キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
「良い空気だ。心が落ち着く」
今日から待ちに待った新学期。その事に体が舞い上がっていたのか、珍しくいつもより早い時間帯で起床して通学路を歩いている。
普段と同じ通り道だが、30分も早く家を出た事で見慣れない人が早朝のランニング、お散歩。そして風の冷たさも違って、何もかもが新鮮味を帯びている。
「早目の時間に出るのもアリだな。でも、毎日この時間に登校してたらこころが淋しがるかもな」
今日からこころも同じ学校へと通う学生。今日だけは早目に学校へ行きたいと言っていたので、一緒にでの登校は叶わなかった。
「あっ」
歩いていると、数メートル先に見覚えのある後ろ姿を見た。1年生の時に一緒のクラスで、隣の席である
青味が掛かった長髪、歩く姿さえも絵になる様な凛とした佇まいに優雅な足取り。うたとはまた正反対の性格の持ち主。
「蒼風さ──」
呼ぼうとした口が固まり、もう一度呼ぼうかとするが少しだけ躊躇してしまう。
仲が良いのかと聞かれると正直なところ微妙としか言いようがない。
隣の席と言っても、所詮必要最低限の会話程度。これと言った特別な思い出も無い。
だからこうして、わざわざ呼び止めて挨拶する義理も無い。
「ま、いっか」
目を伏せ、見なかった事にして一定の距離を保ちつつ学校まで歩こうとした時だった。
「きゃっ!」
突如、強風が襲った。その影響で桜が舞い散り、2人の髪や制服を大きく靡かせた。
目に砂が入らぬよう瞼を閉じ、風が収まった時を見計らって開けると。
「「あっ」」
お互い目が合った。
「お、おはよう紫雨君」
「蒼風さんもおはよう」
目が合ったのだから挨拶はしたものの、2人は互いの顔を見つめ合ったまま動きを完全に止めている。
なんて、いつまででもこんな道の真ん中で立ち止まっていても仕方ない。まもるは一歩踏み出し、ゆっくりとななの方へと近づいて行く。
「髪、ちょっと良いか?」
「えっ、あ、うん」
一瞬何を言っているのか理解出来なかったが、言われた通り頭を差し出して触っても良い許可を出した。
するとまもるは、ななの髪の中に手を入れて何か弄り始める。
その時に、まもるの手がななのうなじに触れたりで口から甘い声が時折滲み出る。
男性にこのような事をさせた事がない故、ななは頬を紅潮させている。
「ごめんね、もうちょい……よし、取れたよ」
手を退かせ、何が取れたのかまもるは見せつける。
「さっきの風で、髪の毛の中に桜の花びらが入っちゃってたよ」
息を吹き掛け、取った花びらを宙に舞い散らせた。
「じゃあ俺はこれで。また同じクラスになれるといいね」
それだけを言い残して歩こうとすると、制服の裾を後ろから引っ張られた。
「紫雨君、折角だから一緒に歩かない?」
思ってもみなかった誘い。新学期となり、クラスも分けられる。会う機会も減るだろうし、何より一緒に登校するとなると会話をする事になる。会話の数もそこまで多くなく、するのなら今が都合が良いのではないか。
そう考える。
どうせ今一度切りの関係だ。折角の誘い、しかも女の子の方からの誘いを無碍に出来る程の肝っ玉は無い。
それに、今は1人なので何処か寂しさもある。
それなら、こういう時間も悪くない。
「いいよ、行こっか」
ななが隣に並び、それを見計らってまもるも止めた足を動かし始める。
誘いを受けたのは良いが、結局何をすべきか。たわいのない話にしたって、会話する以上話題が膨らむような内容が良いに決まっている。
「紫雨君」
「あ、はい!」
「紫雨君は、学校が始まるまで何してたの?」
ななからそう質問を投げ掛けられた。
平々凡々な毎日を過ごしており、特に変わった事は無い……と言いたかったが、それはつい先日までの話。
「寝て、起きて、そこら辺で遊んでたかな」
なので、重要な部分だけは隠した。
「紫雨君は相変わらずだね」
「そういう蒼風さんはどうなんだ? やっぱり
ピアノ、その単語を出した時、僅かにだがななの表情が曇った。
