東方強弱関係   作:パンプキン大佐

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完了

私は今、人生で一番幸せな時を過ごしていると感じている。目の前にいる妖怪達は、私では勝てないであろう奴らばかりだ。しかも、そいつらは私達に怯えている。夢見ていた状況だが、ここまで滑稽で、優越感を味わえるとは思わなかった。

 

「わ、我々が何かしましたかな?」

 

大将と思われる豚妖怪が私達に言う。力に屈服したそいつの目は、媚びる事しか考えていないというのがよく分かる。

 

「貴様らが麓にある村を支配しているからだ。それをさっさと止めてもらおう」

 

私に話しかけるときのようではない。極めて冷徹な声色で、呉葉は要求する。しかし、私の身体も寒さに凍えるように固くなる。もう少し柔らかな声で言ってもらいたいものだ。

 

「そ、その程度のことで我々に攻撃を!?」

 

目を見開き声を荒らげる妖怪。私もこんなことを言われたらこんな反応をするだろうな……いや、まず支配できないか。

 

「そうだ、その程度のことで攻撃したんだ。もう一度だけ言ってやる。あそこから早急に手を引け」

 

更に低くなる声。その中に、哀れみだとか、理不尽な仕打ちへの罪悪感だとか、そんなものは一切含まれていない。あるのは要求を押し通す意志のみだ。

 

「し、しかし」

 

「なにもこの世に一つしかない財宝を取ってこいだとか、世界征服をしろというわけでもないんだ。ただ持っている物を一つ手放せばいい……簡単だろう?」

 

それでも引き下がろうとしない妖怪に対し、呉葉は腕をゆっくりと上げた。ただそれだけの行為で、奴らから反抗の意志は消え失せたのが分かる。まさか素手で脅迫する奴がこの世にいようとは……。まあ、妖怪の世界は腕力と知力が全て。正しい姿ではあるけどな。

 

「わ、分かりました、今すぐに手を引きます。ですからどうかお許しを……」

 

「ああ、許す。私もそこまで墜ちてはいないさ」

 

呉葉は妖怪の返答に満足したようで、声色はやや穏やかなものに変化した。安心させるためなのかもしれないが、表情の厳しさに変化はない。

 

「お二方、酒が来ましたよ。どうぞ、召し上がってくだされ」

 

土下座妖怪の遥か後ろから、酒を持った妖怪がそそくさとやってくる。どうやらこの奥には様々な物を貯蔵してあるらしい。いくつか拝借していきたいものたが……。しかし、そんなことよりまずは酒だ。酒を飲むのはいつぶりだろうか。少なくともこいつと会ってからは飲んでない。まあこいつとそれほど長い付き合いでもないが……。

 

「それじゃあいただくとするかな」

 

「久々」というのは上等な調味料なようで、両手は既に杯に伸びていた。香りも中々、これは結構高い酒だな。……まあ、高い酒なんか飲んだことないから分からんがね。だが、一瞬で首が飛ぶこの状況。わざわざ酒を出してきたのだから、高いものに決まっている。

 

「それでは私も……」

 

呉葉が言った、その瞬間だ。私の両手の杯は、跡形もなく消え去った。確かに目の前にあったはず、そんな一瞬でなくなるはずがない。行方を探した私が見たものは、縦に裂けた一体の妖怪の体と、その奥に見える粉砕された「なにか」。理解できた。なにが起こり、誰が、どのようにやったのかが。

呉葉はゆらりと立ちあがり、私の前に出る。それはまるで、主君を守る戦士のようで、子を守る親のようで。

 

「死にたいんだな? 安心しろ、私はその願いを叶えることができる」

 

巻き起こる力の嵐に、私の意識は消し飛ばされた。

 

「お……おげぇ……」

 

私の意識を呼び覚ましたのは、心地よい(別に普段はそんな感想をもっていない)鳥の鳴き声ではなく、死にかけの妖怪のえずきだ。視界の中央には呉葉に頭を踏みつけられた豚妖怪。周りには見るも無惨な死体。私はこの死体に戦慄を覚えた。胸に風穴の空いたものや、部位がいくつか別れたもの、頭がないものなど、力技でやったと思われるものはまだいい。真に恐怖したのは、内蔵が腹からすべて出たものや、口に脳が入っているもの、下半身に上半身が頭からねじ込まれたもの、這いずった後がある足のないものなど、そうする意図があったからそうなった、としかいえないものにだ。その理解を越えた姿の死体は、ある意味、芸術と言えるかもしれない。

 

「酒に毒を入れる……その少ない脳みそで考えていたところ申し訳ない……いや、申し訳なくもないか。残念だが匂いで分かったよ」

 

呉葉に外傷はほぼ見当たらない。唯一、額から血が流れている。しかし恐らく、これは相手からつけられた傷ではない。

 

「しかし、まさか自分から死にに来るとは……さすがの私も驚いたよ……正邪様はどうです?」

 

返事など返せるわけがない。私はこいつを過小評価していた。力があるだけだと、容赦がないだけだと。しかし、実際はちがう。こいつには明らかに、遊び心がある。子供が玩具で遊ぶようにだ。

 

「火に油を注ぐとは、まさにこのことだろうな」

 

自分で分かっているのかどうか知らないが、呉葉の表現は的確だ。こいつの怒りが頂点に達したとき、この惨劇は繰り広げられる。

 

私は狼どもとの戦闘の際に覚悟を決めた。しかし、そんなものとっくに打ち砕かれたさ。嘘がばれたら殺されるだけじゃない。玩具にされてしまう。苦痛にまみれながら死ぬのはごめんだ。

 

「ぁ……」

 

潰される豚の頭。だが、新たな恐怖の前ではそんなものはどうでもよかった。




正邪の仕事が嘘をつく、みたいなことになっちゃってます。早く本業の人の嫌なことをする、をやらせてやらねば……
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