キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
うたは、マックランダーの手がギリギリ届かない距離に留まり、そこで意を決して突如歌を歌い始めた。
その場に居る者全員が、うたの突然の行動に困惑して眉を顰める。今、この場の状況下でなんの意図があって歌を歌うのか。その行為を知る者は、歌っているうた本人にしか分からない。
「何してるのうたちゃん!」
呑気に歌を歌う彼女にマックランダーは容赦無く筆を地面に振り下ろして、その衝撃波でうたを襲う。
だがまもるの方が一歩早かった。駆け出し、飛び出したまもるは普段以上の力でうたの腕を掴み、揉みくちゃになりながら地面を転がり攻撃を回避した。
「あっぶない……ッ⁉︎」
上体を起き上がらせ、先程までうたが居た場所に目を向けると悲惨な状況となっていた。
固いコンクリートが衝撃で下から鋭い突起物となって小さな山を作っており、マックランダーまでとの間も割れて崩壊していた。
もし、うたを助けれていなかった事を想像すると、背筋が凍る。
「うたちゃん、此処は危ないから避難するんだ!」
「……嫌だ」
まもるの静止する声に拒否を示し、寧ろ歌を歌う為に強行する。足を踏み出し、恐怖など全部度外視してマックランダーと再度対峙する。
「俺には分かんないよ。どうしてうたちゃんはそこまでするの? あの怪物が怖くないの?」
情けない事に、男であるまもるの方が目の前の怪物に一番怯えている。
そもそも仕方のない事だし、至って当たり前の反応だ。大人だってこの状況を目の当たりにしたら逃げ出す。
故に適切な判断でうたを引き止めようとしているのに。
まもるの問い掛けにうたは真剣な眼差しで、それでいて優しくもあり、微笑みの表情を浮かべさせて返す。
「プリルンが言ってたの。わたしの歌が、絵真さんをキラッキランランにするって。それならもう一度、絵真さんをキラッキランランにしたい!」
「だとしても──」
決意ある決断を前に、まもるが戸惑っているとうたはそっと手を握り、胸の前まで運び、鼓動を聴かせる。
「……分かった、信じるよ」
「本当に?」
「だって、うたちゃんの歌は最高にキラッキランランなんだもん! 俺はそれを知っている」
「くだらない話はそこまですぞ、マックランダー!」
カッティーの指示でマックランダーが動き出した。筆を大きく回し、その勢いを乗せて振り下ろして来る。
畏怖の念で苛まれる。そして動悸が早くなり、呼吸数も増えている。
でもすぐに荒ぶろうとしている感情はすぐに治る。
手を握っているうたの体温を感じる。それだけで心身共
に気を落ち着き、冷静さを取り戻してくれる。
「うたちゃん信じてるよ──君の歌を!」
「ッ‼︎」
マックランダーの筆が2人に直撃する瞬間、うたの胸の内から突如として出現した光が攻撃を遮り、弾き返した。
光が弾けると、形を変えて小さなリボンと化した。
「プリ?」
ぬいぐるみの、プリルンが所持しているバッグからハートの形を模した謎のアイテムが飛び出してうたの手の中へと収まる。
まるで、この刻を待っていたかの様なタイミング。
うたは、初めて目にするアイテムを掲げ、先程のリボンと一緒に併用しながら使用する。
「いくよ!」
初めて使う物なのだが、最初から使い方を知っている素振りでリボンをアイテムにセットした。
「プリキュア! ライトアップ!」
3回タッチ後、掛け声と共にアイテムにあるボタンを同時に2つ押す。
「キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!」
うたの身体に変化が訪れる。
髪は普段の倍以上に伸び、その色も金色と変色。衣服もピンクを基調としたアイドル衣装を彷彿とさせる煌びやかなものに衣装チェンジ。
それを活かす、頭から足先までの装飾によって可愛らしさを全開にして、うたの良さをより引き立たせる。
「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
そう名乗りを上げるうたもといアイドル。
瞬く間に別人へと変貌させたそれは、正に"変身"と称するのがしっくり来る。
そんな彼女の姿を間近で見たまもるは一言。
「か、可愛い!」
呟いた。
「って、何々⁉︎ どうしちゃったの私?」
当の本人は、さっきまでの一連の流れを違和感無くやっていた事も相まって今更ながら自分の変化に驚き、若干ながらパニックを起こしている。
「うたがアイドルプリキュアプリ!」
「うた、じゃなくてアイドル可愛いよ!」
「えへへ、ありがとうまもる君……じゃなくて!」
首を頷かせて感心するまもるに一言申そうかとした時、マックランダーの攻撃が襲い掛かってきた。
「危ない!」
「グエッ⁉︎」
マックランダーの動きに勘付き、安全面を重視してまもるの襟首を掴みながらアイドルはその場で大きく跳んで後退する。しかし咄嗟の事もあって、まもるには少し苦しい思いをさせてしまっているが背に腹はかえられない。
