【完結】ひまわり in ヘンダーランド 作:nosky
すっかり日も沈みかえった丑三つ時。
水銀灯に照らされた巨大なロボットは、空中を浮遊するマカオとジョマを目掛けて思い切り腕を振り、光線を放ち、彼らの駆除を試みる。
対するマカオとジョマ、彼ら(彼女ら?)は魔法の源となるジョーカーを奪われてしまっているが故、使える魔法は最小限。攻撃を避け、バリアを展開することが精一杯だった。
「っは! 最強のオカマ魔女がこうしてコバエのように逃げ惑って、まったく惨め! いい加減に死になって!」
カンタムXが二人に向かって両腕を伸ばして構える。
そして両腕がそこから射出され、二人をホーミング。
マカオとジョマは空中回避を繰り返しながら、一瞬目を合わせと、互いに向かい合って一気に詰め寄り、ギリギリのところで回避。
二人を追尾していたロケットパンチの二本の腕同士は回避が間に合わず空中爆破。
「ふん、やるじゃない。でももう、いっぱいいっぱいってカンジ?」
トッペマの言う通りだった。マカオとジョマ、二人の息はもう激しく切れており、額から汗が流れ憔悴している。
マカオの視線の隅、地上を駆けていく兄妹の姿。二人が向かっている先を理解した彼はふっと鼻を鳴らし「いいえ。本当のショー・タイムはここからよ」と笑った。
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ボロボロの黄色いジャンパー。宿主はカールしたブロンドを揺らしながら遊園地エリアへと走る。赤いシャツの兄もその背中を追いかける。
ひまわりが向かった先は、遊園地エリアのジェットコースター。
今カンタムが立っている付近を、ジェットコースターの線路が通っている。
最上階から急降直下するその瞬間、件のメンテナンスエリアへ最接近するポイントが存在するのだ。
これを成功させるためには、素早くジェットコースターへと乗り込み、ロボットが移動を開始する前にそこへ飛び移るしか方法がない。もう少し、マカオとジョマに持ちこたえてもらうしかないのだ。
遊園地エリアに踏み込む……しかし、そこには大量のヘンダー君たち。そう、簡単に作戦を実行させてくれる気はないらしい。
その数もおびただしい。100体をゆうに超えている。
キィ、キィと甲高い声を挙げて、それぞれの武器を手に持って憎き兄妹をぎろりと睨む。
「もう……勘弁してよマジ」
ひまわりがライフルを構えた時――ハロゲンライトのヘッドライトが、クラクションを連れて現れる。
緑色のボディ――野原号。激しいスキール音を立てて、フルカウンタードリフト状態でひまわりたちの前へ。
「パパ! ママ!」
「ひまわり! 行くなら早くしろ! こいつらは俺たちが引き受ける!」
そう言って再びアクセルを全開。トランクでヘンダー君たちを吹き飛ばし、助手席から箱乗りになったみさえがトランクから引っ張り出したひろしのゴルフクラブで雑魚どもを殴り飛ばす!
「ああ!! 俺のアイアンがぁあああ! なんでもっと安いやつにしないんだよ!」
「うるさいわね! この際どうだっていいでしょ! どれも同じよ! どりゃああああ!」
スコン! と子気味の良い音を立て、ヘンダー君をナイスショット。
「流石パパママ!」
ひまわりもライフルの柄でヘンダー君を殴り飛ばすと、「ひま~、出発するよ~」と気の抜けたしんのすけの声。そこには既に動き出したジェットコースター。ビリリとベルが鳴る。
「あ、ちょっと待ってよ私乗ってないってば!」
ひまわりは乗客通路の脇にあるスタッフ階段をタンタンと音を立てて上る。そして既にスタートしたジェットコースターへジャンプイン。
だが飛び乗ったのは彼女だけではない。追いすがるヘンダー君たちも次々とコースターに乱入してきた。
「ええい! お呼びじゃないっての!」
揺れる車両の上、不安定なステージで死闘が始まる。ひまわりは蹴りを繰り出し、しんのすけはお得意の中国拳法で雑魚どもを薙ぎ払う
ジェットコースターが少し高さをつけると、一度目の急加速を始める。
ジェットコースター好きのひまわりにとってみればなんてことない速度だが、座席から立ってベルトも締めてないとなると話は別だ。
急いで座席に飛び乗り、固定バーを握りしめて嵐が過ぎるのを待つ。
