キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
夕ご飯はうたのリクエストによってカレーに決まった。なんでも「お泊まりの定番はカレーだよね!」というなんとも安直な理由。
反対の意見は誰もおらず、寧ろ万人受けするリクエストな事もあって全員が頷いた。
そして今、まもる達はスーパーで必要な材料を買い出している真っ只中。
「にしても一括りでカレーと言ってもそれぞれ好みがあるだろうし、普段皆が食べている中から選んでみようか」
「はいはい! わたしはポークカレー食べてる!」
「うーん、わたしはビーフですね。まもるお兄ちゃんは?」
「野菜だな。決めては健康的だし」
「わたしは鯖だよ」
「「「鯖⁉︎」」」
ななの口から色物が出てきて、思わずまもる達3人は声を重ねて聞き返した。
3人は頭の中でどんなものか想像してみるが、風変わり過ぎて浮かびにくい。見た目も気になるが、やはり味に1番興味がある。
「鯖カレー美味しいから是非!」
前のめりに鯖カレーを推すななに、一同少し考えて頷く。
「じ、じゃあ、夕ご飯は鯖カレーにするか」
「それで、誰が魚をさばくんですか?」
全員がまもるの方へ顔を向けた。まもるは変に期待されている事に苦笑いしか出ない。
実のところ、まもるはそこまで料理が得意ではない。
「俺、朝の食卓のメニュー程度しか作れないんだけど」
「そうだっけ? 偶にウチの手伝いをしてくれてるけど、色んなの作ってたよね?」
「あれはうたちゃんが教えてくれたり、そもそも作り方のレシピがあったから。俺自身、そんな凝ったものは作れないよ」
「厄介ですね。であれば」
こころが一度席を外し、すぐさま何か手に持って戻ってきた。それを買い物かごに入れ込み、一同中身を覗き込んだ。
「鯖缶だ」
「鯖缶だね」
「鯖缶です」
「どっからどう見ても鯖缶だな」
「プリ?」
誰も魚をさばけないなら、既に加工済みのものを利用する他ない。金額はかさむが、人数分足りる程度かごの中に放り込んで次のコーナーへと足を運ばせる。
次に訪れたのは野菜コーナー。そこでは、まもるとこころが野菜を両手に取って睨めっこしていた。
「2人共、何してるプリ?」
「野菜の鮮度を見てる」
「えっ、値段じゃないんですか?」
まもるとこころはお互いの顔を見合わせて首を傾げた。どうやら見ているものは同じでも、その景色は全く異なっていたみたいだ。
「美味しいものを食べるには先ず、その質を見極めなければならない」
「いいえ節約です。消費期限、内容量、そして価格。この3つを総合的に判断して買うのが、1番良いに決まってます!」
「質!」
「節約!」
珍しくも火花散らす2人に、堪らずななが割って入って仲裁。
「2人共落ち着いて。お鍋の中に入れたらどれも同じなんだし」
「あ、これなんかはどう?」
ななが必死になっている横で、うたが手を伸ばした。それを2人に見せて、それぞれ見るべきものを見る。
「表面に艶があって美味しそうだ」
「それに大きさもあって僅かに内容量も比例しています。なのに値段が安くなっている」
2人の意見の丁度真ん中辺り。正に理想と呼ぶに相応しいものを得た。2人の欲しいどころを、上手く集めたこの1つで完結させている。文句の付けようが無い。
「流石うたちゃんだね」
「はい、わたし達が納得出来るものをすぐに提示してくれるなんて」
「えっ、そうかな? そうかも!」
本人は適当に選んだものだが、運良くそれが2人の熱を冷まさせる最適なもの。ななは胸を撫で下ろして、ホッとしていた。
「あ、そうそう。カレーと言ったらその辛さだけも、3人はどれくらい辛いのいける? わたし中辛くらい!」
「それならわたしも同じです」
「俺も大丈夫。蒼風さんは?」
「わたしも中辛までなら」
「決まりだね! 早く買ってお料理頑張るぞー!」
光の速さで走り去って行くうたの背中を、3人はゆっくりとその後を追い掛けて行くのであった。
