「一生いっしょ!」が確定してる相手と卒業式に手をつないで...じゃないと出られない高校   作:嵯峨野広秋

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焼肉定食

 その二人は、だいたいのことが逆だった。

 

 片方は背が高く、片方は小柄。

 片方はスカート長め、片方はスカート短め。

 片方はおとなしい、片方はさわがしい。

 片方は勉強ができて運動がイマイチ、片方はその反対。

 

 ざっとあげただけでも、これだけある。

 しかし、おどろくべきことにその二人は大(だい)の親友だった。

 かつクラスの中心的存在で、すごく目立っている。

 

 昼休みの今も、二人は女子のグループにとり囲まれて、楽しくおしゃべりしていた。

 ぼくの前の席にすわっている男子が、そっちを人差し指でさしながら言う。

 

「な、なあ、高泊(たかどまり)くんなら、どっちがいい?」

「いやぼくはそんな……えらべるような立場じゃないから」

 

 この彼は、二学期からよく話しかけてくれるようになった。

 ぼくは一学期をずっとぼっちですごしてたから、正直ありがたい流れだった。

 ただ、少し押しのつよいところがあって、

 何十巻もある自分が推(お)すマンガをいきなり「かすよ」と持ってこられたときは、けっこうこまってしまった。

 

「逆に、そっちは?」

「そうだなぁ……ツインテ活発キャラも捨てがたいけど……やっぱりセレブお嬢様キャラの彼女がいいな」

 

 うんうん、とよくわからないが同調する。

 

 まあとにかく、大きなイベントの前に友だちができたのは良かった。

 

 来週には修学旅行がある。この高校は高二の10月にそれがあるんだ。

 

 

「きゃわいそう」

 

 

 帰り道の電車でばったり顔を合わせると、幼なじみはいきなり言った。

 

「なにが?」

「自由行動。修学旅行の。でもポジティブにいこ? 先生とまわるのも、なかなかレアな経験だしね」

「ノア。おまえ誤解してるだろ。もうぼく、友だちいるぞ?」

「あれっ? そうなの?」

 

 駅にとまってちょうど二人分の座席があいた。

 まよわずノアがそっちに行ったので、ぼくもついていきとなりにすわった。

 

「カツキくんには?」

「まだ……っていうか友だちに『友だちができた』とか、あまり報告するもんじゃないだろ」

「私から言っていい?」

 

 いいよ、とぼくは了承した。

 二年になって、ノアは克樹(かつき)とクラスメイトになっている。

 

「よろこぶだろうな~。ずっと心配してたんだよ? 永太(えいた)のヤツがさびしそうだ、って」

「うん」

「きゃわいそうじゃなくなってたか」

「それ、気に入(い)ってるのか?」

 

 なによ、とノアは目を細めた。

 

「かわいそうと思ってくれる幼なじみがいることを、もっとよろこびなさいよね」

「はいはい」

 

 駅の改札を出た。

 後ろ姿を向けたまま、雑音にかき消えるギリギリの声量でノアは言った。

 

 

「私がいっしょにまわっても、よかったんだけどなー……」

 

 

 それはふいうちだった。

 夕方の雰囲気もあって、より効果的にぼくの心をつかんだといえる。

「いいぞ」と反射的に言いそうだった。

 手帳がなければ、きっとそうしてる。

 

(きこえなかったフリしたけど)

 

 すこし後悔。

 だがおそらく、ちがう時間軸のいつかのぼくが、あいつとの自由行動をえらんでいることだろう。

 

(……しょうがない。ノアとくっついたんじゃ、高校を出られないんだ。永遠に)

 

 行き先は、歴史的な名所が多い「修学旅行といえばここ」みたいな定番のところだ。

 

 新幹線でとなり、バスの座席でとなり、部屋は同じ部屋で、自由行動もいっしょ。

 それでも友だちは話すことがなくなるどころか、時間がたつごとによくしゃべるようになった。

 

(情報量すごいな……)

 

 今いるこの橋の上でも、彼の話はとまらなかった。

 建てられた由来とか、幕末にどういう事件があったとか。

 

 ぼくたちがいるのは、大きな川にかかる大きな橋の真ん中あたり。

 

