キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva   作:シロX

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普通に忘れてました


第6話 蒼風ななは見た

 時間は進み、今日の学校も残すは下校のみ。

 

 朝、うたと登校出来なかった事を少しばかり悔やんでいたまもるは、帰る時こそ一緒に隣で今日の談笑でもしながら帰ろうと計画立てていたのだが。

 

「そういえば、日直の仕事があったのをすっかり忘れていた」

 

 新学期始まったばかり。今日だけは先生の指名で日直の当番が決められ、まもるはその勤めを愚直にこなしている。

 

「うたちゃんと帰りたかったなぁ……」

 

 教室の窓から、元気に帰路に向かううたの姿を見送っていた。手を振ったところで、まもるの存在には気付かないだろう。

 後ろ姿だけでも分かるくらい、今のうたはスキンシップするくらいの上機嫌っぷり。

 

「紫雨君、ゴミ出し終わったよ……どうしたの?」

 

「ううん、なんでもないよ。こっちも終わったところだから、これでやっと帰れるね」

 

「そ、そうだね」

 

 妙に歯切れの悪い返事にまもるは首を傾げる。

 心当たりがあるとすれば、日直の仕事をななにも頼み込んでしまったのが原因か。

 

「無理に付き合わせてごめんね。嫌なら断っても良かったのに」

 

「そ、そうじゃないの! 寧ろ、こうして一緒に居られるのが嬉しいというか、緊張してて」

 

「緊張? ああ、もう教室に居るの俺達だけだもんな」

 

 年頃の男女が放課後の教室で2人っきり。誰だってこのシチュエーションには憧れ、それがこうして身に起きたら緊張だってする。

 

 だけどそれは相手が好きな人だったらの話だ。ななの気持ちがどうか分からないが、まもるとしては所詮クラスメイトで友達の認識。

 

「あ、折角だから帰りも一緒はどう? 途中までになるけど」

 

「うん。わたしも同じ事考えてた」

 

 2人は窓の戸締まりをした後、鍵を返しに職員室まで行って帰路へと足を運ぶのだった。

 

 

 ◯

 

 

 朝だけじゃなく、帰りでもまさか一緒に歩くなんて事は考えていなかったので2人は無言で歩いている。

 もしこの場にうたが居れば、気の利いた話題の1つや2つくらい口に出して盛り上げてくれていただろう。

 

 まもるとなな、大人しく似たような性格をしているから案外話が出来るかと思われたがそうでもない。

 今2人が頭の中で考えている事は図らずも同じ。

 

「何を話そうか?」と。

 

「紫雨君って、あれからピアノ弾けるようになったんだね。凄いよ」

 

「ありがとうね、でも俺そんな事言ったっけ?」

 

「言ってないよ。見た事あるだけ」

 

「……ホント、よく見てるな」

 

 過去にななから直接手ほどきしてもらい、ある程度の演奏が出来始めた頃に1人で学校でピアノを弾く事はあった。でもそういうのは、人目を盗んで弾いている。何かしらの後ろめたい事は一切無いけど、まもるは誰かに見られるのが少々恥ずかしいと思っていた。

 

 だから、そんな場面をいつの間にか見ていたななに驚きもありつつ、少しだけ薄気味悪さも感じ取ってしまった。

 

「でも、蒼風さんにはまだまだ敵わないよ。弾けるってだけでぎこちないし」

 

「そうかな? そんな事はないと思うよ。わたしいつか、紫雨君と連弾してみたいなって思ってるけど」

 

「──ッ」

 

 クスリと笑う彼女の表情に、まもるは少しだけ心がときめいてしまっていた。だけど本人に自覚は無く、ただ目の前に彼女の事を「綺麗」と思っているだけ。

 

「蒼風さんって意外と自分の気持ちを口にするんだね」

 

紫雨君にだけだよ(・・・・・・・・)

 

「……え?」

 

「あいや、何でもないから忘れて! ね?」

 

 一瞬、理解するのに時間が掛かってしまった。

 

 ななは、自分の言った事を改めて思い返して先程口にした事を無かった事にしようとしている。

 赤面して、あわあわと混乱する姿の彼女は今まで見た事が無く、非常に珍しい光景。

 

 だからなのか、まもるも自然と頬が緩んで吹いてしまった。

 

「こんなに蒼風さんと話すのが楽しいだなんて、去年までが勿体無いな」

 

 もっと彼女と話していれば、楽しい学校生活を満喫していたに違いない。

 2年生になって、それを早目に知れたのが良かった。

 

「俺、蒼風さんともっと話したいな」

 

「わたしも、もっと紫雨君と話したいな、なんて」

 

 今日1日で、お互いの気持ちにもかなり距離感が無くなった。次から、明日からはもっとプライベートな話が出来るのだろうと思い耽っていると、予期せぬ出来事が起こった。

 

「「ッ⁉︎」」

 