◯
材料を買い終え、帰宅して早速キッチンに立つ4人。少し窮屈さもあるが、それは致し方ない。その代わり、手の数が多く作業だけはずんぐりと進んで行くだろう。
「うたちゃんとこころは料理出来るのは知ってるけど、蒼風さんはどれくらい行ける感じ?」
「うん、任せて! じゃあ何から切る?」
スッ、と包丁を握ってはその刃先を3人に向けた。鋭利なものをいきなり突き付けられて仰天とする。
「なな先輩、包丁をこちらに向けないで下さい!」
「あ、ごめんね。つい」
「つ、ついって……」
顔が引き攣って苦笑いも起きない。まもるとうたは、それぞれ役割を分担する為、誰がどれを担当するか考える。
「この様子見る限り、蒼風さんには誰が1人側に居てあげないとダメだな」
「こころで良いんじゃない?」
特に理由は無い。今丁度まもるとうた、ななとこころと2組に分かれて会話している。そこから案を出したうただった。
3人が料理出来るなら、誰を当てたって事故は起きない。まもるは賛成の意で頷いた。
「一緒に頑張ろうね、こころちゃん!」
「うわぁっ! ですから包丁を向けないで下さいってば、なな先輩!」
事故は起きない、筈。
「なな先輩、一度包丁を置きましょう。最初は、そこまで刃物を使わない玉ねぎから調理しましょう!」
「えっ、こころちゃん。いつも玉ねぎ丸ごと齧ってるの?」
「そういう意味ではありませんよ⁉︎」
側から見守るまもるとうたは「愉快で楽しそうだな」と率直な感想を心の中で呟いていた。
「わたし達は何すれば良いかな?」
「お米炊く準備したり、他に手を付けてないものの調理かな?」
「お米を研ぐのは任せて! わたし得意だから!」
「なら、他の具材を切ろうかな」
こうして、ドタバタと始まった鯖カレー作りだった。うたとまもるは何事も無く手際良くしているが、ななとこころはおぼつかない手で進めていく。
「お2人共避けて下さい!」
突如こころの声がして、反射的に振り返るまもるとうた。同時に、2人の顔横に何かが横切った。
ななは床に転んでおり、こころは大きく口を開けて唖然としている。眉を顰めながらも、横切った何かを確かめる。
「「わぁ……」」
確かめた先にある光景は、置いたであろう筈のななが手にしていた包丁が壁に突き刺さっていた。
あれから少し時間が経って、カレー作りも終盤と差し掛かっていた。カレーをある程度煮込ませて、味の最終確認をしたら終わりだ。
おたまで焦がさないようゆっくりと掻き混ぜ、鍋の中をまもるは眺めていた。
「紫雨君、出来そう?」
「そろそろだ。これから味見して、それが良かったら夕ご飯だ。味見してみる?」
まもるは小皿を取り出して、微量のカレールーを掬ってななに手渡した。
ななは息を吹き掛け、ゆっくりと口にした。
そんな2人の様子をうたが、ポツリを言葉を溢した。
「なんだか2人共、お父さんとお母さんみたい」
言われた意味を理解していない2人は、頭の上に疑問符を浮かばせる。
偶々側で聞いていた田中が、その意味を理解してなのか口を開いた。
「恐らくうたさんは、台所に立つお2人が夫婦にでも見えたのかと。合ってますかね?」
「そうそう、それそれ!」
「夫婦⁉︎」
過剰反応したななは、手にしていた小皿を思わず落としそうになる。
嫌な気持ちになってはいないのだが、ちょっとだけ意識してしまう。まもるは恥ずかしくはないのか、横目で様子を伺う。
「夫婦か。蒼風さんならそれもありだね」
満更でもない受け取り方をしていた。
「まもるお兄ちゃん、それ意識して言ってるの?」
「へっ? 意識って何が?」
こころは「嗚呼、この人はまた素で女の子が勘違いしそうな事を言っている」と思った。それに振り回されているななが、あまりにも不憫でならない。
「それとななさん、少し気になっていたのですがお怪我でもなされたんですか?」
「怪我?」
「左手の薬指に切り傷があります。調理の最中にでも切ったのでしょう」
