キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
耳元で誰かが囁く声がする。凄く聞き覚えのある声で、とても癒される。
「──くん!」
少しだけ眩しい。朝の日差しが顔に照らし出されているのだろう。普段なら早起きをするまもるだが、夜更かしをして今日は特別に眠たい。
「起き──!」
声だけに留まらず、体を優しく揺さぶられる。それでも今は眠気が勝っている。大人しく寝かせて欲しい。
「紫雨君起きて!」
「……なにぃー?」
「大変なの! 外にマックランダーがひゃわ⁉︎」
まもるが寝返りをうった拍子に、腕が誰かを巻き込んで寝かせた。
重たい瞼を必死に持ち上げて、巻き込ませてしまった相手の顔をよく見る。
「嗚呼、蒼風さんだったんだ……おはよう、そしておやすみ」
ななが顔を赤くして硬直しているが、すぐさま「こうしている場合でない!」とまもるを起こす。
「紫雨君寝ぼけてないで起きて! マックランダーが出たの!」
「マックランダーね、はいはい……えっ、マックランダー⁉︎」
まだ覚醒し切っていない頭で理解して、まもるは慌てて飛び起きた。
時間を確認すれば、まだ陽も完全に上がっていない時間帯。こんな朝早くにチョッキリ団の襲撃が初めてだった。故に油断していた。
「蒼風さんおはよう! うたちゃんは?」
「それが……」
ななが指をさす。その方向に視線を向けると、うたがまもるを抱き枕にしているつもりなのか、腰にしがみついて熟睡中の様子。
「うたちゃん、マックランダーだって。起きないと」
案の定揺さぶっても起きない。綺麗に出来上がっている鼻ちょうちんを指を突き、割った。すると、うたは目を見開いて目を覚ました。
「にゃ、にゃんだって⁉︎」
「支度して行きたいのだけど、……こころちゃんとプリルンが居なくて」
周囲を見渡しても確かに居ない。綺麗に畳まれてある布団だけが残されている。何処に行ったんだ、と考えたが彼女の日課の事をすぐに思い出した。
「こころの事は大丈夫だと思う。多分、後で合流出来る」
「分かった、じゃあ行こう!」
うたは立ち上がって、アイドルハートブローチを手にして部屋に出ようとした。
「「待って待って! パジャマのまま行くの⁉︎」」
「だって時間がないんだよ」
まもるとななは顔を見合わせ、苦虫を噛んだ表情で立ち上がる。
「それに変身すれば大丈夫だって! ね!」
「蒼風さんだけでも着替える?」
「マックランダーは待ってくれないし、わたしもこのまま行くよ」
「よし! 変身いっくよー!」
ななもアイドルハートブローチを手に持ち、共に変身を始める。
「「プリキュア! ライトアップ!」」
うたの部屋が煌々とピンクと青の光で塗り潰された。間近に居たまもるは、その光量に目を瞑る。
「「キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!」」
普段通り変身をする2人。いつもなら少し遠目から見る変身だが、こんなにも間近で見られる機会なんて滅多にない。物珍しいさもありつつ、まもるは2人のその姿に魅了されて息を呑む。
「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
「キミと瞬く、ハートの勇気! お目目パッチン、キュアウインク!」
変身完了と同時にアイドルは窓を開け、ウインクはまもるの腰を抱いた。
これから何されるのか察したまもるは、生唾を呑んで顔を青ざめる。
「またこれなんだねっ‼︎」
忘れていた、そして久し振りにこの感覚を思い出す。ジェットコースター以上の恐怖と浮遊感を味合う体験。もう二度と無いと思っていたが。
アイドルとウインクは、部屋から飛び出してマックランダーが現れた場所へと急行するのだった。
「ウインク、もう少しスピード緩めて!」
「紫雨君大丈夫だから!」
「何の大丈夫なの⁉︎」
今日のはなみちタウンの朝は、絶叫混じりの声が響き渡った。
◯
野原はよく見え、障害物など一切無い開けた場所。そこでは、暴れるランニングウェア姿のマックランダーにキュンキュンが既に交戦していた。
しかし、状況は決して良くはなかった。マックランダーの足に今にもキュンキュンが二重の意味で押し潰されそうになっている。
それを遠くから見ている事しか出来ないプリルン。
「わたし独りだったら耐えられなかった。でも、プリルンが一緒に居るから!」
両腕に力を込め、その限りを尽くしてマックランダーに抵抗する。
「まだ抗うか?」
傍観するのはザックリー。キュンキュンの様を見て、未だ倒せない事に苛立ちが込み上げる。それでも今はキュンキュン1人で、他2人が来る気配は無い。
「チャンスは今しかないんだ! もっと気合い入れろマックランダー!」
マックランダーの脚に更に体重が乗せられ、キュンキュンが地面に埋もれていく。絶体絶命のピンチだが、キュンキュンの目はまだ死んでいない。最後まで諦めず、信じている。
その願いと想いはまもなく、成就される。
