【完結】ひまわり in ヘンダーランド   作:nosky

8 / 13
08:CODE:X

「ああ……ああ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!……しんのすけ、お前は……おまえはどこまで……!」

 

 ドン! と机を叩く音が哀しく鳴る。

 そして響くは、乾いたお人形の金切り声。

 

「あらご機嫌ナナメねトッペマ?」

 

「おブスなお顔が更に台無し。見てらんないわ全く」

 

 トッペマがそろりと振り返ると、そこには二人のオカマ魔女が立っていた。声は砕けていても、その瞳は一切笑っていない。

 

「貴様ら……」

 

 最早体裁を取り繕うことすら忘れ、焦燥が露わになったトッペマ。木製の拳がピキピキと音を鳴らし、ガラスの目玉には血が走っている様だった。

 

「さて、そろそろいいんじゃないの? あなた、正体は一体誰なの」

 

「見た目はトッペマでも、中身は全くの別物。そうなんでしょ」

 

 二人が問い質す。トッペマは少しだけ俯くと、乾いた笑い声を響かせる。

 

「はは、知ったって意味はないでしょう。どうせもうすぐ終わる。終わる。終わる。野原しんのすけも、お前たちも、ヘンダーランドも、この世界も」

 

「往生際が悪いわよ、ここは私たちの城よ」

 

 こつん、とマカオが強く踵を鳴らす。

 すると、トッペマはおもむろに顔を上げて、中央の巨大CPUへと語り掛ける。

 

「ねぇ、マザー。こいつらもノン・エリート。皆みーんなノン・エリート。だから全部壊しちゃおう。いらなくなったおもちゃは壊して捨てるんだよ」

 

 そう言いながら、トッペマがそのCPUに触れようとする。

 

「させないわ!」

 

 何かを仕掛ける気だと悟ったジョマがトッペマへ攻撃魔法。

 しかし強いバリアが彼女を護る。

 

 グォン、と無機質な重低音が鼓膜を揺らす。その部屋の照明が一気に落ちる。

 

「マカオ!」

「ここにいるわ!」

 

 二人が光魔法で明かりを灯すときだった。

 大きな地響き。直下型の大地震にすら似たそれ。二人のバランスを失わせるには十二分。

 

 ガラガラ、グラグラ、ゴトゴト、ガタガタ。この部屋が崩壊するのを直感で理解する。

 

「一体なんなの!?」

 

 お互いが肩を取り合いながら、部屋の隅へ。

 また、巨大な轟音が鳴る。ドオンと重く、奥歯を噛み締める音だ。それと同時に大量の光が彼らの目に飛び込んでくる。

 

 大量の光、それは、ヘンダーランドの水銀灯の光。つまりは、外からの光。

 そう、今の音はこの部屋の壁が壊された音だったのだ。

 

 破壊された壁からは一本の巨大な何か。こいつが壁を突き破ってきた。

 

 そいつはしなやかに動いて、トッペマがマザーと呼んでいたCPUを5本の指でがっちりと握る。

 

「腕……?」

 

 そうすると、それは一気にまた外の世界へ。

 引っ込んだ腕を追いかけるように、マカオとジョマは穴へ駆け寄る。

 

 そこから見えたもの。ヘンダーランドの一番大きな塔と同じ高さを持つであろう、巨大な、巨大な超合金のロボット。

 奪い取ったCPUを胸のコアにセットして、本格的に起動を開始する。

 

「ねぇ、これちょっとヤバいんじゃないの?」

「いいえ……ちょっとどころか、ウルトラスーパー滅茶苦茶ヤバいわよ」

 

 その超合金ロボットが向かった先、ヘンダーランドの広場。

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

「パパ……ママ……?」

 

 ゆっくりと目を覚ました両親にそっとひまわりは語り掛けた。

 二人ともしばらくは目をくらくらと回し、ようやく定まったところに「ひま」と一言声が出た。

 

