キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
プリルンの後を追い、駆け付けた場所には剪定鋏を持つマックランダーが暴れており、チョッキリ団のカッティーが傍観していた。
「マックランダープリ。キラキラをチョッキンして、世界を真っ暗闇にしようとしてるプリ!」
「何言ってるの、ステージは?」
突然未知の世界に放り出されたこころは、困惑の色を隠せず動揺する。
無理もない。いきなりこんな場面に出会したら、誰だってそう反応をしてしまう。説明もされていないのなら尚更だ。
「初めて見る顔ですぞ?」
結構な距離まで接近していた事もあり、カッティーが3人の存在に気付いた。
マックランダーを向かわせ、周囲の木を伐り倒して牽制を仕掛けた。
何も出来ない3人は、慌ててその場から離れて危機を回避する。
「流石に今のは危なかった……」
「こ、これはどういう事なの?」
まもるの背中に隠れ、一生懸命状況を呑み込もうとしている。
「大丈夫プリ。こころは絶対アイドルプリキュアプリ!」
事態の急変で怯えるこころに、プリルンは無慈悲にもアイドルプリキュアになれると言葉を投げ掛ける。
けれど、一体なんなのか理解していないこころは、まもるとプリルンの2人を交互に視線を泳がすだけでいる。
「あ、アイドルプリキュア⁉︎」
プリルンの言葉に反応してか、カッティーの目の色が変わる。
マックランダーは3人の前に立ちはだかり、剪定鋏を振り上げる。
すぐさままもるがこころを庇う様に覆う。そして、こころは恐怖にその場で蹲る。
こころの様子に、思っていた光景とは違ってプリルンも戸惑いを隠せないでいる。
そんな時だった。
「まもる君! プリルン!」
何処かでマックランダーの存在に気付いたのか、うたとなながこの場に駆け付けてくれた。
「えっ、こころちゃん⁉︎」
第三者の存在。それも知り合いだった事に、うたとななの動きが一瞬止まった。
アイドルハートブローチでアイドルプリキュアに変身したいが、こころの存在が弊害となって2人は躊躇してしまう。
「此処で変身する訳には……」
ななの言う様に女王様の言いつけで、第三者にアイドルプリキュアの正体がバレるのはなんとしても避けたい。
しかし、悠長に場所を選んでの変身も出来ない。
2人がこの場で変身するかどうか悩んでいると、まもるが叫ぶ。
「2人共、変身するんだ!」
「でも紫雨君、アイドルプリキュアの正体が!」
「それよりも、世界を真っ暗闇にされる方がよっぽど危ない! だったら、取る選択は1つしかないよ!」
「やろう、ななちゃん!」
ななは返事をして頷く。うたも半分ヤケになりながらもアイドルハートブローチを手にした。
「「プリキュア! ライトアップ!」」
2人同時に変身アイテムを用いて、光りを身に包ませていつもとは全く異なる自分へ変貌させる。
「「キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!」」
息の合った掛け声、ブローチのボタンを押しながら2人は、今世間を騒がせている皆のアイドルに瞬く間に変身。
足並みを揃え、マックランダーの前に立ち塞がる。
「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
「キミと瞬く、ハートの勇気! お目目パッチン、キュアウインク!」
変身した2人を見て、まもるはこころの手を引き、プリルンを抱えて木の影に隠れる。そして覗きながら、2人の様子を小さく伺う。
こころは、信じられない光景を目にして言葉を失っている。
身近に、それも知り合いの先輩2人があのアイドルプリキュアだったのだから。
感動もあるがそれともう一つ、また別の感情が黒く渦巻いている。
「戦ってる、一体どういう事?」
「アイドルプリキュアは、ただのアイドルじゃないプリ! 真っ暗闇をキラキラにしてくれるプリ!」
一方でアイドルとウインクは好調の姿。同時攻撃で、マックランダーを上手く翻弄して主導権を握っている。今日まで、度重なるマックランダーを相手に慣れが出ている証拠だ。
苦戦する様子も無く、お互いの長所を活かして攻めの連続を繰り広げている。
「これが、アイドルプリキュア……」
ギュッとまもるの手を握る力が強まる。こころの瞳には、夢と希望と憧れの眼差しで輝いていたものだったが、今では見る影も無く光を失っていた。
それだけでなんとなくだが、察してしまっている自分がいる。
彼女の心はもう。
「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」
戦いも終盤まで迫っていた。アイドル専用のステージが用意され、その観客席にまもるとこころは立ってその様を見届ける。
「あれが、わたしが
「こころ……」
アイドルのステージを観て、とうとうこころは俯いてしまった。
まもるは、なんて声を掛けてあげれば良いのか分からないでいた。
こころは握っていた手の力が緩み、その場にへたり込んだ。
その瞬間、何かが折れる音を聴いた気がした。
◯
マックランダーはアイドルとウインクの活躍によって浄化され、囚われた人、荒らされた街は元通りとなった。
ただ1人の心を除いて。
「……わたし、アイドルプリキュアになんてなれない」
理想と現実の乖離に戸惑うこころの心はぐちゃぐちゃになってしまっていた。情緒が不安定なこころに、まもるは何も言えない。
「わたし、心キュンキュンしません……」
とうとうそれは言葉に出てしまった。アイドルハートブローチを握る手に力はあるものの、それを掲げる事はしない。出来ない。そんな事は無理だ。
「まもる君、こころちゃんが持っているのって」
「プリルンが、最後のアイドルハートブローチをこころに渡したんだ」
「そうプリ! こころは、アイドルプリキュアプリ!」
こころはハッとして、ゆっくりと立ち上がる。今にも崩れ落ちそうな変わり果てた姿。まもるが支えようと両手を広げると、胸に何か押し付けられた。
視線を落とすと、それはアイドルハートブローチ。
まもるが手に取ると、一滴の雫がブローチにしたたる。
「あんな怖いのと戦うのは無理。アイドルプリキュアになりたいだなんて、軽々しく言っちゃダメだ……」
「そ、そんな事は──」
「助けてくれてありがとうございました──さよなら」
震える声でこころは、その場から逃げ出すようにして走り去って行った。手を伸ばして引き留めようとしたが、それは叶わなかった。
こころが口にした「さよなら」。まもるは憧れの、アイドルプリキュアとの別れの言葉にも聞こえた。
胸がキュッと締め付けられ、こころの言うように、心キュンキュンとはしなかった。
ここまでの拝読ありがとうございました。