何故かミッドレイが動かないのだ」
「フム、気絶しておるの? わらわの美しさにやられおったか?」
「それはない」「それはないのだ」
「「痛っ!!」」
俺とミリムは痛みで頭を押さえるが、これは都合がいいぞ!
急いで次元門を竜の都に繋ぐとミッドレイさんを運ぶ。
「ヘルメス君! どこ!」
「ん? あれ? リヴェルさんじゃないっすか」
「ミッドレイさんが気絶しちゃって……ミリムが、ミリム様が休ませろとハハハ」
「またミリム様が不意打ちで腹パンしたんですかね? 了解っす」
俺は素早く次元門で逃げ帰る。
「ふ~危なかったぜ」
「父上! 母上が勉強と煩いのだ」
「ミリムが恥をかかないように教えてるだけじゃろうに」
テーブルマナーがどうとか言ってたやつか?
「ワタシがそんなの知らないのだ、親に教わってないと強く言ってしまったせいでコレなのだ……母上は母上じゃないのだから責任なんて感じなくていいのだぁ!!」
困った顔をする冥ちゃんは悲しそうに言う。
「今はわらわがお主の母親代わりじゃ。責任とかそういう事ではない、わらわが色々ミリムに教えたいのじゃ」
「むぅ~やなのだ! 大体そんなマナーとかどこで使うのだ!」
「酒の飲み方とか賭け事を教えてる方が冥ちゃんらしい……ヒデブッ」
キレのあるストレートが俺を吹き飛ばす。
「リュウも言ってやるのじゃ、魔王の晩餐でもテーブルマナーはあるじゃろうに」
「痛てて、確かにミリムは姫様だけど多少のマナーは知ってるんじゃないのか?」
「皆無なのじゃ」「知らんのだ」
俺は頭を抱える。
「ミリムさんや、冥ちゃんにマナーを教えてもらいなさい」
うちが国賓でミリムを招くと、恥をかくのはリムルになっちゃうじゃん。
フレイさんがキレる原因ってこういう勉強サボるからじゃ……。
「嫌なのだ! もっと母上とできなかったことをしたいのだ! 服を買ったり、美味しいもの食べに行ったり、一緒に遊んだり! 母上と色々したいのだぁ~!」
「うぅ~ミリム……すまぬ。わらわと沢山遊ぶのじゃ」
ミリムに抱き着かれて、愛しそうに頭を撫でる冥ちゃん。
俺は親子で抱き合う感動の場面に横槍を入れる。
「で、本音は?」
「そんなめんどくさいマナーとか絶対覚えたくないのだ……あっ」
「ほほう……スパルタがお好みのようじゃなミリム」
「謀ったな父上~~~!!!」
君の父上が悪いのだよ……あれ?
ズルズルと冥ちゃんに引きずられていくミリムが俺を睨むので顔を反らす。
屋台の配置が終わり、子供達が持ってきた提灯を一緒に飾り付けていくと……。
「あーあーマイクテスト、マイクテスト」
リムルの魔イク放送が流れる頃には飾り付けが終了し、祭りの開催が宣言された。
期間は1週間と長い祭りだが、離れた場所に住む魔物も多くいるので仕方ない。
国民が全員楽しめる期間はこれぐらいだろうと会議で決めた。
「ふぃ~疲れたよリヴェル様」
「ご苦労さん葵、あのでっかい提灯の字を書いたのか? 相変わらず達筆だな」
「あっちのベルちゃんの絵はレイン姉が書いたんだよ~上手いよね」
うわ……まじで王宮画家としてくってけるなレイン。
「流石はうちの娘! 世界一可愛いな!」
「親バカだぁ~! あはは」
祭りのはっぴを着てうちわを持ち、楽しそうに笑うベルが大きい垂れ幕に描かれていた。
「ここにいたのねリヴェル!」
「探しましたよリヴェル様」
「ご主人様、花火っていつ上がるんですか?」
「旦那様~たこ焼き買いに行きませんか?」
ハヤテ、ハンゾウ、ピリノ、茜が浴衣姿で俺を探しに来たようだ。
「父上~りんご飴が食べたいよぅ~買って!」
「ワタシは綿飴が食べたいのだぁ~」
「リュウ、リムルのお面ばっかりで探すのに苦労したのじゃ」
ミリムとベルが冥ちゃんを真ん中に左右で手を繋いで三人で歩いてくる。
三人とも浴衣姿で親子そろって髪を結って可愛らしい。
金魚すくいをしたのだろうか? ベルの左手には1匹だけデメキンが入っていた。
冥ちゃんが俺の好きなV3ぽい仮面を渡し、自分はウルトラぽい仮面を側頭部に付けている。
レイン、ミラノ、オベーラ、ミソラはその後ろでお酒を片手に楽しくお喋りしていた。
「おっ……皆空を見ろ! そろそろ始まるぞ!」
