*スラぼう・side
次元門から出てきたシュナは左足が炭化しており、酷い火傷状態だった。
息も絶え絶えになりながら、慌てて駆け寄る俺に謝ってくる。
「ハァ、グゥ……申し訳ありません、リヴェル様」
「謝らなくていい! すぐに治す!」
ベニマルが障子を突き破り、倒れるシュナへ駆け寄ると近くの俺を乱暴に揺さぶる。
「シュナ、無事かっ!! くっ……リヴェル! 早くシュナの回復を!!」
「わかってるから~~放せ~~ベニマル!」
「す、すまん」
ジタバタと暴れる俺を慌てて地面に下ろすベニマル。
「ベホマラー! 痛いところはないかシュナ? ちゃんと足動くか?」
炭化した足が再生され綺麗な足が現れる。
火傷の跡も消え、ホッと一息つくとシュナは左足を動かして確かめる。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、リヴェル様」
「シュナには申し訳ないけど、現状の経緯と相手の戦術を簡単に教えてくれ」
「今はシュナを休ませてやれ! 酷い怪我だったんだぞ!」
短く息を吐くと真剣な表情でシュナは答える。
「大丈夫です、お兄様! わかりました、リヴェル様。では手短に……」
冒険の間の話は端折り、オーブを見つけるところから簡単な経緯をシュナから聞いた。
廃坑の奥でレッドオーブを手にしたリムルの手が光り輝き、炎の精霊が出現したそうだ。
リムルを見るや否や、勇者の試練と称して戦いを挑んできたらしい。
炎の精霊は凄い力で廃坑の天井を吹き飛ばし、外で戦いは始まった。
腕を組んでイライラしているベニマルは、シュナの話をあまり聞いていない様子だ。
普段は侍大将として沈着冷静だが、妹の事となると話は別か……。
「戦闘方法ですが、近接は拳主体の格闘術、遠距離は炎を意のままに操る術の攻撃が厄介でした。巨大な炎の魔法もリムル様は吸収できず、足元から噴き出すマグマに私は避けきれずこの有様で……。ですが! 弱点は氷だと知っていたリムル様が氷魔法や氷の刃で傷を与えていましたので有効かと」
「火柱の攻撃を直接受けたのかシュナ……だとすると危険だが氷の術を使える葵を連れていくべきか? いや、飛行できるオベーラの方が確実だな。氷の刃、水の羽衣、氷の盾は持ってないし、フバーハがないのが心もとない」
「早くそいつをぶっ殺しに行くぞリヴェル! 門を開けろ! リムル様も心配だ!」
「わかってるよ! でも対策をしていかないとリムルの足手まといになるだけだろ! そういやシオンは? あいつも炎対策なんてないのに……」
俺はシオンがどうなったか不安に思っているとシュナが言う。
「ライヤンさんがリムル様が渡したドラゴンシールドでシオンやリムル様を守りながら前衛で戦ってくれています。後方にいた私は足手まといに……悔しい……です」
「あれ? 結局ライヤンさんは廃坑まで付いてきてたのか? なるほど、ドラゴンシールドか! キラーも冒険でドラゴン退治に使うとか言ってリムルが持っていってたな」
「ゴチャゴチャ言ってないで、早く門を出せリヴェル! 大事な妹をこんな目に合わせやがって! なにが炎の精霊だ、俺の炎で消し炭にしてやる!」
俺の首根っこを捕まえて、門を出せと迫るベニマルにシュナが言う。
「ですが、お兄様。炎の精霊は「女は下がっていろ、火傷だけじゃすまないぞ?」と最初に忠告をしていましたので……なんというか怪我をした私にも追撃はおこないませんでしたから、悪い方ではないかと思いますよ?」
「関係ねぇ! シュナに大怪我負わせたクソ野郎をぶっ殺す!」
ハァ~と溜息と共に顔を押さえるシュナ。
まー神様に仕えるものだし、善の方だからな炎の精霊って……ん? シュナの話を聞くと強敵には違いないけど『敵』ではない気がするぞ?
