キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
その分、今回の話はいつもより長いです。
生存投稿です。
アイドルとの時間を終えたまもるは、出張所周辺の林で頭を冷やす為に当てもなくひたすら足を動かしていた。木々から照らす木漏れ日。鳥が囀る声。のどかな空間が広がっている。
「アイドル、一体何を言おうとしたんだろう。まさかとは思うけど」
アイドルもまた、ウインクと同じように自分に好意を抱いているのか。そんな疑問がよぎる。
「自意識過剰か。でも、俺達は幼馴染、なんだよな」
好意を抱くにはあまりにも距離が近く、過ごす時間が濃密。それを「自意識過剰」という言葉で現実逃避をするのはどうかと思う。可能性としてはある。
だけど。
「俺、今までアイドルの事をそんな風に見てなかったな。アイドルの事は、うたちゃんの事は"大好き"だけど、この気持ちの"大好き"は一体どっちなんだ?」
ウインクの時といい、ここ最近周囲の人間に感情が振り回されているばかり。
しかしいつかは答えを出さなければいけない。それが双方にとって良くも悪くも大事な事なのだから。
「今はまだ、焦らなくていいはずなんだ」
そう自分に言い聞かせたところで、視界の端に見覚えのある人影が映り込んだ。
大柄な体に特徴のある服装。一目で誰だか分かった。
「もしかして、カッティー?」
「ぎゃああぁぁ‼︎」
背後から声を掛けると、断末魔に近い悲鳴がまもるの両耳に響いた。
「ぬっ? あっ! いつもアイドルプリキュアに引っ付いている人!」
「やっぱりカッティーだったんだ。それよりも、俺ってそんな覚えられ方されてたんだ」
「な、何用で?」
「それはこっちの台詞よ。少し外で歩いていたら、隠れてカッティーが事務所を覗き見してたから」
カッティーは何やら警戒はしているが、当のまもるは特に何も思っていない。強いて言うなら「何故此処に?」の疑問くらいだ。
「あっ、もしかしてアイドルプリキュアに会いたい、とか?」
「は、半分は当たっているのですぞ」
冗談で言ったつもりだったが、どうやら少なからず当たっていた。それに素直に答えるカッティーに呆れもある。
ただ、カッティーはザックリーやバッサリーネと違って心は子供に近しい。故に、こうして無警戒で話し掛けやすい。
一向にまもるからのアクションが無い事に不審がり、カッティーが疑問を投げ掛ける。
「アイドルプリキュアを呼ばないのです?」
「まあ、普通なら呼ぶのが正解だと思うんだけど。なんか今日はそういう雰囲気じゃない様に見えるから、別に良いかなって」
「随分と緩いですな」
「緩いよ。その方が気楽で楽しいし」
「そういうの良いですな。自分は……」
視線を落として暗い表情を浮かばせる。そんな彼を見て、まもるは少しばかりお節介を掛けたくなった。
「場所を変えようか」
◯
まもるとカッティーは開けた場所まで移動して、並んで腰を落とす。本来なら敵対する両者だが、今この時はその様な物騒な関係ではない。
「カッティーってさ、うたちゃん、じゃなくてキュアアイドルの事が好きなの?」
「なっ⁉︎ そ、そんな大それた事。自分はただのいちファンですぞ。それよりも、何でお主がその事を?」
「結構顔に出てたよ。アイドルを前にするといつも挙動不審だし、この前だってさ」
カッティーは自分の顔をペタペタと触っては、手鏡で表情を確認する。そんなにも自分は分かりやすい顔をしていたのか、と。
「自分は悩んでいるですぞ。このまま、本当にチョッキリ団としてアイドルプリキュアの前に立ちはだかるか、それとも足を洗うのか。自分は一体どうすれば……」
「そんなの決まってるさ。自分の心の赴くままに動けば良いさ。その方が、自分にとってのキラッキランランなんだから」
「自分にとってのキラッキランラン……」
「カッティーはその答えを知っていると思うよ。少なくとも、ここ最近のカッティーを見ているとそう思う」
胸をギュッと掴み、自身の心に耳を傾ける。これまでの、そしてこれからの自分自身の在り方。それをようやく自分自身で見つけたのか、カッティーの瞳には濁りの無いものとなっていた。
