キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva   作:シロX

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第41話 悲鳴

 キュアディーヴァに敗戦を強いられたまもる達一向は、心身共にボロボロな状態のまま喫茶グリッターに戻って来た。

 

 うたはまもるの、こころはななの肩を借りながら店内の席へ着き、テーブルに突っ伏す。全員、満身創痍である。

 その様子に田中は、どう声を掛ければ良いのか戸惑っている。プリルンも、今回ばかりは口数が少なくいつもより大人しい。

 

「あんなのありなんですか?」

 

 こころがそう愚痴を溢した。無理もない。パフォーマンスは全てオリジナル以上のクオリティーでトレースされた。あらゆる面で自分達は劣り、そして敗北。

 

「それでも、うた達のステージの方が凄いプリ!」

 

「ありがとうプリルン」

 

 そう言うななだが、苦笑いを浮かべていた。やはり気落ちはしている。

 いつも明るいうたでさえも、あれから一言も発していない。

 

「そうだ、この事を女王様にも報告しておかないと」

 

 ななは、プリルンからリボンを受け取ってアイドルハートブローチでピカリーネに連絡をする。

 

「あの、女王様! 大変な事があって、わたし達以外にもチョッキリ団にプリキュアが!」

 

『こちらからでも、その力は感じ取りました。キュアディーヴァ、アイドルプリキュアとは似て非なるものですが、その力は本物』

 

 ピカリーネは、まもるの方へと視線を向けた。

 

 今まもるは、疲れ果てているうたを癒している。

 

『タナカーン、彼に"あのこと"はまだ話していないのですか?』

 

「えっ、あのこと?」

 

 聞き耳を立てていたまもるは、ピカリーネの言葉を拾って聞き返した。

 

『キュアディーヴァに勝つ方法はあります』

 

 それに1番食い付いたのは、意外にもまもるだった。ななのアイドルハートブローチを手に取って、その方法とやらを必死に聞き出そうとする。

 

「教えて下さい。皆が、キュアディーヴァ以上にキラッキランランになる方法を!」

 

『それは貴方次第です、まもる』

 

「俺、次第ですか?」

 

『貴方のキラキラは非常に特殊なものです。他の方よりもキラキラが遥かに多く、そのせいで体に害を与えています。心当たりはありますよね?』

 

 ピカリーネの言う通り、ここ最近アイドルプリキュアの姿を見ていると時折体調不良を訴える事が多くなった。それがまさか、キラキラが原因とは思いも寄らなかった。

 

『このまま溜め込んでは、いつか貴方自身が壊れてしまう恐れがあります。ですが、貴方のそのキラキラを外に放出すれば大丈夫』

 

 背筋が凍る事をサラッとピカリーネは言う。

 

「あの、自分の知らない間に何が起きているのか理解はしましたが、それがどうキラッキランランになる方法と結び付くのでしょうか?」

 

 問題はこれから。衝撃の事実を突き付けられたが、その事と何が関係しているのかが分からない。

 

『そのキラキラを彼女達に分け与えれば、力になる事は間違いないです」

 

 まもるは自身の胸を強く握る。果たしてそんな事が可能なのか。しかし、アイドルプリキュアとは違った力、その片鱗はこれまで何回かあった事は記憶している。

 まだ自分でも知らない力があるとして、それがアイドルプリキュアを今よりももっとキラッキランランに出来るなら。

 

 この特質とも言える力を利用すれば勝てる。

 

『とはいえ、今のまもるにはキラキラをコントロールする力がありません』

 

「なんとかしてみます」

 

「──あの」

 

 今まで輪の中に入っていなかったうたが、ここでようやく顔を上げて口を開けた。

 ピカリーネは慈愛に満ちた表情で、うたの質問に耳を傾ける。

 

『なんでしょう?』

 

「それって、まもる君もわたし達と一緒に戦うって事ですよね? マックランダーを」

 

『そうですね、そうなります』

 

「ならわたしは反対します」

 

 これに大きく反応したのはまもるだった。

 

「えっ、何でうたちゃん? これで俺も、今まで以上に皆の力になれるのに?」

 