シュナもさがれと言われて素直に引き下がるタイプじゃないし……う~ん。
念話で呼び寄せたオベーラが来たので門を出す。
「おい! 主様を乱暴に扱うなベニマル! では参りましょうかリヴェル様」
「これと、これを装備してオベーラ。鎧は魔法の鎧があるけど着る?」
俺をベニマルから奪い返したオベーラは、氷の刃とドラゴンシールドだけを受け取る。
「翼があるのでその鎧は着れませんね。ふむ……良い武具です」
「私も! 私も付いていきますリヴェル様!」「駄目だ!!」
「お兄様は黙ってて!」「あんな大怪我をしたんだぞ! 行かせるわけがねーだろっ!」
睨み合う兄妹に俺は素早く割って入る。
「言い争ってる時間はない、こっちも大物が来て時間がないんだ! シュナは死んでもお前が守れベニマル! だが、俺の予想じゃそんな心配はいらんと思うけどな」
シュナの真っすぐな目を暫く見つめると、短く舌打ちをしてベニマルは諦めた。
カリュブディスがテンペストに接近していることをシュナに伝える。
少し迷ってはいたが「皆に任せます」とリムルの方へ行く決意は固いようだ。
次元門を潜ると辺りは火の海だった。
「ベホマラー! 大丈夫かリムル、シオン! えっとライヤンさんもご助力感謝します」
「ええ、なんとか」
剣を地面に刺して、片膝を付いていたシオンが答える。
「忝い、助かったぞ坊主」
満身創痍のライヤンさんは短く礼を伝えると、眼光鋭く盾を構えている。
リムルは氷を纏わせたグリンガムの剣で炎の精霊と斬り合っていた。
『おせ~~よっ! 早くこいよ星! シュナも無事か……良かった』
『すまん、こっちも色々忙しいんだよ……アレ?』
リムルを爆風で吹き飛ばした炎の精霊が、空中に浮いたままこちらに向かって移動してくる。
俺の目の前でピタリと止まると、腕を組みながら不思議そうに首をかしげた。
「オレを回復させたのはお前か? ムッ……この波動は神なのか?」
「いやいや、俺をあんな一発ギャグ神と同じにしないでくれる?」
俺は目の前で片手を左右に振り、炎の精霊の人違いを指摘する。
蝙蝠の翼を生やしたリムルがなんとか岩に剣を差し込んで勢いを殺し、こっちに戻ってくる。
「自分を爆発させるとか反則だろ……クソ。お前なんで炎の精霊まで回復してんだバカ!!」
なにか炎の精霊まで光り輝いておかしいと思ったら、仲間判定になってるのかよ……。
「ふむ、そこの神の兵も勇者の試練に参加は認められんぞ? 神共々、そこでおとなしく試練を見守るがよい」
「なんだと? リヴェル様、こやつは貴方がお作りになったのですか? 勇者の試練は初耳ですが……なるほど」
「なるほどじゃないよオベーラ!? 俺は神じゃないって! あんな巻き毛のアホ毛神とかまじでやめてよ!」
オベーラと炎の精霊はヤレヤレと同時に首を振ったあとに答える。
「ワハハ! だが、今の姿の方が可愛らしくてよいぞ神よ」
「またそんな事を言って……リヴェル様には困ったものです」
なんか意気投合してる二人が腹立つな……。
「オラッ!! 妹が世話になったようだなこの野郎っ!」
問答無用でベニマルが炎の精霊に斬りかかるが、片手で刀を受け止められる。
「合格だ、お前も試練に参加しろ。女をいたぶるのは性に合わん、シオンだったか? お前はこの男と交代だ」
「何を! 私はまだ戦えます! グッ!」
言うが早いかシオンの目の前に移動した炎の精霊は、拳を叩き込み俺の方に吹き飛ばす。
剣を盾に衝撃を受け流そうとするがゴロゴロと転がり、舌打ちをしながらシオンは起き上がる。
「ならシオンこれを使いなさい、これなら試練に参加できるでしょう」
オベーラはシオンにドラゴンシールドと氷の刃を手渡す。
シオンの服が焼け焦げてボロボロなので、紳士な俺は水の羽衣を渡そうとするとシュナがグリグリをしてくる。
「いだだだ! 違うんだシュナ! 確かにスケスケで防御が低そうに見えるが、炎耐性と防御力が高いんだって!」
このままじゃシオンがポロリもあるよになっちゃうでしょうが!