まもるは、そんな彼と握手を交わそうと手を出した。
その時だった。
『──キラキラは要らん』
まもるとカッティーの足下。2人の影から女性のようなシルエットが伸びていた。2人から出ている影だが、どちらにも当てはまらない。
まもるは、そんな薄気味悪さに身を固まらせる。
「だ、ダークイーネ様⁉︎」
カッティーがその名を呼ぶと、突如として突風が巻き起こり、まもるを吹き飛ばした。
そして、カッティーの胸の内にあるキラキラを真っ二つに切り裂かれる。輝きを放っていたリボンは瞬く間に闇に飲み込まれ、カッティーを覆い尽くし、その姿を変貌させる。
「カッティンダー!」
「なっ……⁉︎」
敵であるカッティーが突然クラヤミンダー化。今までとは全く異なる状況に、まもるは焦りと動揺を隠せずにいる。
そして考える。何故カッティーがクラヤミンダー化してしまったのか。先程までの様子はこちらを油断させる嘘の演技。
違う。彼の瞳は常に真っ直ぐ向いていた。
「──まるで、彼を信じている目をしているね」
「誰だ⁉︎」
声のする方向へ目を向けると、そこには髪の長い薄紫の女性が微笑んでいた。
「"まるで"なんて言い方は違うかしら? そうね"そもそも疑ってすらない"の方がしっくりくるわね。ええ」
「君はバッサリーネ、だよね?」
女性は確かにバッサリーネ。しかし、瞳の色や髪色が少しばかり違う。顔立ちや見た目からの身長、それに服装は同じ。けれど、纏っている雰囲気はバッサリーネとは別物。
「自己紹介がまだだったね。ワタシは……おや?」
名前を口にしようとした矢先、アイドルプリキュアとプリルン、メロロン達が騒ぎを聞き付けてやって来た。
「全員揃ったところで。ワタシはパッチリーネ。バッサリーネに代わって、今度はワタシが相手をしてあげるから宜しくね」
到着して間もないアイドル達には、今の状況がイマイチ掴めていない。
「まもる君、何があったの?」
「見ての通りだよ。あのパッチリーネって言う人が、カッティーをあんな風に変えたんだ」
「あれ、カッティーなの⁉︎」
「厳密にはワタシじゃないんだけど。ま、いっか。カッティンダー、取り敢えずアイドルプリキュアを──潰せ」
パッチリーネの合図でカッティンダーが走り出し、拳を大きく振りかぶった。3人はそれぞれ別方向へ避け、拳はそのまま地面に。
直撃した拳は地面に大きく凹ませ、その力をその場に居る者全員に知らしめた。
「今までとは比べ物にならない程ヤバいです!」
「それなら、わたしと行くよキュンキュン!」
「はい!」
アイドルとキュンキュンが地面を蹴る。同時に、それも別方向からの攻撃。アイドルは正面から拳で、キュンキュンは裏拳で左側面から仕掛ける。
アイドルが上手く引き付けているお陰で、カッティンダーからだとキュンキュンは死角に居て捉えていない。例えアイドルの攻撃を防いだとしても、キュンキュンのは防ぎ切れない。
「タイミングバッチリ! 貰った!」
確信を得たまもるはガッツポーズを取った。
「カッティ!」
カッティンダーはアイドルの拳手の平で受け止め、そのままキュンキュンの方へ力を受け流した。
「「えっ⁉︎」」
流されたアイドルはキュンキュンと衝突。2人は揉みくちゃになりながら地に伏した。
「今のは明らかにキュンキュンの事が見えていての動き。あんな巨体で視野も広いなんて厄介だな」
「それに力もあるよ。まもるくん、プリルンとメロロンの側に居てあげて」
ウインクは加勢しに飛び出した。
「中々頑張っているようだけど、あの様子じゃ接戦にもならないわ」
背後から声。振り返ると、いつの間にかパッチリーネが接近していた。素早くプリルンとメロロンを抱き抱え、距離を置く。
あれだけ近くに居たというのに、全く気配を感じさせない。それどころか足音すら聴こえなかった。
「接戦にもならないってどういう事かい? 確かに個々の力じゃ、多分負けている。けれど、アイドルプリキュアの長所はそこじゃない」
「チームワーク、とでも言いたいのかな? でもよく見てみ。3人掛かりでようやく食い下がっている」