 さー、というどこか落ちつく水の音をバックに、友だちの説明にうんうんうなずいていると、

 

 

「よく知ってるね」

「ほんまにな」

 

 

 声をかけてきた女子がいた。

 二人組。

 

 片方は一つ結び、片方はツインテール。

 

「あ、ごめんなさい。お邪魔しちゃったかな? 面白いお話がきこえてきたものだから」

「高泊(たかどまり)くんたち、よかったらうちらといっしょにまわってくれへん?」

 

 ふぇっ!? と友だちが声をあげる。

 ぼくも同じ気持ちだった。

 声が出なかったのは、あまりにも想定外のことにおどろきすぎたからだ。

 

 ありえない。

 

 クラスの人気女子ツートップと、ぼくたち二人が同行するなんて。

 

「え、えっと、この寺はむかし、えらい人を弔(とむら)うために……えらい人って、だれだったかな……」

 

 完全にペースが乱れた彼を前に、二人ともニガ笑い。

 ぼくも、スマホでしらべて横からできるだけサポートしてみたが、力になれたかどうか。

 

「おいしい!」

 

 菱川(ひしかわ)さんがほっぺたをおさえた。

 お昼どき。

 電車にのって市街地へ出たあと、ぼくたちはいったん昼食を食べることにした。

 レトロな感じがする喫茶店。

 赤いイスとか、ステンドグラス、ランプみたいな照明、むかしっぽい置き時計。

 

「うまかったなー」

「ほらほらシズク。デザートも食べようよ」

 

 と、横にすわる逆巻(さかまき)さんの肩をさわる。

 

「ふとるでー?」

「こんなときぐらい、いいじゃない」

 

 食事中も、しゃべっているのはほとんど二人だけだった。ぼくたちはガチガチになって無言だった。

 

「ねえ、みんなでアフォガートを食べません?」

 

 ぼくと彼は同じタイミングで首をかしげた。

 バニラアイスにエスプレッソをかけたものです、と菱川さんが説明する。

 

「いや……遠慮しとこうかな……なんか高そうだし」友だちはメニューで価格を確認してそう言った。

「大丈夫です。お代は、私に出させて下さい。親からも、友人のためにつかえと言われておりますので」

 

 すっ、と財布を出して会計してくれた。

 ごちそうさま、と言ったあとで、彼がぼくに小声でぼそっとつぶやいた。

 

「セレブですなぁ……」

 

 菱川さんはお金持ち。

 それも、どうもケタがちがうレベルらしいというのは、クラスのみんなが知るところだった。

 運転手さんつきの高級車で登下校をしてるだけでも、なみの家庭じゃないことを示している。

 

(はーやれやれ)

 

 家にもどってきて、ぼくは真っ先に机にしまった手帳を確認した。

 

(二年も半分すぎたのに、彼女どころか仲のいい女子もいない。あー、これ終わったなー)

 

 ――――と、

 

 途方(とほう)にくれていると、

 

 ちょっとした事件が起こった。

 

 

「い……いっしょに!?」

 

 

 ぼくと友だちの声がそろった。

 

「あかん?」

 

 ツインテの逆巻(さかまき)さんが、眉を八の字にして残念そうな声で言い、

 菱川(ひしかわ)さんがそのあとをつづける。

 

「修学旅行の話、四人でいっしょにしませんか?」

 

 食堂の四人がけのテーブル。

 意識しないようにしても、彼女たちがチラチラ見られてるのが気になる。

 

 やはりこの二人は特別なんだ。

 

 気軽にネットにあげた動画――休み時間のおしゃべりみたいなふつうの内容――が、おそろしい速度で広まって次の日には学校が特定され、あわててそれを削除したというエピソードはダテじゃない。 

 

 次の日も、その次の日もぼくたちは相席(あいせき)した。

 

 

「また焼肉定食なの? シズクはほんとに、それが好きなのね」

「ええやん。好きなもん食べるんが一番やで」

 

 

 いつしか、お昼にこの四人で食堂で食べるのが、当たり前になった。

 

 クラスの女子にお弁当の人が多かったのも、こうなった原因の一つだろう。

 ようは、四人がけのテーブルをうめれる話し相手がほしかったってことだ。

 たまにヘンな男子がすわってきてイヤやってん、と逆巻さんは言っていた。

 

