キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
まだ瞼が重たい平日の朝。まもるはそんな瞼を必死に引っ張り上げて学校までの道を歩く。
今日は珍しくも1人の登校。
周囲に誰も居ない。まもるはリズムを刻み、軽快なスキップで歩く。しかし、あまりにも上機嫌な事でちゃんと前を見ておらず、角から出てくる女の子の存在に気付かなかった。
「「あっ!」」
お互いに気付いた時にはもう遅い。出会い頭に衝突、そして尻餅を突いてしまう。
前方不注意にも程がある。慌ててまもるはぶつかってしまった女の子相手に手を差し伸べる。
「ごめん、大丈夫?」
「はい、なんとか……って!」
「あっ!」
「こころ⁉︎」
「まもるお兄ちゃん⁉︎」
偶然にも衝突した相手はこころだった。お互いに空いた口が塞がらず、唖然とする。
「奇遇だね。怪我はしてない?」
「はい、少しお尻が痛いくらいで」
「分かった救急車だね、任せて」
「人の話聞いてます?」
なんて冗談で流したが、こころの目を見る限り信用されていない。
怪我も無いならそれで良い。こころの手を取って起き上がらせる。
「前方不注意、気を付けないとね」
「お兄ちゃ……まもる先輩も」
呼び方が変わった。ふと背後を見ると、チラホラと学校へ向かう生徒の姿を見掛ける。
いい加減、その呼び方を直して欲しいと思うところがある。なんていうか、すっごく寂しい。
「ねぇ、こころ。お兄ちゃんって──」
「嫌です」
「ちょっとだけでも」
「ダメです」
「1回は……」
「さっき呼びました」
まもるはもの凄く残念そうな顔をして両肩を落とし、あからさまな態度を示す。
「そんな顔をしないで下さい。わたしが悪いみたいな感じに見えますよ」
「1回でも呼んでくれたら機嫌上々だよ?」
「もう、早く行きますよ……お兄ちゃん」
なんだかんだで、最後にはいつも根負けしてくれるのをまもるは知っている。
「あ、まもる先輩。キュアアイドルとキュアウインクなんですけど」
「熱心だね。会う度に絶対にキュアアイドルとキュアウインクの話題が出てきて」
「当たり前です。推し活に全力! 常にわたしの中ではトレンド入りしてるんで!」
そこまて夢中になれるものに出会えてまもるは心から嬉しく思う。
昔からこころの姿を全部知っている身としては、この平穏な時間がずっと続けば良いと思っている。
「頑張れこころ」
だからつい、応援したくなる。
「何がですか?」
「なんでもなーいよ」
それから談笑しながら歩いていると、いつもの通り道に出ていつの間にか人の数も必然的に多くなっていた。
話の盛り上がりで空気に熱を持ち始めた頃合いで、見覚えのある人物を3人目にした。それは相手側も同じ。
「あっ、まもる君おはよー!」
「うたちゃん、蒼風さん、みことさんも! おはよう」
手を振って挨拶するが、全くもって面識の無いこころは誰なのかと首を傾げていた。
「まもる先輩、みこと先輩は分かるのですが、お2人とは知り合いなのですか?」
「知り合いも何もって感じだね。この子が幼馴染のうたちゃんで、隣がクラスメイトの蒼風さん」
うたは無言だが元気良く手を上げ、ななは小さく会釈して挨拶する。
「わたし、キュアアイドル&キュアウインク研究会会長で、1年生の紫雨こころです」
「紫雨こころちゃん……って紫雨? その苗字って確かまもる君と同じだよね? 兄妹?」
同じ苗字である事に気付いたうたは、まもるに尋ねる。ななもみことも、この2人の関係性に興味を持って耳を傾ける。
「わたし達は従兄妹です。苗字が同じなのはお父さん達が兄弟だからなので」
「そうそう。俺達、結構仲の良い従兄妹」
まもるとこころは、2人で手でハートを形取って仲の良いアピールを3人に振り撒く。
「みことさんは、こころとは研究会仲間何だよね? 所属してるって言ってたし」
「うん、お陰でキュアアイドル達の振り付けとか覚えられて助かってるの。ありがとうね」
「こちらこそ、ファンが増える事は喜ばしい事ですし、来るもの拒まずです」
