キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
次の日の早朝。まもるは、こころがいつもダンスの練習をしている場所へと足を運ばせていた。
何か待ち合わせだとか、練習に付き合うだとかの理由ではない。かといって心配して、様子を見に行く訳でもない。
今日は単なる気まぐれだ。
「「あっ……」」
偶然にも、まもるとこころが鉢合わせた。
昨日の今日な事もあり、お互いにこそばゆく苦笑いが溢れる。視線が合えばすぐさま外し、何処に焦点を当てれば良いのかと2人して泳がせる始末。
側から見れば、初々しい付き合い始めの彼氏彼女だ。
「おはよう、ございます。まもるお兄ちゃん」
「おはよう、こころ」
「なんか、気恥ずかしいですね。えへへ」
「昨日、あれだけ騒いだ後だから余計にね」
こころの顔を両手で取って間近で観察する。昨日までとは打って違って、清々しく、晴れ晴れとした吹っ切れた表情をしている。
「あの、離してくれませんか?」
「立派に育っちゃって。お兄ちゃんは嬉しいよ」
まもるはそう言いながら、こころの頬を揉んではこねたりと柔らかさを堪能させて貰っている。本人は嫌がっているが。
こころは「うにゃー⁉︎」と叫びながら、ジタバタと両手を動かす。抵抗はしているが、別に無理矢理引き剥がそうとも思ってもいない。
こんな風に接してくれるのも久し振りだ。
「さて、こころを弄ぶのもこれくらいにして」
「そもそも、わたしで遊ばないで下さい! 普通に迷惑!」
「でも、嫌じゃないだろ?」
「……そ、そんな事より!」
「あ、誤魔化した」
顔を赤くして頬を膨らませるこころを横目に、まもるはとある看板が目に入った。その視線に釣られ、こころも目を移した。
「『本日開催!』?」
「『キュアアイドルとキュアウインクの』」
「「『なんかスゴイライブ‼︎』?」」
2人して首を傾げて顔を見合わせる。
「ライブやるんですか?」
「へぇー、やるんだ」
「まもるお兄ちゃんも知らないんですか⁉︎」
そんな大袈裟な反応をされても、まもるは何も聞かされてなどない。
それ以前に、その様な話が舞い込んでくればいの一番にうたが教えてくれる。それが無いという事は、そういう事なのだろう。
「初耳だよ」
「まさか……お2人の名前を勝手に借りた偽物⁉︎」
「寄ってみる?」
まだ疑いの範疇だ。その目で確かめて見るまでは確証は得られない。まもるとこころは、その会場となる場所まで足を運ばせた。
◯
会場らしき大広場には、設置されたステージに看板を見たり聞き付けたと思われる人の衆で溢れ返っていた。
その中にはどうやらこころの知り合いも居た。
「あ、寸田先輩」
「寸田先輩って確か、ダンス部の人だったよね? 知り合いだったの?」
「入部について直接話し掛けてくれましたので」
風の噂では、寸田はダンス部でもかなりの実力者と耳にしている。そんな彼の目に止まったはこころも、改めてその凄さを実感する。
きっとこころのダンスは寸田に取って、アイドルプリキュアにも負けないくらい輝いていたのだろう。
まもるはそれが自分の事らしく誇らしいと思える。
そんな時だった。先程まで和やかな天気だった空模様が、瞬きしている内に真っ暗闇に一変する。
「これって!」
「マックランダー!」
天候の変化にマックランダーの出現。チョッキリ団が現れた証拠だった。ライブステージの上空に、ザックリーが下の様子を傍観していた。
そして1人悲鳴を上げれば、それは波紋の様に周りに広がって恐怖のドン底に陥れ、人々は逃げ惑った。
その様子を2人は、ただ茫然と立ち尽くして見る事しか敵わなかった。
けれど──。
「やめて‼︎」
