東方強弱関係   作:パンプキン大佐

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遅れて申し訳ありません。

基本的には主人公の視点➝正邪の視点になっています。同じ場面で異なる表現が書かれているところもありますが、それは二人の認識の差だと思っていただきたいです。


妖力抑制

月が空高く昇っている事から、真夜中である事が分かる。そんな月の動きに比例するかのように、妖怪達は獲物を見つけるため、さらに活発になっていた。そんな中、獲物ではなく己の全てを捧げる事のできる主を見つけた鬼は、その主と共に深い森の中を黙々と歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、正邪様を他の妖怪から守るため、いつもより多く妖気を身体から発し、辺りに漂わせている。こうすることで、同じ妖怪すら襲おうとする妖怪(大概、獣程度の知能しか持たない妖怪)も、ある程度は寄ってこないのだ。もっとも、正邪様を襲う妖怪は皆返り討ちにあうと思うが。

 

前を歩く正邪様の歩き方は、素早く、それでいて軽やかに歩いていて、そこに強者の余裕とでも言うべきか、そういったものを感じる。一方で私の歩き方は……ゆっくりと、大地をしっかり踏みしめていて、正邪様とは真逆だ。鬼という種族は皆大雑把な性格をしており、私もそれに当てはまっていたため、全く気にしていなかったが、今は恥ずかしく思っている。こんな歩き方をしている従者がいれば、正邪様が笑われてしまうかもしれない。少しずつ直していった方がいいのかもしれない。

 

「正邪様」

 

「! な、何だ?」

 

ずっと続いていた沈黙をいきなり破った事に戸惑ったのか、正邪様の返事はやや震えている。思えば、声も少し大きかったかもしれない。次からは気を付けよう。

 

「すいません、急に声をかけてしまって。実は相談がありまして」

 

「……言ってみろ」

 

流石正邪様だ、快く了承してくれた。若干躊躇っていたようにも見えたが、気のせいだろう。

 

「やっぱり、歩き方って直した方がいいですよね?」

 

「……へ?」

 

ああ、いったい何を言ってるんだ私は。普通、目上の人にこんな事を相談したりはしないだろう。現に、正邪様は口を開けてポカンとしている。これで常識の無い妖怪だと思われたらどうすれば……。

 

「なんで直す必要があるんだ?」

 

「いえ、従者がこんな歩き方をしていたら、正邪様が笑われてしまうのではないかと思いまして」

 

「誰に?」

 

「正邪様のご友人あたりに……」

 

私の返答を聞くと、正邪様は急に不機嫌そうな顔をして、クルリと前を向いてしまった。……私は何か失礼な事を言ってしまったのか? もしかして愛想尽かされてしまったのか? そうだとしたらシャレにならない……どうすればいいんだ。

 

「別に直さなくていいよ」

 

「え、あ、はい、分かりました」

 

……どうやら杞憂だったようだ。しかし、何故正邪様は急に不機嫌な顔になってしまったのだろうか?

 

「私も一つ言いたい事があるんだよ」

 

再び振り返った正邪様。その顔は既に戻っており、それを見た私の表情も、自然とにやけてしまう。

 

「何でしょう?」

 

「妖気を駄々漏れさせるのをやめろ。私と同じくらいでいいから」

 

そういえば、正邪様は表に出している妖気が殆ど無い。しかし、そんな事をすれば、弱い妖怪が襲ってくる可能性がある。

 

「いいんですか?」

 

私が一歩近づくと、正邪様は一歩下がってしまう。やはり先程の事で怒っているのだろうか?

 

「い、いいから早くしろ!」

 

正邪様は語勢を強くしてそう言うと、また歩き始めてしまった。私は早速妖気の放出を止めて、正邪様を追いかける。……強い人が考える事は分からないなぁ。まあ、何があろうと付いていくけれど。

 

 

 

 

 

 

私は今、かつて味わった事のない恐怖を存分に味わわされている。その原因は、私の後ろにいる従者、八瀬呉葉だ。というのも、私の従者になって急に、何を思ったのかは知らないが、強い妖気を辺りに漂わせ始めたのだ。強力な妖怪の妖気は、それだけでも私のような弱い妖怪にとっては武器となるのだ。

 

やめるように言おうと思っているのだが、様々な理由からなかなかそれができない。第一に、なんといっても相手は妖怪でも屈指の実力を持つ鬼。私のような弱小妖怪からしたら、従っていると分かっていても、話しかけづらいところがある。第二に、鬼は嘘が大嫌いという性質があるのだ。私は自分が強いと、意図的ではないが嘘を吐き、呉葉を従わせている。もしも何かの拍子にバレたとしたら……殺される未来しか想像できない。