「「キュンキュン!」」
空から駆け付けたアイドルとウインクの膝蹴りがマックランダーの後頭部に炸裂。吹っ飛び、キュンキュンはようやく全身の力を抜く事が出来た。形勢逆転だ。
「アイドル! ウインク! と、大丈夫ですかまもるお兄ちゃん?」
ウインクの腰にしがみついて、青ざめているまもるを気に掛ける。震える手で、ウインクの手を借りながら立ち上がった。
まもるは深い溜め息を吐き、ばつが悪そうな表情で自分の状態を説明した。
「屋根の上を駆け抜けている時に、ウインクが俺を落としそうになったから……」
「あぁ……」
「わ、わざとじゃないから!」
わざとだったらとんでもない。
お喋りはここまでとして、アイドルとウインクはここまで独りで耐えていたキュンキュンを気遣う。
「それよりも、キュンキュンは大丈夫?」
「はい、プリルンが一緒に居てくれたから」
キュンキュンの言葉に、プリルンは何の事だが分かっておらず首を傾げていた。
「来るよ!」
まもるの声に3人が反応する。これが、第2ラウンドの開始の合図となった。身構えるマックランダー相手に、キュンキュンが地面を蹴り、動き出した。後にアイドル、ウインクと続く。
迫る敵にマックランダーは赤い紐を投げ飛ばした。キュンキュンは眉を歪ませる。持ち前のステップで、ジグザグに撹乱して赤い紐を避けて尚前へ進む。
しかし──。
「「うわっ⁉︎」」
後続の2人は避けられず、絡め取られた。
「いつもチョッキリすると思ったら大間違いだ!」
援護に来た2人が早々に拘束された。身動きが取れず、形勢再逆転。マックランダーに軍配が上がったまま、キュンキュンが取るべき行動は。
「キュンキュン頑張ってプリー!」
プリルンの声援を背中から一心に受けたキュンキュンの目付きが緊張と動揺からくる鋭さから、物腰柔らかくなった丸い目付きに変わる。
キュンキュンは拘束されている2人に目を向けた。まもるが懸命に拘束を解こうとしているが、変身していない身では不可能。
ならば──。
「キュンキュンレーザー!」
キュンキュンから放たれた2つの光線が、アイドルとウインクを縛る拘束を撃ち抜いた。
「「ありがとうキュンキュン!」」
2人からのお礼を貰うのと同時に、横をすり抜けてキュンキュンが跳躍しながら前へ飛び出した。
「いっくよー!」
アイドルハートインカムを装着し、キュンキュンだけのステージが幕を開ける。
音楽に合わせ、手拍子でリズムを刻みながらマックランダーを強制的に観客席に座らせた。
「クライマックスはわたし! 準備はOKー⁉︎」
間髪に入れず、キュンキュンは自分の歌声をマックランダーに届けさせる。まだ、あどけなさが残る声にマッチする曲調と引き立てさせる年相応のダンス。
持ちうる限りパフォーマンスを余す事なく曝け出し、紫色の水滴型のエネルギー弾に変換させて撃ち放つ。
「プリキュア! キュンキュンビート!」
キュンキュンの技が直撃したマックランダーは、キラッキランランな気持ちとなり浄化されて消え去った。
「チッ……チョッキリ団たるもの、結ばずザックリするべきだったな」
チョッキリ団を退けたプリキュア一向は、河川敷近くの橋下で身を隠していた。
「キュンキュンー! 心キュンキュンしたプリ!」
マックランダーが居なくなって早々にキュンキュンに飛び付くプリルン。少し驚きつつも、胸の中で受け止めたキュンキュンは今の自分の素直に感想を口にする。
「わたしはまだまだです。でも、プリルンが一緒に居て、応援してくれたから頑張れた」
「プリ?」
「そんなプリルンにプレゼントがあるんだ」
キュンキュンの後ろでは、まもる達3人が微笑んでプリルンを見る。
◯
咲良家に帰宅したら一同は、早速プリルンに贈るプレゼントを渡した。
「プリー! ピッタリプリ!」
プレゼントしたのはプリルンと何処へ出掛けるにも、いつでも一緒に居られる特製のポシェット。プリルンの身体の大きさに合わせたポシェットは、スッポリとハマれるサイズ感。
「これなら一々隠れなくて済むし、プリルンが寂しくないかと思って」
「こころちゃんのアイディアだよ」
「ありがとうプリ!」
プリルンに贈るプレゼントはこれだけではない。寧ろ次が本命とも言える。
うたがプリルンサイズのとある衣装を取り出し、それをまもるが丁寧に着させた。
こうして出来上がったのは、プリルン仕様のアイドルプリキュアもといキュアアイドル。
4人が夜なべして作っていたのは、このアイドルプリキュアの衣装なのだ。「お揃い」を意識していたプリルンにとって、これ程喜ばしいプレゼントはなかった。
「プリプリー!」
「1枚、とびっきりのキラッキランランな写真でも撮ろっか!」
「じゃあ、目線お願いしまーす!」
「プリ!」
レンズ越しに映るプリルンの姿は、キラッキランランなアイドルプリキュアそのものだった。
こうして、初めてのお泊まり会は幕を閉じるのだった。
次回の七不思議回はカットして、CDデビューの回から始まります。
ここまでの拝読ありがとうございました。