キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva   作:シロX

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今回はなな視点からのお話となっております。


第60話 とある雨の日

「雨、中々止まないな」

 

 適当な建物で雨宿りをしているななが、そうポツリと言葉を溢した。雨が降ってきたのは学校が終わってからの下校中。なんとも言えない暗い空気となった。

 今日の天気予報では晴れと朝のテレビで観ていたつもりが、どうやらその予報が外れたらしい。その為、傘など当然持って来ておらず、折りたたみの傘も今日に限って忘れている。

 

 うたとこころは家の用事があると言って、先に帰ってしまっている。誰かの傘の中に入る事すら許されなかった。

 

 濡れた制服が肌に張り付いて気持ち悪い。憂鬱な下校時間だ。

 

「蒼風さん?」

 

 呼んだのはまもるだった。

 

「やっぱり蒼風さん! どうしたのそんなにびしょ濡れで?」

 

「傘を忘れて。もう少し雨足が緩くなるまで、此処で雨宿りしてたの」

 

「それじゃあ風邪引いちゃうよ。それに、この様子だと通り雨でもなさそうだから中々止まないよ?」

 

 自分の家までまだ距離がある。この後、特に予定も無いのでこのままのんびりと気長に待つつもりだったのだが、どうやらまもるはそれをよく思っていない。

 

「そうだ、家においでよ。濡れた制服も乾かせるし、傘も貸してあげれる。なにより、身体を温められるよ」

 

「大丈夫だよ。紫雨君に迷惑掛けちゃうし」

 

「だからってこのまま帰れない」

 

 まもるはとてもお人好しだ。そのような返答が来るのも最初から分かっていた。それならと、ななはその言葉に今だけ甘えようと決めた。

 

「じゃあお願いしよっかな」

 

 まもるはななを傘の内側に入れた。

 

「蒼風さん、まだ少しはみ出てるよ、もっと中へ」

 

「もう濡れてるから平気だよ。紫雨君こそ、はみ出しちゃうから」

 

「これ以上冷えても問題だよ。ほら、こっちにおいで」

 

「ッ!」

 

 まもるはななの肩を掴んで抱き寄せた。

 

「し、紫雨君⁉︎」

 

「歩き難いのは我慢してね」

 

「う、うん」

 

 まもるの胸の中はとても暖かく、心地良い。冷えてしまった身体に良く温もりが透き通る。それに、まもるの鼓動も聴こえる程密着している。

 

「全然止む気配ないね」

 

「紫雨君、まさかとは思うけど紫雨君の家までずっとこのまま?」

 

「じゃないの?」

 

「……紫雨君といると中々落ち着けないな」

 

 それから密着状態のまま、ななはまもるの自宅へ招かれるのだった。

 

 

 ◯

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 まもるの家に上がり込んだななは、男友達の家の中を物珍しく眺めていた。異性と深い関係になったのはまもるが初めて。こうして家に上がり込んだのも初めて。

 

「蒼風さん、取り敢えず脱衣所に行こうか。お風呂出来るまで時間掛かるから、一旦タオルで濡れた髪とか拭いて」

 

「タオルだけで大丈夫だよ。気にしないで」

 

「気にするから蒼風さんを家に呼んだんだよ。いいから早く早く」

 

 背中を押され、ななは脱衣所に放り込まれた。

 

 タオルを手渡され、まもるはななを暖めさせる準備を整え始める。

 

 

「湯加減どうだった?」

 

「丁度良かった。ありがとう」

 

 あれからお風呂に入り、下着も全部乾燥機で乾かしてくれた。制服の代わりの服も用意してくれた。

 今のななの姿は、パーカーに短パンを履いた部屋着の服装となっている。

 

「服まで貸してくれてありがとう。お母さんのかな?」

 

「上下俺の。ほら、俺と蒼風さんって身長が似たり寄ったりだから。部屋着だからゆったりしてて良いだろ」

 

「そ、そうなんだ。うん、とても着心地良いよ」

 

 着ているものが異性のもの。余計意識してしまい、顔が赤く染まる。そして、ちょっとした後ろめたさも感じた。

 

 脱衣所で腕を通した後、なんとなく衣類の匂いを嗅いだのだ。

 

「雨、全然止む気配無いけど帰る?」

 

 窓の外を見た。止むどころか、先程よりも強くなっている。加えて、何やら雷の音まで少ししている。

 

「こりゃあ、外に出るんは危ないな。明日は土曜日でお休みだし、今日は泊まっていきなよ」

 

「えぇ⁉︎」

 

 思わぬ展開に進んだ。家に上がり込んだだけでも初体験なのにお泊りとは。

 以前、うた達とお泊まりした時は特に気になりはしなかったが2人きりとなると話は別である。

 