リムルが議事堂の屋根から魔法陣を発動させて夜空に絵を描いていく。
氷魔法と光魔法を駆使して文字や絵を描いて砕け散る演出は楽しかった。
ジュラ・テンペスト祭り! 第一回の文字が消えると、夜空に大量の火魔法の花火が一斉に打ち上げられる。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
俺に続けてハヤテが叫ぶ。
カイジン達も試作段階だったが、リムルに混ざって色がカラフルな花火を打ち上げていた。
「なんですかそのたまやーというのは? 旦那様」
「たあまやー? へんなの、あはは」
「何かの呪文みたいなのだ」
「風流じゃのう……うむ、雅、雅じゃ」
「花火職人の名前を叫ぶんだが……この場合はリムルだな、あはは! リームルーーーーーー!!」
「「リームルーーー!!」」
こうして長いようで短い夏はあっという間に過ぎ去ったのだった。
――――――
「それではお世話になりました」
「まだ恩を返せていませんよマサユキ殿!」
「行ってしまわれるのですか? マサユキさん……」
竜の都の街道で盗賊に襲われてるところを偶然助けて、運よく盗賊を撃退できたおかげで仲良くなった商人と娘さん。
「いえいえ、僕も随分と助けていただきました。はぐれた仲間も探さないといけませんし、長い事お世話になってしまい申し訳ありませんでした」
別れ際に娘さんに抱き着かれ、頬にキスをされるが首筋がギリギリと痛む。
女性と仲良くなると昔から何故か首筋が痛むんだよな……ハァ。
他にも世話になった人にお礼をしたり、手伝いで恩を返していたら結構日数が伸びてしまった。
「よし、ここまで来れば誰も見ていないだろ」
高い丘を登り、見晴らしの良い場所にでた。
冒険の途中で帝国へ向かう話はジンライにしていたから、ドワルゴンで待っていれば合流はできそうだよな?
ジュラの森って帝国と近い森だと商人のおっちゃんが言ってたし、丁度いいな。
転移してきた時に持っていた学生鞄から、ベルちゃんに貰った小さいスライムを取り出す。
「まったく! 冥の奴、思いっきり殴りやがって! でも痛みはなかったから回復はしてくれたんだろうけど……う~~ん」
ベルちゃんには会いたいが、果たして冥にこき使われることが正解だろうか?
それにしてもこのスライム……。
「ドラクエのスライムだよね? こいつを追いかけていたら、ジンライとはぐれてしまったんだよなぁ~」
プルプルと手のひらサイズのスライムは我関せずと、餌用に鞄に詰め込んでいた草をムシャムシャと食べている。
西方諸国からイングラシアに渡る途中に、野営をしていた俺とジンライが見張りを交代していた時だった。
焚火に薪をくべ、ぼーっと夜空を見上げてるとこいつより大きいスライムを見つけたんだ。
懐かしさもあり、追いかけて捕まえようとしたら目の前に扉が開いて……気が付けば俺は一人、ジャングルに放り出されていた。
「ベルちゃんがくれたスライムと俺をワープさせたスライムは同じドラクエモンスター……君子危うきに近寄らずなのか? 虎穴に入らずんば虎子を得ずって奴かも?」
あーもう! 優柔不断は俺の悪い癖だな。
「男は度胸だ、よし、行くぞ! ……でも何かを入れてくれたらってどこに入れるんだ?」
俺はスライムの口に石ころを入れるとぺっと吐き出される。
スライムの上に小石を置いてみるが、草を食べる振動で小石がすべりおちていく。
「あーもう、どうすりゃいいんだベルちゃん! 何も入らないよ」
剣を差し込んで死んだら困るし、手紙? いや紙なんて持ってないぞ。
そういうスキルとか? スキル!?
「アイテム、アイテム倉庫、鞄、ストレージ、道具、道具だ! 開いたぞ!」
俺はスライムの道具ステータスが見えてるウインドウに石を入れる。
「よし、これでいいはずだ」
次元が開いて数週間前に出会ったベルちゃんがひょっこり顔を覗かせていた。
「ユキお兄ちゃん! 遅かったね?」
「あはは、ベルちゃん。何か入れてくれたらは難問だったよ」
抱き着いてきたベルちゃんは俺の返答に首をかしげている。
「それじゃージュラの森へごーごーなの!」
「お願いするよベルちゃん……よっと」
俺はベルちゃんを肩車して次元の穴を潜った。