キミとアイドルプリキュア♪ Dream Diva   作:シロX

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第8話 乗り気な彼女とそうでない彼女

「ただいまー!」

 

「おかえりお姉ちゃん!」

 

 喫茶グリッターの扉を潜ると、うたは家に帰った時の挨拶を交わし、それに合わせて「おかえり」と返してくれる明るい声。

 

 此処喫茶グリッターはうたの実家。出迎えてくれたのは父親の和、母親の音、そして妹のはもり。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

「こんにちは、お邪魔するね」

 

「いつもお姉ちゃんがご迷惑をお掛けしております」

 

「ちょっとはもり⁉︎」

 

 はもりは、いつも通りのやり取りでまもるに挨拶をしながらお辞儀をする。その丁寧な挨拶に釣られ、まもるも和かな笑顔で挨拶を交わす。

 

「で、お姉ちゃんはまた何かしたの?」

 

「何でわたしが何かやらかした前提なの⁉︎」

 

「だって、お兄ちゃんが来る時っていつも変な問題を持って帰って来るから」

 

「酷い!」

 

 まあまあとうたを落ち着かせ、はもりもようやく口を閉じてくれた。

 そんなやり取りをずっと後ろの方で覗き見をしていたななの存在に家族ら全員が気付いてくれた。

 

「お姉ちゃん、その人は?」

 

「気を取り直してこほん、今日はお友達を連れて来ちゃいました!」

 

「初めまして、蒼風ななです」

 

「こんにちは、えっと……ななちゃん! はもりです」

 

 はもりもななに元気に挨拶をした。初めて見る友達に、内心はもりも興奮を隠せないでソワソワと落ち着かない様子でいる。

 

「ささ、ななちゃんこっちこっち!」

 

 うたは、ななをカウンターに座らせて厨房の奥へと消えて行った。

 

「なんだろう?」

 

「すぐに分かるよ。このお店のとっておきが出てくる筈だから」

 

 それから待つ事数分。

 

「うちのキラッキランランなクリームソーダ。元気いっぱいになるよ」

 

 喫茶グリッターでも自慢の一品であるクリームソーダをうたがお裾分け。

 メロンソーダにバニラアイスがあり、加えてさくらんぼを添えられている。なんとも普通のクリームソーダ。

 

 しかし味は、この喫茶グリッターにしか出せない味。

 

「いただきます」

 

 一口食しただけで美味しいのがすぐに分かる。それに瞳を輝かせ、多少なりとも沈んでいた気持ちが浮き上がったようにも見える。

 

 まもるとうたの狙い通りに行って安心した。

 

「そうだ、はもりちゃん。ピアノの調子はどうかな?」

 

「バッチリだよ! お兄ちゃんにも教えてもらった通りに練習してみたら、きらきら星も簡単に弾けるようになったよ!」

 

 早速はもりは、店内の隅っこに置かれているピアノに手を伸ばした。

 

 そのきらきら星を聴きながら、まもるは昔の記憶の棚を引き出した。

 

「そういえばうたちゃんも、昔はピアノしてたよね? 大変だったみたいだけど」

 

 まだあどけなさがあるそんな頃、まもるの言うようにうたもピアノを習っていたが弾くよりも歌う事が大好きなうたにとっては長続きしないもので、それは呆気なく幕を閉じた。

 

「習っていた写真もあるのよ。これ、発表会の時の」

 

 音が出してくれた1枚の写真。今見ても、とても懐かしく、年月が経つのもあっという間を実感させてくれる。

 

「これわたしね」

 

「えっ、これわたしなんだけど……」

 

 うたが自分に指差すのと同じく、何故かななもその隣に写っている子に「わたし」と称して指を添えた。

 そこで2人はハッとして、互いの顔を見合わせる。

 

「わたし、うたちゃんの事知ってる! 確かあの時……」

 

 丁度このピアノの発表会の時、ななは自分の出番が回る直前で不安を抱いていた。だけどその時、1人の少女がななに声を掛けた。

 不安なでどうしようもない時も安心できる大丈夫なおまじないと称して、その少女はななにウインクを教えてあげた。そのお陰で、曇りがかっていた心に光が差し込んで不安は消えた。

 

 その少女というのが、どうやらなな曰くうただったらしい。

 

「あれ、ななちゃんだったの⁉︎」

 

「気付いてなかったの?」

 

「当たり前じゃん!」

 

「胸張って言う事でもないんだが……」

 

 そんな事は置いといて、実は昔に一度出逢っていたという事には驚きだ。この再会には何か、運命的なものを感じる。

 

「今もあのおまじない大事にしてるよ、ありがとう」

 

「嬉しいなぁ! あーでも、あのおまじないってまもる君から教えてもらったんだけどね」

 

「紫雨君が?」

 

 ななは、とても意外そうな視線をまもるに向けた。確かに言いそうではあるが、そんなロマンチストな言い回しまでするとは全く想像つかない。

 

 それに察したのか、まもるも苦笑いを浮かべてなんとも言えない表情となった。

 

「今になって思うけど、あんまり似合わないねそういうの」

 

「ううん、優しい紫雨君らしくてわたしは好きだよ。それに、紫雨君がうたちゃんに教えたウインクがあの日のわたし達を繋げてくれた。ありがとう、紫雨君」

 