何か言ってはいけない事だったのか、慌ててまもるは謝罪の意を示す。
「あー、なんかごめん。聞いちゃダメな内容だったかな?」
「あ、ううん気にしないで。これは私自身の問題だから……」
逆に気を遣わせてしまった。そういうつもりで言ったのではないが、余計に空気が重くなってしまう。何か明るい話題、もしくはそのフォローを入れる。
「何か悩みがあるならいつでも相談乗るぞ? クラスが別になっても、1年間隣だったよしみだしな」
「ふふ、ありがとう。その時になったら頼らせてもらうね」
「任せろ」
ようやくななの表情が元に戻った。それに、少しだけだが会話にも弾みが出来ている。
この調子だと思い、勢いそのままにまもるは更に会話に弾みを掛ける。
「蒼風さん」
「紫雨君」
偶然にも2人の言葉が被った。一瞬目を見開いて驚き、そしてすぐに口角を上げて2人して笑みを浮かべる。
今までこういう場面に遭遇した事が無く、珍しさだったり奇妙な親近感が湧いたから。
「被っちゃったね」
「なんかある意味、息ピッタリだったな」
「なんていうか、こんな風に紫雨君と話したの初めてかも」
「そうか?」と思ったが、よくよく思い返してみると確かに今みたいにまったりとした雰囲気で話す事なんて一度も無かった。
「紫雨君って、やっぱり思ってた通りの人だった」
「どういうこと?」
「意外と口数は少ないけど、その分相手の事をちゃんと見ている。さっきも、私の事を気遣って話題逸らそうとしたでしょう?」
「最初の言葉は聞かなかった事にする。でもまあ、そんなのは普通だろ?」
「その"普通"が出来ない人が多いんだよ。私もその1人の内だから」
「そんな事ないよ、蒼風さんは凄く俺の事を見ていた!」
まもるは両手でななの肩を掴み、今にも差し迫る勢いでななについて語る。
「俺が消しゴム忘れた時にいち早く気付いたのは蒼風さんだし」
「だってあれは、紫雨君が『消しゴム無い』って言いながら筆箱の中探してたから」
「それに、寝癖まで直してくれたし」
「流石にあの時の寝癖はどうかなと思っただけで……」
「それに気のせいかも知れないけど、なんか蒼風さんから視線感じるんだ。自意識過剰かなって思った事もあったけど、大抵振り向いたら目と目が合うし」
「それに、関しては……否定しません、はい」
ななは、まもる以上に相手の事を見ている。まもるは気付いた時にしか見ていないのに。
そんな彼女の事が素敵だなと思う日々は多々ある。
「あの、覚えてる? 私達が初めて出会った時のこと」
「そりゃ去年の事だからな、覚えてるさ」
ななと初めて出会った時は、少女漫画の様な胸打つ場面だった。
今日みたいに桜舞う春の季節の時、音楽室から聴こえるピアノの音色にまもるは導かれた。
窓から差し込む光の中で、器用な手で鍵盤を巧みに奏でていた。その様子にまもるは魅了されてその姿をいつまででも魅入っていた。そんな視線に気付いた時ななが振り返り、目と目が合った。
それがまもるとななとの初コンタクト。
「あぁー、そっちなんだ……」
「そっち?」
「ううん、なんでもないよ……やっぱり
最後に小言で呟いたななの言葉は、まもるの耳には届いていなかった。その方がななとしても都合が良く、もう一度言おうとはしない。
「あっ、学校に着いたね!」
談笑をしていたら、いつの間にか学校の門を潜っていた。楽しい時間はあっという間。
2人は教室に行く前に新しく一新されたクラスの確認をするべく、先ず掲示板の前に足を運んだ。
「えーっと、私のクラスは……あった。A組だったよ、紫雨君の方は?」
「俺もA組だった。蒼風さんの少し下に俺の名前があるよ、ほら」
「それじゃあ、今年も一緒のクラスだね」
「よし、ぼちぼち教室に行くか」
これも何かの縁。また2人で教室まで、歩いて行くのだった。
そして席に着こうとして判明したのだが、去年と同様隣同士。お互いに苦笑いをして、切っても切れない運命的な何かを感じた。
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