キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva 作:シロX
これからもくらいついて活動に励みます!
まもるは今、これ以上ないくらい頭を抱えている。
先日うたがチョッキリ団と接触し、キュアアイドルに変身した時、まもると共にななもその現場に居合わせた事をまだ話せていない。
あれだけ周囲に気を付けないといけないと注意した直後だというのに。これではピカリーネに合わせる顔がない。
「どうしたもんか……蒼風さん?」
隣の席のななに目を向ける。キュアアイドルが、まさかクラスメイトのうただった事に対して問い詰めて来るのかと身構えていたが、そのような事は一切ない。
それどころか、ななはななで独り思い悩んでいる。朝からずっと難しい顔をして、2人の間に会話すら起きていない。
「ちょいちょい、蒼風さん」
「あ、うん何?」
ようやく返事をしてくれた。
「何か悩み事でもあるの?」
「そんな事ないよ。わたしはいつだっていつも通り」
何でもない素振りを見せているが、誰がどう見たって表情の色はとても暗く、口にしている事と矛盾している。
「俺にはそうは見えないけど?」
悟られないよう、ななは表情を固くさせてあくまで嘘を貫こうとしている。
そこまでの断固たる意志があるなら、これ以上は本人の為と思い足を踏み入れたりしない。
ただ1つだけ、気になる点がある。
「今朝の……ピアノのミスを引き摺ってるのか?」
僅かに瞳が揺れ動いた。上手く口や表情には出していないが、図星を突かれ動揺したという証拠としては十分。
今朝は、新入生を歓迎する為の合唱を練習。勿論、ピアノ演奏するのは経験豊富で実力も誰もが認めるななが担当。なのだが、珍しくも演奏中一音ズレてミスをしていた。
ただ、ななが反応したのは"今朝"ではなく、その後の“ピアノのミスを引き摺っている“だ。
ミスを引き摺っているのは確かだが、今朝の出来事が原因ではない。既に別の場所で、同じようなミスを引き起こしていたと推測する。
でも問題は"いつ“の話ではない。
「ミスは誰にでも起きるもんだよ。そんなに気張らなくてもさ」
「ありがとう」
励ましてはみたものの、声色がとても低い。ただ「頑張れ」の言葉を投げ掛けているだけじゃ解決出来ない程、今のななは思い悩んでいる。
(誰かを元気に、笑顔にするって結構大変なんだな)
また彼女が笑っている顔を見たい。その切な願いを叶えるべく、まもるはうってつけの人物の元へ尋ねるのだった。
◯
「と、いう訳なんだ。うたちゃんも協力してくれる?」
「そんなのもっちろんだよ! わたしも、今日のななちゃんの事気になっていたし」
どんなに落ち込んで俯いている人でも、うたのキラッキランランな光を浴びれば顔を上げない人は誰もいない。そんな訳でまもるが頼った人物は、幼馴染であるうた。
うたなら良いアイディア、問題自体を解決してくれるかも知れない。
とても情けない事だが、まもるにはそんな力はない。故に、こんな場面にはうたをぶつけてみる。
「まもる君、最近ななちゃんとずっと居るからなんとかしてあげたいんだよね?」
「そこでだ。周囲に人が居る教室の時は中々話し難い事もある。だからこの時間、ゆっくりとお弁当を食べながらお昼休みを過ごし、心を開いた所で話そうという作戦なんだけどどうかな?」
「おー、ナイスアイディア!」
まもるとうたは、固い握手を交わした後お弁当を持って早速ななの元へ。
「って、あれ? 蒼風さんがいない?」
「みことちゃん、ななちゃんが何処に行ったか知らない?」
「それならお弁当を持って教室を出て行ったけど」
お昼休みの準備をしていたうたの友達のみことに質問した。それを聞くに校内の何処かでお昼を過ごすみたいだが、結局の所細かい居場所までは知り得なかった。
「こうなったら、しらみつぶしに探すしかないね」
「うん!」
うたと一緒に教室に出ようとした時だった。一瞬だけど、うたの腰辺りに見覚えのあるシルエットが視界の端で捉えた。