『なんでも良いから早くシオンに着せろリヴェル。ライアンさんも目のやり場に困ってるんだよ』
「……魔法の鎧ありましたよね?」
「ほら、リムルもシオンに水の羽衣が最適だって頷いてるじゃん」
リムルは炎の精霊の攻撃が止まってる隙に、賢者の聖水を取り出してガブ飲みしながらウンウンと頷いていた。
だが、背中に般若が見えるシュナに睨まれて盛大に噴き出す。
『魔法の鎧を早く出せリヴェル!』
『イエッサァー』
俺は良い笑顔のシュナに寒気を覚えたので素直に魔法の鎧を出す。
「ありがとうございますリヴェル、オベーラ。これであの精霊をボコボコにできます!」
「では、私もこの水の羽衣を羽織って参戦しますね」
「「駄目だ」」
「大怪我をしたばかりだろうシュナ」「実力が伴わない奴は試練は受けさせん」
シュナはオベーラと炎の精霊二人に言われて頬を膨らます。
『えっ? なにこいつ……シュナに大怪我をさせて頭にきてたが、冷静になって考えたらシオンとシュナには実力不足で下がっていろと最初に忠告してたな』
『結界を貫通してくる攻撃がえげつないから、避けきれないとそりゃ大怪我するよね。俺は参加できないみたいだから試練頑張ってリムル!』
『だから俺はオーブの回収なんてしたくなかったんだ! お前あとで闘技場で1ターンキルの刑だからな!!』
『わしはもうここにはいません、御用のある方はお手数ですがリヴェル家を訪ねてください』
リムルは自然影響無効があるから問題ないけど、メラゾーマや特技はダメージを受けちゃうみたいだな。
勇者の試練って覚醒を促してくれるのか? それともロトや天空装備をリムルに与えてくれるんだろうか?
何にせよこっちはリムルに任せて、俺はカリュブディスに専念できそうだ。
ベニマルが戦闘に加わり、ライヤンさんが上手くベニマルに合わせて連携していく。
シオンがカバーに回り、リムルは回復役と魔法で牽制をする。
ベニマルは炎の精霊の攻撃に慣れていないせいか、何度も攻撃を受け続けてしまう。
「チッ! この馬鹿力めっ!」
「もうオレの動きに対応し始めたか! やはり炎を扱う奴と戦うのは面白い!」
炎を纏った剣撃と拳が激しくぶつかり合い、炎風が二人の間で舞い踊る。
ベニマルの爆炎に押し上げられるようにして上空に飛ぶ炎の精霊は、ベニマルに指を突き付け言い放つ。
「オレも本気で行くぞ! 炎比べだ小僧」
「上等だ! 灰にしてやる!」
ベニマルは黒炎にありったけの魔素を加えていく。
炎の精霊は両手を空に掲げて巨大な炎の塊を形成していった。
二つの炎が激突し、爆炎が空を舞う。
だが黒い炎がジリジリと押され始める。
「火力が弱いぞ小僧! 気合いだ! もっと気合いを入れろ!」
「グガッ! 何が気合いだ……てめぇだけは絶対に許さねぇんだよ!!」
ベニマルは押し負ける頭上の黒炎の塊をぶん殴り、炎の精霊の炎を押し返して爆発四散させた。
「見事! ワハハ気に入ったぞ小僧……いや炎の戦士よ! オレの加護を授けてやろう」
「グッ……クソったれ。俺は鬼だ精霊とは相性が悪い……んだよ……」
右手を黒焦げにしながら、次は絶対ぶん殴ると前のめりで倒れるベニマル。
気絶したベニマルの背中に手を当てた炎の精霊は、俺の方にベニマルを投げてよこす。
魔素が空になったベニマルに魔法の聖水を振りかけたあとで回復し、俺は加護に解析鑑定を使って調べた。
「本当だ! 鬼なのに炎の精霊の加護が付いてる……。ドラクエにもオーガ族はいるし、加護も授けれるのか?」
リムルはベニマルの戦闘中に数百の魔法陣を配置しており、連続で
だが、マグマが地面から吹き上がり、炎の精霊を包み込むバリアとかす。
「またこれかよ! もっと強力な氷魔法じゃないと……」
リムルは俺の方をチラチラと見てくるが合体魔法は駄目だと思うぞ?
