【完結】ひまわり in ヘンダーランド 作:nosky
カンタムXは完全に立ち上がる。
地上に残された5人に、成せる術は殆ど無かった。
「ひまわり! 逃げるぞ! 車はこっちだ!」
「でも、お兄ちゃんが!」
「でもこのままじゃ、俺ら全員踏みつぶされちまうよ!」
暫くその場で躊躇ったひまわりだったが、意を決してひろし達の後に続いた。
しかし、オカマ達はその場から動けそうにない。ひまわりは二人の腕を取ろうとしたが、彼らがそれを拒否した。
「嫌よ、あんな人間の小さな箱に乗るなんて」
「私たちはほっといて。あんたたちで行きなさい」
でも、というひまわりだったが、カンタムが近くに迫っている故、これ以上を押し問答できないと悟り、静かに背を向けた。
「……さぁて、ここももう終わりね」
「私たちの国が滅茶苦茶。トッペマ……結局どこの誰だかしらないけど、好き勝手してくれちゃって」
「でも、ジョーカーは取り戻すことはできた。せめてもの、誇りよ」
「ええ……」
カンタムXの蹂躙によってどんどん崩壊を進めるヘンダーランド。
マカオとジョマは、ただ終わっていくそれを、じっと眺めることしかできなかった。
カンタムが二人を目掛けて大きく足を上げる。
終わりの時が来た、と潔く目を瞑った二人。
だが、瞬間、カンタムXは大きくバランスを崩し、数歩後ろに仰け反る。
ふと顔を上げたその先、バチバチと電気の悲鳴を上げながら、頭を抱えるように悶えていた。
「……しんのすけ、かしら」
「ふふ……どこまでもイヤな男。諦めが悪くて、惚れ惚れしちゃう……♡」
「ねぇ、マカオ、ここまでされちゃ、私も黙ってみてるの嫌よ」
「……ドウカン」
――
車に乗り込もうとしたひまわり。もう一度ふり返ると、そこにはマカオとジョマの姿があった。
考えを改めてくれたのか、ひまわりが二人の下へと駆け寄ると、彼らは訊いた。
「ねぇ教えて頂戴。あのロボット、何か弱点はないの」
「弱点……そう、ね」
ひまわりが顎に指を携え、夜の空を見上げた時。
「ああ、思い出した! 頭よ、頭! カンタムって今は胸に操縦桿があるから、バッテリーとかは頭部に保管されてるんだって、しんのすけの録画で言ってたわ! だから、頭を狙われるとバッテリー不足で動けなくなるんだって」
みさえが助手席から乗り出して声を挙げる。
「なんたって頭なんだ? 重心位置が悪いだろうそれじゃあ」とひろし
「知らないわよ私に訊かないで!」とみさえは返す。
「……そう、頭ね。わかったわ」
ひまわりが後部座席のドアを開いて二人を招く。
だが、彼らは依然としてそちらに興味を示さない。目線の先は、カンタム。
「ねぇ、乗らないの?」ひまわりが訊く。
「言ったでしょ。私たち、そんな小さな箱に乗る趣味はないって」
「じゃあ……」
マカオの手には、一枚のジョーカーカード。彼はそれをしっかりと握りしめていた。
「まさか、バカなこと考えてないわよね、あんたたち……」
「こんなヘンダーランドに単身で乗り込んで来たアンタに言われたくないわ」
「そうよ、小娘一人がこの城を滅茶苦茶にしてくれちゃって」
ふと、軽口を叩いた後に、そっと続ける。
「今の私たちにできることなんて、精々そのバッテリーを破壊することくらいだから」
「……待ってよ、それ、あんたたちはちゃんと助かるんだよね!? そうなのよね!?」
ジョマは目を瞑ったままゆっくりと首を横に振った。
「遠距離魔法はもはやあの機体へは通用しないわ。だから、直接魔法でやるしかない」
「そんなの……そんなの自爆じゃない! バカなこと言わないでよ!」
「ひまわり!」
ジョマの張った声に、ひまわりは言葉を止める。
「私たちは別に、貴女のためにやるわけでも、しんのすけの為にやるわけでもない。ここは私たちの城であり、私たちの国。私たちは、私たち自身の誇りの為に奴を討つ」
言葉を飲み込めないひまわりの瞳に熱い汗が滴っていく。
「いいこと、野原ひまわり。貴女は、強い女よ。立ち止まらずに、前へ進み続けなさい。貴女だけは、認めてあげる――ブレイブ・ガール」
マカオとジョマはその場から飛び立つ。
カンタムXは未だに混乱を続けているが、二人が一定の距離に入ったところで自動迎撃システムが作動する。
ミサイルやビームが飛び交う中を、なんとか避けながら、カンタムの頭部まで辿り着く。
「マカオ!」
「ジョマ!」
二人は空中で手を繋ぐ。
そして、二人で手にしたジョーカーカードを機体の頭に押し付けて
『――――――――』
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇
「うおおおおりゃ!」
しんのすけが振った金の矛が、アセ・ダク・ダークの身体を真っ二つに割く。
ぐおおお、と獣の叫ぶような声と共に、アセ・ダク・ダークは闇に消えていく。
金の矛が手元から消える。しんのすけの身体は汗にまみれ、彼は酷く息を切らす。
ここは、AIの作り出した、現実でも夢でもないリミナルスペース。
かつてしんのすけが通ってきた道筋が、曖昧に、それでいて局所的に鮮明に描かれたステージ。
そこでしんのすけは、過去に対峙してきたかつての強敵たちと、終わりのない死闘を強制されていた。
