キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
待ちに待ったCDリリースを迎えた。世間では、アイドルプリキュアのCDを手にして、キラキラで満ち溢れていた。
当の本人達でうたやななも、かなりの手応えを感じていた。1人を除いて。
CDを手にして、浮かない顔とまではいかないが何か考え事をしていた。
「難しい顔してどうしたんだ、こころ?」
「実は……ううん、もういっそ」
いつも通りの喫茶グリッター店内。アイドルプリキュアの存在を知る者全員がこの場に居る。その全員がこころの独り言に首を傾げている。
「あの、握手会しませんか?」
「「「握手会?」」」
「それはまた唐突ですね。ですが、お話はちゃんと伺いますよ」
「みこと先輩が、そういう機会があれば良いなって」
みことだけではなく、アイドルプリキュアの研究会の皆も同意見だった。推しがそういうイベントを開いてくれるだけで、ファンとしては嬉しい限りだ。しかも直接会えて、そして推しの手を握れるなんて尚更。
こころは、田中の方へ熱い視線を向ける。一方で田中は涼しい顔でこころの提案を了承した。
「正体がバレる訳でもありませんから、問題無いです。では、必要な物資はこちらで揃えておきますので」
田中は一言返事で、何から何まで準備も請け負ってくれた。
うたとななも賛成し、こころは俄然やる気を出す。
「俺も精一杯の限りは手伝うよ!」
何がともあれ握手会にしても滅多に無いチャンスだ。この機に、ファンの声を直に聞いたりするのも良い。そこから得られるものもあれば、自分では気付けなかった景色も見えてくる。
「という訳で、プリルンお願いがあるの!」
「プリ?」
気合い十分なこころ。それはとても素晴らしい事だが、レコーディングの件の事もまだ記憶に新しい。それを引き摺っていなければいいのだが。
まもるにとって、それだけが僅かな心残り。
◯
いよいよ待ちに待った握手会当日。晴天な青空の下。街中の大広場には、この日の握手会の為に用意されたステージが設置されている。
まもる達は関係者以外立ち入り禁止のテントに待機しており、外の様子を伺っている。
握手会の為にズラリと行列が形成されており、テント内からでは最後尾が視認出来ないほど。
「よくこんな短期間で人が集まったね」
改めて、アイドルプリキュアが今の世間を騒がせているのかを実感する。これはこれで嬉しい誤算ではある。
「じゃあ俺も列に並んでくるよ」
「まもる君も握手会に参加するの? わざわざ並ばなくても握手なんていつでもしてあげるよ」
「日常的なあれとは違うんだよ。並んでこそ意味のある握手会だ。それに、俺もファンの1人だからね」
まもるの言葉に、こころは首を縦に振って激しく同意していた。
「そろそろ時間だ。皆頑張ってね」
3人にエールを送り、まもるはテントから出るのであった。
◯
待機列最後尾に並んだまもるは、今か今かと逸る気持ちを抑えられずにウズウズしていた。
ステージ上では、変身を終えたキュアアイドル、キュアウインク、キュアキュンキュンが舞台挨拶をしていた。
進行役の田中も、無表情のままこの握手会をスムーズに進ませている。
本当に凄いなと何度目かの驚きをする。3人が舞台袖から出てきただけで、周りの人達の熱量はかなりのもの。
まさかここまで大きくなるとは、最初の頃と比べてしみじみ思う。
「皆上手くやってるかな?」
目を細めて、遠くで頑張る彼女達の頑張りを観察する。アイドル、ウインクはいつも通りの様子。では、キュンキュンの方はどうかと移し変える。
遠目からでも分かる。かなり緊張して上がっている。あれではレコーディングの時と同じ轍を踏む。
しかし、今回ばかりはフォローのしようがない。大人しく、キュンキュンがどう独りで乗り越えるか見守る。
「それにしても」
キュンキュンを心配を横目に、まもるは前に並んでいる巨漢の男性に目が行く。
男性はサングラスをして顔を隠しているが、見覚えのある服装に髪型。
(この人、チョッキリ団のカッティーだったよね?)