 ひまわりは大好きな両親に飛びつく。じわっと目が充血しているのは自身の感覚でわかった。

 

「しんのすけ、ひまわり……いったいなにうおおおぉぉぉぉ!? お、おれのしりが……なんでこんなに痛ぇんだ!?」

 

「あーそれは……まぁ、あいつらが悪いの全部、うん」

 

「あいつらって」

 

「見覚えあるでしょ、あの」

 

 ひまわりがヘンダーランドの城を指さした時。

 ドォン! と鳴る地響き。いきなりの大地震にひまわりは思わず尻もち。しんのすけは尻で受け身。

 

「いったぁ……今度はなに!?」

 

 ヘンダー城からは激しい砂煙が立ち込める。

 そしてその奥からぼやっと光に照らされて見えて来た大きな影。

 

 ヘンダー城のテッペンと頭を揃えるくらいの大きさがあるそれ、こんな巨大なものが今までどこにあったのだ。と四人は思う。

 

 奴は一歩ずつこちらへ歩み寄ってくる。そして見えてくる、そのシルエット。

 白いボディに身を包み、青白く煌々と輝くコアを胸に抱えた、今時モダンな超合金製のロボット。

 

「なんなのあれ……」

 

 言葉を失うひまわり。しんのすけは全身をわなわなと震わせ、声を絞り出す。

 

「か……カンタムX(カイ)!? うおー! すっげ! すっげ!」

「カンタム? あれって昔の特撮じゃないの?」

「ちっちっち、古いなひま。この間新しいシリーズが始まったんだゾ。ねぇねぇ父ちゃん、写真撮って写真撮って!」

「撮ってって言われても、俺今スマホねぇんだよ。どこいっちまったんだ?」

「えー!? あのスマホ残価設定なのよ! 冗談じゃないわよ失くしたら全額買い取りよ!? ってあれ、私のもない!」

「もうしょうがないなぁ、ほら私のスマホあるから、ほら皆寄って寄って」

 

 ひまわりがスマホを高く掲げ、インカメで家族全員を捉え、背景には結構近くまで寄ってきた超合金ロボットを何とか枠に入れて。

 

「野原一家はいチーズ!」

 

「「「チーズ!」」」

 

 パシャリと音が鳴って、ひまわりは真っ先に自分がちゃんと盛れてるかを確認し、「わぁ、おにいちゃん目半開きになってる」と兄に呼びかける。

 

「あらやだ、最新の機種ってこんなに綺麗に写るの? もう写真撮るって分かってたらこんなみっともない服じゃなくてこの間バーゲンで買った良いのがあったのに」とみさえが覗き込み、ひろしは「おいちょっと、俺の頭明るく写りすぎてねぇか?」という。

 

「うーむ、カンタムがちょっと近いなぁ」としんのすけ。

「そうよね、もうちょっと引きで写さないと被写体が近すぎて……近すぎて(・・・・)?」

 

 ふと視線をロボットへ。

 その時ようやく一家は気付く。

 

 ――呑気に自撮りしてる場合じゃねぇと。

 

「うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 野原一家総員敵前逃亡。

 

 超合金のロボットが野原一家めがけて大きな腕を振り下ろす。

 ドオン! と地響きを連れてヘンダーランドが揺れ動く。

 

 その手を間一髪で避けた野原一家。それぞれがあちこちへ逃げ惑う。

 

「あーもう! 結局またボロボロじゃない! そんなに沢山洋服持ってないのよアタシ! バーゲンでしか買ってもらえないんだから!」

 

 ひまわりは西の方角に向かってライフルを担いだまま走る。

 また家族離れ離れだと心で嘆きながらも、もう彼らを信じるほかない。

 

「あっはっはっはっは! 逃げなさい、逃げなさい! このおバカ家族。一人ずつありんこみたいに踏みつぶしてあげるんだから」

 

 鋭い声の先にはトッペマが宙に浮く。そして野原一家を上から嘲笑う。

 