単体で使える融合魔法は精密な魔法陣の掛け合わせが必要なうえ、戦いながらは不可能だ。
闇分身には複雑な魔法やスキルは行使できないので融合には使えない、オマケにリムル自身の炎と氷は役に立たない無属性ときた。
残るはメルちゃんと闇と氷の融合魔法を使うくらいか?
マグマのバリアを解く瞬間に、ライヤンさんが闘気を纏わせて斬りかかるが何度も高熱を斬りつけたせいか剣が変形して使い物にならない。
「ライヤンさん! これを使って! 駄目にしても良いから」
「これは! 名刀でござるな。使い潰したくないでござるよ……」
俺はパパスの剣をライヤンさんに放り投げる。
「私だって戦えます!」
「シュナ! 仕方がない奴め」
オベーラの静止を無視してシュナがリムルの前に立つ。
「おい、シュナ! 危ないから下がっていろって!」
シュナは短刀で長い袴を短く切ると少し顔を赤らめてリムルに言う。
「これで動きやすくなりましたから! 先ほどは不覚を取りましたがお任せくださいリムル様」
炎の精霊はシュナに法術の強化をほどこしたオベーラを睨むが、どこ吹く風で知らん顔をする。
シュナは冒険に持って行ったルーンスタッフを掲げて皆の防御力を上げた。
俺の作ったものだとステータスが上昇するが、効果を発動するには魔素やMPを消費する。
店買い品だと魔素もMPも必要なく使用可能だが、トルネコみたいに回数制限で壊れてしまうんだよな。
「シュナ様! 合わせてください!」
「了解です、シオン!」
シオンが大剣を力任せに薙ぎ払い、大きく躱されたところでシュナの札が炎の精霊の背後で起動する。
捕獲系の足止めで炎の精霊は身動きが取れない。
続けて札を数枚上空に放り投げると祝詞を唱え始める。
「チッ! だが、身体は動かせるぞ! メラゾーマ!」
薙ぎ払いから高く飛びあがり、そのまま剣を叩きつけようとするシオンにメラゾーマが襲う。
「ぬおおおりゃああ!!」
ライヤンさんが大岩を真っ二つに切断したあとに、メラゾーマに向かって岩を両手で投げつけた。
シオンに届く前にメラゾーマが岩と衝突し爆発するが、破片がシオンに襲い掛かる。
「リムル様、リヴェル様の大前に
「神罰招雷!」「ハアァァーーーーー!!」
岩の破片を身に受けながらも、シオンはシュナの攻撃と同時に炎の精霊に渾身の一撃を叩きつけた。
腕をクロスさせて同時攻撃に耐えようとする炎の精霊だが……。
「グアアアアアアァーーーーー!!!」
闇雷とシオンの全力斬りの合わせ技で、炎の精霊の左腕が肩の辺りまで消し飛んだ。
「やるではないか、だが……オレを倒すには力が足りんぞ」
辺りの炎を全て吸収し、片腕が綺麗に再生する。
『ダメージは残ってるだろうけど再生は面倒だな……。お前と一緒に戦えると思って色々作戦練ってたのに無駄になったわ。ていうかシュナの祝詞!? なにか俺も神になってるよねぇ!』
『ようこそこちら側へ。認めよう、君の神力を……今この瞬間から君は神様だ!』
シュナの信仰対象がリムルだけかと思ってたが……オベーラの仕業か? 神聖魔法も教わっていたからな。
今は解析者がないから神聖魔法を使うには補助としてドラクエの杖が必要だけど。
『やめろ、俺を巻き込むんじゃない! なあ、星。火力が足りないから決定打にならないんだ。何か良い案はないか?』
『グラトニーは? メルちゃんの力もなにかないの?』
『駄目だこの世界の法則で構成された生物じゃないから、捕食が効かなかった。炎は光属性に近く、メルの攻撃は効果が低い』