「わわわっ⁉︎」
回避に成功はしたものの、アイドルの身体は空中でアンバランスに手足をバタつかせながらあたふたしている。
空中で体勢を立て直そうとするも、急激に上がった自分の身体能力に振り回されていのだ。
制御の効かない身体をコントロールしつつ、まもるを胸の中に抱きつつ下手な着地をする。
「大丈夫まもる君?」
「ありがとう。大丈夫だけど、まるでジェットコースターに乗ってる気分だよ……」
まもるが上体を起き上がらさせて、ようやく今の自分の状態を知る。
アイドルに覆い被さる様な体勢。第三者の目線からだと、まるでまもるがアイドルを襲って押し倒している様にも見える。
それに加え、お互いの顔と顔の距離感が殆ど無い。呼吸し、吐いた息がお互いの顔をくすぐらせる。
勿論お互いの視線が嫌でも合う。その事に一瞬2人はドキッ、と脈打ち頬を赤らめさせる。
「ご、ごめんすぐ退くよ」
「う、ううん気にしないで!」
ちょっとした良い雰囲気も束の間、アイドルの表情が打って変わって鋭くなりまもるを抱いてまたも飛び上がった。
まもるは情けなくも、アイドルの腰にしがみ付いて振り回される。
「あ、アイドルー⁉︎」
反射的にそうなってしまうのも仕方なし。でなければ、アイドルとまもるはマックランダーの攻撃をモロに食らい、深傷を負う。
車の上に着地し、ようやくそこで一息つける。
「うたちゃん……じゃなくて、アイドル。その力があればもしかすると、絵真さんを助けられるかも知れない。出来そう?」
アイドルは自分の両手を握り締め、一呼吸した後真剣な眼差しをまもるへと向け、返事をする。
「大丈夫、行けそうだよ!」
「お願いね、ここは任せたよおぉぉっ⁉︎」
まだ腰にしがみ付いているままのまもるは、アイドルが動き出してしまい嫌でも前線へと連れ出された形となってしまった。
手を離してしまえば解決する事なのだが、今離してしまうと勢いそのままコンクリートの地面にまもるが大激突。勿論、受け身など出来る筈もない。
故に絶対に離せない。
「マックランダー!」
「ッ!」
マックランダーは、まさかの筆先を飛ばして遠距離攻撃を仕掛けて来た。
一瞬身を引いてしまうアイドルだが、瞬時に相手の攻撃の軌道を読み取り、最小限の動きだけで躱し、いなしていく。
素人目にもはっきりと分かる。身体能力が激的に向上しているとはいえ、初めての怪物相手に戦う者の動きではない。
「マックランダー⁉︎」
いつの間にか、己の懐に潜り込んでいたアイドルに動揺して身を固めた。
その刹那の間とも呼べる僅かな隙を、アイドルは見逃さなかった。
「アイドルグータッチ!」
力強く握り締める右拳に光が凝縮し、強化されたその必殺の拳をマックランダーへと叩き込む。
鈍い音と共にマックランダーの腹部に拳が減り込み、盛大に吹っ飛ばした。
「わっ、かなり吹っ飛んだよ……どうしたのまもる君?」
「どうしたの? どうしたのだって⁉︎」
まもるの事などほぼ無視をして、あれだけ縦横無尽に動いた後の一声。
もはや何か言う気力すら起きない。ズルズルとアイドルの腰から滑り落ち、冷たいコンクリートの上で寝そべる。
そんな彼にプリルンは近付き、とあるライトを1つ手渡される。
「これ持って、アイドルのステージを一緒に盛り上げるプリ!」
「も、盛り上げる?」
「キュアアイドル頑張るプリー!」
プリルンが振るのを見て、まもるも同様に一緒になってライトを振る。
すると、アイドルはまもるとプリルンの方を一度目にした後精一杯の笑顔を浮かばせた。
「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」
その瞬間、アイドルを中心に突如として巨大なステージが出現。体の芯にまで響く大音量の音楽と共に、アイドルはステージ上で自分の持ち歌を披露する。
それに合わせ、観客席からリズムに乗って揺らめくアイドルのイメージカラーであるピンクのライト。
まもるとプリルンも全身でアイドルの歌声に合わせる。笑顔でするコールに対しても、レスポンスをしてアイドルの歌に応える。
そして最後のロングトーンで絶頂に達した瞬間。
「プリキュア! アイドルスマイリング!」
頭上にハート型のエネルギーを形成させ、そのままアイドルの歌声に夢中となっていたマックランダー目掛け投げ付ける。
無慈悲に直撃したアイドルの技が、マックランダーを浄化して中に囚われていた絵真が解放された。
「おっと!」
マックランダーが浄化されると、1つのリボンがどこからともなく降って来てアイドルがすかさずキャッチ。
その形は、変身時に使用していたリボンと同じに見えるが模様などの細かい部分が異なっている。
「あっ」
不思議な力が働いたのか、あれだけめちゃくちゃになっていた街も元の姿に戻っていた。
「事態は収まったって事で良いのかな?」
「多分?」
「それで、どういう事か説明はしてくれるんだろうね?」
まもるとアイドルは、プリルンへと目を向けたのだった。
ここまでの拝読ありがとうございました。