キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
あれからズルズルと、こころにペースを掴まされてはその度にプリルンが口を開く。
その甲斐もあって、こころはとうとう憧れのアイドルプリキュアとの接触を取り次ぐ事が出来た。
普段ならまもるも共に喜ぶところだが、抱えている事情が複雑な為に素直に共感出来ない。
「まさかこうなるなんて……」
「プリルンの言ってた時間、もうすぐですよ」
水の流れに逆らえぬまま、こころはアイドルプリキュアと会うべくして準備を終えて現在に至る。
あまり目につかない適当な場所を待ち合わせ。プリルンは謎の自信でこころの心を掻き立て、キュアアイドルとキュアウインクとの接触を許可させた。
女王様の教えはどうなった、と呆れるばかり。
「それでこころは、キュアアイドルとキュアウインクの2人に会ってどうするの?」
「勿論これです!」
抱き締める紙袋。中身を覗くとペンと色紙が2枚。それだけで大体察した。
ファンとしては結構ズル賢い事をしてはいるが、言い換えれば偶然の賜物だ。
「抜かりないね」
「当然です! 直筆サインなんて中々手に入らないんですから!」
「とは言えだ。2人が来るとも限らないし」
希望的観測な話をしていると、そのタイミングでプリルンが戻って来た。
「お帰りプリルン。で、2人はなんて?」
「連れて来たプリ!」
プリルンの後方数メートル先には、キュアアイドルとキュアウインクが優雅に歩んでいた。
「ほ、本物のキュアアイドルとキュアウインク……」
2人を前にして緊張し、生唾を飲み込む。誰だって、憧れを目の前にしたら全身固くなるものだ。
こころはぎこちない足取りで2人の前に立ち、落ち着かない動きで口を開けてあんぐりとしている。
「まもるお兄ちゃん! 本物、本物が目の前に居ます!」
「知ってる。だから落ち着いて」
「心バクバク、ドキドキ、キュンキュンしてて……この気持ちを山のてっぺんで叫びたいです!」
「喜んでくれて嬉しいよ、こころちゃん!」
首が180度曲がる勢いでこころがアイドルに振り返った。
ちょっとだけ2人が引いたのは内緒の話。
「わわわ、わたしの名前を呼んでくれた⁉︎」
「うん! こころちゃんの事は、紫雨君とプリルンからよく聞いているから」
こころは胸を掴み、その場に悶えながら膝をついた。
こころの気持ちを考えれば、そうなるのも仕方のない事だ。まさか推しに自分の事が認知されているなんて誰が予想出来るか。しかも、今回が初対面だというのに。
これには、まもるやプリルンに感謝しても仕切れない恩となった。
「改めて、こころは2人にすっごく夢中プリ!」
「はは、田中さんや女王様に何て言って誤魔化そうとかと思っていたけど」
アイドルとウインクの2人に熱く自分の気持ちを全部曝け出し、それを伝えているこころに目を移す。
その様子を見て、自然と笑みが溢れる。
「こころが喜んでくれて良かったよ。その点に関しちゃ、ありがとうプリルン」
「プリー!」
「でも、今回だけだよ。これ以上のファンサービスは、俺は良くないと思う」
「どうしてプリ? アイドルプリキュアの魅力が皆に、それも直に伝わるプリ!」
プリルンの言っている事を否定するつもりはないし、その認識は間違ってはいないとまもるも思っている。だけど、それが正解かと問われると微妙なのだ。
「夢や希望、憧れってさ、中々手に届かないからこそ特別なものなんだよ。あまり距離感が近くなると、逆効果なんだよ」
「そうプリ? プリルンはそう思わないプリ」
「あくまで俺個人の感想だ。どう捉えるかは、その人個人だ。親近感湧いて、より熱を上げるファンもいる。ま、ファンサも程々って事だよ」
あまり言っている意味を理解していないのか、プリルンは小さく首を傾げる。
会話が弾む2人の様子を見てか、アイドルが急に話し掛け、投げ掛けた。
「まもる君もそう思うよね?」
「えーと、何がかな?」
「いつか3人でステージの上に上がって、踊れたらとってもキラッキランランだよね?」
愚問だ。何を当たり前な事を、とまもるは余裕の表情を笑み浮かべる。
こころの背を押し、アイドルとウインクの間に移動させる。頭の中で、3人が歌って踊ってファンサする姿を想像。
「ああ、とってもキラッキランランだね!」
こうして、短い時間だったが、こころにとって一生の思い出となるくらい充実で、濃密な時を過ごした。
