キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
この調子で奮闘していきます。
次の日、ちゃんとこころと真正面から話し合おうとまもる達3人は決めた。
放課後なら話せる時間も沢山あると、学校のチャイムが鳴り響くのと同時に3人はこころのクラスへと足を運ばせた。
「あれ? こころちゃんが居ない」
「本当だ、何処に行ったんだろう?」
「それならきっと研究会だと思うよ。部室の方に行ってみようよ」
なるほど、と納得したまもるとうたは、ななの言葉通りにその研究会を構えている部室に移動する。
その道中で、同じクラスで友達のみことと出会した。これはとても好都合だった。
「みことさん、丁度良かった。こころ見なかった?」
「こころちゃんなら帰ったよ」
「「「帰ったの⁉︎」」」
傷心中、ということを頭に入れていなかった。心に深く傷を負った者は無意識の内に周りと距離を置こうとする。
夢中になっていたものなら、その反動は凄まじく大きい。
今のこころは、まさにそんな状況下に陥っている。まもる達が想像するよりも、遥かに事の重大さに改めて自覚する。
「家に訪ねてみよう」
「迷惑じゃないかな?」
ななの言うように慎重さも大切だ。焦ってもこころが負った傷を修復するにまでは至らないだろう。だけど、手をこまねいているよりかはマシだ。
それに、まもる達はもう一度と話すべきなのだ。多少迷惑となってでも話し合わないと、いつまで経ってもこころの心は晴れない。
「じゃあ早速行こう! こころちゃんの家に!」
「おー……と、言いたい所だけど俺は念の為に別の場所を当たってみる」
気合いを入れるうただったが、肩を落として訝しげに視線を向ける。
「なーんで?」
「家以外にも心当たりがあるんだ。もしかしたらってね。入れ違いになってもいけないだろうから、俺はそっちに行ってみるよ」
昔からこころと過ごして来た。こころの性格は、これでも分かっているつもり。大体の居場所の見当はついているし、何よりこういう出来事は過去に一度だけ目にしている。
「そっか、それじゃあそっちは任せるよ。ありがとうみこと。行こう、ななちゃん」
「こころちゃんを見つけたら教えてね」
「2人もね」
3人はみことと別れ、それぞれ二手に分かれてこころを探す形となったのだった。
◯
スポーツドリンクを片手にまもるが訪れた場所は、いつもこころがダンスの練習として使っている大きな窓ガラスのある建物。
顔を覗かせると、案の定こころが踊っている姿を発見した。
周囲に人の気配は無い。あるのは端末から流れる大音量の音楽のみ。それに合わせ、こころはステップを踏んで自身のフォームを確認しながら舞っている。
凄く集中しているのか、ガラスに反射してまもるの姿が映っているのにも関わらず、その存在に気付きもしない。
もしくは、一心不乱に不安な気持ちを必死に振り解こうと眼中に無いのか。
どちらにしろ、良くない状態だ。
まもるは静かに端末の音楽を切った。そこでようやく、こころは振り返った。
「まもる、お兄ちゃん……」
「相変わらずキレのある踊りで見応えがあるよ。でも、そんな不安定な心持ちじゃ全てが台無しだ」
「別に、今はそんなつもりで踊っている訳じゃない……」
こころはまもると目線を合わせようとせず、切られた音楽をもう一度再生させようとして端末に手を伸ばす。再生ボタンを押す直前、まもるは手にしているスポーツドリンクで遮った。
「汗かいたろ。休憩と水分補給は大事だ」
こころは無言のまま、ひったくる様にしてドリンクを受け取って言われた通り流した水分を補給する。
一度口にしただけで半分近くは飲んだ。相当負荷を掛けて踊っていたのだろう。
「今のダンス、集中というより一心不乱に踊っていたね。ああいうのは一番良くない踊り方だと思うよ。ガムシャラにしたって、練度は上がらない」
「しないといけない
まもるは口角を上げた。