目の前の光景に嫌気を刺したこころの叫びが、ザックリーの耳に届き、マックランダーの動きを止めさせた。
しかしその声色は震えていた。それでも今声に出して止めさせないと、被害は拡大するだけ。
最初に踏み出すべき勇気は踏み出した。
「折角2人に会えると思って皆楽しみにしてたのに、その気持ちを踏み躙って楽しいの?」
「ああ、楽しいさ。馬鹿みたいに引っ掛かって、恐怖に怯えるその様が楽しくて仕方ねぇんだよ」
肯定し嘲笑う。
まもるは横目でこころの様子を伺う。歯を食いしばり、拳を握り締め、静かな怒りを露わにしている。
アイドルプリキュアをここまで馬鹿にされて、怒らない方がおかしい。でも、だからどうしたというのだ。
所詮まもるとこころじゃ何も出来ない。今のままでは。
「もう、心に蓋はしない。やっぱり、忘れる事なんて無理。可愛い、カッコいい、2人みたいになりたい。戦うとしたって一緒にステージに立ちたい。好きは、止められないんです!」
「だからなんなんだー⁉︎」
マックランダーによる高密度の破壊光線。迫り来る脅威にまもるは顎を引いた。
この場に居るのはまもるとこころのみ。ウインクが居ればこの程度の光線は防げれるが、2人にこれを防ぐ手段を持ち合わせていない。
持っているのは純粋な心のみ。
「──わたし、心キュンキュンしてます‼︎」
まもるはその瞳で見た。こころの胸から煌めく紫色の光を。
マックランダーの光線が直撃する寸前で、光は2人を包むドーム状となって防御した。光が弾けるのと同時に光線も完全封殺。
淡く輝く紫色の粒子は、超高密度の物体へと変化を遂げてアイドルプリキュアのみが所持する特別なアイテムとなる。
うたやななと形状は同じものだが、その色はこころをパーソナルカラーでもある紫。
「これが、こころだけのプリキュアリボン」
まもるとこころは手を重ね合わせ、ゆっくりと落ちるプリキュアリボンを握り締める。
プリキュアリボンに呼応して、先日から肌身離さずまもるが所持していたアイドルハートブローチがポケットの中で紫色に輝いていた。
取り出し、こころと目を合わせる。
「行ける?」
愚問。こころは口角を上げて、一度はそれを拒否したアイドルハートブローチを受け取った。
「行けます!」
こころは、待ちに待った
「プリキュア! ライトアップ!」
プリキュアリボンをアイドルハートブローチにセット。3回タッチして、2つのボタンを同時に押す。
「キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!」
元に来ていた私服が弾け、憧れのアイドルプリキュアの衣装をその身に纏う。
紫を基調としたキュートでホップで、こころの気持ちが全面に押し出されている。キュアアイドルとキュアウインクと違う、愛らしさ満点の煌めき。
「キミと踊る、ハートのリズム! 心キュンキュン、キュアキュンキュン!」
誰もが待ち焦がれた3人目のアイドルプリキュア・キュアキュンキュンの爆誕。
「キュアキュンキュンー!」
こころがアイドルプリキュアに覚醒した事の喜びを抑え切れず、まもるは大声でキラキライトを振って黄色い声援を投げ掛ける。
キュンキュンもそれに応え、大きく手を振る。
「いっくよー!」
キュンキュンは地面を蹴り、凄まじい速度でマックランダーに接近する。
「マックランダー!」
正面、マックランダーの拳が迫り来る。キュンキュンは上体を大きく反らし、滑り込みながらマックランダーの懐に潜り込み、紙一重でこれを回避。
背後に回り込んだキュンキュンは、急ブレーキからの飛び蹴りをかます。マックランダーも弾きはしたが、それでもキュンキュンの猛攻は止まる事を知らない。
