夜空の瞳は月を見る 作:ylgu
天才クラブ#83。ミス・ヘルタの名を冠する宇宙ステーション“ヘルタ”
【一切の怪異を星空に封印する】という目的の下、建造、打ち上げられた天才の箱舟。
銀河に彼方此方から様々な品が収拾されており、特に“奇物”や“遺物”が多数収拾されている。
同時に品が集まるという事は、それらを研究する人々もやって来るという事。この宇宙ステーションには、多くの研究者が籍を置いており、同時に生活していた。
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「――――失礼。少し宜しいでしょうか」
「はい……!?よ、ようこそ、宇宙ステーション“ヘルタ”へ」
カウンターにて座っていた職員が顔を上げると、そこに立っていたのは一人の青年だった。
黒髪を撫でつけ、目の下に隈がある青白い顔。病人とまではいわないが、健康的とは到底呼べないそんな顔。
服装にしても、そうだ。職員の格好は、洗練された白を基調とし、部署ごとの色分けが行われ貫頭衣のようになっている。
一方で、青年はというと白のインバネスコートに、これまた白の首巻。更に両手には白の前腕まで覆うグローブを付けており、白尽くし。色の変化は、コートの下に着た赤いベストに黒いベルト。それから灰色のズボンに黒いベルトが数本巻かれる事で固定された白いブーツ位か。
時代が違う。片や近未来的で、片や中世の気配がある。
受付の職員もギョッとする、が青年は自分の奇異な見た目も特に気にしていないらしい。
「ここには、様々な遺物が収容されているとか。出来れば、そのリストを見せていただけませんか」
「遺物のリスト、ですか?申し訳ありません、部外者の方への開放はしておりません」
「そう、ですか…………わかりました。すみません、貴重なお時間をお取りして」
僅かに肩を落とした青年は、しかしそれ以上追及する様子もない。
元より、部外者である自分に見せてもらえるとは思っていなかった、というのもあるがそもそもの青年の気質からして理不尽に食いつくような事はしない。
一方で、職員の方も少々興味をそそられていたりする。
この宇宙ステーションを訪れる者は、まあまあ居る。その大半は、研究者であったり、或いは専門家、もしくは遺物や奇物をヘルタへと寄贈しに来る者等々。
受付の仕事も長いこの職員。人を見る目というものが養われていた。
その目が告げるのだ。今回の来訪者は、今までの相手とは毛色が違う、と。
「あの、失礼ですがいったいどのような遺物をお探しで?」
「あー…………元々は、私の家で保管されていたものなんです。その行方を捜していまして」
「成程……因みに、その遺物の名前がわかったりは…………」
「ああ、そうでした。遺物名は――――」
「――――何かあったのか?」
青年の言葉を遮ったのは、幼さの残る少年の声だった。
そちらを見れば、褐色の肌をした毛先の色が濃いベージュの髪色をした少年が側にまでやって来ているではないか。
これに驚いたのは、受付の職員だ。
「ア、アーランさん!ええっと……何故こちらへ?」
「受付で、何やら珍しい客人が来ていると通報があった。何やら揉めている、とな」
「え、いや、それは……その……」
不味い。この宇宙ステーションに居る職員の内、質の悪い者たちを忘れていた。受付は内心で自分の好奇心に歯噛みする。
人が多くなれば、当然色んな性質を持つ者たちが集まるという事。そして、その性質は決して善人だけではない。寧ろ、研究者などの競争が激しい世界では相手を蹴落とす事も厭わないものが珍しくない。
更に性格の悪い者ならば、相手を貶めて楽しむ者も居た。
だが、その悪意持つ者たちの毒牙が仕留めに来る前に、青年が深々とアーランさんと呼ばれた少年へと頭を下げる事で事態が変わる。
「申し訳ありません。私が、こちらの方に無理を言ってしまったんです」
「ほう?貴様が?」
「はい。ですので、こちらの方への処分は止めていただけたらと思います」
「ふむ……少なくとも、判断を下すには情報が足りない。事の経緯を話してもらえるか?」
「ええ、勿論。私は、本日この宇宙ステーション“ヘルタ”へと来訪いたしました。目的は、この宇宙ステーションにある遺物のリストを拝見したかったからです」