「そこまでしなくても!」

 

「雷だって鳴ってるし、今帰るのはとても危険だよ」

 

 微笑み掛けるその表情にななは口をつぐんだ。傘をさしている時、それが避雷針となって雷が落ちたりでもしたら大変な事になる。

 

「よろしい。お母さんとお父さんは今日帰ってこないから、今日は自分でご飯作るようにしてるから今から待ってて」

 

「わたしも一緒に手伝うよ」

 

「蒼風さんは待ってて! お願いだから、ね?」

 

 どうしてか、自分が手伝おうとするとまもるは全力で止めようとしてくる。確かにちょっとだけ料理は苦手としているが、それでも以前のお泊まりから大なり小なり上達はしている。

 

 その成果を今ここで披露したかったのだが、台所にすら立ち入らせてくれなかった。

 

 

 ◯

 

 

 夜ご飯を食べ終え、2人は温かいお茶を啜りながらのんびりと時間を過ごしていた。

 静かな空間がこの場を支配し、ななは少しだけ気まずい雰囲気を醸し出していた。いつもなら、皆の中心的存在であるうたや、元気な後輩のこころが何かしらの話題を出して明るい雰囲気が保たれている。

 

 まもるとななという組み合わせ。お互いに似た性格なだけあって、2人きりとなるとこうした無言の空間が出来上がる。

 

「メロロン、デート上手くいって良かったね」

 

 先に口を開けたのはまもるだった。先日のデートの件を口にして、ななも反応を示す。

 

「うん」

 

「そういえば、2人ってハートキラリロックのアレはしたのかな?」

 

「クラヤミンダーの騒動の後だったから、多分やってないと思うよ?」

 

「だよね。あ、あの日の事と言えば最後。まさか、プリルンのほっぺにキスするなんて予想外だったよね。はは」

 

「キス」という単語を耳にして、ななはお茶を啜る口を止めた。

 

「ああいうの、わたし憧れちゃうな」

 

「憧れ?」

 

「メロロンが羨ましいなって思う。好きな人に好きって正直に言えて、それにあんな風にできるなんて」

 

 ななは頰を赤く染め、上目遣いでまもるを見つめる。

 

「蒼風さんは、誰か好きな人がいるの?」

 

「うん、いるよ」

 

「そっか、蒼風さんに好意を持ってもらえる相手か。どんな人なんだろう? 気になっちゃう」

 

「……その人ちょっと鈍感なんだよね」

 

「鈍感か。気苦労しそうだね」

 

 ななはテーブルの上で突っ伏して項垂れる。

 

 いや、今回に限っては気持ちに気付かないのも些か仕方のない事だ。話の流れ的に、ちょっとした恋愛相談をしている図となっている。

 

 こういう踏み込みが甘いところが、自分で自分が嫌になる。

 

「いっそ、ストレートに言っちゃえば? 鈍感な人程、言葉にしないと案外伝わらないもんだから」

 

「それで伝わらなかったら?」

 

「いくら何でも伝わると思うけど。ま、強行手段もひとつの手なんじゃないかな? メロロンみたいに」

 

 まもるはななに向けて投げキッスをする。するとななは、席を立ってまもるの正面まで移動して両肩を掴んだ。

 

「蒼風さん?」

 

 まもるのアドバイス通り、勢い任せで行動に移す直前まではした。しかし、そこからどうにもあと一歩の勇気が中々踏み出せない。

 

 緊張が走り、心拍数、熱が込み上がる。

 

「し、紫雨君あのね! わたし!」

 

「う、うん」

 

「す、す」

 

「す?」

 

 あと一文字口にすればそれで済む。なのに、口元が震えて思うように開かない。

 生唾を呑み込み、そして最後の一押し。

 

「す──睡眠は大事だからもう寝ようか?」

 

「それはそうだけど、そんな迫る程眠かったの? だとしたらごめんね」

 

 失敗した。最後の勇気が足りなかった。やはり、こういうのは一旦心を落ち着かせ、勇気が出るおまじないをしてから挑戦した方が良いと思った。

 

 ずっと心を乱され、頭の中もグチャグチャ。考えがまとまらず、明後日の方向に話題がズレてしまった。

 

「蒼風さんはお母さんの寝室で寝てね」

 

「う、うん」

 

「あ、でももし雷とか怖かったら、いつでも俺の部屋においでよ。優しくしてあげるから」

 

 そう言って、まもるは部屋の場所だけ簡単に案内して自分の部屋に戻って行った。

 

 その日の夜のななは眠れず、ひたすら悶々としていた。




ここまでの拝読ありがとうございました
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