(まあ、ボディガード気分でわるくないな)

 

 ぼくと友だちもいつまでも無口でもなく、ふつうにしゃべるようになる。

 

 一度、彼女たちと話すぼくの様子をノアにみられたときがあった。

 

(……なんだこれ)

 

 その日の夜、あいつからとどいたメッセージは、亀と三日月の絵文字だった。意味はわからない。

 

 そして、さらに日常をゆるがすようなことが。

 

 ――ぼくの友だちが、菱川さんに告白された。

 

 彼がしたほうじゃなく、されたほう。

 

 以前から気になっていて、じつはあの修学旅行のとき、彼女は足がふるえながらも勇気をだして声をかけたそうだ。

 

 カップル成立。

 

 しかし、つきあってることはオープンにせず、まわりには秘密にしていた。

 だからこのクラスでそれを知ってるのは、二人をのぞいてはぼくと……

 

 

「あ。今日はタカくんも焼肉定食なんやね」

 

 

 逆巻(さかまき)さんだけ。

 その日、食べ終わったあと、彼女はなかなか席を立たなかった。

 食器を下げに行く菱川(ひしかわ)さんたちを、頬杖(ほおづえ)をついてぼんやり見てる。

 

「ほんま、よかったなぁ。そう思わへん?」

「うん。思うよ」

「自分は?」

「自分? ぼくのこと?」

「好きな子とか、おらんの?」

「……」ぼくは逆にきいた。「逆巻さんは?」

「まーおってもな……うち、あの子ほど美人さんやないから」

 

 そんなことはないとぼくは思う。

 見た目のレベルみたいな話じゃなくて、彼女はちゃんと魅力的だ。

 

「ショックやしなー。好きな人できて、その人にうちじゃなくてあの子がいいって言われたら。たぶん、そうなるやん?」

「そうかな。それはわからないと思うよ」

「ええねんええねん」にかっ、と彼女は両目を細くアーチ状にして笑う。「気つかわしてごめんな」

 

 食器をもって立ちあがるとき、

 彼女はひとりごとのように言った。

 

「うちは、あの子の添(そ)え物(もん)やねん」

 

 2月になった。

 ぼくはあるウワサを耳にした。

 

 菱川さんの私物が盗まれた、って。

 

 あまり高校生がもってない、ハイブランドの財布。

 

 犯人さがしはしたくないからと、彼女はそのことを親や先生に知らせていないようだ。

 

(ぼくも、クラスに犯人がいるなんて思いたくないけど……)

 

 気になる。

 オゴってもらったお返しじゃないが、

 できることは何かないだろうか、とぼくは頭が切れる蛍一(けいいち)に相談した。

 

「盗んだ人間をさがさない。そういう判断もあるだろうな」

「でも……見つけてあげたいんだ」

 

 そうか、と目をつむってうなずく。

 

「そういうときは、逆問題で考えるのはどうだ?」

「ぎゃく……問題?」

「結果から原因にさかのぼるんだ。この場合なら、どういう行動が財布を取られる原因になったのか、たとえばそれが〈ハラがたった〉とか〈ムカついた〉なら、どうしてそういう気持ちになるに至(いた)ったのか……」

「へー。なるほど」

 

 とはいったものの、よくわからない。

 

 一番親しい人に、くわしくきくしかないか。

 

 放課後の廊下で、逆巻さんをつかまえた。

 

「心あたり? んー、見てわかると思うけど、ウラミ買うタイプちゃうからなぁ」

「女子のだれか、その財布のブランドが好きみたいなこと、言ってなかった?」

「べつに、やな」彼女は片手を腰にあてる。「ずいぶん熱心やね」

 

 自分でもそう思う。

 けどなんか、ほっとけないんだ。

 

(もっと情報が必要だな)

 

 ぼくはなんでもないことのように、

 

 

「日曜日、会えないか?」

 

 

 と逆巻(さかまき)さんをさそった。

 

 デートが目的なら、ビビッてできなかっただろう。

 

 そうじゃないから気負(きお)わずにさらっといえた。

 

 

「また遊ぼうな」

 

 

 わかれるときのそれは社交辞令じゃなかった。

 何日かして、今度は彼女からさそってきた。

 

 

「あっははは! おもろいやん、それ」

 

 

 ぼくの失敗談を、逆巻さんは面白がってきいてくれた。

 笑うと、ちらっと口から八重歯がのぞく。

 本人はコンプレックスのようだが、ぼくは好きだった。

 

(あれ?)