「でもその分、危険な目に遭うんだよね? だったら嫌だな」

 

 うたは、俯いて今日までの事を振り返る。

 

「まもる君の応援は嬉しいよ。でも、その度にまもる君は危険な目に遭ってきた。それが多くなって、もしもの事があったらわたし……」

 

 プリルンと後方から声援を送っていただけでも十分に危険だった。今度はそれが頻繁に多くなり、危険度も更に倍増する。

 心配する側からしたら居心地としては最悪だ。

 

「今日だってそうだったじゃん」

 

「大丈夫だって。俺は元気だし──」

 

 安心させようとうたの手を握ったが、すぐにその手を払われた。

 

「まもる君が傷付いてしまう応援なら、そんな応援わたし要らない!」

 

 怒号とも言えるその声に、まもるは肩をビクつかせた。それに、こんな風に怒るうたを見たのも知り合ってから初めて見た。

 

 彼女の言っている事は本気だ。涙を流して、本気でまもるの事を心配している。じゃなきゃ、こんな風に言わないし、涙も流さない。

 

「でも、そうしないとうたちゃんが!」

 

「まもる君がわたしを想うように、わたしもまもる君の事を想っているの! まもる君よりもずっとずっと‼︎」

 

 口を開けようとするが、すぐに閉じた。今の自分に、うたに掛ける言葉なんて無い。

 自分が思っている以上に、うたはずっと気に掛けていた。それを口に出さなかったのも、こうやって吐き出しているのも全部。

 

 まもるは、アイドルハートブローチをななに返して、無言で喫茶グリッターを後にした。

 

 今の自分は、うたとまともに顔を合わせられる自信が無い。

 まもるは初めてうたを避けた。

 

 

 ◯

 

 

 時間はとうとう赤い夕焼けの光が差し込むまで経っていた。

 そんな時間帯に、まもるはとある公園に足を運んでいた。遊具はそこまで多くはなく滑り台、ブランコ、砂場がある程度。

 

 まもるは、独りブランコに乗って公園内にあるベンチを眺めていた。

 

 いつしかの記憶がそこにはあった。初めてうたと出逢ったあの日、あのベンチの上で幼いうたが歌って踊っている所をここから見た。

 

 まもるからの視線に気付き、目が合うとうたが側まで駆け寄って話し掛けてくれた。

 

 それが昨日の事のように鮮明に覚えている。

 

「情けないな俺。うたちゃんを泣かせちゃうなんて……」

 

 うたの事を強く想っていたからこそ起きたすれ違い。それも、かなり一方的なまでの好意がこの様な結果を生んだ。

 

「うたちゃんに嫌われちゃった……」

 

「やっぱり此処に居た」

 

 から元気も出ない。どうしていいか分からないまもるの前に、誰か現れた。

 顔を上げて確かめてみると、うたが苦笑いをして立っていた。

 

「うたちゃん」

 

「さっきはごめんね。わたしも言い過ぎちゃった」

 

「そんな事はないよ。押し付けみたいな応援なんて貰っても、嬉しい人はいないよ」

 

「……ねえ、まもる君。ちょっとだけ良いかな?」

 

 うたはまもるの手を取って、すぐ近くにあるベンチへ連れ出した。

 一体何をする気なのか。うたは靴を脱いでベンチの上に立った。

 

「うたちゃん、それはあまりにもお行儀が悪い行為なんだけど」

 

「いいからいいから」

 

 うたは唐突にいつも通り歌を歌い始めた。ただ今は、素直にうたの歌に正面から見る事が出来ない。

 

 でもやっぱり、枯れ切った心に一番の潤いをもたらしてくれる。嗚呼、大好きな幼馴染のあの子は自分が思っていた以上の場所に立っている。

 それを自分は応援したいだけ。あの子はいつだって笑顔を振り撒いてくれる。

 

「ふぅ……どうだった?」

 

「良かったよ」

 

 珍しくもうたから感想を聞いてきた。そしてまもるもまた、静かな返しだった。

 そしてうたは、母性に溢れた表情で両手でまもるの頬を包み込んだ。

 