「どう切り出そうか考えてたけど、こころから言ってくれたのなら心置きなく話せるね。こころ──諦めたら?」
「えっ──」
「忘れようとする事を諦めるんだ。こころのダンス見てたけど、振り付けが段々とキュアアイドルに寄ってきている。それってまだ、アイドルプリキュアの事を忘れたくない──」
「やめて!」
こころはその場に蹲って、両耳を塞ぎ外部の音を完全にシャッタアウトする。そしてその瞳は潤んでおり、頬に伝って地面に雫が落ちる。
「隠していた事は謝るよ。でも話さなかったのは、こころを危険な目に合わせたくなかったから。それに、理想と現実の食い違いを見せたくなかった」
「……謝らないで下さい」
「ねえ、こころ。アイドルプリキュアになってみない?」
「わたしはもう、忘れたいんです!」
怒号がまもるの腹の底まで響いて、僅かながら身を引いてしまった。
「なのに、2人の姿が頭から離れないんです! わたし、どうしたらいいのか分かんないよっ⁉︎」
泣き入りそうな声で、八つ当たりにも似た言葉をまもるに投げ飛ばす。
そこまで追い詰めてしまった事は本当に申し訳ないと思っている。ならばいっそ、最初から知らなければ良かったと思えるくらい。
でも、情緒不安定なこころに少しだけ、まもるは安心した。
「良かった」
「何が?」
「だって、まだ完全にアイドルプリキュアを捨てた訳じゃない。未練が残っているから、こんなにも思い悩んでいるんだろう?」
「だけど! だけどぉ……どんなに好きでも憧れでも、叶えられないものは叶えられない。ならいっそ……」
アイドルプリキュアの存在が、今のこころにとってどれだけ大きく、影響させたのかいつも見ていれば分かる事だ。
「らしくないよ!」
まもるは優しく、そっと背中に手を添えて撫でる。まるで、赤子をあやすみたいに。
「もっと素直になってよこころ。それが好きな事なら尚更な。俺は、笑っている君を見るのが大好きなんだ。泣いて、我慢して、自分の気持ちに蓋をして苦しんでいる姿を見るのは辛いよ」
じんわりと滲む涙が視界をぼやけさせる。こころはおぼつかない足取りでまもるの正面に立ち、両の手でしがみつく。
「何もせず、憧れを諦めてただ後悔するくらいなら、何かしてから諦めて後悔した方がよっぽど悔いは残らないと俺は思うよ」
その結末が如何なるものであっても、きっと満足はする筈。まだこころは、何もしていないのだから。ここで何もかも投げ出して、諦めて、追い掛けないのはあまりにも勿体無い。
「まもるお兄ちゃん…ッ!」
「此処に居るのはお兄ちゃんだけ。泣きたいなら泣けば良いさ。存分に」
その瞬間、こころは今の今まで溜め込んでいた感情が一気に爆発した。心の奥の奥まで封じ込めていた感情はとめどなく溢れ出して、本人でもコントロールが効かない。
でも、今はそれで良い。何も恥じる事はない。
心の鎖は今、引きちぎられた。
◯
泣いて泣いて、沢山泣いた。喉が張り裂けるくらい嗚咽混じりに叫び、全身の水分が無くなったのかと思える程に涙を流した。
どれくらい経ったのか。長いようで短い刻。それでもまもるは何も言わず、只々こころの背中を優しく撫でていた。
「ありがとう、まもるお兄ちゃん」
「いいのか?」
「うん。いっぱいいっぱい泣いて、心がスッと軽くなったから。わたしはもう大丈夫」
「そっか、じゃあ行こっか!」
まもるはこころの手を掴んでは走り出した。
「何処へ⁉︎」
「皆、こころを待ってるよ! ほら!」
その場から数メートル離れた場所で、うた、なな、プリルンがこころの心配をして迎えに来ていた。
3人の姿を見て、またこころの目尻が熱くなる。
プリルンは、こころの胸に飛び付いて先日の件の謝罪。それを受け入れ、色々気遣ってくれた感謝もした。
まもる、うた、ななは側からその様子をはにかんだ表情で見守っている。
これからのこころがどう進んで行くか。心配や不安なんてものは、もう何処にもない。
ここまでの拝読ありがとうございました!