 面と向かって純粋なお礼を言われると照れ臭くもなる。

 

 何もかもが偶然の産物だったけど、誰かの役に立てたならそれで良い。少しだけ、ななの笑顔も戻ってきており喫茶グリッターに誘ったのは正解だと実感する。

 

「お兄ちゃん、一緒にピアノ弾こう!」

 

 話が一段落したところで、はもりにそうねだられた。

 まもるは少しだけ考え、指を鳴らした。

 

「折角だから、蒼風さんと一緒に弾いてみたら? 実は俺、蒼風さんから教わってピアノを弾けるようになったんだよ?」

 

「そうなの⁉︎ 」

 

 ピアノの習得の裏事情を知ったはもりは、驚きの声を上げた。

 別に隠していた訳じゃないが、特に言う事でもなかった。

 

「結構凄いからお勉強にもなるよ」

 

「ちょ、ちょっとまもる君! こっちに来て」

 

 うたに腕を引かれ、少しの間だけ輪の外へと追い出された。誰にも聞こえない程度の小声で、うたはまもるに耳打ちをする。

 

「ピアノで落ち込んでいるのに、そのピアノを勧めるって大丈夫なの?」

 

「だからこそだよ。こういう時にしか、ゆったりとピアノが弾けないだろ?」

 

 一度初心に戻って、何でピアノを始めたのか、今日まで何故続けてこられたのかの原点を密かに探そうと目論んでいる。そのきっかけさえ判明すれば、少しは一歩踏み出せるだろう。

 

 それでも容易ではないが。

 

「それに、はもりちゃんとも仲良くなってもらいたいし。あの子、色々と純粋だからな。きっと何か感じ取ってくれるよ」

 

「まもる君がそういうならそうなんだと思うけど……」

 

 あまり納得していない様子。それもそうだ。傷口に塩を塗るようなもんだから。

 はもりは事情を知らないから仕方ないとして、それを止める事だって出来た。しかしその逆で背中を押す始末。

 

 しかし余計に心がグチャグチャにならなければと、心中不安の色と心配の汗も止まらないのは事実。

 

 後方で、ななの様子を伺う。ななが出した決断は。

 

「……うん」

 

 乗り気では無いものの、はもりの願いを無碍には出来ない良心がななを動かした。

 

 渋々はもりと座った。

 はもりが先行し、その様子を伺った後にななも指を動かした。

 

 ななの今の状態からとは思えない旋律が、喫茶グリッターの店内を響かせる。

 はもりのぎこちなさのあるきらきら星の良さを殺さず、それでいて引き立てるには満点以上の音色が奏でられている。

 

 とてもスランプがあるとは思えない美しさと感動が、そこにはある。

 

 弾き終わると、うたとはもりは大絶賛する。

 

「この調子なら、歓迎会のピアノのも行けそうだな」

 

「そんな事は……」

 

「そうなの? ななちゃんがピアノ弾くなら、はもりも観に行きたい!」

 

 なな自身が思う以上にはもりには大好評で、まさかの歓迎会を観に行きたいという。

 ななは何か言おうとしたが、それを遮るように音もそれに対して了承を与えた。

 

 歓迎会を観に行ける事になったはもりは今から胸を躍らせ、興奮冷め止まない。

 反対に、ななには学校で思い悩んでいた表情に戻ってしまった。

 

 ななの背中に「信頼」と「期待」2つの重圧がのしかかる。

 

 

 ◯

 

 

 時間もあって、まもるとななは2人して喫茶グリッターを退席して帰路へと足を運んでいる。

 

 予想外の事態に、ななの気分はまもるが思う以上に凹んでおり不安を積み重ねている。

 思わず、ため息としてななは口から小さく溢してしまった。

 

「……余計なお世話だったよね。ごめん」

 

 何に対しての謝罪か、ななはすぐに察する。

 

 謝らせてしまった。「そんな事はない」と言いたかったが、やはりななもこれは少々お節介かもと心の何処で感じており、すぐには否定はしなかった。

 

 しかし感謝はしている。

 

「でも凄く嬉しかったよ。わたしなんかの為に、うたちゃんや紫雨君、2人がしてくれた事を」

 

「まだ、勇気が足りない?」

 

 ななは歩みを止めた。口籠るななにまもるは、なんて声を掛ければ良いか迷う。

 それもそうだ。あれだけで拭えれるなら、そう苦労はしない。

 

「なあ、蒼風さん!」

 

 まもるはななの両肩を持ち、目線を合わせてウインクをした。

 

「最初の一歩は誰だって怖いもんさ。でも、その最初の一歩さえ頑張れば、俺とうたちゃんがなんとかするよ! だって俺達、友達なんだからさ!」

 

 太陽の様に輝く笑顔を見せるまもるに、ななは心を強く締め付けられる。

 自覚の無いまま、右手は心臓を握る様に胸の前に置く。

 

 痛いとか、辛いとかそういうのではない。

 

 ドキドキと胸が張り裂けそうな脈打つ感じ。

 

「歓迎会、一緒に頑張ろうな」

 

「うん、ありがとう。優しいね、紫雨君は」

 

 今日が終わり、そしてななにとって運命が変わる明日が始まる。




ここまでの拝読ありがとうございました
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