こころはきっと、心キュンキュンしている。表情からでも見て取れる。満足げなこころの顔が、物語っているから。
◯
程なくしてアイドルとウインクは解散し、この場に残るはまもる達3人だけ。
色々と不安や心配がありつつも、結果だけを見たらこれで良かったと納得させられる。
こころも、これ以上ないくらい満足げな表情。
「ありがとうございます。2人に会えたのも、まもるお兄ちゃんとプリルン先輩のお陰です」
「こころも2人に会えて良かったプリ!」
「はい、しかしそれだけじゃなくて、どうしてこんなにも心キュンキュンしているのか2人に会って分かったんです」
こころは天を見上げ、煌々とした瞳で手を伸ばして掴む仕草をする。
「2人みたいになりたいから。同じ
プリルンは、こころのその気持ちの輝きを垣間見た。それは、かつてアイドルプリキュアに変身をしたあの日のうたやななと同じのを。
紛れもない、世界すら照らす純粋な輝きがこころにはある。
「だからまもる先輩、新メンバーのオーディションとかありませんか? 合格したら、キュアアイドル達と一緒にステージに立てるみたいな?」
後にも先にも、そんなオーディションは存在しない。あったとしても、まもるはそれを引き受けはしない。酷な事だが、ていよく無理と断念させるしかない。
まもるはプリルンと目を合わせ頷く。お互い思っていること、これから言おうとする事の確認。
「その事なんだけどこころ、オーディションはね──」
「それならこころはもう合格してるプリ!」
まもるとこころは共に驚愕する。しかし、2人の反応の意味合いはまた違う。
まもるは、プリルンと心が通じ合っていなかった事に、こころは、まだ何もしていないのに合格を貰ったこと。
「こころは、今日からアイドルプリキュアプリ! プリルンの目に狂いはないプリ!」
「今日から⁉︎」
オーディションの合格を貰うだけならまだしも、今日、今から、この場をもって憧れだったアイドルプリキュアの一メンバーとなった。
いくらプリルンでも、誰の相談も無しにいきなりメンバー入りは目に余る。
プリルンが口を開く度に、こころもその気になってますます真に受けていく。
そして、プリルンは3つ目のアイドルハートブローチをこころに渡した。
「これがアイドルプリキュアの証プリ」
「ストッププリルン!」
田中や女王様に後でなんて言われるか。急ぎ、こころから少し距離を取ってプリルンと2人っきりでもう一度話し合う。
「俺は、こころをアイドルプリキュアのメンバー入りは断固反対だよ」
「どうしてプリ? こころからすっごくキラキラした輝きがあるプリ。それに、ダンスもとっても上手プリ!」
「いやまあ、こころにアイドルプリキュアとしての素質があるのは事実だし、変身出来ないとも言えなくはないけど……」
「なら問題無いプリ。こころー!」
「はいはい、ちょっと待って下さいプリルン」
最後まで人の話を聞こうとしないプリルンの手を掴み、引き留める。
「こころに、アイドルとしてのアイドルプリキュアは務まるかも知れない。でも、救世主としてのアイドルプリキュアは不十分」
貴重で、最後のアイドルハートブローチだ。3人目を選ぶのに慎重にならなくてどうする。それに、なんでもかんでも、キラキラしているからという理由とプリルンの匙加減で選ぶというのも大概だ。
「何事も順序は必要だよプリルン。説明は俺からするから、その後でこころに改めて決めて貰おうか」
アイドルプリキュアをやるのか、やらないのかを。
話し終えたまもるはこころに向き直り、真剣な眼差しで口を開けた。
「あのねこころ、実は──」
「ブルっときたプリ!」
それは、最悪のタイミングだった。まだ説明すらしていない今、何処かでチョッキリ団が現れた合図。
「アイドルプリキュアの出番プリ!」
「いきなり⁉︎」
堪らず、まもるの手はこころの腕を掴んでいた。
「まもる先輩?」
「まだ、こころには早過ぎる」
こころは唇を噛んで眉を吊り上げるも、すぐに緩めていつもの柔らかい表情へと戻った。
「もしかしたら失敗するかも知れない。でも、ずっと歌って踊ってきたんだもん。大丈夫!」
「こころ違う。そういう意味じゃ──」
「本当にわたしなら大丈夫だから! 観客席で観てて!」
話が段々と拗れてきた。それも、引き返せないくらいに。
しかし、ここまで来たのなら流れに任せてみようと思う。少なからず、これまでうたやななもアイドルプリキュアとして立派にやって来れた。
だからこころもきっと──。
ここまでの拝読ありがとうございました。