「遺物のリストを?……見るだけか?」
「はい。ですが――――」
「――――その、部外者でしたのでお断りしたんです。ただ、その……ついつい好奇心に駆られ、私が彼にどのような遺物を探しているのか問うてしまいまして…………」
「成程」
二人の言葉を受けて、アーランは頷く。
嘘を言っている様子は無く、そもそも嘘を言う理由もない。遺物のリストを見たいというのは少々珍しいが、それでもゼロではない。
顎を撫でて、アーランはもう一つ頷いた。
「事情は分かった。遺物のリストに関しては、完全な部外者である貴様に後悔する事は難しい。下手な情報漏洩は、セキュリティの穴になりかねないからな」
「ええ、それは重々承知しておりますよ」
「その上で、問おう。このまま断られて、貴様はどうする?」
「どう、とは?」
「態々ここまで来て何の収穫も無く帰るのか?」
「
試す様なアーランの問いに、青年は迷う事無く頷いた。
「確かに、残念ではあります。ですが、これは私の個人的な用事。無理を押し通して、道理を折り曲げるような真似はしませんよ」
穏やかだ。ともすれば、諦めているようにも見える凪いだ心。
実際、青年は断られる事も前提でここまでやって来た。大切な探し物であったとしても、それはそれ。先の言葉通り、道理を押し通す気は無い。
善人だ。かといって、規律を乱す訳にはいかない。
これ以上のやり取りは、必要以上の干渉になりかねないと判断したのか、アーランはこの会話を打ち切ろうとする。
直後、衝撃が宇宙ステーションを襲った。
悲鳴と動揺の声。
そして、
「ひっ……!反物質、レギオン!?」
乗り込んでくる複数体の異形。
崩壊の運命を司る
生物と言うよりは、鉱物的な印象を覚える彼らは、ヴォイドレンジャー。先の軍団、反物質レギオンの構成員たちだ。
エントランスホールへと乗り込んできた彼らは、目につく職員へと襲い掛かっていく。
だが、
「ッ、全員さがれ!直ぐに通信!防衛課へと連絡を回せ!」
剣を片手にアーランがそこに割り込み、凶行を止めた。
しかし、敵は多い。
彼が一体を切り捨てる間に、別の個体が職員を襲わんとその凶刃を閃かせる。
「うわぁあああああああ!!…………あれ?」
襲われた職員が悲鳴と共に目を閉じて痛みに備えるが、しかし衝撃の一つもやって来ない。
恐る恐る目を開ければ、白がその視界を埋め尽くした。
「下がってください。一ヵ所に固まってもらえば、私たちも守りやすい」
ヴォイドレンジャーを切り捨てて、インバネスコートの裾を揺らして青年は長し目に職員を促す。
彼の右手に握られた、銀の直剣。諸刃作りで、鍔と剣身に銀の細工が施され、両手でも片手でも振るいやすい柄を持ち合わせた骨董品のようでありながら、機能美を有した一振り。
銀の刃は、ヴォイドレンジャーの金属質な外骨格をものともせず切り裂いていく。
瞬く間に敵は殲滅され、得物を肩に担ぎ上げたアーランは轡を共にした青年へと向き直った。
「貴様のお陰で助かったぞ。俺一人だけだったなら、小さくない被害が出ていただろう」
「いえいえ。こうしてその場に居合わせたのも多生の縁というもの。私も、微力ながらお手伝いさせていただきますよ」
朗らかに笑う青年だが、アーランは内心での警戒レベルを一段階引き上げていたりする。
(明らかに戦い慣れている。それも、俺よりも遥かに洗練された剣の腕だ)
防衛課の主任として、相応の実力者であるのがアーランだ。
そんな彼の目から見て、青年の剣技は洗練されていた。
剣というのは、ただ振るえば斬れるものではない。如何な名刀も名剣も担い手が三流であれば、その切れ味の半分も発揮できないかもしれない。
その点、青年が切り捨てたヴォイドレンジャーは、何れも切り口が綺麗なもの。それこそ、斬った跡を合わせれば再び動き出すのではないかと思えるほど。
宇宙ステーションのセキュリティを任されるアーランとしては、得体の知れない剣客など放置できたものではないのだが、如何せん今は非常事態。直ぐにでも動かねばならない。
「貴様、名は?」
「……ああ、コレはとんだ失礼を」
アーランの言葉を受けて、そこで漸く気付いたのか青年は恭しく礼をする。
「私は、ロレンス。とある遺物を探して、旅をしている者です」
そう言って、彼は微笑んだ。