 かなり大きな、しかも今居る場所から近くから轟音が聴こえた。

 ふと、その音が鳴る方へ目を向けると、発生源となる空に暗雲が立ち込んでおり、不気味な空気を漂わせていた。

 

 あの空模様の雰囲気をまもるは知っている。

 

「蒼風さん、今日はここまで。一緒に付き合ってくれてありがとうね! 気を付けて帰るんだよ!」

 

「紫雨君?」

 

 突然走り出したまもるに不信感を抱き、待っての声を上げるもお構いなく足を止めずにいた。そんな背中を見送りそうになったが、慌ててななも後を追い掛けるのであった。

 

 

 ◯

 

 

 音の出所に辿り着いた先には、先日街で大暴れしていたマックランダーが出現しており、対峙するキュアアイドルとプリルン。その様子を傍観しているのがチョッキリ団のカッティー。

 

 アイドルの様子を見る限りでは、かなり悪戦苦闘をしているのが窺える。

 

「アイドル頑張れ。俺も近くまで行って応援を──」

 

「紫雨君、あれってキュアアイドルだよね?」

 

 不意に背後から聞き覚えのある声がした。慌てて振り返ると、そこには別れた筈のなながまもると一緒にアイドルの様子を覗き見していた。

 

「あ、蒼風さん何で⁉︎」

 

「紫雨君が血相変えて走って行ったから気になって」

 

 たったそれだけの理由で追い掛けて来たのか。その心配はとても喜ばしい事だが、今は下手をすればそれが彼女に危険を招かねん。

 

 無理矢理にでも、ななをこの場から離れさせようとした直後。

 

「アイドル!」

 

 アイドルの悲痛な叫びとアイドルを思うプリルンの声を耳にした。それは、アイドルがピンチに陥ってしまったという危険な合図。

 

 アイドルはマックランダーに吹っ飛ばされ、地べたに這い蹲らされていた。それに涙するプリルン。

 

 その様子を、まもるは遠目で見る事でしか叶わない事に悔しさが表情に滲み出る。

 

「でも、うたちゃんなら、キュアアイドルならきっとやれる。俺が憧れるアイドルは、こんな事じゃ絶対にめげない、折れない、挫けない」

 

「ッ!」

 

「何度だって立ち上がって、その度に皆にその歌と笑顔を届けてキラッキランランにするから!」

 

 その言葉通り、アイドルは立ち上がり反撃の姿勢を見せていた。

 

「頑張れー! キュアアイドルー!」

 

 遠目から見ていても分かる。今のアイドルは、学校で見かけた浮き足だっている様子は無く、この上なく覚悟に満ちた表情でマックランダーの猛攻を掻い潜る。

 正に、歴戦の戦士の如く荒ぶる波を跳ね除けていた。

 

 まもるは届いているか分からない声援を、精一杯陰ながら送っている。

 

 そこから先のアイドルの動きが断然良くなった。

 

 マックランダーの動きを完璧に見極め、一瞬の隙すら見逃さず、力強い一撃を的確に打ち出している。

 攻撃する度にアイドルのパフォーマンスに拍車が掛かり、更にギアが上がって行く。対してマックランダーは受ける度に動きや反応が鈍くなり押され気味。

 

 圧倒的劣勢な状況から、ちょっとのきっかけを起因に優勢にまで持ち込んだ。

 

 こうなったアイドルを止める事は不可能。

 

「アイドルグータッチ!」

 

 大きな一発がマックランダーを襲った。今まで蓄積したダメージが一気に溢れ、マックランダーはその場に沈んだ。

 グロッキー状態の今ならトドメをさせる。この好機を見逃す筈のないアイドルは、クライマックスを畳み掛ける。

 

「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」

 

 アイドルが一歩、足を踏み締めた瞬間いつも見ている街並みからアイドルの為だけに用意されたステージへと景色を変える。

 

 遠くに居た筈のまもるとななもその場に巻き込まれる形で観客席から、アイドルのステージを見る事となった。

 

 突然の急展開にななは不安がる様子を見せ、まもるの袖に手を伸ばしてギュッと握る。

 それに気付いたまもるは、そっと優しく両手で包み込む様に握り返した。

 

 アイドルのライブステージは順調に進み。

 

「プリキュア! アイドルスマイリング!」

 

 最後は、観客席に向けて笑顔のファンサービスで会場を沸かせ、締め括った。

 

 

 ◯

 

 

 アイドルの姿を密かに見送った直後、まもるはその場にへたり込んだ。

 今回のマックランダーとの戦闘に肝が冷えたのもあるが、これからの事を思うとバツがとても悪い。

 

「ねぇ、紫雨君」

 

 明らかに現場を目撃してしまったななに、どう説明しながら誤魔化すのか。チョッキリ団とは別の戦いが今始まろうとしていた。




ここまでの拝読ありがとうございました
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