柔軟な体を生かした、軽やかで華麗なる身のこなし。踊る様な立ち回りでマックランダーの攻撃を避け、翻弄して細かい打撃を与えている。
「元々運動神経が良かったけど、アイドルプリキュアになってそれが一層良くなるなんて!」
たった1人でマックランダーを圧倒。嬉しい誤算だ。
「いいぞ、キュアキュンキュン!」
「調子に乗りやがって、舐めるなぁ‼︎」
マックランダーは強く脚を踏み締め、隆起した地面を蹴り飛ばして戦えないまもるに狙いを定めた。
キュンキュンは身軽な体で素早くまもるの前に立ち、アイドルハートブローチをタッチした。
「キュンキュンレーザー!」
放たれた紫の光線は蹴り飛ばした地面を貫き、そのままマックランダーに炸裂した。予想外の攻撃と受けたキュンキュンレーザーによって、マックランダーは膝をついた。
その直後、ようやく騒ぎを聞き付けたアイドルとウインク、遅れてプリルンも到着した。
「遅れてごめん……って誰⁉︎」
「3人目のアイドルプリキュア?」
「もしかして、こころプリ?」
3人が来たのをまもるは確認した。
「キュンキュン、どうやら最初のデビューに飾るに相応しい最高のステージが整ったみたいだよ!」
「はい!」
キュンキュンは両手を大きく広げ、リズムに乗って手拍子するとキュンキュンの色で染まり切ったステージが出現する。
「クライマックスはわたし! 準備はOKー⁉︎」
キュンキュンの手拍子に合わせ、まもるはキラキライトを振って、声を出し、ステージを盛り上がらせる。
ステージの歓声が最高潮に達する瞬間、キュンキュンの歌声がステージに響き渡る。
アイドルやウインクとは全く異なるアップテンポのある曲に、キュンキュンは得意なダンスを余す事なく、存分にその実力を発揮させる。
これまで蓋にしていた感情を全てこの一曲に捧げる。
「プリキュア! キュンキュンビート!」
キュンキュンのライブステージに魅了されたマックランダー向けて、紫色の水滴型のエネルギー弾が無数に放たれた。
無防備にも直撃したマックランダーは、なす術もなく浄化され消滅したのだった。
「「イェイ!」」
まもるとキュンキュンはその場で互いに、渾身のハイタッチを交わして今この瞬間の喜びを分かち合った。
「まもる君、その子って」
「3人目のアイドルプリキュア・キュアキュンキュン! 3人が思っている通り、キュンキュンはこころで合ってるよ!」
3人目のアイドルプリキュアがこころと聞いて、アイドル達3人は満開の笑顔を咲かせるのだった。
◯
変身を解いた後、こころは寸田に自分の正直な心を話した。
折角誘ってもらえたダンス部は、アイドルプリキュアを追いかけ続ける為にお断りの言葉を投げ掛けた。こんな自分でも必要としてくれた寸田に申し訳なさが込み上げるが、それを蹴ってでも追いたい目標が出来たから。
もう自分の心に、嘘は吐きたくないから。
「話せた?」
「うん、話せたよ。今度こそちゃんと、自分の言葉で」
こころは満足そうな笑みを浮かべた。
「うた先輩、なな先輩。先輩達を追い掛けるって言っても、わたしはもう只のファンじゃありません。プリキュアになったからには、どこまでも追い掛け、追い掛け続けていつか追い抜かします!」
その心意気に乗った2人はそれ相応の返答をする。
「良いよ、追っ掛けて来て! わたしももっと頑張るから!」
「わたしも宜しくね! こころちゃん!」
こころに感化され、2人もまたアイドルプリキュアの先輩としてその想いを背中で語ろうと励む。
「うた先輩、なな先輩! わたしの事『こころ』って呼んで下さい!」
こうして、とうとう3人目のアイドルプリキュアが誕生してようやくメンバーが出揃った。
これからどの様な物語を紡がれていくのか、まもるは今から楽しみで仕方なかった。
ここまでの拝読ありがとうございました。