キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva   作:シロX

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第52話 キミの心にいつまででも

 うた先輩、なな先輩、プリルン。それにメロロンに田中さん。アイドルプリキュアになってから、わたしの今まで見ていた景色が様変わりした。

 

 楽しいこと、嬉しいこと、時には辛かったり、悲しかったりもあったけど。世界はあっという間に以前より彩った。

 

 同時に、まもるお兄ちゃんと話す機会も増えた。それが何より一番嬉しかった。

 

 だからこうして、わたしだけを見て、応援してくれるのがとてもとても嬉しかった。

 

 嗚呼、こんな時間がいつまでも続けば良いな。

 

 見て欲しい。

 

 見てて欲しい。

 

 これからも──ずっと見て欲しかった。

 

 

 ◯

 

 

 土壇場でまもるのディーヴァ・ステージの力を得たキュンキュンは、ディーヴァにどう切り込むか頭の中で考えていた。

 ディーヴァ・ステージだろうと、ディーヴァはそれを上回る力を隠し持っており、アイドルを正面から倒している。

 

「まもるお兄ちゃん」

 

 ふと、まもるの方へ振り返ると熱意ある視線、キラキラとした笑顔をキュンキュンに向けていた。それを目にしたキュンキュンの頭の中は、とても風通し良くなった。

 

「キュンキュン、君が思った通りにしてみるんだ」

 

 小さく頷いた。

 

(そうだ、君なら大丈夫だ。俺はいつも君のダンスを見ていた。だからこそ、ディーヴァに勝てる唯一の存在)

 

 キュンキュンは両頬を叩き、気合いを注入。腰を落とし、いつでも飛び出せる姿勢になった。

 慎重になる。ディーヴァの領域(ステージ)は桁違い。少しでも間違えれば一気に流れを持っていかれる。重要な最初の一歩を。

 

「いっくよー!」

 

──今、踏み出した。

 

「緩いのよ!」

 

 キュンキュンのスピードに、ディーヴァは難なく対応して追い付いた。

 

「その程度でアタシを出し抜くなんて随分舐められたもんね」

 

 この間合いから逃げる術は無い。ディーヴァの拳がキュンキュンに突き刺さるが、間一髪の所で防御をして難を逃れた。ここから反撃に転じる。

 

 搦手で攻めのリズムを崩そうと手を伸ばしたが、容易く弾かれる。

 

(やっぱり、ディーヴァ・ステージが効いてない)

 

 予想していた通り、ディーヴァ・ステージはもう通用していない。パワー、スピード、アジリティと本来の実力を遺憾無く発揮しているディーヴァは、あらゆる面で凌駕をしている。

 

「この前は初見で出遅れたけど、同じラッキーは二度も起きない!」

 

「ラッキーでアイドルは勝てたんじゃない。ディーヴァ・ステージはあくまで潜在能力を引き出す力。それをどう扱うかは、アイドルやキュンキュンに委ねている」

 

「なら、見せて貰おうかしら!」

 

 ディーヴァは右腕を大きく振り回して、拳にありったけのエネルギーを凝縮させる。

 

「これで終いよ!」

 

「ッ!」

 

 アイドルグータッチがキュンキュンの顔面に当たる直前、ディーヴァの視界からその姿を眩ました。

 無常にも空を切る拳。振り抜いた直後でディーヴァは信じられない光景を目の当たりにした。

 

 キュンキュンは上体を大きく後ろへ反らしていた。

 

「避けた⁉︎」

 

 ただ避けたのではない。キュンキュンの柔らかさと体幹があってこそのやり方。

 

 振り抜かれた腕を滑るようにして、鞭のような鋭い打撃でディーヴァに反撃。

 

「しかもそんな体勢から!」

 

 上体を反らしてまま、信じられない角度からの攻撃にディーヴァも苦悶の表情を浮かべて退がった。

 チャンスだと誰もが思う場面だが、キュンキュンは敢えて攻め込まず一旦一呼吸置いた。今は無理に攻める時ではない。

 