言うべきか言わざるべきか。先程から様子を注視しているが、これといったアクションは起こしていない。何か企んでいるのかという疑念もあるが。
(触らぬ神に祟りなし。そっとしておこう)
大人しくしているのであれば、わざわざ撃退する必要も無い。
見て見ぬ振りしようと思った直後だった。
不可抗力にもカッティーが一歩下がって軽く衝突した。
「ごめんですぞ……あっ」
「わっ……」
振り返って謝ってきたところで、ようやくまもるの存在に気が付いた。アイドル達と違って直接戦ってはいないが、いつも側に居る人間という事もあり、顔は覚えられている。
「あ、あはは……どうも」
冷や汗が止まらない。改めて間近で見ると、カッティーは己の身長よりも遥かに大きい。簡単に捻り潰される。
プリキュアに変身出来ないまもるは、只々笑う事しか出来なかった。
「み、見つかってしまったのなら先手必勝ですぞ!」
静かに対峙して、耐えかねて先に痺れを切らしたのはカッティーだった。
「お主のキラキラ、オーエス!」
カッティーは大胆不敵にも、まもるの目の前で列に並んでいた少女とその母親を共々マックランダーの素体にしてしまう。
「出でよ、マックランダー! 世界中をクラクラの真っ暗闇にするのですぞ!」
CDアルバムにも似たマックランダーの出現に、握手会は一変する。突如として現れた怪物に訪れていた人々は、田中の避難誘導に従って一斉に散って行く。
「まもる君大丈夫⁉︎」
「すまない皆! 情けない事に、目の前でマックランダーを喚び出された!」
「後は任せて。まもる君も急いで避難を……って⁉︎」
まもるとアイドル達が合流して早々、キュンキュンが独断で1人マックランダー相手に飛び出して行った。
「みゆちゃんを助けなくちゃ!」
「1人じゃ無茶だ! 2人と協力するんだ!」
まもるの声も耳に届かず。
颯爽とマックランダーの懐に潜り込んだキュンキュン。拳を握り、一撃を叩き込もうとしたが硬直。マックランダーの方が一歩早く、攻撃の動作に入っていた。
マックランダーの手の甲に備え付けられている装備から、CDディスクが射出された。
「マックランダー‼︎」
キュンキュンはすぐさま後方へ飛び退いた。持ち前の運動神経で至近距離での攻撃を回避する事は出来た。しかし、それがすぐに裏目に出る事となる。
連続射出するディスクを周辺の建造物を足場に後退するが、じわじわと追い詰められて行き、とうとう逃げ道の無い空中へと誘い込まれてしまった。
「マーックランダー!」
最大限までに高められたディスクが射出された。
絶体絶命のピンチに、一つの影がキュンキュンの目の前に飛び出した。
「ウインクバリア!」
「マック⁉︎」
間一髪の所でウインクが割って入り、防御した。ウインクはそのままキュンキュン手を差し引きながら、地に足を付く。
「キュンキュン大丈夫?」
外傷は無いが、その場で崩れ落ちるキュンキュン。傷を負ったのは外ではなく内。心にだった。
「悔しいです。レコーディングでも握手会でも……みゆちゃんを助けたいのに、今のわたし、全然お2人に追い付けてません」
傷を負う心に光を照らし出すのはいつだって彼女。
「そんな事ないよ。追い付くどころか追い越してるし!」
「例えばどんな所?」
「足! ほら、キュンキュンって走るの速いし!」
「それもそうだな!」
まもるの質問にアイドルは堂々と答えた。加えて納得もする。その言葉にキュンキュンを目を丸くさせている。
これには呆れる他ない。
「それに、今日の握手会はキュンキュンが居なきゃ出来なかった」
「キュンキュンに出逢ってから、わたし達ずっとキラッキランランだよ!」
「キュンキュンが居たから、今の俺達が居るんだよ。だから言ったでしょう? リラックスだって」
3人の言葉を一身に受けたキュンキュンは、手を借りながらも力強く立ち上がった。
「ありがとうございます。やりましょう、皆で!」
