【完結】ひまわり in ヘンダーランド   作:nosky

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07:野原兄妹vs野原夫妻

 

「マカオとジョマ……まったく、目障り。折角野原しんのすけを。データのない相手程厄介なものはない。でもまぁ、いいわ。どうせ彼はもう逃げることはできない。マザーの頭脳(オツム)の前には、無力に等しい」

 

 ヘンダー城、隠しの間。

 トッペマは独り言を呟きながら足音を絶やさない。

 部屋の中央には、怪しく光る球体状の機械。今はこれが、ヘンダー城の頭脳(CPU)

 

「今に直ぐ分かる。いかに自分が落ちこぼれの存在か。マザーの頭脳に従わなかったことが如何に愚かな判断だったか。そうでなければ、今頃マザーの精鋭(エリート)になることだって夢でもなかった筈」

 

 部屋のアラームが鳴る、中央のモニターには、ヘンダーランドのエントランスが映る。

 そこに、二人の男女。野原しんのすけと野原ひまわり。

 

「……そうよねぇ、しんちゃん。あなたは逃げるような子じゃないもの。どんな時でも勇敢に真正面から立ち向かう子供。どんな時代でも、どんな世界でも、誰が相手でも。……あの時(・・・)だってそうだった。そしてあなたは勝って、勝って、勝って勝って勝って勝って勝ち続けて。ついにはマザーの理念すらも否定した」

 

 どかっと椅子にふんぞり返る。そして、自分の手を見つめる。

 

「わたしに感情なんてものはなかった。いや……備わっていなかった。でも……いや。こればかりはあなたのおかげかもね。――ノン・エリート」

 

 トッペマの下に、二人の人影。

 トッペマは二人をみると、シニカルに嗤う。

 

「いいわ、いってらっしゃい。ふふ、さぞ心苦しいでしょうね。――自分の子供を手にかけるなんて」

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

 真夜中のヘンダーランド。

 眩しく輝く水銀灯の光が今ここの全て。

 

「すっごい静か」ひまわりの声が反響する程に、そうらしい。

 

 ひまわりは帽子のつばを後ろに回すと、先に進むしんのすけの後に続く。

 

「マカオとジョマ、先に行ってるって、どこで何してんだか」

 

「お」

 

 しんのすけが急に立ち止まる。その大きな背中にひまわりの小さな鼻がこつん。

 

「あたっ! なんなの、急に止まらないでよ!」

 

 しんのすけの視線の先、暗がりからぞろぞろと出てくる集団。

 

 ――バットや鉄パイプを始めとした凶器を手に握りしめ、キィキィと甲高い声を挙げる、ヘンダー君たち。

 

「……お出迎えってワケね」ひまわりはリュックからバットを取り出しながら「お兄ちゃんステゴロでいくわけ?」としんのすけに訊く。

 

 しんのすけは答える

 

「ふ……ペンは剣よりも剛、って言うだろ?」

 

「……多分何かと勘違いしてるし、あと"つよし"ってその漢字じゃないからね。(したた)かの方だから」

 

「そうとも言う~」

 

「そうしか言わない! くるよ!」

 

 野原兄妹をめがけて、一斉に迫るヘンダー君の群れ。

 ひまわりはヘンダー君らの猛攻を避け、バットで防ぎ、できた隙にフルスイングをぶちかます! 吹き飛んだヘンダー君が群れに突っ込み大連鎖を起こす。

 

「へ! 伊達にソフトボール部やってないっての!」

 

 ヘンダー君の猛攻はしんのすけにも。

 しかし素手のしんのすけ。ヘンダー君の攻撃をゆるりふわりと受けながすが、反撃の手段はない……かと思えば。攻撃を避けたと同時にヘンダー君の背後に回り込み、両人差し指を重ねて、ヘンダー君の尻に第二関節まで突き刺す!

 

 ギイイイイイ!!! と、おおよそこの世のものではない金切り声と共に一丁上がり。

 

 しんのすけが指にふっと息を吹きかけた時「お兄ちゃん!」とひまわりの声。

 彼の背後、バットを高く振り上げたヘンダー君。交わす余裕はない、万事休す――

 

 しんのすけは呟く。「しかたありませんなぁ」と。そして

 

 ――みっつみだらに猫手反発

 

 バットを素手で受け止める。そして、相手の力を利用するように、ふっと押し返す。

 突然の、素手のパリィ。ヘンダー君のバットはそのまま自身の頭にお返しされる。そして、右から左からくる敵軍も同様に徒手空拳でどんどん打ち返す。

 

 囲まれた。そう思えば――やっつやっぱり柔軟弾丸、と称し、シロのわたあめよろしく体を丸め、ゴムまりのように弾け、周囲の敵を一層する!