一旦うたの肩を掴んで静止させる。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、腰にしがみ付いているプリルンは何でしょうか?」
本来この場に居る筈の無いプリルンが、何故か学校に居る。これは由々しき事態。本人は絶対に見られてはいけないという事を、ちゃんと理解しているのか甚だ疑問だ。
「バレちゃった?」
「プリ?」
「それで見つからないと思う方が凄いよ。うん、うたちゃんは凄いよ相変わらず」
「わーい、褒められちゃった!」
ポジティブ思考は健全。
なんて、お喋りしている場合ではない。こうしている内にも休み時間は過ぎていくし、既にななも見失っている。ますます探すのに困難を強いられる状況へとなっていくばかり。
「早くお弁当食べるプリ」
「食いしん坊だなプリルンは」
気を取り直して歩き出した直後、ふと窓の外へ目を向けたうたが何かに気付いた。
目を凝らした先に見たものは。
「あっ、ななちゃんだ!」
偶然にも目にしたななにうたは大興奮。
それから2人は一目散にななが居る外まで走って行ったのだった。
◯
何も考えず、思うがままに走って来たのが悪かった。そもそも、悩んでいる相手に対して最初の一声を選んでいなかった。
慎重に言葉を選ばないと相手を傷付けかねない。最悪、距離が開いて気不味い間柄にもなり得る。
そのパターンに陥るだけは避けなければならない。
「まもる君、なんて声を掛けようか?」
とはいえだ。結局、いくら考えたところで、同じような悩みが頭の中でぐるぐると回っているだけで何も進んでいない。
「ここは真正面から、それでいて気軽に『お弁当食べよー!』だと思う」
「でもそれ、さっきまもる君が試して失敗したんじゃ?」
「そういえばそうだった。なら、うたちゃんお得意の歌を歌いながら蒼風さんに接近するとか!」
「いやいや、いくら何でも急過ぎてななちゃん余計に固まっちゃうよ」
まもるの頭の中は「あれ、おかしいな?」と疑問符だらけだった。いつものうたなら、今の提案を言われずとも自分から率先している子だと思っていた。
だけどどうやら、今の場面ではそれは意味無いらしい。
「2人共、早くお弁当食べるプリ!」
「「ちょあっ⁉︎」」
珍しくもずっと黙っていたプリルンだが、食欲には我慢出来ず2人の手を引っ張って無理矢理陽の当たる方へと引き摺り出した。
そのせいで、今まで存在に気付かれなかったななの視界にその存在を明かしてしまった。
3人は目を見合わせ固まった。突然の事で唖然とするが、事態をいち早く理解したまもるはプリルンを背中に隠し、遅れてうたも場を誤魔化す為の言葉を発する。
「い、一緒にお昼食べない?」
急な慌てぶりを見て唖然としていたなな。どうしようかと迷う。うたはともかく、まもるに関しては先程お誘いを断ったばかり。また断るのも色々と気不味い雰囲気となる。その申し出を快くとは行かなかったが、頷き、渋々受ける事にした。
ななの両隣に座る2人。お弁当を広げて、さあ食べようと手を合わせるも、ななはどこか上の空で既に広げているお弁当に手を付けていない。
落ち込んでいる彼女の気持ちを尊重して、様子を伺うだけに留まっていたが。
「……わたし、コンクール失敗しちゃった。ピアノが大好きで、毎日演奏してきたんだけど今はもう……逃げたい」
ななから口を開いてくれた。が、聞けば内容としてはかなり重たいものだった。
1つの失敗が尾を引いて、それからずっと頭の中に残り、負の連鎖となって今朝の練習となっている状態。
ネガティブな思考が拭えないままのななに、どう接すれば良いのか。
「ななちゃんのピアノで歌うの、わたしは大好きだよ。なんかこう……ね、まもる君!」
「言いたい事は分かるよ、うたちゃん!」
「「キラッキランランな気持ちになるよね!」」
うたとまもるのその言葉で、ななの心に何か光るものがあった。
そのタイミングでだった。実に、ベストともいう時。
「……へっくしょい!」
隠れていたプリルンのくしゃみ。流石のななにも耳に届いていたらしく言い逃れが出来ない。