一呼吸置いて3人はそれぞれ他方向へと散って行く。いくら強力な遠距離攻撃を仕掛けたとしても、狙いが定まなければどうという事でもない。
撹乱させつつ、少しずつマックランダーへと近付いて行く。一歩、また一歩と、3人で協力して前へと突き進む。
中でも、一皮剥けたキュンキュンの動きは焦りや戸惑いが消えて好調。本来の実力を戻しつつある。
「いいよキュンキュン! もっともっといっけぇ!」
「まもるお兄ちゃん……っ!」
まもるの声を聞くと、不思議と力が湧いてくる。今までにないパフォーマンスを引き出させてくれる。
淡い紫色のオーラをその身に纏い、キュンキュンの動きは更に加速する。
それはいつしかの、アイドルとウインクが一時的にパワーアップしていたあの頃と状況が同じ。
「
魂の込もった声を一身に受けたキュンキュン。地面を蹴った瞬間、音も無くその場から消えた。
「こっちだよ!」
動揺するマックランダーの背後から声。そこには、いつの間か死角に回り込んでいたキュンキュンの姿がそこにあった。
慌てて振り返るが手遅れ。キュンキュンは既に、ステージ開演の準備体勢となっている。
「クライマックスはわたし! 準備はOKー⁉︎」
キュンキュン専用のステージが展開され、マックランダーは強制的に観客席に座らされた。
流れる曲に合わせて紫色のサイリウムが振られる。
肺に溜め込んだ空気を全て、歌声に変換させてキュンキュンは歌う。響き渡る歓声を味方に付けて、ソロステージは今までにない盛り上がるを見せる。
そしてテンションが最高潮に達した瞬間、キュンキュンは浄化技を撃ち放った。
「プリキュア! キュンキュンビート!」
ライブステージに魅了されたマックランダーは、浄化技を正面から受けて消滅した。
マックランダーの果てを見たカッティーは、撤退を余儀なくされた。
街は元通り。安堵してか、まもるはその場に座り込んで大きな息を吐いた。
「すっごいライブだった!」
満足気な表情をするまもるだが、その顔色は青く健康的には見えなかった。加えて、心臓部を押さえ込んでいる手にも自身で気付いておらず。
単なる、間近で見たマックランダーの戦闘から来る疲れの影響かと思われたが、アイドルと田中の2人はそうでないという不信感を抱いていた。
◯
キュンキュンとみゆちゃんとの握手会も成功。アイドルプリキュアとして、結果的にキュンキュンの成長へと繋がった。
残すは、最後尾に並んでいたまもるとアイドルとの握手のみ。
いつもとは違った景色で2人は握手をして、今この時を精一杯楽しむ。
そろそろ時間が迫り、まもるはアイドルの手を離そうとしたが一向にその素振りを彼女は見せてはくれなかった。
「アイドル?」
様子がおかしいと判断したまもるは、名前で呼び掛けた。すると、逆にアイドルはまもるの手をギュッと力強く握る。
これではいつまで経ってもステージの上から降りられない。人の目もある故、早々と立ち去らないと行けないのだが。
どうしたものかと困惑していると。
「……まもる君、少し変だよ」
「変って、髪型? それとも服装?」
これでも身なりは出来るだけ整えているつもりだ。今まで、うたにそんな事は言われた経験は無いのだが、そんなにおかしい所があったのか。
「体調が良くないように見える」
「そんな事ないよ。もう、アイドルは心配性なんだから」
笑って「平気だよ」と言うまもる。そして、握られている手を抜け出して、笑顔のままステージから降りて行った。その際、まもるは胸の違和感に気付きながらも敢えて無視した。
些細な違和感も見逃さない。そんな後ろ姿を見ながら、アイドルは誰にも聞こえない声でそっと呟いた。
「でも心配だよ……」
アイドルだけは煮え切らない結果で終わったが、握手会自体は大成功のまま幕を閉じた。
まだほんのちょっとだけ続きます。
ここまでの拝読ありがとうございました