「わたし、まもる君にはいつまででもキラッキランランになって欲しいの。だからね、無理に応援して貰いたくないの」

 

「無理をしなきゃ、君の力になれない」

 

「そんな事ないよ。いつも力になってる」

 

 うたはまもるを胸元に引き寄せ強く、だけど優しく抱き締める。

 

「わたし、まもる君に伝えたい事があるの。とっても大切なこと」

 

「俺に?」

 

「うん! あのね、わたしまもる君に──」

 

「──はい、そこまでー」

 

 突然の介入に、2人は声のした方向へ顔を向けた。そこには、マックランダーを引き連れたバッサリーネが立っていた。

 

「何で此処に?」

 

「それはこっちの台詞。折角此処を根城にしていたのに、アンタ達が勝手に上がり込んだから撃退する他ないでしょう?」

 

「此処は皆の公園! それに、わたしとまもる君との大切な思い出の場所でもあるの!」

 

「いいえ、今この場はアタシのステージ。呼んでもない奴はとっとと出て行きなさい!」

 

 まるで話が通じていない。最初から通じるとも思っていないが。

 まもるは、うたと目を合わせる。これから何をすべきかうたも理解している。ベンチから降り、靴を履き直してまもるの前に庇う様にして出る。

 

「前回を忘れたのかしら? たった1人で何が出来る?」

 

 そうだ。実力差は歴然。うた1人でどうこう出来る相手ではない。

 まもるは、ななとこころを呼ぼうと足の向きを変える。しかし、うたがその腕を掴んで拒んだ。

 

「行かないでまもる君」

 

「で、でもうたちゃん1人じゃ──」

 

「1人じゃないよ。まもる君が側に居る。応援してくれるから。わたしの一番近くで」

 

 掴んだ手を、まもるの手に握り直した。その手から「此処に居て欲しい」と強く伝わる。

 

「さあ、ライブスタートよ!」

 

「プリキュア! ライトアップ!」

 

「キミと輝く、ハートのステージ! 煌めきステップ、キュアディーヴァ!」

 

「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」

 

 同時変身。これが戦闘開始の合図となった。

 

 

 ◯

 

 

 始まってみれば、やはりと言うべきか。内容はなんとも残念な結果になりつつある。

 勢いのまま攻め立てていたアイドルだったが、ディーヴァの前に全て無力と化していた。

 まだ昼間のダメージが抜け切っていない事も相まってか、キレもなく、最高とは程遠く、最低にも近いパフォーマンス。

 

「アイドル……!」

 

 肩で息をする彼女の背中をまもるは、指を咥えて見ることしか出来ない。それでも目を逸らさないでいられるのは、アイドルが頑張っているから。

 

「ま、予想はしてたけどこんなもんよね。マックランダー」

 

 ディーヴァは指を鳴らして待機していたマックランダーに指示を出す。

 マックランダーは、その場から立ち去ろうとしている。アイドルの相手はディーヴァが引き受け、自分は世界を真っ暗闇にしようと二手に分かれるつもりだ。

 

「待って!」

 

 アイドルはマックランダーを追い掛け、ディーヴァの横を通り過ぎようとしたが腕を掴まれた。

 

「これ以上アタシを失望させないでくれる? わざわざ歌姫が2回もアンタ達の為にステージに上がったのよ? 最後まで付き合いなさい」

 

 掴んだ腕をそのまま引っ張り、アイドルを地面に叩き付けた。その衝撃は全身に行き渡り、アイドルの意識を刈り取るのに十分なもの。

 

 ──だが。

 

「失望なんてさせない。だって、まもる君が見てくれてるから。応援してくれてるから。だから最後まで諦めない!」

 

 まだ灯火が消えていない。アイドルは最後までステージの上で、歌い、踊り切ろうとしている。

 彼女の姿を見て、胸打つものがある。

 

「そこまでアンタを突き動かす存在。少しだけ興味が出たわ」

 

 ディーヴァはまもるへ狙いを定めて歩き出した。

 

「ダメ!」

 