 ロボットの視線がこちらを向いていない隙を突いて、ひまわりは銃口をトッペマへ。迷いなく引き金を引く。

 しかしトッペマはするっと弾丸をかわし「ざんねんでーした!」とひまわりへ舌を出す。

 

 そして、ロボットの視線がひまわり一直線に向く。おおきく手を開く。手のひらいっぱいのサイズは横数メートルはある。逃げられない。

 

 ひまわりはそっと銃口を下ろす、彼女を押しつぶしにかかる巨大な手の影をじっと見るしかなかった。

 

 ――pirouette

 

 突然、ロボットの手が横方向へ吹き飛ばされる。

 ひまわりはへたりとそこに内股を付いた。

 

「へたりこんでる場合じゃないわよデンジャラスガール!」

「お、オカマたち! どこ行ってたのよ! あんな置手紙一枚で!」

「そんな話は後になさい! 今は私たちに協力する!」

「協力って、なにを!」

「いいこと! 奴の胸の中にあるコア、あの中にトランプカードのジョーカーがある筈なの! それを奪い返すのよ!」

「ジョーカー? どういうこと!」

「同じ話をしんのすけにしなさい! 彼ならわかるはず! くるわよ!」

 

 ロボットの目が赤く光る。そこから熱波光線。

 オカマたちはバリアを展開し、ひまわりの逃げる導線を確保する。

 

 ひまわりは東の方向へ走りながら。「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」と叫ぶと。

「なぁに?」と背後からにゅっとしんのすけが現れる。

 

「うひゃあああ! なんでそこにいんのよ!」

「呼ばれたから」

「間ってモンがあるでしょ! ってまあいいや。お兄ちゃん、あのロボットの胸のコア」

「ちっちっち。あれはカンタム・マグナっていうの」

「んなこたどうだっていいでしょ! あのコアにトランプのジョーカーが仕込まれてるからそれを奪い返せってオカマたちが」

「ジョーカー……? ほうほう」

「でもどうやってあのコアまで行けば」

「背中」

「え?」

「確かカンタムX(カイ)は背中のハシゴから中に入れるんだゾ。ユキおねいさんがお尻をブリブリ振ってハシゴを上るシーンがあったから覚えてる!」

「背中ぁ!?」

 

 ひまわりがよく目を凝らす。すると確かにある。"maintenance(メンテナンス)"と記された踊り場のエリアから機体の中へと続くハシゴ。

 

「うっそ……あんなところにどうやって」

 

 二人の背後からけたたましいクラクション。緑色のボディ、野原家の自家用車だ。フロントウインドウが空くと、ひろしとみさえの姿。

 

「しんのすけ! ひまわり! 乗れ! ここから逃げるぞ!」

 

 しんのすけたちが運転してきた車、鍵を刺したままによくするしんのすけの悪癖がこの時は幸いに動いた。

 

「パパ! ママ!」

 

「もういいだろ! ここから出るぞ!」

 

 ひまわりが後部座席のドアハンドルを握った時、ふとオカマたちの事が気になった。ロボットの視線は未だにオカマ達。互いに一歩も引かない接戦が続いている。

 

「……ごめん、パパ、ママ。先に逃げて」

 

「ひまわり! あんた!」

 

「私、あのオカマたちと約束したの。このヘンダー城奪還に協力することを」

 

「そんな約束、律儀に守ってちゃ命がいくつあっても足りねぇぞ!」とひろし。

 

「でも、シロを助けてくれたお礼は果たさなくちゃ。私は貸し借りを無しにしたいだけ。ごめんねパパ、ママ。でも、必ず戻るって約束する」

 

 そういってひまわりはロボットに向かって駆け出す。

 

「おいひまわり! しんのすけ、お前は!」

 

「……うん。オラも行く。オラ、お兄ちゃんだから」

 

 そういって赤いシャツは黄色いジャンパーを追いかけ始めた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。