プリルンも小さく「ごめんプリ……」と謝罪をしていたが、それを一々くみ取る余裕は今はない。
どうにかして誤魔化すしかない。
(なんか最近、こういうのばっかりだなぁ……)
「な、内緒なんだけど、この子は迷子の宇宙人? なんちゃって!」
急場凌ぎの回答にしては無理があるが、その方向性でなんとか貫いて行こう。そう思ってまもるも便乗しようとした矢先。
「プリルンはプリルンプリ!」
ダメだった。フォローする前に全てを台無しにされて、虚無感に襲われる。
「ちょっと胃に穴が空きそう……」
「そ、そうじゃなくて……この子がプリルンで、わたしがキュアアイドルなわけ!」
「えっ?」
「えっ……あっ! 言っちゃったー!」
もはやどうやっても言い逃れ出来ないまでのカミングアウト。まもるもフォローをしたいのだが、言う事全部口にしてしまい手に余る始末。
うたは頼みの綱であるまもるに、上目遣いで助けを求める策に移行する。
(助けてあげたいのは山々なんだけど……)
口にしてしまった事実を捻じ曲げれる都合の良い言葉なんて、全く出てこないのが現実。
「うたちゃん諦めよう。口にしてしまったのなら仕方ないよ」
潔く諦め、いっそ全部話してしまった方が今の雰囲気的に楽になる。これ以上下手な嘘で隠し通すのは人間関係にもヒビが入る。
それに今のにはうただけに非がある訳じゃない。プリルンも口を滑らしたのも悪いし、それを止められなかったまもるにも非はある。
こういうのは全部一蓮托生の方が良いに決まっている。
「うたちゃんがキュアアイドル?」
「もの凄く内緒と言いますか……」
「あまり口外しないでもらえると俺らは嬉しいかな、なんて……お願いします!」
「します!」
まもるとうたは、頭を下げて必死に懇願する。もしうたがキュアアイドルだという事が知れ渡れば、必ず面倒ごとになる。
プライベートまで邪魔されては敵わない。
「分かった、内緒ね」
必死の願いが通じたのか、ななは特に何かを要求はせずに唇に指を添えて秘密にしてくれる事を約束してくれた。
◯
一時はどうなるかと肝を冷やした3人だったが、ななの優しさに九死に一生を得た。
プリルンとも自己紹介を終え、ようやく気兼ねなく話せる。
ただそれでも、ななの方は心を開いてくれたかと言われるとまだ解決はしていない。悩んでいる原因を話してくれたのは良いが、まだ“相談”の域には達していない。
「わたしね、この前見ちゃったんだ」
「あ、マズい」
「うたちゃんが……キュアアイドルが戦ってるところ」
「そうなの⁉︎」
「うん、紫雨君と」
うたとプリルンの視線がまもるへ集まる。まもるは何も言えない表情で2人から顔を背ける。
その様な話はまだ2人にはしていない。まさか、この様な形で知られてしまうとは不覚。
うたやプリルンも口を滑らした事も考えれば、遅かれ早かれで、どっちもどっちという言いようだ。
「そ、その話はまた置いといて」
「まもる君、わたしよりも先にバラしちゃったの?」
「バラしてないよ! 偶然、そう偶然だよ!」
「まもる、しっかりしなきゃダメプリ」
「それ、自分に対して言っているのか?」と口にしようとしたが、ここはグッと堪えて言葉を飲み込んだ。
「あんな怖いモンスターに立ち向かえるなんて強くて、勇気があって、キラキラしてて。うたちゃん、本当にかっこいいよ……わたしも、うたちゃんみたいに強くなりたいな」
語るななの瞳は美しく、舞い散る桜と相まってとても絵になる構図だが、どこか儚げに見えてしまう。
俯く彼女に何か元気になれる起因があれば。そうすれば、以前の様な表情でピアノを弾いてくれるに違いない。
そう考えるまもるとうたはお互いに目を合わせ、笑みを浮かべた。
どうやら、考えている事は同じなようだ。
「だったら行こうよ!」
「元気が無い時はあそこが1番!」
「何処に?」
「わたしの家──」
「「──喫茶グリッター!」」
こうして放課後、ななは2人に誘われるがままに喫茶グリッターに足を運ぶのだった。
ここまでの拝読ありがとうございました