 焦らず、慎重に。

 

「それなら、こっちはどうかしら?」

 

「ッ!」

 

ディーヴァのウインクのリズムが変わった。それを目にしたキュンキュンは地面を蹴り、先程までとは打って変わって攻めの姿勢になる。

 

 これに少しばかり驚くも、前に出てきたというのならそれに合わせれば良い。

 絶対に回避不可能な位置まで誘い込み、キュンキュンが踏み込んで来た所にカウンターの蹴りを食らわせる。

 

「ほーら、その可愛い顔を歪ませてやるわ!」

 

「……今だ!」

 

 キュンキュンは急ブレーキを掛け、攻め込むタイミングを直前になってズラした。勢いは殺させ、完全に停止した所にディーヴァの蹴りが鼻先を掠める。

 

「このッ‼︎」

 

 無防備を晒している左脇腹部に渾身の右を叩き込んだ。急なストップ&ゴーの動作で足腰に相当な負担が重くのしかかるも、それ以上の力で反撃出来たのは上出来だ。

 

「キュアアイドルとキュアウインクを攻略するなんて」

 

 ディーヴァ・ステージで身体能力が爆発的に上がっているだけで、キュンキュン自体特別な事は何もしていない。

 

「キュアアイドルとキュアウインクはわたしの推しです。ダンスから何まで全部予習済みなんで通用しません」

 

「ハンッ、納得のいく説明どうも。じゃあ、これならどうよ!」

 

 アイドルやウインクとも違う脚の使い方。まるで泉の妖精が踊っているかのような見惚れるような絵。見覚えがあるレベルの話ではない。あの動きは正真正銘キュンキュンそのもの。

 

 左右を上手く使い、キュンキュンとの距離を詰めた。一旦間を置こうと左方向へ身を揺らした。

 

「それで逃げたつもり?」

 

 尚追い掛けるディーヴァ。アイドルとウインクの編曲を攻略しようとも、根本的な解決にはなっていない。

 

 どれだけ追い縋ろうと無駄。もう勝負を決めようとディーヴァが仕掛けた。

 

 その瞬間。

 

「──こっちですよ」

 

 対峙していた筈のキュンキュンが背後に回り込んでいた。ディーヴァ・ステージで瞬発力も上がっているが、それでもそんな素振りは一切見せていない。ディーヴァ・ステージ中のまもるでさえも、キュンキュンの動きには驚愕していた。

 

 敵味方関係無く騙した高度なフェイント。

 

「キュンキュンレーザー!」

 

 零距離からのキュンキュンレーザーを一身に浴びたディーヴァの表情が苦痛に歪み、大きく後退する。いくら格上の相手だろうとも、ディーヴァ・ステージ込みの零距離キュンキュンレーザーは相当効く。

 

「毎日鏡の前で練習して培ったキュンキュン相手に、その編曲(カバー)は悪手だよ」

 

 己自身だからこそ、よりその手の内が分かっている。更に言うと。

 

「それに、昨日までの自分だからこそ今日こそはと超えようと努力する! 人は常に進化して行くんだ」

 

「だったらキュアアイドルでもキュアウインクでも、そしてキュアキュンキュンでもないアタシ。キュアディーヴァならどうだ!」

 

 アイドルプリキュアとは全く異なったリズムでキュンキュンに刻み付ける。見た事もない動きにキュンキュンは翻弄される。

 

「いい加減諦めなさいよ‼︎」

 

 死角からの手刀。

 

 キュンキュンは右足を軸にその場で身体を反転。ディーヴァの方に一瞬で振り返り、左拳をカウンターで突き付けた。

 そして額に軽く指を弾く。

 

「なっ⁉︎」

 

 まさか指で弾いてくるとは思わず、額に受けてその場で尻餅をついた。

 