「あ、そうそうまもる君に聞きたかったんだよね」
みことがまもるに急に尋ねた。
「風の噂で聞いた話なんだけど、まもる君ってアイドルプリキュアの関係者だったりするの?」
「「「え゙ッ⁉︎」」」
「その話本当ですか⁉︎」
意外にも意外。まさかみことにそれがバレてしまうとは思いも寄らなかった。しかも、研究会会長のこころの前で。
最悪のタイミングとしか言いようがない。
「見たって他クラスの子が。わたしも聞いた話だから真偽は分かんないよ?」
分からずとも疑いを掛けるにはそれだけで十分な証拠。それに食い付くのは言わずもがな。
「そんな話一度も聞いてませんよ、まもるお兄ちゃん‼︎」
「「「まもる、"お兄ちゃん"?」」」
「ゲフンゲフン! まもる先輩!」
あまりの勢いでプライベートでのこころが表に出てしまっていた。ハッとして言い直したが、復唱するくらいきっちりと3人の耳には届いている。もっと言えば、周囲に居た全員に聞こえている。
「だって言えばこころが、あれやこれやと迫って来るのが目に見えていたから」
「それじゃあまるで、わたしが面倒な人みたいじゃないですか⁉︎」
「それに、そういうのを勘繰るのは良くないよ。こころなら分かるだろ?」
「うぅ……目の前に研究材料が転がっているのにそれに手出し出来ないのが辛い」
「うわー、すっごい図太い神経。こころらしいね」
「今、涼しい顔でわたしの事悪く言いませんでした?」
まもるは「さぁ?」といった表情で誤魔化した。あまり見た事のないまもるの様子に、うたとななは唖然として口を開いていた。
「ちょっとだけ?」
「こころの頼みでも、これだけは無理だな」
「そこをなんとか!」
まもるの腰にしがみ付き、上目遣いでおねだりする姿はとても甘美な気持ちとさせる。
しかしそれに惑わされてはダメだと首を横に振り、なんとかその邪念を振り払う。
「ごめん3人共、今日暫くこころに追い回される気がするから!」
まもるはこころを脇に抱えて歩き出した。
「また後でねー」
うたがその後ろ姿を見送ってあげた。
◯
結局、あれからこころの目を掻い潜っての学校生活は困難を極めていた。
僅かな休み時間でも、教室の外からこころの視線を浴び、帰りの下校時刻でも既に待ち伏せされておりどこにも逃げ場の無い八方塞がりとなっていた。
そんな訳でまもるは今、こころと一緒に存在しないアイドルプリキュアのグッズをお店で探していた。
「すごい執念」
「当たり前です。今のわたしは、まもるお兄ちゃんでも止められませんよ」
こころにズルズルペースを持って行かれ、今は学校帰りの寄り道に付き合わせられている始末。
「わざわざダンス部の入部も断りましたから」
「寸田先輩の誘いを? 勿体無い事したね」
「否定はしないよ。でも、今のわたしはそれ以上に心、キュンキュンさせるものに出会ってしまったので」
「何にしろ、大好きなものに一直線なのはこころらしくて好きだよ、俺は」
こころの探す手が止まり、いやらしい目でまもるを無言で見つめる。
「そういうのは、わたし以外……じゃなくても女の子には絶対に言っちゃダメですよ?」
「褒めてるのに?」
「勘違いする人が多発するので」
「勘違い? こころは別に、俺にそんな好意なんて寄せないでしょう?」
「どうでしょうか? 従妹の身でも、漫画のように恋愛に発展する事なんて案外あるもんだよ?」
今度はまもるの手が止まる。こころの言葉の節々を摘み取り、それを整理して「もしかして?」という疑惑が浮かび上がる。
「俺の事好きなの?」
「はぁ⁉︎ それ、本人の前で言いますか⁉︎」
「いやだって、そういう風に捉えられても仕方ないんじゃ?」
「確かにお兄ちゃんの事は大好きですけど……待って下さい。そんなニヤニヤとしないで下さい。『ラブ!』ではなくて『ライク!』の方だから!」
赤面して誤魔化しているが、余計にそれがまもるへの裏返しと受け取る。
まもるはしみじみと涙を流し、うんうんと感傷深くなる。
「ほんの冗談だって!」
「冗談って……」
「いつかこころにも、こうやって話せる相手が見つかるといいね」
