【完結】ひまわり in ヘンダーランド   作:nosky

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10:カンタムXの崩壊

 

 ひまわりを先頭に、二人は冷たい鉄を握りしめ、梯子をひとつずつ登っていく。

 さっきの、マカオとジョマが薙ぎ払われていったワンシーンがどうしても頭から離れない。今は、あのタフな二人を信じるしかない。

 

 敵を見失ったカンタムXは急に動きを止める。

 周りを浮遊するトッペマが、両手を口元に充て「しんちゃーん! ひまわりちゃーん! 今度はアンタたちが死ぬ番よ~! どうしてほしい? どうしてほしい!? トマトみたいに潰しちゃう!? 雑巾絞りにして全身の血液を抜いてあげようか! それとも体中をバラバラにしてあげて、人間パズルにでもしようかぁ!?」

 

「……悪趣味ね。付き合ってらんない」

 

 梯子を登るひまわりがそう呟く。

 しんのすけはただ黙っているだけだった。

 

 カンタムのハッチに到達する。

 そこを開けると、長い通路のど真ん中。廊下だろうか。

 

「っと、どっちかな」

 

 前後に伸びる廊下の中腹。しんのすけがこっちだと指す。

 すると、途端にアラート。廊下の照明の色が突如真っ赤に染まる。

 

『侵入者を確認。直ちに排除モードへ移行』

 

 無機質な音声の奥からは、キャスターの付いたロボット兵たち。

 機銃を構え二人へ突進するが、無敵の二人にとって相手ではない。

 

 突進してくるロボットにはしんのすけのヒップアタックが炸裂し、倒れたロボットの機銃をひまわりが掴んで残りの敵どもに銃弾の雨を浴びせる。

 

「へっ、まーだヘンダー君の方が可愛げがあるっての」

 

 そして向かうは、中央管理室と銘打たれたセンタールーム――そこへ通じる扉が開いた瞬間、二人の目を奪いつくす程に煌々とした光。

 

 部屋の中央には光源であるCPUが鎮座している。

 壁には大きく外界が開かれている。この光が外に漏れていたのかとここで知る。

 

「あれが、コア……?」

 

「ちっちっち、カンタムマグナっていうの!」

 

「んなこたどうだっていいでしょ!」

 

 しかしそのコア、二人の背丈の何倍といった程の大きさがある。

 さて、目的は何だったか。このコアに眠るジョーカーを奪い返すことだったか。

 

「でも一体、どうやって……」

 

 

 

 

「あーっはっはっはっは!!!! みぃーーーーつーーーーーけたぁあ!!!!」

 

 

 

 

 

 ぞっと、背中を冷やすような黄色い声。

 (トッペマ)だ。

 

 

 

 部屋を見渡すと、部屋の天井付近に浮遊する、緑色を纏った悪魔がそこにはいた。

 

 

「けっ……大概しつこいわね、あんたも……トッペマ?」

 

「それはお互い様でしょう? ここまで来たことは褒めてあげてもいいけど、でももう魔法のトランプもない惨めで無力な人間如きがここで何をしようっていうの?」

 

「ヘン、ご挨拶。あんなキラキラな宝石とかアイドルのヒロくんも出せないようなインチキカード、間に合ってるわよ。こっちから返品してやるってカンジ?」

 

「……ひま、試したの?」

 

 きょとんとしたしんのすけがひまわりに問う。

 

「…………ええ試したわよ!! 悪い!? なんでも出せる魔法のカードってんならそのくらい試したくなるモンでしょ! どうせお兄ちゃんだって、5歳のころぴちぴちのお姉さんとか召喚してたんじゃないの!?」

 

「おわ! なんで知ってるんだ!?」

 

「……おバカ兄妹」

 

 けっと吐き捨てたトッペマが次に見た光景は、兄妹喧嘩から抜け出してこちらにライフルを構えるひまわりの姿だった。

 

「というわけで、あんたともここでサヨナラしなきゃなの。……あんたを倒して、私たちは元の日常を取り戻す」

 

「ふふ……あっはっはっはっは! いいわ! やろうやろう! 殺し合い! 殺し愛? あんたたちにできるならどうぞおやんなさい。わたしーはとっぺーま……あなたのしもべぇ?」

 

 ズトン、とひまわりの放った弾丸が宙を舞う。直線上に伸びる弾丸をトッペマは空中で回避。

 一気にひまわりに詰め寄って、顎を蹴り上げる。

 

 一瞬低い唸り声をあげたひまわり、背中から倒れ込んだ拍子にリュックサックからはみ出たバットをしんのすけへトス。

 

 バットを受け取ったしんのすけはその場で飛びトッペマの背中を目掛けて兜割り――しかし、トッペマのバリアが攻撃を阻む。攻撃を食い止められ、硬直したところにバリアが衝撃波を放つ。そしてしんのすけも、壁に背中を打ち付けられる。

 

「チェストおおおお!!」

 

 また背後からライフルの柄でトッペマを打ちのめそうと迫るひまわり。

 しかし、体術ではトッペマに歯が立たず、おおきく隙のできた腹に足を刺され、吹き飛ばされる。

 