ウインクも入って数的有利のなっているが、パッチリーネの言うように特に押し返している訳でもない。2人より3人になって"気休め"になった程度。
「どんなに凄い連携をしようとも、圧倒的力の前じゃなんの意味も成さないよ」
「だったら底上げする。その為の応援だ!」
「ま、好きにしたら?」
パッチリーネが一歩下がる。
まもるはキュンキュンに目を向け、声を上げる。
「キュンキュン行くよ!」
「は、はい!」
カッティンダーの攻撃を受けながらも、キュンキュンはまもるの声に耳を傾ける。
「キュアキュンキュン! ディーヴァ・ステージ!」
まもるのキラキラがキュンキュンに託された時、身体中から力が溢れ、淡く輝かせる。
身体能力が急上昇したキュンキュンは左右に揺さぶりを掛けながら接近する。
「カッティ……」
かなり素早い動きをしているにも関わらず、カッティンダーはそれでも尚その目でキュンキュンを捉えている。
「カッティー!」
振り翳す拳。しかし、軽やかにキュンキュンは回避。
目で捉えているが、その動きを捕まえるには些かカッティンダーのスピード不足。それを一瞬で見抜いたキュンキュンは更にスピードを上げ、より撹乱させる。
「いける!」
目で追っているカッティンダーが、いつの間にか止まっていた。今が好機と見たキュンキュンは、アイドルハートブローチをタッチする。
「キュンキュンレーザー!」
紫色の光線が放たれた瞬間、カッティンダーはその場で大きく跳躍する。
「跳んだ⁉︎」
キュンキュンレーザーを撃つ直前、狙いを定める為に止まった刹那の間をカッティンダーは見過ごさなかった。
更にそこから着地と同時にキュンキュンを踏み潰しに掛かる。
巨大な影がキュンキュンを覆い尽くした。
「「キュンキュン!」」
ディーヴァ・ステージの影響でキュンキュンが負うダメージが全てまもるに流れ、堪らず膝を折った。
潰されたキュンキュンは、まだ多少苦痛に悶えているが変身は解けていない。追撃するカッティンダーは、胸部に高出力のエネルギーを溜め込み始めた。
「まもるくん、わたしが!」
深呼吸し、己の声とキラキラをウインクに届ける。
「キュアウインク! ディーヴァ・ステージ!」
力を受け取ったウインクは、キュンキュンを庇うようにしてカッティンダーと対峙。そしてブローチに触れる。
「カッティンダー!」
「ウインクバリア!」
カッティンダーの極太光線が放たれる瞬間、間一髪のところでウインクはウインクバリアを展開させて防御した。
「これで……ッ⁉︎」
防御から攻撃へと転じようとした矢先、ビームの中からカッティンダーの拳が現れてウインクは面を食らった。
予想だにしない攻撃方法に僅かな隙を与えてしまう。
「カッティンダー!」
あれほど強固なウインクバリアをカッティンダーの拳は、容易く打ち砕き、2人纏めて吹っ飛ばした。
「ウインク! キュンキュン!」
焦るアイドル。助けに行こうにも、カッティンダーはアイドル目掛け全速力で向かって来た。
「よそ見しちゃダメだアイドル!」
ハッとして、アイドルはカッティンダーに目を向けた。
「キュアアイドル! ディーヴァ・ステージ!」
カッティンダーは蹴りを繰り出すも、直撃寸前でアイドルは姿を消して頭に拳を叩き込んでいた。
「まだやれる! アイドル頑張れ!」
地面を蹴り、空中で回し蹴りを食らわせた後目にも止まらぬ速さでカッティンダーの背後に移動。回り込んだ勢いを利用し、左の裏拳で脚を殴打。
バランスを崩し、前のめりにカッティンダーがようやく地に沈む。
「「はぁ……はぁ……」」
ここまでの状況を持ってくるのに、まもるとアイドルは相当な力を使った。2人は全身で呼吸をしており、これ以上の戦闘は危うい。
「今回の敵は強過ぎるメロ。ねえたま……」
「だ、大丈夫プリ! アイドルプリキュアは負けないプリ!」
腕の中で心配の色を隠せないメロロン。それでもと宥めるプリルン。プリルン言う通り、アイドルプリキュアなら勝つ。そう、心の中では思っている。思っているのだがしかし。
(想像以上にキツい!)