言われて初めて気付いた。確かに鋭利なもので切られたような小さな傷が出来ていた。心当たりはあるが、それがいつだったのかまでは思い出せない。何せ、痛みが無かったから。
「本当だ、ありがとうございます。でも、これくらいなら平気ですよ」
「でも怪我してるんだよ? ちゃんと絆創膏なり貼らないと」
まもるは、いつの間にか手にしていた救急箱から消毒液と絆創膏を取り出した。
平気と言うななの左手を些か強引に掴む。
「小さな傷も大きな傷となる。バイ菌が入ったらどうするんだ?」
「ごめんなさい……」
「謝るくらいなら、素直に絆創膏貼らせてね」
軽く消毒液を流し込み、丁寧に左手の薬指に絆創膏を巻いてあげた。
その様子を見て、今度は田中が口を開いて余計な一言を口にした。
「まるで結婚指輪ですね」
「──けっ⁉︎」
ななの顔から火の手が上がった。うたはうたで「それな!」的な反応を示して指をさす。
「はは、そういえば左手の薬指でしたね」
ななは頬を赤く染めて、巻かれた絆創膏をジッと眺めている。「結婚指輪」なんて言われたら、流石に意識せざるを得ない。
「田中さん、アルバイト終わったんですよね? これ以上ややこしくなる前に早く帰って下さい」
「え、あっ、ま──」
こころは、これ以上ななの精神を乱されぬ様に邪魔者となる田中を喫茶グリッターから追い出した。
ひと仕事終えた表情をするこころ。
「も、もう食べましょう?」
◯
綺麗に並べられた鯖カレー。はもりも含めて5人での夕ご飯となった。プリルンは動いている所を見られてはマズい理由で、残念ながら裏でひっそりと鯖カレーを堪能している。
手を合わせ皆の「いただきます」の合図で、一斉に手を付ける。
「鯖美味しい!」
「美味し過ぎて心キュンキュンします!」
「意外と合うな」
「ななちゃん、美味しいね!」
「喜んでなによりだよ」
まもるがじっくりと味を噛みしめて堪能している隣で、思った以上の反響を得てスプーンを持つ手の勢いが止まらないうた。
まだ皆が半分食べ終えたかどうかの辺りで、うたは綺麗さっぱり完食する。
「おかわり!」
「うた先輩はやっ⁉︎」
「お姉ちゃん、ちゃんと噛んで食べた?」
「ちゃんと食べたよー」
うたがおかわりの為席を立った矢先、なながうたの口周りに付いているご飯粒に気が付いて指摘する。
「うたちゃん、口の周りにご飯粒がいっぱい付いているよ」
「ホント?」
「俺が拭いてあげるよ。顔ちょうだい」
「んー!」とうたは、まもるに顔を突き出して口周りを丁寧に拭いてもらう。2人にとって何気ない日常風景だが、見慣れないななとこころから見れば、ハラハラドキドキの距離感である。
「取れた?」
「うん、綺麗になったよ」
「ありがとー!」
「あ、ごめん。一粒取り残されてた」
拭き取り忘れのご飯粒をまもるは摘み、それをうたの口の中へと滑らせながら入れ込んだ。
「「ッ⁉︎」」
まもるの指先を咥えながら、うたは入れられた米粒を呑み込んだ。
当然ながら、ななとこころは顔を赤く染め上げる。やっている事が恋人のそれ。はもりもはもりで、いつもの光景かの様に何も言わないで鯖カレーを食べ続けている。
「俺の指はお米じゃないよ?」
「あっ、ごめんつい! でも美味しかったよ、まもる君の指も!」
「次指を咥えられたら俺、うたちゃんに食べられちゃうなぁー」
反応を示していたななとこころは、涙を流しながら鯖カレーを口に運ばせている。
「なな先輩とのやり取りもさることながら、ホントまもるお兄ちゃんって……まもるお兄ちゃんって!」
「ピリッとする筈のカレーが、さっきからずっと甘いよ」
「なな先輩もですか? わたしも甘さしか感じません!」
こうして、楽しい楽しい夕ご飯の時間はあっと言う間に過ぎて終わる。
しかし、彼らのお泊まり会はここからが本番。夜は深々と続く。
取り敢えず書きたい内容その1でした。
ここまでの拝読ありがとうございました。