『早期決着は勇者に目覚めるしかなくね? 持久戦に持ち込めばあいつは自然消滅しそうだけど?』
炎の精霊はシュナやシオンに激しい炎を吹きかけるが、リムルが多重結界を張って防ぐ。
あいつもエネルギーをどんどん失っているな? 召喚者のいない精霊だからか?
『持久戦は不可能だな……もう虎の子のエルフの飲み薬も飲んじゃった』
シオンやシュナには悪いけど力不足が否めない。
完全にリムルの足手まといだな……守りながらだと魔素をガンガン消費するようだ。
俺がこの場で賢者の聖水を生産してリムルに渡すと試練が終了するのか?
この場でリムルが真なる勇者になると、配下全員にギフトが配られて強化されると思うんだよなぁ……。
俺が考え込んでる間にも事態は悪化していく。
魔素切れでシオンが倒れ、シュナがリムルとライヤンに守られながら巫術を唱えて戦えてはいるがジリ貧だ。
「戦士よ、お前の願いで呼び出されたが……勇者の覚醒には早かったかもしれんぞ」
「……拙者の願いでござるか?」
「オレも顕現してる時間がない、この世界にも時がないのだろう……許せ!」
「お前っ!?」
「やめてぇーー!!」「やめろぉーーー!!」
炎の精霊は倒れているシオンに向かってメラゾーマを投げつけた。
リムルとシュナは同時に叫ぶ。
メラゾーマが直撃した地面は大きく抉れ、焼け焦げていた。
「っ……てめえぇ! 許さんぞ! シオンが死ぬところだったじゃねーか!」
「神よ……邪魔をするなと言ったはずだろ。まあ、結果的には良しとするか」
シオンを殺されそうになった怒りが爆発し、リムルの身体は光り輝いて世界の声が響く。
《確認しました。個体名リムル・テンペストが持つ『勇者の卵』の羽化を確認しました。これより真なる勇者への覚醒を開始します》
ついに、リムルの勇者の卵が羽化したか……それにしてもドラクエの魔法は凄く痛いな。
俺はメラゾーマがシオンに当たる瞬間に次元門で飛び出し、シオンを突き飛ばして身代わりになった。
そのはずなのに……。
「グゥ……痛ぅ。俺ってクリリン的ポジションだよね!? よくも大親友の流星を! って言うところでしょ!? 酷いよ悟……ちょ! 助けたんだから叩くなシオン!」
今になって茜やハヤテの有難さが身に染みるとは……お前達、俺に厳しすぎないか? シクシク……痛たた。
「ハァ、ハァ……いきなり……私を……突き飛ばすとは、いい度胸です! リヴェルゥ~!」
意識があり、片腕でなんとか起き上がろうとしてたシオンを思いっきり突き飛ばしたので、顔面から地面に激突してしまった。
《提案。現状、並列存在と認識されている所為でリムルの動揺、心を乱せなかったと思われます。今後は過剰な演技力が必要と助言します》
無理じゃね? 痛みに歯を食いしばって耐えるのが精一杯で、演技なんて無理だよ冥ちゃん。
「ああ、無事で良かったシオン!」
「親父にもぶたれた……痛いってシオン! 身体が小さいんだから、体当たりで突き飛ばすしか方法がなかったんだよ!」
俺に往復ビンタをするシオンを止めるように、抱き着いて押し倒すシュナ。
「もう! なんですか? 姫様まで」
「心配したの! まったくシオンは……」
炎の精霊も俺のダメージを見るに、殺すまではいかない威力だったからそういう事だろう……。
見た目は派手だが弱いメラミ程度の威力だ。
覚醒の過程で何かスキルを得たのかな?