 

 いつのまにか、菱川さんの財布のことを忘れてしまっていた。

 

 女の子と仲良くなっていくことがぼくの心を満たして、意識から追いやられたんだと思う。

 

(まてまて……たしか逆問題だったよな)

 

 どういう人が財布をとる?

 それは、その財布をもってない人だ。

 財布はハイブランドらしい。

 ハイブランドを買えないのは――――

 

 

「うちの家いま大変やねん。お母さんがずっと入院しててな」

 

 

 そんなにお金をもってない人……。

 

 三年生になった。

 

 ぼくは彼女と二人きりで食事するようになった。

 

 あいかわらず雫(しずく)は焼肉定食が好きだった。影響されて、ぼくもそれをえらぶことが多くなった。

 

 

「同じもん食べて……相性ええな、うちら」

 

 

 学年が上がってクラスもべつべつになり、雫(しずく)は菱川(ひしかわ)さんとあまり会わなくなったみたいだ。

 スマホでも、ほぼやりとりがないらしい。

 

 あんなに仲が良かったのに。

 

 それとも、そう見えていただけ―――

 

 または何か、二人の関係が壊れるようなことが、ぼくの知らないところで発生したとか。

 

(まさかだよ。いくらなんでも……)

 

 が、考えはじめると、日に日にその疑惑はふくらんでいく。

 

 同時に、彼女への想いも強くなっていった。

 

 磁石のように、近づいてある距離をこえると、すごいスピードで引きあう。

 

 

「なんか飲みもんとってくるわ」

 

 

 場所は彼女の部屋。

 

 タタミの上にピンクのカーペットをしいていて、白いローテーブルと、部屋の角(かど)に置かれた学習机と、ちいさなタンスに、木製のベッド。

 壁にはセーラー服をハンガーでかけていて、その横のボードに小物入れとかカギとかをひっかけている。

 

(いいのかな……こんなじっくり観察しちゃっ………………ん?)

 

 小物入れからこぼれ落ちそうなほど、ハミ出しているもの。

 

 その色、その形、その質感にぼくは見おぼえがあった。

 

 ――「お代は、私に出させて下さい」

 

(……)

「おまたせー。っていうか、なにがええ? それきくん忘れてたわ」

 

 にこっ、と彼女は笑う。

 デート後の今は、トレードマークのツインテールをつくっていない。

 ぼくは立ち上がった。

 

「ごめん。急用ができた。ぼく帰るよ」

「え~そうなん?」

 

 その日から卒業式までは、時間が飛んだようにあっというまだった。

 ぼくはなるべく、態度に出ないように雫(しずく)とは接したつもりだけれど。

 

 

 ―――彼女の部屋にあったのは、菱川さんの財布だった。

 

 

 卒業式の日。

 

 ノアがぼくに告白した。

 

 あいつは、ぼくが返事するのもまたず、すぐ背中を向けて立ち去った。

 

 入れかわるように、彼女が目の前にあらわれた。手をふりながらこっちに来る。ツインテールの髪がゆれている。

 

(ぼくと雫(しずく)は身(み)も心(こころ)も相性抜群(ばつぐん)だ。今なら、きっと幼なじみよりも――)

 

 財布のことに目をつぶれば、すべてうまくいく気もする。

 

 高校を出ていける可能性は、じゅうぶんにあるんだ。

 

 だったら……

 

「ほら、私と手ぇつないで、いっしょに学校出ようや」

「……」

「そうしたいって、前に自分言(ゆ)うてたやん?」

 

 ぼくは首をふった。

 ぴくっ、と彼女の右の下まつ毛が一回こまかくうごいた。

 

「キミとは手をつなげない」

「な……」

「たとえキミと、一生いっしょにすごせるとしても」

「は……はぁ!? なにいうとんか、わけわからんわ!」

 

 肩ごしに一度ぼくをにらみ、彼女は行ってしまった。

 

(たしかにな、ぼくも、なにやってるのかわけわからないよ)

 

 高校三年間で最終的にやったことはといえば雫(しずく)が知られたくなかったことを発見して、

 手をつなぐことを拒否しただけ。

 

 ひとりよがりな判断だったか?