 

「お兄ちゃん、そんな中国拳法みたいなの使えるなんて聞いてないよ!」

「昔とったキツツキってやつですなぁ!」

「杵柄……っでしょ!」

 

 言葉の勢いと同時にひまわりはとある敵に向かってバットをぶん投げる。

 めがけた先は、ライフル銃を持ったヘンダー君。スコンと頭にぶち当たったことを確認すると、ひまわりはスライディングで武器を鹵獲。ボルトを引いて排莢すると、しんのすけに向かってライフルを構える。

 

「お兄ちゃん!」とひまわりが叫ぶと、しんのすけは「ほい」と身体をのけぞらせる。そして、しんのすけの奥側にいたライフル持ちヘンダー君の頭を目掛けて、一発の鋭い銃声が鳴る。弾丸は綺麗に敵の頭を撃ち抜いて、ライフルヘンダー君は沈黙する。

 

「射的とは違ってシゲキあんじゃないの!」

 

 武器を取ってご機嫌なひまわりは、ライフルの柄で敵を殴り、距離を取る相手には容赦なく弾丸を浴びせる。

 しんのすけも致命傷を負わせるレベルの先年殺しや、ぷにぷに拳を用いた骨抜き技をこれでもかと。

 

 そして、しんのすけとひまわり、互いに背中を合わせる。

 

「やっぱ兄妹って相性いいのかしら」とライフルをコッキングで排莢しながらひまわりは笑う。

「かっ……身体の相性?」苦虫をかみつぶしたような表情でしんのすけが零す。

「マジクソおもんない大学生みたいなこと言わないでよ!」

「オラ大学生なんだけど……」

 

 二人が束の間の会話をしたその時――

 

「さがれ! お前たち!」という怒声がヘンダー城エントランスに響き渡る。

 

 二人の周辺に居たヘンダー君たちがぞろぞろと引き下がり始め、その声の主の為に導線を開ける。

 

 ヘンダー君たちの陰から少しずつ見えてくる人影。二人の男女だ。

 

 ひまわりは膝を少し落とし、ライフルを下に構え、引き金に指を添える。

 かたやしんのすけは、その場に仁王立ち。

 

「お前たち! これ以上ヘンダー城での好き勝手は許さん!」

「そうよ! トッペマ様に逆らう者たちには、この私たちが制裁を下す!」

 

 その声は、どうも聴いたことがある声。

 ――ひまわりからすれば、16年間ずっと聞き続けた声だ。

 

「ヘンダー・ヒロシ!」

「同じくヘンダー・みさえ!」

 

 野原兄妹の前に現れた、二人の男女それは、野原ひろしと野原みさえ。

 

「パパ……? ママ……?」

 

 ひまわりはそう言葉を零す。

 しんのすけに至っては、開いた口がふさがっていない。

 

 それは、実の両親が寝返ったから?……いいや。二人の衣装が、トランプの兵隊そのものだからだ。

 全身タイツに胴体にはスペードとハートのトランプ衣装。あまりにも不格好で動きにくそうな、それ。

 

 しんのすけとひまわりは、声を揃えて「………ダさ」と零した。

 

 そんな二人の表情を知ってか知らずか、ひろしとみさえはトランプマークの槍をぶんぶんと振りながら「あちょ~~」と意味の分からない掛け声を。

 

「パパ! ママ! 冗談やめてよ! 二人ともいったい幾つだと思ってんの!? パパもう50越えてるんだよ!?」

 

「ふん、裏切り者にはあぁチェストおおおおぉぉぉ!!!」

 

 みさえの槍がひまわりに向かって振り下ろされる。

 ひまわりは後転で攻撃をかわすと、「お兄ちゃんはパパをお願い!」と叫ぶ。

 

「ほーい」と聞こえる傍ら、みさえの槍が容赦なくひまわりへ。

 

「てぇえええい! そりゃ! そりゃああ!」

 

 ひまわりはライフルのレシーバーやストックを使い槍を弾き、時に避け、防戦一方。

 

「ちょっとやめてよママ! 私が……わからないっての!?」

「じゃかあしいい!!」

 

 みさえが槍をおおきく振りかぶる。ひまわりはライフルの機関部で受け止め、そのまま鍔競り合いの形へ。

 ひまわりの、一瞬の機転。槍の先端と絡み合ったライフルのバレル部を時計方向に一気に回し、みさえの武器を巻き込み地面へ落とす。

 

 からん、と足元に落ちた武器を遠くへ蹴り飛ばし、そのままみさえに銃口を向けながら牽制する形をとる。

 

「ゲームセットだよ、ママ」

 

 わずかに口端が吊り上がるひまわり。だが、彼女は重要なことを見落としている――それは、銃口を向けた相手が家族であるということ。

 

「うらうらうらうらああああああああ!!!」

 

 武器を落としたみさえは、そのまま一直線に、鬼のような形相でひまわりに襲い掛かる。

 ひまわりに一瞬の動揺。そう、ライフルを構えても、彼女は撃つことができないのだ。相手は――家族なのだから。

 

 ひまわりはライフルを横にして、みさえの手をガードする。

 みさえとひまわり、互いが一丁の銃を握り合って、今度は押し相撲で力勝負。

 