リムルは剣に氷を纏わせるが、その上から巨大な青いオーラが伸びていくと美しい刀に変化する。
一度刀を振り払う動作をしたあと、炎の精霊に向かって突撃する。
「……成ったな、勇者よ」
「たくっ……斬るまでもないじゃねーか! 礼は言わんからな」
「フッ……」
炎の精霊はリムルが斬るまえに、身体が砂のように崩れていった。
「お疲れ様、リムル」
「結局勇者になっちまったな……
リムルは急に膝から崩れ落ちて倒れる。
「おいおい! 冗談はよせよ悟!」
俺は倒れるリムルを抱き止めると、状態を確認する。
《肯定。真なる勇者への覚醒の影響で進化が始まったようです》
あああ~! そうか、進化か! 焦った~~!
ハハハ、魔物が勇者になるってリムルが初めてじゃないか?
「ご無事ですか、リムル様! リムル様?」
「リムル様! ほっ……気を失ってるだけですね」
「やはり……リムル殿が勇者でござったか……」
シオン、シュナ、ライヤンが駆けつけてくる。
オベーラはベニマルを乱暴に次元門へ放り込んでいた。
リムルは進化の為にスライムの姿に戻るが、ライヤンさんは驚きもせずに笑っていた。
「ライヤンさんはこれからどうするんですか?」
「勇者を守るのが役目でござるが……」
俺、オベーラ、シュナ、シオンを見回して答える。
「良き仲間もいるようでござるから、一先ずは国に帰って王に報告したいと思っておる」
「ではライヤンさんの髪の毛少しもらえますか? 身分登録になるので、いつでもうちの国に入れますよ」
フムと頷くとパパスの剣で軽く後ろ髪を切り、俺に手渡す。
「おっと、そうでござった。この剣もお返しいたす」
「いえ、それはライヤンさんに差し上げます。似合っていますしね」
「いやいや! このような名刀を頂くわけにはいかんでござる」
「シュナやシオンを守っていただいたお礼です」
俺が頭を下げるとライヤンさんは申し訳なさそうにしながら、渡そうとした剣を受け取る。
ライヤンさんの国はイングラシアの西にあるらしいので、次元門で革命軍の拠点へ送った。
「忝い、シュナ殿、シオン殿! 達者でな。リムル殿にもよろしくお伝えくだされ」
「はい、うふふ。ライヤンさんもお元気で」
「次は勝ちますよライヤン! 私も更に腕を磨きますので」
大きく手を振りライヤンは去っていく。
「のんびりしていて、良いのですかリヴェル様? テンペストが危険では……」
「なんの話ですか? 姫様」
「ん? いいの、いいの。もう本体の俺が解決したから」
シュナが流石リヴェル様ですね! と嬉しそうに笑う。
シオンは何がなんやらわからず、自分の大剣がポッきり折れた事でシクシクと泣いていた。
まあ、帰ってからが大変だよな~色々と……。
俺の目の前で眠るリムルを奪い合う鬼娘を眺めながら次元門を用意する。
「平和だなぁ~」
冥ちゃんの姉さん! それは駄目です! と焦る声が聞こえた気がしたが、気にせずテンペストへ俺達は帰って行った。