「ひま!」

 

「いったぁ……こういうの……ケッコン生活に響いたりしないワケェ……?」

 

 腹を抱えて蹲るひまわり。するとトッペマが片手でひまわりの細い首を掴んで持ち上げる。

 

「そんなこと考える必要ないわよ。結婚どころか、ひまわりちゃんは学校も卒業できないんだから」

 

「……それって、留年するってイミ? それともここで殺すってこと?」

 

 トッペマは答えなかった。そのままひまわりをしんのすけの下まで連れて行くと、しんのすけにひまわりを見せつけた。

 

「ねぇしんちゃん、よおく見ておいて。いまから大切な大切な妹のひまわりちゃんの首がポッキリ折れて死んじゃうところ見せてあげるから」

 

 じわり、じわり。トッペマの腕に力が宿っていく。本当に、彼女は首を折るつもりだ!

 ……そんなのは御免だ。死ぬときは、アイドルのヒロくんに告白されてキュン死するか、おばあちゃんになって120歳で孫たちに看取られながら老衰するかのどっちかとひまわりは決めているのだ。

 

 このまま死んで、たまるか。

 

 ひまわりはポケットをまさぐる。すると、一枚のアレ(・・)が見つかる。

 

「……ちょ、タンマ、トッペマぁ。アンタさ、本当に私たちが丸腰で来てると思ってる?」

「おしゃべりに付き合う気はないわよ」

「残念だけど、私たちにはチンケでインチキでケチなオカマ魔女たちが付いてるワケ」

 

 そして、ひまわりは一枚のトランプ(・・・・・・・)をトッペマに見せつける。

 あの時、トッペマと共闘していたときの余りのトランプだ。

 

「これの意味……分かる!? スゲーナ・スゴイデス!」

 

 そう叫ぶと同時に、ひまわりは反対の手でスマホのフラッシュを直接トッペマの目に当てる。

「ギャ!」と叫ぶ声と同時に、手が緩む感覚を拾う。そして、トッペマの顔にめがけて肘を入れる。

 

「お兄ちゃん!」足元に転がったバット。それを蹴ってしんのすけにパスすると。バットを拾ったしんのすけが

 

 

 

「――怒りのカン・トン・メーン!!」

 

 

 

 という咆哮と共に、トッペマの脳天に面打撃を入れた。

 そのまま体当たりで突き飛ばし、トッペマは沈黙する。

 

「……ふぅ、やるぅ。流石は元剣道部」

 

「昔取った貝塚なり」

 

「だから杵塚だってば……しっかし、あんなチョロいハッタリに引っ掛かるなんて、アンタにも焼きが回ったね、トッペマ?」

 

 拾ったライフルを再びトッペマへ。

 トッペマの顔。脳天から顔中に大きく罅が入っている。さっきの打撃がかなり効いたのだろう。

 

「……ざけるな。ざけるなよノン・エリートどもが……ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなあああああああ! この劣等種どもがあああああ!!」

 

 トッペマが叫ぶと、途端にこの部屋の空間が大地震に襲われるような衝撃が走る。

 まるでポルターガイストのように部屋の物品が飛び交い、身を屈めることを余儀なくされる。

 

 また、首を絞められる感覚が襲う。トッペマの手は振れていなけれど、確かに首は圧迫され、そして宙に浮く。

 

「があ……そういうの、マジずるっこだっていったじゃん……!」

 

「死ねぇ……死ねぇ! おまえらは……ここで終わりなんだよ!」

 

「……そうでもないかもよ?」

 

 

 

 ――grand fouette en tournant

 

 

 突如と割って入る二つの影。それらは暴走するトッペマの喉元に腕を置いて、一気に壁際に押し付ける。

 

「おわ! オカマたち!」

 

 しんのすけがそう言ったところで、二人は床にドンと落ちる。

 

「こんノォ……死にぞこないがあ!!」

 

「いやねぇ、こんな未完成のマペット人形なんかに殺されたんじゃ、死んでも死にきれないわ」

「そうよ、私たちにもプライドってものがあるもの」

 

 マカオとジョマ。二人の顔には大きな傷跡。額からは血を流している。

 

「レイジーガール! トランプは見つかったの!?」

 

「探してんだけど、どこにあんのかさっぱり!」

 

「コアのテッペンを見なさい!」

 

 キラキラとミラーボールのように輝くコア・CPUの頂点部分。そこには確かに、何かカードを保管しているような機器が接続されている。

 

「あれぇ!?」

 

 よく見ると、壁際のハシゴや渡り通路からそこへアクセスできそうな道筋が見える。

 

 OK! と口にだしたひまわりはそこへ向かって駆け出す。

 それを見たトッペマは最大限の力でマカオとジョマを薙ぎ払い、ひまわりを見据える……そこに――やっつやっぱり柔軟弾丸。しんのすけの身体がゴムまりのように撥ねる中国拳法。それがトッペマを直撃。

 

 吹き飛ばされた彼女をマカオとジョマが魔法攻撃で追撃。 

 ひまわりは最上段の渡り通路へ。そこから、コアの最上部へ飛び移る。

 