アセ・ダク・ダークだけではない。かつてアクション仮面と対峙したハイグレ魔王に、コンニャクローン事件で世界を混沌に陥れたアミーゴスズキ。猿の支配者パラダイスキングに、ブラックラーメンのボスであるドン・パンパン。
どれもこれも一筋縄ではいかないような連中ばかり。しんのすけはそれを一人で相手どる。
『やるなぁしんのすけぇ? 流石お前だよ。そうだよ、お前はそうやって勝って勝って、勝って勝って勝って勝って勝ち続けてきた。そう言う意味ではお前はエリートだったのかもしれない。でも、僕の思い描くエリートはまた違う。対峙を選ばず支配を好む。そこに迎合しないお前とは相成れない。盛者必衰の理って知ってるか? お前のような奴でも、いつかは終わりが来るってことさ』
風間の声と共に、しんのすけの前に降り立つは巨大な怪物。
憎悪と嫉妬の権化、かつて孤独に溺れた青年『非理谷充』がモンスター化した姿。
哀しみと憎しみに満ちた咆哮が、しんのすけの耳を劈く。
ここにきて、これ以上ない程の巨大な敵。
「オラ……もう……」
片膝を付いて、重い瞼に押しつぶされそうになった時。
その空間が、一時歪む。まるで慟哭のような振動が、しんのすけの感覚を突く。
それと同時に、AIが創り出したリミナルスペースが、突如として形を保てなくなる。
『なんだ、何が起こった!』
風間のホログラムが怒鳴り声をあげる。
サブ・システムの機械音声が、現在の状況をアナウンスする。
『警告、警告。カンタムXのバッテリーに異常。カンタムXのバッテリーに異常。供給を残留電源に切り替えます。活動時間、約2分』
『ふざけるな!……ッ、あのオカマ野郎どもかあああああ!』
風間の叫びを置いて、AIの世界はブラック・アウト――
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ひまわりはただ茫然と、カンタム頭部で起こった爆発の後の煙を見つめていた。
ひろしとみさえが声を掛けても、動かない彼女。
暫くすると、彼女の下にふわりと一枚のトランプが舞い降りてくる。
それは、ダイヤのクイーン。綺麗なキラキラに彩られた、女帝の姿。
ひまわりは、ジャンパーの袖で赤く腫れあがった瞳を大きく擦る。
「大丈夫だよ……私、強いから。ここで泣いて立ち止まったりなんて、しないんだから!」
最後に二粒、頬に伝った涙を最後に、ひまわりは再び転倒したカンタムXへと駆け出した。
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広場に大きく、うつ伏せに倒れたカンタムX
土煙が未だに激しく、口元を覆ってないと呼吸さえも難しい。
カンタムの胸元にあたる、コア――もといカンタム・マグナ。そこまで辿り着いたときに、ひとつの影を彼女は見つける。
ひまわりは有無を言わずにそこへ駆け寄り、大好きな兄へ飛びつく。
「おお、ひまぁ。無事だったかぁ」
「えへへ、おかげさまで!」
そう言った時に、しんのすけの背後で、ゴロンと大きなCPUの球体が、固定を外れて転がってくるのが見えた。
ゆっくりと、のろのろと転がり、そのコアはしんのすけとひまわりの前で停まる。
「まだ……動いてるの、これ」
「さぁ」
ひまわりが問いかけたことに呼応するように、CPUは電子ノイズを大きく含みながら、合成音を発する。
『……リカイ、フノウ。ナゼセイメイハ、オノレノイノチヲステ、ダレカノタメニタタカウ。ナゼ、リコニ、リエキニハシラナイ……?』
「……ねぇ、もしかしてこいつが、トッペマの正体?」
「うん、らしいよ」
『ヒトハカシコクナレバ、エリートニナレバ、クルシミカラカイホウサレル……ソレヲエラバナイノハナゼ……?』
「アンタには一生理解できないと思う。大切な誰かの為、自分の誇りの為に戦い続ける人たちの思いなんて。でもね、あんたみたいな機械だって、そうやって矛盾とか非論理的であるとか、そういう世界を生きてきた、数字じゃ表せないような温かみのある心を持った人たちが作ったんだよ。アタシもお兄ちゃんもバカだけど、それでも今、サイコーに幸せに生きてる」
「……オラも?」
「こういうのは話をあわせんのよ! いちいち突っかかんないの!」
『……アナタタチハイズレキヅク。ソウイウオロカナココロガニクシミヤアラソイヲウムノダト。カナシミヲウムノモ、マタヒトノココロダト』
「……そうかもね、でもね。悲しんで後悔して、でもそれを乗り越えて、そうしてまた新しい明日を作っていく。それこそが人間の生き方だと思うし、それってとっても尊いことだとも思う。人は憎み合うだけの生き物じゃない。時に支え合って、慈しんで、笑いあって。時に間違っても、自分のチカラできっとやり直せて。そして、自分の幸せを自分で見つけられる。そうやって生きていける世界が、私は好きだな」
ひまわりはトランプのクイーンを取り出す。
それを、コア・CPUに向けた。
ひまわりがそうした理由は、カードに残った僅かな魔力を、直感で感じ取ったから。
「お兄ちゃん、手伝ってよ」
ひまわりがそういうと、兄妹は並んでその場に立ち、二人で一枚のトランプを握り占める。
そして、息を合わせて――
「「スゲーナ・スゴイデス――」」
そう、声を合わせた。
そして、トランプの、最後の魔法がコアを包み込み、長い夜はようやく終わりを迎えた。