休む間も無く応戦するアイドルの様子を見ながら、力量差を客観的に分析する。
(ディーヴァ・ステージでようやく互角。力だけなら個々に差はあるけど、速さだけなら負けてはいない。だけど問題はそこじゃない)
「貴方の応援の力。他の2人にも分けられたら強かったメロ」
「俺もそう思うよ」
メロロンが以前口にしていた指摘を思い出して、歯ぎしりをする。
「でもやるしかないんだ。頑張れ! 負けないでアイドル!」
アイドルも長くは持たない。だから次で決めるしかない。その覚悟を持って、アイドルハートブローチをタッチする。
「アイドルグータッチ‼︎」
アイドルの渾身の一撃がカッティンダーに触れる直前、それは突然の事だった。
全身から力が抜け落ち、繰り出した拳は空振りした。
「まもる君、どうしたの──ッ⁉︎」
ディーヴァ・ステージの効力が無くなった事に疑問を投げ掛けたアイドル。振り返り絶句した。
「あ、がぁ……!」
その場で蹲り、異常な汗をかいている。見た事もない様子に、アイドルの意識はカッティンダーから外れる。
「まもるが大変プリ! どうしちゃったのプリ?」
「多分あれじゃない? ほら、時間切れってやつかしら」
蹲るまもるの頭を軽く叩いて冷やかすパッチリーネ。
「ただでさえ時間に制限のある力を、連続で使用した挙句自分に帰ってくるダメージの蓄積。結構頑張った方じゃない」
「そんな、まもる君!」
「おっとよそ見をしてていいのかしら? アナタの相手はそこにいるカッティンダーよ」
「カッティンダー!」
まもるを心配するあまり、背を向けてしまうアイドル。そんなあからさまな姿を晒して、敵が見逃す筈ない。
容赦無く拳を振り下ろし、悲鳴を上げる間もなくアイドルは叩き潰された。
「さて、と。このまま黙って見ているだけなの、プリルン?」
「プリルンも、アイドルプリキュアのメンバープリ……」
「だ、ダメメロ! ねえたま!」
意味深に呟くパッチリーネ。これは罠だと気付いたメロロンは、プリルンを収めようとする。だけど今のプリルンには、目の前の光景にしか見えていない。
「大切で、大事なアイドルプリキュア。アナタもそのメンバーのひとりと口にするのなら、これから取るべき行動は分かるよね?」
「プリルンも、アイドルのメンバープリ!」
メロロンの静止を振り切り、プリルンはひとりでカッティンダーに立ち向かって行った。
「プリー! プリッ⁉︎」
勇猛果敢に体当たりをするが、風でも撫でるかの如く容易くプリルンを弾いた。プリキュア達からすればなんてことないものだが、体が小さく、非力な妖精であるプリルンからすれば、それは大きな傷。
その光景を間近で見たアイドルは、今まで誰にも見せたことのない表情をして立ち上がった。
「プリルンを傷付けるなんて──絶対に許さない!」
プリルンを傷付けられた事で、アイドルの怒りがここで爆発。そして、それに釣られてウインク、キュンキュン共に立ち上がった。
「「「ウー、レッツゴー!」」」
プリルンを傷付けられた感情を力に変え、一気にアイドルプリキュアのステージで叩き込ませる為に3人は歌う。
強制的にカッティンダーを着席させ、この歌声を心の奥底まで届かせる。
「「「プリキュア! ハイエモーション!」」」
3人の歌は完璧にカッティンダーを呑み込んだ。これで浄化されて、カッティーは元に戻る。そう、誰もが思っていた。彼女の姿を目にするまでは。
「これで満足させちゃうのは勿体無いなーってワタシ思うのだけど、アナタ達はどう思う?」
カッティンダーに直撃したと思われたハイエモーション。しかしそれは、直前でパッチリーネが蹴り飛ばして代わりにその身で引き受けた。
更に、そのパッチリーネは無傷ときた。これには一同愕然とする。
「「「わたし達の歌が届いてない⁉︎」」」
「ワタシがこのステージに居る限り、どんな歌やダンスも届かない。ワタシがそうさせない! だって──ワタシが歌姫だからぁ!」
煌々とした表情でそう宣言した。
「このままアナタ達を始末しても良いんだけど、それだと何も面白くもない」
パッチリーネは顎に手を添えて少々考える。
「ここは一旦退こうか」
カッティンダーの肩に乗り、共にこの場から去ろうとする。
「キュアアイドル、キュアウインク、キュアキュンキュン。そして紫雨まもる。今度は第二幕ね」
一時撤退を促し、カッティンダーと共にパッチリーネはその姿を消した。
「見逃して貰った、という事か。そっか」
絶望的な状況で何故パッチリーネは退いたのかは不明。だけど今この場に置いて、その選択はアイドルプリキュア側からしたらとてもラッキーなこと。
だが同時に、それは屈辱的なもの。
「クソッ!」
珍しくもまもるは感情的に言葉を吐いた。