キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
うたがアイドルプリキュア・キュアアイドルに変身してから数日が経った翌朝。
妖精・プリルンも含めて一旦はうたが全部持ち帰り、後日改めて今回の件について話すと別れた。
まもるの今日の予定は何も無い。であるなら、暇のある今日にでも色々と何であの様な事になったのかの経緯でも聞こうかと、頭の中で予定を立てていく。
朝の水分補給でコップにお茶を注ぎ、口にしながらTVの電源を入れる。そして、スマホを手に取りTVの音をラジオ代わりとして耳にする。
「うたちゃん起きてるかな?」
独り言を呟きながら咲良家に電話しようとした時だった。
TVから聴き覚えのある歌声と音楽を小耳に挟む。何だと思いつつ顔を上げてTV画面へと視線を移すと、そこにはキュアアイドルの姿が堂々と映し出されていたのだ。
突然の事で驚き、口に含んでいたお茶を吹き出して咽せてしまう始末。
「な、何だこれ⁉︎」
スマホを投げ捨て、わざわざTVを両手で掴んでは今までにない取り乱しを見せる。
「人気急上昇中! 謎の新人アイドル!」なんてデカデカと放送しているあたり、キュアアイドルの正体がうただという事はまだ世間には知られてはいない……筈。
同時に、不可解な疑問も頭の上に思い浮かぶ。
(あの騒ぎに乗じて誰かが撮影でもしたのかな? でも、そんな人影は何処にも無かったし……)
唸りを上げながらあの時の状況を思い出す。
マックランダーの手によって街は荒れ、それを使役するチョッキリ団のカッティー。それに対抗するは、うたことキュアアイドル。そしてその背中にはまもるとプリルンが居た。
わざわざ敵がアイドルを撮影する理由も無い。だからといってアイドル自身が撮影するとは到底思えない。そもそも、戦闘中にそんな器用な事が出来るのかと問われれば、まもるは真っ先に「無理」と言う。
残るまもる自身は、アイドルにずっと引っ付いていた為、あんな綺麗なアングルを撮る事は不可能。
「あれ、となると消去法で……」
まもるが思い浮かべるのは妖精・プリルンのみ。
「取り敢えず、うたちゃんには伝えておかないと」
取り乱して投げ捨ててしまったスマホを拾い上げ、再度咲良家に電話をする。
数回コールした後、誰かが応答する。
『も、もしもし!』
声の主的にうただった。
「うたちゃん丁度良かったよ! 実はTVつけたら──」
『ちょ、ちょっと待って!』
電話の向こう側で、何やら騒がしい音が聴こえる。ドタバタと床を走る音、色艶のある息遣い。そして時折聴こえる痛みの訴えと悶える声。
向こう側で一体何が起きているのか、まもるには見当がつかなかった。
「うたちゃん?」
『ごめんごめん。流石にお母さん達の前じゃ話し難いなって思って、慌てて部屋に移動してたの』
「それは悪い事をしたね。それでさっきの話に戻るんだけど、TVつけたらキュアアイドルの事が──」
『まもる君も観たんだ! ありがとー!』
果たしてそれはお礼を言われる程なのかと甚だ疑問に思う。
「じゃなくて、何であんなライブ映像が流れてるのかって話。しかも、SNSでももの凄い勢いで拡散されているしで」
『あーその事? それならプリルンがネットにアップしてたみたい』
やっぱりか、とまもるは顔を覆う。
『わたし本物のアイドルみたいでしょう!』
「……うたちゃんは俺だけのアイドルだから」
『えっ?』
「ん?」
こんな蛇足な話をする為に電話をしているのではない。少しレールを戻そうと話題を元に戻す。
「それで、プリルンは?」
『女王様に怒られて反省中だよ』
「待ってうたちゃん。えっ、女王様って何?」
『えーっとね──』
それからうたは、まもるに自分の知っている情報を全部話してくれた。
◯
うたから聞いた話を頭の中で整理する。
先ず、プリルンは此処とはまた別の世界キラキランドと呼ばれる所からやって来たのだという。プリルンはそこで暮らす妖精の1人。
その目的は、チョッキリ団のボスでもあるダークイーネによって暗黒に覆われたキラキランドを救うべく、伝説の救世主・アイドルプリキュアを探し求めてこのはなみちタウンに足を運んだみたいだ。
そしてようやく見つけたのがうただった。
その詳しい情報はプリルン本人からではなく、キラキランドの女王・ピカリーネからだという。彼女もプリルンと同じような見た目の妖精らしい。
そんな女王様から直々のお願い。それを断る理由も無く、話の流れのままその場で即決してうたは請け負った。
感謝の言葉を貰うのと同時に、アイドルプリキュアとして活動するにあたって守らなければならない事もあるらしい。
それは至って単純な話、アイドルプリキュアが自分だという事を知られてはならない。
曰く、ダークイーネは強大で恐ろしい存在。何が起きるか分からない故、少しでも身の安全を考えてのこと。
