東方強弱関係   作:パンプキン大佐

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新年明けましておめでとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

今回にてようやく幻想郷の名が出てきます


幻想出発

誰だこいつ。と、私は数十回目となる疑問を頭の中に浮かべた。いや、本当は分かっているさ。こいつは八瀬呉葉、勘違いから私の元で従者をやっている力だけはある馬鹿鬼だ。そう、それがこいつ、分かっているのさ。だが、もはやそんな当たり前の真実さえも疑わなくてはならない事態が、現在目の前で起こっている。

 

「呉葉さんすごい飲みっぷり!」

 

「えへーそうでしょ! 私いっぱい飲めるんだ~だからもっと頂戴!」

 

まさかの衝撃の事実。呉葉は酔うと急変する。というかお前鬼だろ……なんでそんなに弱いんだ。

 

「おかわりちょーだい!」

 

いや、ほんと誰だよお前!? 普段の面影を全く感じさせない高い声を上げ、渾身のおねだりを繰り出した呉葉を前に、私はまたも疑問を浮かべてしまう。こいつが豹変したのは二杯目をのみ終えた頃。突然、机に突っ伏すと、「んにぃぃぃぃい!」と奇声を上げ、私を膝の上に乗せてきたのだ。それからはこの有様だ。というか、数秒乗せられていたのに気づかなかったぞ……

 

「一生付いていきます!」

 

そんなこと分かってるからわざわざ耳元で言わんでいい……

 

「一生付いていきます!!」

 

分かってるから二度も言わんでいい! いつもなら絶対こんなことしないんだがな……

 

「一生付いていきます!!!」

 

「うるさい! んなこと分かってるからちょっと黙ってろ!」

 

肘で思い切り頬を殴るが、鈍痛が肘に響く。一方、呉葉

は相変わらずにやにやとやや汚ならしい笑みを浮かべて

いる。しまった、こいつは鬼だった。

 

「まあまあ正邪さん! そう怒らないでくださいよ!」

 

私の杯に酒を注ぐのは村の人間。呉葉の雰囲気が影響しているのか、声量と馴れ馴れしさが先程の倍になっている。

 

「……自分でやるから、お前らは自分達で楽しんでな」

 

顔の前で手を払う。それを見た人間は頭を下げ、仲間の元に駆け寄っていった。別におまえのためじゃないぞ間抜け。

 

私は嫌われ上等の天邪鬼。こんな「感謝してます」な笑顔で満たされた空間にいるのは、精神衛生上かなり悪い。おまけに、酒臭い馬鹿が椅子になって密着してくるせいで、物理的に気持ちを悪くしてきやがる。いつ吐いてもおかしくないぞ……だが耐えろ、耐えるんだ私。こんなところで退出したら、後ろの馬鹿に酒を全部飲まれる。こんな機会が再び訪れる可能性は限りなく低く、なんとしてもここで飲んでおかねばならない。とりあえず、酒を飲んでさっさと酔って、馬鹿になるしかない。

 

そんな打開策(というより逃避だが)を実行すべく、杯を傾けようとした刹那、後ろの襖が思い切り開かれる音を聞いた。直後、横からの突然の衝撃に耐えきれず、私は杯を落としてしまう。この無礼な態度、まさか……

 

「正邪いた!」 「ほんとだ!」 「こんなところにいたんだ!」 「何飲もうとしてたの?」 「お姉ちゃんお酒臭~い!」 「じゃあお酒だ!」

 

「お前らなあ……?」

 

帰ってきやがったか餓鬼共……。本来なら文句の一つでも言っておくべきところだが、こいつらの様子への疑問のせいで、吐き出しかけた文句は喉の奥に戻っていってしまった。散々放置してきたというのに、何故こいつらはこんなに上機嫌なんだ?

 

「どうした、いいことでもあったのか?」

 

先程の放置について言及されぬよう、すぐさま質問をぶつける。

 

「うん! 正邪のおかげだよ!」

 

餓鬼ってのは理解できないな。通訳がほしいところだ。お前らに起こった「いいこと」が分からないから質問しているんだ、「私のおかげ」というのはあまりにもおかしい。さっきの仕返しか? と思ったが、こいつらにそんなことを考え付く能力があるとも思えない。

 

「……私が何かしたか?」

 

「むぅ、誤魔化さなくてもいいのに。これだよ!」

 

直球で疑問を伝えると、目の前に出されたのは薄汚れた人形。後ろの餓鬼どもも玩具を持っている。おいおい、私はそんなもの与えた覚えはないぞ。

 

「どこで拾ったんだ? それ」

 

「正邪が指差した方に向けて歩いてたらあったよ」

 

私が指差した方!? そんな偶然あるはず……ま、まさか……

 

「おい呉葉! お前が運んできた荷物の中に玩具あったか!?」

 

「んに……そういやありましたね~途中で落としたのか、どっかいっちゃいましたけど~」

 

つまり、こいつがあの妖怪どもの住み処から持ってきた玩具を落として、それを私の指示にしたがった餓鬼どもが拾って、私が用意したと勘違いしたわけか……というか奴等もこんなもん奪ってんじゃねぇよ!