 単純な力で言えば、実は体重が重いみさえの方が有利。ひまわりはじりじりと押され、体勢が仰け反っていく。

 

「ママ……」

 

 何か打開策は――そう思いながら視線を動かすと、目に入ったのは銃口だった。その向き、ひまわりから見て左側に銃身が伸びている。……一か八か、賭けてみるしかない。

 

 ひまわりは親指で引き金を引く。

 

 ズドン、と一瞬の自由な衝撃が二人の手に響く。そして、みさえの手の力が一瞬緩んだ隙に、素早くボルト・ハンドルを操作し薬室を解放。するとそこから飛び出てくるもの――100℃以上に熱されたアツアツの薬莢。

 

 それは小さな放物線を描いて、みさえの額をジュっと焼いた。

 

「あちゃ! あちゃちゃ!!」

 

 みさえの手がライフルから放れる。ひまわりはその隙を突いて、みさえの両襟を握り、全体重を使って後ろへ引き込み、右足を突き出して、「よっしゃああああああ!!!!」という叫び声に勢いを載せ、そのまま後方へ巴投げ。

 

 吹き飛ばされたみさえは、そのままヘンダー君たちの群れへダイブ。

 

 再びライフルを構えながらみさえの下へ。周囲に居るヘンダー君たちに対し「次、誰がアタシと喧嘩する?」と睨むと、雑魚どもは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

 ヘンダー君を下敷きに、仰向けに横たわるみさえは気絶している様だった。

 

「ふぅ~、こっちは何とか」

 

 ひまわりは、倒したヘンダー君から弾薬を回収すると兄の様子を伺った。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 互いを睨み合い、視線で牽制し合う獣が二匹。

 片方は槍を構え、もう片方は丸腰。

 

 にやり、とひろしが笑う。丸腰の青二才を仕留めるなど、朝飯前に等しい。

 

「もらったあああああ!!!」

 

 しんのすけめがけて、槍を一突き。しかし――

 ひろしが次に見た光景。それは、現実か夢か。

 

 槍の柄をシリの割れ目で受け止めるしんのすけの姿。

 

「なっ!? なんだとぉ!?」

 

 そのまま尻を巧みに動かし、とんでもない力で、ずりずりとひろしの槍を引いていく。

 ひろしはなんとか槍を取られまいと両足で踏ん張るが、しんのすけの尻力の前には無力に等しい。

 

「父ちゃん! 自分の子供相手に、そんな姿、情けないと思わないのか!」

「今のお前に言われたかねぇよ!!」

 

 そして、するっとひろしの手から槍が抜ける。しんのすけは奪った槍をほいっと投げると、ひまわりがキャッチ。彼女は歯を見せてにかっと笑っていた。

 

「ふ……やるな。だが、俺サマはこんなところで終わらーん!!!」

 

 ひろしはその場でフロントダブルバイセップス。だが如何せん、筋肉量が足りなさすぎる。

 ただ無意味に贅肉のついたポージングを取っている只の中年。

 

 そんなひろしに、しんのすけは「おお! ならオラも!」と叫ぶと。彼に大きく尻を突きだす。そう、バックダブルケツセップス。そしてそこから連結される大技。

 

 ――ぷにぷに拳奥義『ここのつここから戦意尻失』

 

「ぶりぶりー! ぶりぶりー!!」

 

 それを見たひろし、「なんだ、このおバカな技は……!?」と全身の力が抜けていくのを感じる。

 

「お兄ちゃんまだケツだけ星人できるんだ……すご」ひまわりは奪った槍を杖にして、そう呟く。

 

「ふ……ふははは!! 面白い! 貴様にできるのなら、この俺サマにだって!」

 

 そう高らかに笑うひろし。彼もまた尻を突きだすポージングで、ケツだけ星人の応戦。

 ケツがケツを愚弄し、翻弄し、牽制し、ぶつかり合うまさに男同士の真剣勝負!

 

「ちょっと待って、私何見せられてるの……」と額を押さえて嘆くひまわりの無粋を横に、二人の勝負は……。

 

 グキン! という音と共に、あまりにもあっけなく終わった。

 

「あ……っが……こ……こし……が」

 

 その場で固まるひろし。

 それもそうだろう。齢51でやるような技ではないのだ。

 

 ケツだけ星人のポージングのまま動けないひろしに、しんのすけが言う。

 

「ひま、やっておしまいなさい」と。

 

「えー!? アタシがやんのぉ!?」

 

 ひまわりはしぶしぶと、気が進まなさそうにひろしのケツの前に来ると、「ごめんねパパ、恨まないでね」と言い。

 

 

 ――「そりゃ」という掛け声と共に、ひろしのケツにライフルの銃口を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 あんぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 ひろしの余りにもな断末魔が、ヘンダーランドに轟いた。

 

「ひま……後ろから叩いて気絶させるだけで良かったのに……鬼だね」

「え? あ! そういうこと!? お兄ちゃんのことだからアタシてっきりそっちの方向かと……」

 

 ひまわりは少し気まずそうに、舌の先端を見せた。

 

 

 

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