「なぁんでこんな丸い所の上にこんなもの置くかなぁ!?」

 

 つるつる滑る足元をグリップさせながら、機器の下へ。そして、見つける。トランプのジョーカー。

 拳で割って、中のカードに触れる。

 

「させるかああああああああああああああ!!!!!」

 

 マカオとジョマの猛攻を破り、トッペマはひまわりに一直線。

 

 

 ――その、一瞬の光景。トッペマが見たのは、ジョーカーを構える、ひまわり。

 

 

「スゲーナ・スゴイデス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

  はぁ~~~い、呼ばれて飛び出でじゃじゃじゃじゃーん。久しぶりに登場ワシ、スゲーナ・スゴイデスのトランプの精霊、略してスゲトラちゃんだよ~~ん。

 

 

『え、何!? ヘンナの出たんだけど、てかなんで身体動かないの!?』

 

 

 お前さんがジョーカーを使おうとするからじゃろ!

 

 

『どういうこと、ジョーカーは使えないの?』

 

 

 そーゆーこと。トランプのジョーカーはスゲーナスゴイデスの力の源だからコレを持って呪文を唱えても魔法は使えないの。その代わりにワシが出てきて説明してるの……ってのを16年前にもやったんじゃ! なんど同じ話をすれば気ぃ済むんじゃい!

 

 

『そんなぁ! 私、これでトッペマを倒さないといけないのに!』

 

 

 トッペマぁ? お嬢ちゃんかなりツウだねぇ。あんなブリキ人形やっつけようだなんて数奇なもんじゃい。その昔マカオとジョマをこれで倒そうとしたジャガイモ小僧のことならなんとなぁーく覚えとるがなぁ。

 

 

『なんか方法ないわけ?』

 

 

 さぁーあんなもんワシの管轄外じゃからな! マカオとジョマの倒し方なら知っとるが。ワシにできるのはこーのくらい!

 

 

『……ねぇ、オジサマ。お願い一回だけでいいからこのトランプでスゲーナ・スゴイデスってやっちゃダメ?』

 

 

 ダメダメ! ってかできないの! 無理なこと言わんで頂戴よ!

 

 

『そこをなんとか! ねぇお願い、現役JK(ピチピチギャル)のお願いなんだからぁ!』

 

 ……いうほどピチピチしとらんがな。ま、でもそーこまで言うんだったらスゲトラちゃんも鬼じゃないよ。ただーし、これが魔法の源だってことをわすれちゃダメダメよぉ! てなわけでホレ、時間解除!

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 スゲーナ・スゴイデス。

 言葉が、世界を光に包む。

 

 

 

 一気に白一色に染め変えられる目の前の世界。巨大なフラッシュ・バン

 その空間から、音が消え去る。

 

 しばらくして聞こえて来たのは、トッペマの悶絶する声。

 

 

「いいいぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 絹を裂くような声と共に、カンタムXの内部が突如として崩壊を始める。

 ぐわん、ぐわんと上下の感覚を忘れるほどに機体は揺さぶられ、照明や電子機器類は床に落ち割れる音が共鳴する。

 

 まずい、とひまわりはすぐに渡り通路へ。しかし、機体の崩壊の衝撃に身体が安定せず、もはや這い蹲って動くしかない。

 

「備えて! 機体が倒れるわよ!」

 

 マカオの声だ。ひまわりはぐっと伏せたまま全身に力を入れる。

 強い衝撃波が室内を襲う。途端、機体が倒れたことによって床と壁が入れ替わる。いまひまわりが伏せていた通路は、垂直な壁に変わり果てたのだ。

 

 万有引力の力にはスーパーガールだって逆らえない。重力に引かれて落ちて行った先は、この部屋と外界を繋ぐガラス窓。しかし、カンタムが倒れた衝撃でガラスは粉々に砕け散った。

 

 故に、ひまわりが落ちるその先に受け止めるものは何もない。

 地の底に何となく見えるのは、ヘンダー城周りの深い湖。あんなところに落ちたら助かりっこない……!

 

「おにいちゃーん!」

 

 一縷の望みにかけるように叫んで、ひまわりは腕を伸ばす。

 その腕を、確かに誰かが掴んだ。

 

「ひまあああああ!」

 

 しんのすけだ。縦横があべこべになった渡り通路の柵に身体をひっかけ、なんとかひまわりの手を握っていた。

 

「お兄ちゃん……!」

 

 ふっと、ひまわりの顔に光が指す――刹那。

 

 

 

 

 

 ひまわりは、突如としてしんのすけの手を振り払い、自ら落ちる選択をした。

 

 

 

 

 ひまわりが落ちていく刹那、彼女はしんのすけにライフルの銃口を向け、一発弾丸を放った。

 

 

 

 

 その弾丸は、しんのすけの右頬を僅かに翳めて――

 

 

 

 

 しんのすけを背後から討とうとしていたトッペマの心臓を、大きく貫いた。

 

 

 

 

 しんのすけがトッペマの存在に気付いたときにはもう遅かった。

 ひまわりが湖の中に落ちていくのを、ただそのまま見続けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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