「今のは圧倒的にキュンキュンの方が一枚上手だったね」

 

「何だと?」

 

「言っただろ? キュンキュンは毎日ダンスの練習をしている。君とキュンキュンとでは、脚の使い方がまるで違う」

 

 ディーヴァを俯き、地面を握る。悔しさが滲み出る。

 

 また敗北したのだ。それも前回とはその内容が決定的に違う。最初から全力を出し、己の全てを曝け出した。だというのに、それらを全てキュンキュンに捩じ伏せられた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 尻餅をついてから全く動かないディーヴァに、キュンキュンは手を差し伸べた。これには敵であるディーヴァも反応せざるを得なかった。

 

「……何の、つもり?」

 

 顔を上げれば、そこには煌々とした笑みを浮かべるキュンキュン。ディーヴァは恨めしそうな表情で見上げるしかなかった。

 

「立ち上がれますか?」

 

「──馬鹿にしないで!」

 

「馬鹿になんてしてないですよ。だって、あんな踊り初めて見たんだもん。それどころか、わたしももっと頑張らなくちゃって最後気張りました!」

 

 キュンキュンの言葉を聞いてディーヴァは言葉を失った。今までにない相手に、驚愕と動揺がごちゃ混ぜになっている。

 

「憧れを追い掛ける事だってすごく大事ですけど、競い合う人が居ればもっと自分を磨ける」

 

「だから笑っているの……?」

 

「ディーヴァのお陰で、わたしは更に上のステージに上がれました。なので──ありがとうございます!」

 

 差し伸べれた手を取ろうとするも、目の色を変えてその手を拒否した。

 

「礼なんて冗談じゃない。アタシは、アタシは……うっ⁉︎」

 

 突然頭を抑え、呻き声を上げながらディーヴァはその場に蹲った。

 

「まだアタシはやれる! やれるって!」

 

「えっ、どうしちゃったんですか?」

 

 声は届いていない。キュンキュンとも違う。ディーヴァは他の誰か、第三者と話しているかの様な独り言を呟いている。

 

()()()()()()()……ッ!」

 

「あの、ディーヴァ──」

 

「待ってキュンキュン、明らかに様子がおかしい」

 

 堪らず心配して寄り添おうとしたところで、まもるはキュンキュンを止めに入った。

 実際、それは正しい判断だった。

 

 ドス黒いオーラがディーヴァを覆い、外部からの干渉を完全に拒否している。下手に手を出せば、危険が伴う。

 

「──余計なこと、するなァァァァァ‼︎」

 

 ディーヴァを中心に爆発が起き、慌ててキュンキュンはまもるを抱いて大きく退いた。爆風と土煙のせいでディーヴァがどうなってしまったのか確認のしようがない。

 

 ようやく晴れた。が、そこにはもうディーヴァの姿は無く、戦いの中で荒れていた周囲も元の形に戻っていた。

 

「今のは一体?」

 

「ま、何がともあれチョッキリ団を退けたんだ。さっすが俺の妹!」

 

 笑顔を振り撒くと、キュンキュンは頬を赤く染めてまもるから視線を外した。

 

「そ、それよりもうた先輩達! 早く手当てしないと!」

 

 自分よりも他者の心配。先程のディーヴァの時もそうだった。例え敵であってもその優しさが、いつか伝わると良いなと少なからず願う。

 

「それにしても」

 

 まもるは自分のプリキュアリボンを手の平の中で転がし、今回の戦いを簡単に振り返る。

 

(もうディーヴァ・ステージが通用しなくってる。俺も皆みたいに、次のステージにステップアップしないと)

 

 今後の戦いに不安を覚えるまもる。それでもめげず、新たな目標を掲げて、アイドルプリキュアをずっと応援する。

 

 応援するしかないんだ。

 




あと1話だけ続きます。

ここまでの拝読ありがとうございました。
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