「まもるお兄ちゃんはお父さんですか?」
「お父さんの代わりは無理だよ。俺はせめて、こころのお兄ちゃん」
途端にこころは口を閉じる。何で急に黙ってしまったのか、まもるには分かる。でも敢えてそれは口にしないし、今後もするつもりはない。
出来ればそれは、彼女の心の奥深くに仕舞い込んで欲しい。触れないでいて欲しい。
そんな親心のような気持ちが溢れる。
「……脱線しましたけど、キュアアイドルとキュアウインクのグッズが何処にもありませんね。あれだけ注目があれば、絶対あると思うのに」
商品の棚を一望しているが、こころのお目当てのものは一向に見つかる気配がない。そもそも見つかる訳が無いのだ。
(あったらあったで、かなり問題なんだけどね)
無いもの探しだが、探さない訳にもいかない。けれど、このままずっとというのも酷なものだ。
「まもるお兄ちゃんは何か知ってますか?」
「何で俺に聞くの?」
「関係者だから」
「だから関係者じゃ……じゃあ1つだけ」
今から言う事を言ってしまえば、自分が関係者だと証明する事になるがこんな問答をいつまででも続けても埒があかない。
「アイドルプリキュアは、スポンサーを持たない個人で活動しているアイドルグループ」
「で、でも、グッズを出しているグループは他にだって」
「援助の無い状態でのグッズ展開は、個人の支出でやりくりしてるの。こころなら、その辺判るよね?」
「そ、それは仕方ないですね」
肩を落とし、大きな溜息を吐く。
「そんなに気を落とさないの。帰ろうか」
無いもの探しはこれくらいにして、背中に手を添えて帰宅を促そうと2人の視界の端に小さなぬいぐるみが映り込んだ。
「あった、グッズ!」
「いやいや。単なる見間違い……ひょっ⁉︎」
そんなまさか、と思っていたが、どうにも見覚えのあるぬいぐるみが棚の端っこから顔を覗かせていた。
紛れもないプリルンの姿。
こころは手早くプリルンを回収してその両手に収めた。
「キュアアイドル達のCMに出てた子だ。ですよね、まもるお兄ちゃん!」
誤魔化したいが、その内容によってはまもるにも火の粉が降り掛かる。それを回避しつつ、プリルンを逃すプランを急いで頭の中で形作る。
今までにない程で脳を全力回転させて、思考を巡らせる。
「プリ……」
「あっ、今なんか喋った!」
まもるは膝を落として戦慄する。何故今喋ってしまうのか。空気的に気不味いとはいえ、喋ったら余計に面倒事が増えて、言い訳が立たなくなるが分かっているのに。
「き、気のせいだよ」
「そうプリ。プリルンは何も喋ってないプリ、気のせいプリ!」
「「あっ……」」
全てを台無しにした瞬間だった。
こころが確信した目つきでまもるを凝視し、もはや隠し通す事が困難となって冷や汗をかき口籠る。
だからもう、堂々とやるしかないと悟った。
「ま、まもるお兄ちゃん?」
まもるは笑顔でこころの手を握り、指1本ずつ解いていく。
だがこころはそれに抵抗して、ガッチリとプリルンを掴んで離そうとしない。
「こ、この子と何か秘密があるのですか?」
「ナイヨー、ナイカラハナシナサイ」
「カタコトですけど⁉︎」
お互いに力を入れて応戦していると、一瞬の緩みを逃さなかったプリルンが手から離れてお店の外へと飛び出して行った。
「あ、待ってー!」
まもるを押し退け、こころは慌ててプリルンを追跡する。まもるも、急いで2人の後を追う。
店を出てほんの少しした脇道に2人が入って行くのを見た。しかしそこは、先が行き止まりの薄暗い路地裏。
これはもう、プリルンは逃げられないと思いまもるは何もかも諦めて追い掛ける足を少しずつ緩める。
「わぁー……」
案の定、こころはプリルンを追い込んだ。
「ま、まもる助けて欲しいプリ!」
「やめて! こんな時に俺の名前を出さないで下さいお願いします‼︎」
バッと振り返るこころ。瞳をキラキラとさせ、大興奮の彼女を落ち着かせる術が無い。
まもるはとうとう観念して、苦虫でも噛んだ表情をしながらこころに白状するのだった。
ここまでの拝読ありがとうございました