 アイドルはすぐさま立ち上がって、背後から掴み掛かろうとする。

 後ろにも目があるみたく、ディーヴァはひらりと避けて逆に足を引っ掛けて転倒させた。

 

「煌びやかで、華やかなアイドルがそんな必死になって、しかも泥だらけになって。ホント、無様ね」

 

「……無様で、何が悪い?」

 

「何?」

 

 ボソリと呟くまもるにディーヴァが機嫌悪く反応した。

 

「かっこ悪くても、無様であっても、頑張っている子はとても輝かしいものなんだ」

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

「俺はそうは思わない。アイドル、手を」

 

 倒れているアイドルに手を差し伸べる。アイドルはその手を取り、まもるの隣に立つ。

 

「君になんて言われようと構わない。役に立たなくても、それでも俺はキュアアイドルの──咲良うたのファンなんだよ」

 

 彼女の手を強く、そして離れないように指を絡めて握る。

 ふと、アイドルの方へ顔を向けた。彼女は、耳まで真っ赤にして珍しく照れていた。

 

「わたしも、まもる君に伝えたい事があるの」

 

「何?」

 

「いつもありがとう。わたしの事を応援してくれて、側に居てくれて。まもる君が居てくれたから、わたしは頑張れたの」

 

 手を絡めたまま、アイドルはまもるに身を寄せた。それも長く、濃密に、ほのかに香る優しい匂い。

 

「だからありがとう、まもる君! これからも、一緒にキラッキランランな毎日過ごそうね!」

 

 2人は想う。「こんな時間がいつまででも続けば良いのに」と。

 

「茶番劇はもう終わった?」

 

 ディーヴァは構えた。掌打が来ると、アイドルはまもるを庇って肩でそれを受け止めた。

 鈍い音が耳に届き、アイドルは苦痛の表情で顔を歪ませる。

 

「アイドル⁉︎」

 

 共に吹き飛ばされ、庇ってくれたアイドルに心配の声を掛けた。

 痛いのに、苦しいのに、涙目になりながらも彼女は笑顔を絶やさずに明るい表情を向けてくれた。まもるに心配を掛けさせない為に。

 

 お互いに肩を借りながら立ち上がった。

 

「待っててまもる君。今、まもる君に最高の歌を届けるから」

 

 ふらふらになりながらも、アイドルはまもるを守る為に独りディーヴァに立ち向かう。

 

「アイドルまっ──」

 

 タイミング悪く激しい頭痛に耳鳴り、そして胸の痛みがまもるを襲った。

 それに耐え切れず、その場で膝から崩れ落ちた。視界もままならない。

 

「残念だけど、そろそろ終わらせてあげる。もうアンタには興味無くした」

 

 ディーヴァは手を翳し、キュンキュンレーザーを放とうとエネルギーを充填している。直撃すらば、アイドルはタダでは済まない。

 

(俺はまた、自分のせいで彼女を泣かせるのか? そんなのは嫌だ!)

 

 今出せる力を全て振り絞り、無理矢理立ち上がった。

 

(もう、彼女が泣いている姿なんて見たくない。彼女にはこれからもずっと笑っていてほしい。彼女だけは、うたちゃんだけは‼︎)

 

 まもるは地面を蹴り、走り出す。大好きな幼馴染の彼女の元へと。

 

(──だから!)

 

 アイドルの背中から、まもるは強く抱き付いた。

 

「うたちゃん‼︎」

 

 彼女の名を呼んだ瞬間、2人の視界は真っ白に包まれた。

 

 

 ◯

 

 

 煙に包まれて何も見えない。ディーヴァは手応えアリと踏んで笑みを浮かべていた。

 終わってみればなんとも呆気ないものだった。キュアアイドルは消し飛んだ。背を向けて立ち去ろうとしたが。

 

「──この日の為にずっと聞こえてたんだ」

 

 声がした。信じられないと、驚愕の表情で振り返った。

 煙が晴れるとそこには、無傷のアイドルと初めて見るプリキュアリボンを手にしているまもるの姿があった。

 

「俺の身体中から──キュアアイドルを応援したいっていう悲鳴がな!」

 

 覚醒の叫びが今、解き放たれた。




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