 

 そうではないと、思いたいけど……。

 

(あー、天気いいなー)

 

 見上げた空は快晴だった。

 

 まさに今日は、卒業式日和(びより)といえる。

 

(もう何もできることもない)

 

 手帳に引き継ぎは残してる。

 一ヶ所、本文とはべつに走り書きで『重ね合わせ』と書かれていたのも、一応そのまま残すことにした。

 あとのことは次のぼくにまかせるとしよ―――

 

「えっ? まじ?」

「まじまじ! 事故(じこ)ってる。女子がトラックに……」

 

 すれちがいざま、学校へ入っていく生徒が興奮した様子で話していた。

 

 気になって歩(あゆ)みをとめようとするも、あげた足をおろした場所は、すでに学校の外だった。

 

 ◆

 

 高校初日の朝からツイてない。

 寝癖(ねぐせ)はひどいし、家にスマホ忘れて定期券つかえなかったし、ほどけたスニーカーのひもをふみつけてコケるし。

 

「どーぞぉ!」

 

 あ。

 反射的に受け取ってしまった。

 駅前の広場で、ポケットティッシュみたくくばっていたから、てっきりポケットティッシュだと思ったんだけど。

 

 手帳だ。

 しかもずっしりくる革製。黒い色の。

 こんなのタダでもらっていいのか?

 

(……なんか、はさまってるな)

 

 しおりみたいなのが。手帳の上の部分にちょっとだけ見えている。

 

(なんだこれ……はっ!!!???)

 

「親愛なる自分へ

 

 まず、ページをさかのぼって『逆巻(さかまき) 雫(しずく)』の名前をさがせ。

 さすがにないとは思うが。」

 

 おいおい。

 なんだよその投げやりな書き方は。

 

 もっと自信持てよ……って、まだよくわかってないんだけど。

 

 ぼくの字なのはまちがいないな。

 

 一応、指示にしたがってさがしてみたが、その名前はなかった。

 

(ようするに高校を出るために一生いっしょの相手をさがせ、ただしその相手はノアではない……と)

 

 ある日の午前中、ノアからラインが入った。

 

「今日お弁当忘れちゃって」

「食堂行かなきゃなんだけど」

「友だちみんなお弁当派だから」

「いっしょに行ってくれない?」

 

「?」のうしろには手を合わす絵文字。

 あいつがぼくにこんな絵文字をつかったの、はじめてかもしれないな。

 

「いいよ」

「券売機混むから、休み時間に食券買っとけよ」

 

 と送る。

 友だちの二人には、かくさずそのまま話した。幼なじみと食べるって。

 克樹(かつき)は「うらやましいやつだなー」とぼくをひじでつつき、蛍一(けいいち)はだまってうなずいただけだった。

 

 さあ、ぼくも買っとかないとな。

 

 二時間目が終わり、二人と食券を買いに行く。

 

 券売機のまわりはぼくたちだけのように思えたので、何を食べるかじっくり考えこんでいると、

 

「どしたん? まよってんのぉ?」

 

 うしろから声をかけられ、ぼくはふりかえった。

 

「あ……すいません。すぐ決めますから」

「ええんよ。こっちこそ急(せ)かしてごめんな」と言って笑う。「そうやなぁ、焼肉定食とかどう? おいしいで」

 

 ぼくは、その子におすすめされたものをえらんだ。

 笑うと目がニコニコマークみたいになる、かわいらしい、ツインテールの女の子だった。

 

(うまい)

 

 濃厚なタレがからんだ肉と、あっさりしたキャベツの千切りの組み合わせは、じつにいいと思った。

 

 

「いっこもーらいっ!」

 

 

 あきらかにあいつのハシがつまんでるのは一個(いっこ)じゃなかったが、ゆるしてやるか。

 なんとなく今日のぼくは、キャベツを多めに食べたい気分だったんだ。

 

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