キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva   作:シロX

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第10話 2人の温度差

 ななが、アイドルプリキュア・キュアウインクとして華々しく変身したその翌日が経ったある日の放課後。

 ななは独り、音楽室のピアノの鍵盤に手を置き、夕暮れの窓の外に顔を向けて黄昏ていた。

 

 一息吐き、ピアノを弾き始めた。

 音楽室から響き渡る音色が廊下、校内、そしてグランドにまで。

 

 キュアウインクに変身してから調子がとても良い。勉強も、ピアノも、日常生活になるまで何もかもが。それもこれも全部、皆と出逢えたから。

 

 その想いを指先から音へと変換させて、音として己の感情を表現する。

 

「相変わらず、良い音出してて聴いているこっちも気分がいいよ」

 

「あっ、紫雨君」

 

 演奏中にそう声を掛けて来たのはまもるだった。思わず鍵盤を押す指が止まり、彼と目を合わせる。

 

 まもるが現れた事に意外と言えば意外だが、全くという程でもない。このところの動向では、一緒に行動する事が多く、それこそ呼び方には距離感があるものの彼氏彼女の様な親密さがある。

 

「昨日までの悩みが嘘みたい」

 

「それもこれも全部、皆のお陰だよ」

 

「謙遜……でも、そういうところは蒼風さんらしいね」

 

 するとななは、席を少しだけ横にズレてギリギリ1人座れる程度のスペースを開ける。

 それに対してまもるは眉を顰めていると、ぽんぽんと空いたスペースに座る様ななが促す。

 

「前言ってたよね、また連弾しようって」

 

「今?」

 

「今がいいの」

 

「いいけど、簡単なもんしか弾けないぞ?」

 

「大丈夫、わたしが紫雨君に合わせるから。それに弾けるとか弾けないとかじゃなくて、わたしは紫雨君と"一緒に"弾きたいの」

 

 特に断る理由もない。それに、約束した手前断る事事態どうかと思う。まもるは静かにななの隣に座り、鍵盤に指を置く。

 

 その時、肩と肩が接触した。

 

「あっ、ごめんね。もう少し離れるから──」

 

「離れたらやり難いでしょう? くっ付くくらい気にしないから」

 

「じ、じゃあ遠慮なくいくよ」

 

「おう?」

 

 特に何を弾くのかも相談もしなかったが、ななが途端に指を動かしたのでまもるもそれを追い掛ける様にして弾き始める。

 曲は以前はもりと一緒に弾いたきらきら星。

 

 滑らかな指先の扱いとは真逆のまもる。必死に食らいついて、ななに置いていかれないよう集中。

 そんな横顔にななは気になってしまう。

 

 熱烈な視線が気になったのか、まもるはポツリと呟く。

 

「蒼風さん、何? もしかして、どっか間違ってた?」

 

「ううん、全然! 気にしないで!」

 

 とは言われたまもるだが、未だななからの視線が途切れる事なく、それでいてまじまじと向けられて些か集中出来ない。見られる事は別段嫌ではない。寧ろいつも通りだ。

 

 去年も隣の席に座っていると、授業中問わずななからの視線がいつも突き刺さっている。だから今日に限った話ではない。ただ、熱量は普段より上。

 

(むず痒い)

 

まもるもとうとう集中力が切れ、些細なミスをしてしまった。

 

「ミスしても大丈夫だよ、わたしに任せて紫雨君!」

 

「いやあの、視線がとてもとても気になるんですが……」

 

「気にしないで!」

 

「気にしてるんだけど⁉︎」

 

 話が通じているようで通じていなかった。それに多分だが、まもるの言う"視線"ではなく、ななはピアノのミスについて話している。

 

「蒼風さん、さっきら視線が超絶気になるんだけど……」

 

「視線?」

 

 ななは辺りを見渡して可愛く首を傾げる。

 

「誰も居ないよ?」

 

「蒼風さんの視線です!」

 

「わ、わたし⁉︎」

 

「自覚無かったの⁉︎」

 

 てっきり意識して見ているのかと思いきや、蓋を開ければ無自覚。流石にこれには予想外。

 しかし、そうなると無意識でまもるのを見る程心の奥底で何か気になる事でもあったのかと疑問符が浮かぶ。

 

 それがどんなものか、なな本人にしか分からない。

 

「か、帰ろうか紫雨君!」

 

 このなんとも言えなくなった雰囲気を脱する為に、誤魔化しながら席を立った。

 

「ちょっと蒼風さん!」

 

 唐突に立ったななに驚いた拍子にまもるは体勢を崩し、椅子から転げ落ちようとする。その様を間近で見ていたななは、咄嗟に手を伸ばしてまもるの腕を掴んだ。

 しかし、人1人を持ち上げる力の無いななはそのまま引き摺り込まれ、押し倒す形でまもると共に転倒するのだった。

 

 その際、予想外の出来事が起きてしまった。

 

「「──ッ⁉︎」」

 

 2人の唇と唇が重なった。

 

 思わぬ事件に2人とも微動だにしない。頭の中はパニック状態に陥り、一体何が起きているのか理解しようとしている。

 

 それから10秒程の時間が経とうとしたところで、事態を把握してななが飛び起きた。

 ななは赤面し、自分の唇に指を添えて先程の感触を確かめ、思い出す。

 

「蒼風さん」

 

「ひゃち!」

 

「『ひゃち』って……それよりも怪我はなかった? 結構勢いがあってぶつかったけど?」

 

「そ、そんな事ないよ! 柔らかったから!」

 

 ハッとまた自分で失言した事に気付き、更に顔を赤く染め上げる。

 ふと目が合うと、両手で顔を覆い、今の自分を見られないよう隠し通す。

 

 ななが感情のジェットコースターで大荒れている傍ら、まもるは赤面させないどころか意外にも冷静さを保っている。

 

「そんなに意識しなくても良いよ。あれは事故だから」

 

「……一応初めて、だったんだけどなぁ」

 

 眼中に無いと思われ、逆にななは気を落とす。

 

 それよりも、今まもるが気にしているのは事故でキスをしてしまった事ではなく。

 

「蒼風さん、ずっとこの体勢はキツいから退いてもらえると助かります」

 

 転倒してから、ななはまもるの上に乗っかっている。今は上半身を起き上がらせているが、それでも馬乗り状態である。

 

 慌ててまもるから降り、スカートに付着した埃を簡単に振り落とした。

 

「んじゃ、そろそろ帰るとしますか」

 

「う、うん!」

 

 この日を境にななは、より一層まもるに対して意識してしまうのだった。




ここまでの拝読ありがとうございました
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