 

まずい、この状況は非常にまずい……餓鬼っていうのは大人と違って素直だから……

 

「「「「「「正邪! ありがとー!」」」」」」

 

やめろ! そんな屈託のない笑顔でお礼なんか言われたら……

 

「うっぷ……ちょ、ちょっと出てくる」

 

廊下に飛び出し、厠に向かって走り出す。くそっ! なんで私がこんな目に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が醒めると、周りは死屍累々……ではなく、酔っ払った人間達が眠っていた。どうやら私もその仲間入りをしていたらしい。

 

「正邪様は……?」

 

部屋を見渡すも、正邪様の姿は見えなかった。この宴会が行われたのはこの大部屋のみ。となると、正邪様は外か?

 

襖を開け、縁側に出ると、正邪様の背中が目の前に現れる。

 

「正邪様、こちらにおられましたか」

 

私の呼び掛けに、正邪様もこちらに気付いたようで、ちらりとこちらを見た。

 

「酒はうまかったか?」

 

「あ、はい。おいしかったです」

 

「そうかよ……」

 

正邪様……もしかして怒ってらっしゃる? ま、まさか私。酔ってなにか大変失礼なことでもしてしまったんじゃないか……。

 

「まあ座れよ」

 

やや乱雑に隣を叩く正邪様……絶対怒ってらっしゃる。なにしたんだ、過去の私。

 

「し、失礼します」

 

ご機嫌の悪い正邪様の命令。当然断る訳にもいかず、お隣に出来る限り静かに座る。やはり予想は当たっていたようで、私を見つめる正邪様の表情は、普段より険しい。

 

「お前……酒飲むといつもああなのか?」

 

やっぱり、酒を飲んだときにやらかしてしまったようだ……実を言うと、私は鬼であるにも関わらず酒に弱く、飲むとすぐに酔ってしまい、記憶が飛んでしまう。だというのに泥酔まではしないようで、他人に絡んでしまうらしい。他の鬼と飲んでいたときも、それが原因でよく文句を言われたものである。

 

「……はい、昔から悪いと言われてます……」

 

「やっぱりなぁ……そういやお前、私と出会う前はなにやってたんだ?」

 

正邪様の表情は、先程までの厳しいものから一転、興味津々といったものになる。そういえば、今回の酒癖の悪さも含めて、正邪様に私のことを言ったことはなかった。

 

「武者修行ですかね」

 

「む、武者修行……その答えは予想の斜め上だぞ」

 

正邪様の声色に含まれるのは、驚き半分呆れ半分といったところか。確かに、妖怪が『己の力を高めるために諸国を旅する』という行為をするのは、かなり珍しい。そもそも妖怪は人間と違い、修行をすれば強くなれるというものでもない。人間を襲い、彼らに恐れられるほうが、手っ取り早く強くなれる。なのにそれをしなかったのは、『その方法では他人に頼ってるようで嫌だ』という感性的な理由である。

 

「だったらなんであんなところにいたんだ? あそこは大国からは遠いし、強い妖怪がいるわけでもなかったが」

 

『あんなところ』というのは、私と正邪様が出会った森のことだろう。正邪様のおっしゃる通り、あそこは武者修行の目的から最も離れている。しかし、私にはあそこを通る明確な理由があった。もっとも、正邪様と出会ってそんなものはどうでもよくなってしまったのだが。

 

「幻想郷を目指していたんです。あそこが近道だったものでして」

 

「幻想郷……?」

 

正邪様が首を傾げる。意外、ご存じだと思ったのですが……まあ、正邪様ほどの存在であれば、幻想郷など有象無象に過ぎないか。

 

「妖怪の楽園とも言える場所です。そこにいる強者(つわもの)達と是非手合わせしたいと考えておりまして」

 

「ふぅん……強者(きょうしゃ)ねぇ」

 

正邪様の目が細められる。その様子は、何かを思案されているようだった。

 

