東方強弱関係   作:パンプキン大佐

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布告

「ここがお前達の家か」

 

「はい……」

 

他とは段違いに大きな家。全員が住むには充分だろう。だが、大きさに反比例するように雑な造りであることも容易に分かった。奴等の目的が滲み出ていると言っていいだろう。

 

「ど、どうぞ」

 

耳障りな音を立てながら開く扉。こんな音を毎日聞いていたら、耳がおかしくなってしまいそうだ。娘も苦しい表情をしている。……こんな表情が毎日見られるなら、それはそれでいいかもしれない。

 

「何のようだ。今日の分はもう……! お前さんは!」

 

この音で気づいたのだろう。厳つい顔の爺さんが手前の部屋から出てきた。負担はそれを遙かに上回っているが、意外に実用的なところもあったようだ。何にせよ、手抜きであることに変わりはないが。

 

「そ、村長さん……私」

 

「何故戻ってきたんだ」

 

「っ!!」

 

天邪鬼の性質故か、はたまた今まで多くの馬鹿を騙してきた経験からか、二人の間に溝ができつつあることが察知できた。その瞬間、私の身体が無意識の内に震えた。嘘を付いて、デタラメを吹き込んで、この二人の溝を決定的なものにしてやりたい。それを眺め、歓喜の笑みを浮かべたい。そんな衝動が、私の中を駆け巡ったが、呉葉の存在によって、それは沈静化された。隣にいなければ、迷わず実行していただろう。

 

「後ろの妖怪さん達が話を聞きたいって。あいつらとは関係ないよ」

 

その言葉に、先程までここを包んでいた重々しい空気はなくなったが、その代わりというべきか、爺は今度は私達に疑念の視線を向けてきた。まあ確かに、妖怪に襲われている村の話を聞きたいなんていう妖怪はいないだろう。私だってそう思ってるんだ。

 

「……どうぞ、上がってくだされ」

 

……意外とあっさり通してもらえたな。私としては、このまま門前払い(既に門の中にいるが)してもらいたかったのだが。まあ、この状況だ。妖怪にも縋る気持ちということか。

 

一歩脚を踏み出そうとした、その時だ。

 

「正邪様、どうぞ!」

 

呉葉が私の前で背中を向け、跪いてきた。

 

「……何やってるんだお前は」

 

今まで私は、ここまで素直に自分の考えを口に出したことがあっただろうか? いや、ない。

 

「このような場所に貴方を上げる訳にはいきません。どうぞ、乗ってください」

 

……恋ならぬ、忠義は盲目と言うべきか。

 

確かに汚らしい場所だが、気にはしない。それことよりも、人前で、歩き疲れた子供のように背負われることが、どれほどの差恥を伴うのかを考えてほしいものだ。従者というものは、主人を立てるものだろう。仮に立場が逆転しているとしたら、私も同じことをやっていたかもしれないが。

 

「……先に行くぞ」

 

「え? あ! 待ってください正邪様!」

 

私が横を通ると、後ろから慌ただしく足音が鳴った。

 

「何か出したいところですが、生憎こちらにはなにもありませぬ。お許しくだされ」

 

もしあっても受け取らないよ。こんな所で出されるものなんてろくなものでもないだろうしね。

 

「ああ、別にいいよ。腹は減ってないからな。それで、どうしてこんなことになってるんだ?」

 

私はさっさと話を聞いて帰りたいからな。私は呉葉の主人であり、また、願いを聞いてやった『貸し』があるんだ。それに、ここの人間だって私達が助けるとは思ってはいまい。

 

「……あれは、今から数ヶ月前です」

 

「今の状況からは想像もできないでしょうが、奴等は初め、とても友好的に接してきました。怯える我々に、山で取れた食糧を与えてきましたな」

 

「!……ふぅん、確かに想像できないな」

 

なんだ、天邪鬼以外にもそんな方法を取る奴がいるのか。案外、連中とは意気投合できそうだ(できてもしないが)。……いや待て、私と同じような方法……まさか。

 

「私も時々、あれは幻ではなかったのかと思いましたよ。……その後もその奇妙な関係は続き、時が経つにつれそれは交流へと発展しました。私を含め、村の誰もが奴等を、信用していました……そして、一ヶ月前」

 

……まずい、非常にまずいぞ。私が人間に害を及ぼす方法、つまりそれは『アレ』しかないんだ!

 

「奴等は別人のように襲い掛かってきたのです。そして、この有様。つまり、我々を騙していたということですな。あの振る舞いは全て嘘……私が気付いていればよかったのですが」

 

隣から、ミシミシと音が聞こえる。チラリと見ると、呉葉の呉葉の手は握り拳を作っていた。激怒しているのだ。奴等の行いに。……全て予想通りだった。

 

「おい! 人間共!」

 

「っ!!」

 

そこに来たのは、追い打ちだ。致命傷だというのに、残酷にも追い打ちを掛けられたのだ。私は呉葉の顔を見ていない。いや、見れない。目にした瞬間、気絶してしまいそうだからだ。むしろ、死んでしまいそうな気すらする。

 

「正邪様」

 

「……」

 

その問いかけに、私は答えることができない。私の中は、恐怖で埋め尽くされていたのだ。この沈黙から何を思ったのかは知らないが、恐らく自らの意見に肯定したと考えたのだろう。しばらくすると、呉葉は外に行った。

 

奴らは、自ら処刑台に並んだのだ。私に、それを動かす力はない。

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