ただ、先日のキュアアイドルとしてのステージデビューを撮影だけじゃ飽き足らず、それをネットにアップロードしたプリルンに対して大変ご立腹だった様子。
罰を与えられ、騒動は収まらないが今後こういう事がないよう咎められたらしい。
「っと、こんなところかな?」
うたとの電話が終わってから数分。適当な紙にまとめて書いて、鉛筆を転がす。
相変わらず、字面だけでも頭が痛くなりそうな内容。突然の非日常に放り込まれたのはうただが、それを隣で見ているまもるも同様。
「あっ、そういえばアイドルプリキュアについて聞くのに予定空けておいたけど、さっきの電話で全部話したし」
たまの休日だ。それに明日からは新学期。特にやる事が無いのなら、昨日までの疲れを癒す為にゆっくり身体を休めよう。
その方向で今日は過ごそうと、唾液を枯らした喉を潤そうとコップに口を添えたところでだった。
バンッ、とリビングの窓に何か大きな音がした。どうせ、野良犬や野良猫が庭に侵入しては窓にでも張り付いて来たのだろうと思っていたら。
「ブッ⁉︎」
動物ではなく、ツインテールをした女の子だった。
予想外の相手に堪らず、口にしていたお茶をまたも吹き出してしまった。
驚きはしたが、それ以上に恐怖が
「こ、こころ⁉︎」
「──ッ‼︎」
何か大きな声で喋っている様子なのだが、生憎窓越しな為に耳に届いていない。
聞こえていない事に察したのか、彼女、
しかし残念な事に、窓には鍵が掛かっている。
必死に、しかも力づくで窓をこじ開けようとしているので慌ててまもるは鍵を開けてあげる。
「まもるお兄ちゃん、聞いて聞いてー!」
窓を開け、身を乗り出した最初の一言。「まもるお兄ちゃん」と呼んでくるこの光景はいつも見慣れている。ただ、今日に限ってその勢いがいつもとはまた違っている。
こころの瞳はいつもより数段輝かせており、かなり興奮気味な事もあって顔と顔がぶつかってしまうのではないかの距離感。
「聞いてあげるけど、身を乗り出すくらいなら家に上がって」
「あ、はーい。お邪魔します」
「……いや、そこで脱ぐんかい⁉︎」
床に座り込み、靴を脱いではそのままリビングへと上がって来た。両手に靴をぶら下げながら玄関へ置き、何食わぬ顔で冷蔵庫からお茶を出し、棚からコップを勝手に取り出した。
「お兄ちゃん、お茶飲んでもいい?」
「もう既に飲もうとしているんだけど、これは試されているの?」
「ふぇ?」
豪快に飲み干したお茶。コップをテーブルの上に置き、一息吐いた瞬間、冷めたはずの熱がまた再熱してまもるにくって掛かる。
「まもるお兄ちゃん今朝のニュースチャンネル観ましたか? 観ましたよね? 観たに違いありません! 絶対にそうです‼︎」
「ま、先ずニュースの内容を話してくれないと俺も話せないよ!」
おっとこれは失礼、と一度咳払いをした後深呼吸する。
「実はですね、キュアアイドルという……って、あーーッ‼︎」
何かを言い掛けていたが、それを遮ってTVの方に注目した。
電源を完全に切り忘れていたTVに視線を向けると、もう何度目かのキュアアイドルに関するニュースが流れていた。
それだけ今大注目という事なのだろう。
「まもるお兄ちゃんも目の付け所が良いね! さっすが!」
「あのー、話の方をして欲しいんだけど……」
「ごめんごめん、溢れる熱量を抑えきれなくて!」
「それってあれか? いつもの」
「はい! 心キュンキュンしてます!」
こころの口癖「心キュンキュンしてます」を聞くのも、これで何十……いや、何百と耳にしている。
これを口にしている時のこころの表情は、とても愉快で聞いているまもるの方まで頬を緩ませてしまう。
「で、本題に入るんですが!」
「おっ、ようやくだな」
「キュアアイドル良いですよねー!」
「あーそういうことか」
こころが何故、TVに過剰に反応していたのか判明した。
「むぅ……お兄ちゃんの反応が薄い」
「そう言われても……」
まさか、その巷で噂のキュアアイドルと知り合いだなんで口が裂けても言えない。しかも、こころを前にその事について口を滑らせたら追求して来る事は間違いない。
「ねーえー、お兄ちゃん可愛いでしょ? 心キュンキュンしない?」
「可愛いと思ってるし、心キュンキュンしてるよ。でも、それと同じくらいこころも可愛くて、心キュンキュンするな」
こころは「そうかな?」と思いつつも、褒められた事を素直に受け取り頬を赤く染める。
「ありがとう、まもるお兄ちゃん。本当に昔から」
急に悲しげな表情へ変えるこころを、まもるは優しく包容する。
まもるはしみじみ思う。こんな平和がいつまででも続けば、と。しかし、プリルンと出会い、うたがアイドルプリキュアになった事でその穏やかな日常に、今までにない刺激が加わってしまった。
あんな非日常が、1日でも早く終わればと心から願う。
ここまでの拝読ありがとうございました