「行くか、幻想郷」

 

「はい、承知しました……へ?」

 

まだ未練でもあったのだろうか。正邪様の口から信じられない言葉が聞こえたような……

 

「だから、行くぞ幻想郷に」

 

ニヤリと笑う正邪様。失礼な例えだが、その顔は悪戯を仕掛ける子供のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから厠に籠ること数時間。まだ残ってるんじゃないか、という僅かな希望を持って戻ったものの、そこにあったのは、まるで死体のように不規則に倒れている酒臭い酔っ払い共だけだ。

 

「食い殺して本物の死体にしてやろうか……」

 

退治した妖怪共の残党が襲ってきたと言えば、あの馬鹿も信じるだろうし……意外といい案かもしれないな。

 

「正邪様、こちらにいましたか」

 

「!」

 

予想外の他人の声に、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。後ろを確認すると、そこには呉葉の姿があった。様子からして酔ってはいないようだ。ちくしょう、なんで起きてくるんだよ……まさか今の独り言聞かれてないよな?

 

「酒はうまかったか?」

 

「あ、はい。おいしかったです」

 

「そうかよ……」

 

確認と話題の転換を兼ねて適当に感想を求めると、返ってきたのは無難な感想。もう少し具体的な感想は言えないのか……まあよかった、どうやらさっきの独り言は聞かれてないようだ……自分で言っておいてなんだが、酒の質問のせいでまた腹が立ってきたぞ。

 

「まあ座れよ」

 

隣を叩き、着席を促す。まだ調子が戻ってないせいか、叩き方が少々乱雑になってしまった。まあ呉葉なら気に止めないだろうし、別にいいか。

 

「し、失礼します」

 

「お前……酒飲むといつもああなのか?」

 

「……はい、昔から悪いと言われてます……」

 

「やっぱりなぁ」

 

隣に腰を下ろした呉葉に先程のことを問いただせば、返ってきたのは予想通りの言葉。昔から言われてるなら飲むの辞めろよ、酒場の駄目親父かお前は……昔と言えば……

 

「そういやお前、私と出会う前はなにやってたんだ?」

 

そういえば、私はこいつのことを何も知らない。ここらで聞いておいてもいいか。

 

「武者修行ですかね」

 

「む、武者修行……その答えは予想の斜め上だぞ」

 

私の言葉に、呉葉は苦笑いを浮かべる。普通妖怪が武者修行なんかしない。人間襲う方が効率がいいからだ。それに、なんでこいつはあんなところにいたんだ? あそこは辺境もいいところ。武者修行するというのなら、もっと行くのに相応しい所があるだろう。

 

「だったらなんであんなところにいたんだ? あそこは大国からは遠いし、強い妖怪がいるわけでもなかったが」

 

「……幻想郷を目指していたんです。あそこが近道だったものでして」

 

「幻想郷……?」

 

聞き慣れない地名に、思わず聞き返す。そんなところがあの森の先にあったのか……。

 

「妖怪の楽園とも言える場所です。そこにいる強者(つわもの)達と是非手合わせしたいと考えておりまして」

 

呉葉の話に出てきた『ある単語』に、私は不快感か

込み上げてきた。

 

「ふぅん……強者(きょうしゃ)ねぇ」

 

『強者』。もっとも嫌いな言葉の一つ。理由は単純。私が弱いからだ。いくら私が努力しても、結局奴等には敵わない。だから嫌いだ。どうせその幻想郷だって、その強者たちが闊歩している所なんだろう。ふん、何が『妖怪の楽園』だ。そんなひどい嘘、私はつかないね。

 

しかし、込み上げてきたのは不快感ばかりではない。『椅子の上でふんぞり返ってる奴等を、椅子ごとひっくり返してやりたい』という、天邪鬼として当然の思い付きも、私の脳裏に浮かび上がってきた。

 

少し前の私であれば、このあたりでこの思い付きを却下するだろう。何故なら、私では敵わないからだ。だが、今は違う。私には呉葉がいる。私のために戦う、『強者

』になり得るとびきりの『弱者』がいる。

 

そこまで考えて、私は人生最大の決定を下した。

 

「行くか、幻想郷」

 

「はい、承知しました……へ?」

 

突然の提案に反応できなかったのか、呉葉は私を見つめ、間抜けな表情のまま固まる。そんなこいつに、私はもう一度告げる。

 

「だから、行くぞ幻想郷に」

 

顔はにやけているかもしれない。でも仕方がない。こんなに面白そうなこと、そうそうないんだからな。




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