キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
こころが、完全に心折れてあれから数時間の時が経った。
チョッキリ団を退けた後、まもる達はこころの心配をしながらもその場で解散する事となった。
今回の事で、何も説明も無くチョッキリ団と対峙させたこと。そして、アイドルプリキュアとして戦わせる事を少なからず強要させてしまった負い目を感じてプリルンはいつもより口数は少なく、大人しかった。
それはまもるも同様。最初からこうなる事を分かった上でちゃんと止めようとしなかった。
アイドルプリキュアに憧れていたこころの気持ちを、優先させてしまったからに。しかしそれも、余計なお世話で、最悪なパターンで心を断ち切ってしまったが。
「何て言えば良かったんだろう」
独り帰宅したまもるは、自室のベッドでぼやきながら考えていた。
こころが泣いている姿はあまり見ない。それ故、どう接してあげれば行き詰まる。それに、今回は内容が内容だけに、安易な励ましは逆効果を及ぼす。
「このままそっとしてあげるのが優しさなのかな?」
丸く蹲っていると、インターホンのベルが家内に響いた。
上体を起き上がらせて首を傾げる。時刻はもう夕暮れ時。この後誰か会う予定も無い。
気怠げとなった体を起こして、玄関まで移動。
扉に手を掛けて開けると、意外なお客が訪問していた。
「あ、紫雨君」
「蒼風さんどうしたの? うたちゃんと一緒じゃなかった?」
「もう夕方だよ。お家に帰らなくちゃ」
満面の笑みを浮かべる彼女。自然とまもるも口角を上げていた。
ただ、何故まもるの家まで足を運んだのか疑問なところ。喫茶グリッターから帰りだとしても、わざわざ訪ねる用事も無い。
その訳をまもるは問う。
「だったら何で?」
「こころちゃんの事で、紫雨君深く考えてるんじゃ無いかって。プリルンもそうだったから」
「そんな事ないよ」
「嘘つかないの」
「嘘って……」
「うたちゃんから聞いたよ。紫雨君って昔から、心配掛けさせないように何も言わない事が多いって」
痛い所を突かれた。確かにななが言うようにまもるは強がって嘘を言っている。心配させまいと。
「うたちゃんだけには知られたくないから、そういうの」
「わたしなら、お話出来る?」
まもるは少し驚いて目を見開いた。
「じゃあお願いしようかな。蒼風さんのお悩み相談室」
「そんな大した事じゃないけど」
「立ち話もなんだから、先ずは家に上がって」
◯
ななをリビングで席に座らせ、目の前にお茶を差し出す。ななは一口口にして軽く息を溢す。
まもるは、向かいの席に座り同じように口元にカップを運ばせた。
「こころってさ、しっかりしているようで案外そうでもないんだよ」
「そうなんだ。研究会もやっているから、全然想像つかないや」
「でしょ? こころってダンスも好きなんだけど、アイドルプリキュアだって、好きな事に全力で真っ直ぐ。自分の心にキュンキュンと気持ちを信じて突き進む」
「だけど、そんな前向きなこころちゃんが……」
2人の口が固く閉ざす。底抜けない明るさのあるこころの心を、粉々に砕けさせた負の意識はとても大きい。例えそれが、好意的な行動であったとしても事実は変わらない。
「泣いてる姿は見た事あるけど、あんなに打ち砕かれた姿は初めて。だから、どうすれば良いのか分からなくて。俺、こころのお兄ちゃんなのに」
「もし、なんだけど」
「ん?」
「もし、まだこころちゃんの中でアイドルプリキュアの熱が冷めてなかったら絶対に手を離さないでね」
「それなら良いんだけど」
まもるは自分の両手に視線を落とす。まだこころの心に燻っている火があるなら、と思いたい。しかし、現実を目の当たりにしたまだ幼い心に大きな傷。未練があればまだマシな方だ。とてもじゃないが、今のこころは皆が思う以上の、それも修復不可能な程まで傷付いている。
「俺に彼女の心を掬い上げられるか……?」
まもるの両手が、包み込まれるようにななの両手が添えられた。
顔を上げると、なながウインクをして微笑んでいた。
「紫雨君なら、こころちゃんを元気付けられるよ。わたしだけはそう信じてる」
窓から差し込まれる夕の日が、ななの顔を照らし出して頬を赤く染め上げる。
まもるとの距離が近い故、夕日に照らされずともななは赤くしていたが、上手い事誤魔化せていた。
「ありがとう蒼風さん。君の勇気、貰ったよ」
「うん。今度は紫雨君にわたしの勇気をお裾分け」
両手を握られて数十秒が経とうとしている。未だななの両手は、まもるの手を包み込んだまま。それがいつまで続くのか疑問に思い、まもるは首を傾げる。
「えっと蒼風さん、もう手を離しても大丈夫だけど?」
「へ? あっ、ご、ごめんね!」
夕日のでも誤魔化し切れない程全身恥ずかしさで赤くなり、湯気が立ちこみ。指摘されてようやく手を離したなな。
「蒼風さんの手の温もり、まだ感じてる。それくらい気持ちが込もっている証拠だよ。俺、嬉しいよ!」
屈託の無い笑顔に、ななは益々熱を上昇させて口をパクパクと動揺する。意表を突かれたが、異性にそんな台詞を真正面から堂々と言われたら意識せずともそんな反応もする。
「そ、そこまで褒められると照れるよ」
「あはは、ごめん。でも、そんな蒼風さんも珍しくて可愛いよ。何より"好き"だし!」
「しゅき⁉︎」
深い意味じゃない事は重々承知している。なのに、意識のし過ぎで鼓動の音が煩わしいくらいうるさい。
これ以上は理性が保たない。そう判断したななの行動は早かった。
「じ、じゃあ紫雨君も元気出た事だし帰るね!」
「えっ、もっとゆっくりして良いよ? 母さんもそろそろ帰ってくる頃だろうし、一緒にご飯でも食べる?」
「ご両親への挨拶は早過ぎるよ‼︎」
ななは最後にそれだけ言い残し、火照る身体を少しでも冷やそうと走って紫雨家を飛び出したのだった。
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