そして一度目の加速が終わった時、ドシン、とジェットコースターのものではない、振動が機体を揺らす。
最後尾に、赤いフォルムをした女の子型ヘンダー君。『ヘンナちゃん』の姿。
このジェットコースターにタイミングを見て飛び乗ってきたのだ。
しかもそのヘンナちゃん、普通のヘンダー君よりも二回りほど大きい。
ヘンナちゃんは笑ってないその瞳を引っ提げて、ひまわりの下へずん、ずんとゆっくり足を進める。
「お兄ちゃんどうしよう! あれ!」
ひまわりがそうしんのすけに呼びかける。
しんのすけの視線は、ジェットコースターの進行方向を向いていた。
そして、ひまわりに一言
「ひま、足元に指輪落ちてるゾ」
「え、どこ!?」
ひまわりが足元めがけてしゃがんだ時、ジェットコースターは二度目の急加速そして機体は――乗客の頭スレスレを通過するトンネルへ突入し、巨大なヘンナちゃんはトンネルに激突。奈落の底へ真っ逆さま。
「ちょっと指輪なんてないじゃない!」トンネルを抜けた後、ひまわりが憤って顔を上げた時、赤いヘンナちゃんの姿は既になかった。
「……意外と策士家ね、おにいちゃん」
「つんく♂みたいな?」
「それは
そうこう言っていると、ジェットコースターはこのコース最大の上死点へ。
カンタムXとの距離が触れられそうな程に近い。
上死点でぴたりとジェットコースターは止まる。
乗客たちを最恐の世界に陥れる合図だ。
ひまわりとしんのすけはシートから立ち上がり、ジャンプに移る体勢。
しかし、土壇場に来て思う。
――これ失敗したら死ぬくね? と
「……あたしってば、なーんでこう勢いだけはいいんだろ。ママ譲りなのかなぁ?」
「無計画とも言いますな」
そして機体は、地上へ向かってイッキに真っ逆さまの急降直下を始める。
二人は立ったまま、それでいて座席のバーグリップを握りしめる。
そして、機体の背面とニアミスをするその一瞬、針の穴を通すかのようなその繊細なポイントを見極めて――ジェットコースターからジャンプ。
瞬間、その世界がスローモーションになる。
ひまわりはメンテナンスエリアの踊り場の柵を目掛けて手を伸ばす。届くか、届かないか微妙な世界。指先が柵に絡まる。手を握りしめる。柵をグリップした感覚が手に宿る。
「うっ!!」
身体の全体重が細い左腕にのしかかる。
なんとか踊り場の柵を掴むことはできても、未だ宙ぶらりんな状態。なんとかここを超えて柵の中に入らなければ即あの世行きだ。
そういえばしんのすけの姿が見当たらない。踊り場の中にもいない。
周囲を見回した時、「ひま~!!」と叫ぶ声が足元から。
「お、お兄ちゃん!!?」
しんのすけはひまわりの左足にしがみついていた。
ツルツルなカンタムの機体。他に掴めそうなものも何もない。今のしんのすけにとってはひまわりの左足がほぼ全て。
「お兄ちゃん! すこし堪えて!」
ひまわりは右手を振り上げて柵を握る。腕に全ての力を預けて乗り越えようと試みるが、マカオとジョマを相手取る機体は静止することを知らない。
ずる、ずるとしんのすけの腕がひまわりの足から滑り落ちようとする。
「ひま……オラ、もう……」
「ダメ! 耐えて! もう少しだから! 私の足をそう……"あのちゃん"のナマ足だと思って!」
「あのちゃんの生足…………へへぇ~~/// あのちゃ~ん、今日もすべすべで素敵な
しんのすけの腕は途端に疲労を忘れてひまわりの足にタコのように絡みつく。
「よしっ! せえのっ!」
ひまわりは一気に柵を乗り越え、踊り場に倒れ込む。両腕の痺れが止まない。明日からしばらくは使いものにならないだろうと思う。
一緒に引き上げたしんのすけは、未だにひまわりの足に夢中。
「へぇ~~///あのちゃ~ん、オラがツボ足押してあげる~~///」
「ほら、おにいちゃん! もう大丈夫だから、しっかりして!」
しんのすけがふと顔を上げた時、そこにあったのは妹の顔
「……なんだ、ひまの足か……」
「な!? なんだってのは何よ! 現役JKのぴちぴちのナマ足なのよ!? そんじょそこらの大学生が触りたくても触れない
ドン、とまた機体が揺れる。
ひまわりが外の世界を見回した時、ロボットの腕に薙ぎ払われ、地上へと墜落していくマカオとジョマの姿が見えた。
「そんなっ!」
二人を案ずる心をぐっとこらえ、彼女は機体の中へと続くハシゴを握った。