 

「正邪様」

 

「! な、何だ?」

 

突然の呉葉の声に驚いて、やや震えた声になってしまったが、どうやらこいつはその事を気にしてはいないようだ。よかった、本当によかった……。しかし、あっちから話しかけきてくれたのは好都合だ。さっさと妖気を止めるように言ってしまおう。

 

「すいません、急に声をかけてしまって。実は相談がありまして」

 

……ああ、まずはあっちからか、まあ当然の事だな……いや待て、まさか戦闘関係の事じゃないよな。鬼の相談なんてそれくらいしか考えられない……どうする私? もしまた戦ってほしいなんて言われたら、確実に死ぬぞ。相談を断った方がいいんじゃないか。……いや、もしそれがきっかけで嘘がバレたらどうする? やっぱり確実に死ぬぞ。どういう事だ、どちらの選択肢の先にも「死」の文字しか見えないじゃないか……。だが、答えないわけにもいかないし……。

 

「……言ってみろ」

 

結局、私は相談を受ける事にした。その方が主人らしいと思ったからだ。

 

「やっぱり、歩き方って直した方がいいですよね?」

 

「……へ?」

 

恐らく、今の私は世界で一番の間抜け面をしていると思う。しかし、それは仕方がない事だろう。予想と全く違うのだから。いや、確かに私が思い込みと偏見で頭の中で物語を展開していたけれども……。まさか歩き方についての相談だとは、誰が予想できただろうか。……さっきの一人芝居は、私の心の奥底に眠らせておくとしよう。

 

「なんで直す必要があるんだ?」

 

まずは、この相談の意味を聞いておきたい。何故そんな事を相談したのか、これを気にならない奴はいないだろう。

 

「いえ、従者がこんな歩き方をしていたら、正邪様が笑われてしまうのではないかと思いまして」

 

「誰に?」

 

「正邪様のご友人あたりに……」

 

呉葉がそう言った瞬間、私は後ろを向いた。こいつの顔を見たくなかったからだ。

 

私は嘘を吐く。相手を騙すためにだ。その上で注目しているのは、自分と相手、双方の表情だ。自分がいかに思惑を隠した表情をできるか。いかに相手の表情から自分への信頼を見出す事ができるか。それが大事だからだ。そういう事もあってか、いつの間にか、相手の表情を読み取る事がうまくなっていた。そして、今の呉葉の表情は、尊敬のそれだ。恐らく、私に向けられているのだろう。そうだったらいい。尊敬される事は嫌いじゃない、むしろ好きだ。しかし、私は私でも、こいつの中にある私に向けられているのだ。そいつはきっと正直者なのだろう、人気者なのだろう、強いのだろう。……反吐が出るね! 私はそんな高貴な存在じゃない! 真逆、反対だ! 他人を騙し、至上の幸福を得る。それが私の存在意義なんだ。……こんな分かりきった事を改めて考えていても仕方がないな。おかしいな、今日の私は。普段ならどうって事ないのに。

 

……さて、呉葉の相談だが、『別に直さなくてもいい』というのが、私の返答だ。私が言うのもおかしいが、その程度の事を気にするような主人はこの世にいないだろうし。それに、行儀よく歩いている鬼というのは、なんというか気持ち悪い。百聞は一見に如かずという言葉がある通り、一度見た方がいいのかもしれないが、千年以上もの歴史によって固まってしまったイメージを崩す事は容易ではないだろう。

 

「別に直さなくていいよ」

 

「え、あ、はい、分かりました」

 

意外そうな声で返事が返ってきた。どうやら、私の回答は予想外だったらしい。さて、こいつの用事は終わった、次は私の番だ。……落ち着け私。別に難しい事じゃないんだ。

 

「私も一つ言いたい事があるんだよ」

 

呉葉の顔を再び見る。すると、こいつの不安そうな表情がパアっと晴れていく。一体何が嬉しいのやら。

 

「何でしょう?」

 

「妖気を駄々漏れさせるのをやめろ。私と同じくらいでいいから」

 

……よし、一言一句間違いなく言えたぞ。大丈夫だ、私の伝えたい事が全て詰まっているのだから。

 

「いいんですか?」

 

呉葉が一歩、私に近づいて来た。それを見た瞬間、私は反射的に一歩下がってしまった。

 

「い、いいから早くしろ!」

 

この致命的な失態をどうにかうやむやにしようと、語勢を荒く命令して再び歩き出した。すると、辺りを満たしていた妖気が消え去っていく。どうやら成功のようだ。……ひとまず今一番の問題は解決できたが、呉葉と共にいる事に慣れるにはまだ時間が掛かりそうだ。

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