短い文章ですがよければお読みくださいませ。
そうして私の旅は終わった。
いつか、どこかの貴方へ。
旅日のうた
あるところに 旅の者
ひとり、ふたり、みっつ、よっつ
春夏秋冬 めぐる人
だれかが残した ふるい日記
春の旅人 白ひげおじさん
くろいかみ しろいひげ
やさしい目した おじさんが
すたれた町の まんなかで
ぽつんと日記を みつけたよ
でもね、おじさん 字が読めぬ
「売ればいいか」と かばんにいれた
けれどある日 こまり顔
道ばたで しょうにん助けたら
「お礼に、字を 教えてやろう」
いち いち、いちじ ふたりで読み
おじさんは 店で働くようになった
銀のぶん ひらがなになり
汗のぶん カタカナに
年をかさねて 日記のことばが
やっと やっと 読めたんだ
夏の旅人 赤いスカーフの女
かぜにひるがえり 赤いスカーフ
つよくて やさしい 夏のひと
あらしのあとを 仲間と旅し
あしあとのこし 花をうえ
であった町に 愛する人
だけど その人 まもれなかった
夏は ふたたび 旅にでた
灰と日記と 想いを抱き
仲間のまつ 北のほう
ふぶきの先に 新しい町が
「わたしは、ここに来たよ」と
風のように 夏はわらった
秋の旅人 村の三男ぼうや
三つめの星は 村の少年
兄のかげに すきまのような子
でもある日 やってきた
にどめのしょうにん めずらしい
おなじ年ごろの 少女の笑顔
「つれていって」 勇気を出して
言ってみたら 親はにっこり
「好きにしろ」って さみしい言葉
だけど少年 それでいい
「なら オレが教えるよ」
よろいの人が 剣をかした
くるしかったよ 泣きもした
でも秋風 つよくなる
北の村で 少女とふたり
しあわせを知る 旅のおわり
冬の旅人 フードの大男
しろい雪 ふかい雪
そこをひとりで あるくひと
名もなき 言葉もない 大きな男
たすけた人に おそれられ
でもにくをわけて また歩く
村のむこうで 「ここが終点」
リーダーの手が 肩をたたく
フードをぬいで 男が言う
「ぼくはむかし つみをおかした
だから ずっと 北へ行く」
でもね、村は うけいれた
やさしい手が 罪もとかした
日記を読んで 言葉をしるし
雪の夜に 新しい灯がともる
そして…
おじさんは 日記をとじた
春の風に のせて歩く
「この北に 町がある」
でもそこには 町もない
のこっていたのは ひとひらの
小さな草が 花をさかせる
「ここが… はじまりにしよう」
おじさんは まわりをみた
ともに来た人が うなずいた
木をきって 家をつくって
羊をかって 歌をうたった
はじめてだった 自分の道
なにかをなすって こんなにも
あたたかいと 知った日々
噴水のそばの ベンチにすわり
日記をおいて 目をとじた
そうして私の旅は終わった。
いつか、どこかの貴方へ。
この日記が 見つかるように。
この場所が つづくように。
『旅日の記』
そうして、私の旅は終わった。
いつか、どこかの貴方へ。
昔々、世界が少し寂しくなった頃の話です。
人は空を見上げて、星の名を忘れ、風の歌も聴かなくなっていました。
でもそんな世界にも、まだ旅人たちはいました。
そのうちのひとりが、春の名を背負った男でした。
黒髪に、白いヒゲを少しだけ生やしたおじさんは、誰にも告げずに旅をしていました。
ある日、ひどく寂れた街の真ん中で、ぽつんと置かれた古びた噴水の横に、何気なく一冊の日記を見つけます。
紙は今や貴重なもので、それだけで価値がある時代。
おじさんは文字を読むことができませんでしたが、「これは売れるかもしれん」と思い、そっと自分の荷物に加えました。
けれど、それは始まりでした。
数日後、道中で怪我をした商人を助けたおじさんは、お礼に「文字」を教えてもらえることになります。
最初は興味本位だった文字の練習。けれど、ふとおじさんは思い出します。
――そういえば、自分には読めない日記があった。
そこから、おじさんの学びが始まります。
一文字、また一文字。
おじさんは働き、商人は教え、時間は静かに流れていきました。
やがておじさんは日記を読み解けるようになり、その中に書かれていた「想い」に心を動かされます。
そこには、一人の女性の旅が綴られていました。
夏を司るその女性は、かつて多くの仲間と旅をしていたようでした。
荒れ果てた世界で人々を助け、希望を灯すように歩いていた彼女。
やがて、旅の途中で出会ったひとりの男性と恋に落ち、仲間の祝福を受けて彼と街に残る道を選びます。
しかし幸せは永遠ではなく、夫は病で先に旅立ってしまいました。
残された彼女は一度は歩みを止めましたが、ある日届いた仲間たちの手紙に背中を押されます。
――「北の地で、新しい街を作ろうとしている」
夫の遺灰と、過去の記憶とともに、彼女は再び歩き出しました。
そして、秋。
少年の旅は、少し切ない始まりでした。
優秀な兄たちと比べられ、影のように育った三男坊。
そんな彼の前に現れたのは、月に一度しか来ないはずの商人と、その娘でした。
少女に一目惚れした少年は、思い切って北へ行くという商人の旅に同行したいと願い出ます。
すると、両親はむしろ快く送り出しました。少年の心に冷たい影が落ちた瞬間でした。
旅の途中で、少年はたくさんのものを失い、たくさんのものを学びました。
剣を教わり、別れを経験し、そして強くなっていく。
その果てにたどり着いたのは、小さな北の村でした。
迎えてくれたのは、柔らかくも芯のある、未亡人の女性。
村は小さくとも、そこには温かな灯りがありました。
そして、冬。
すべてを包むような沈黙のなか、大柄な男が雪を踏みしめていました。
フードを深くかぶり、顔を見せず、ただまっすぐに進む。
誰にも会わず、どこにも止まらず、ただ、前へ。
そんな彼が久しぶりに出会った人々は、熊に襲われかけていました。
誰もが絶望する中、彼は素手で熊に立ち向かい、見事に倒しました。
恐怖と感謝が入り混じった視線を受けても、男は怒らず、熊の肉を分け与え、また歩き出します。
やがて、北の街にたどり着いた男に、村のリーダーは言いました。
「もうこの先には道がない、ここが終点だ」と。
男はフードを脱ぎ、言います――「そうか、終わりが来たのか」
かつて罪を犯し、贖罪のために歩き続けてきたその足が、ようやく止まったのです。
人々は彼を受け入れ、やがて彼はこの街のリーダーとなりました。
誰よりも無口で、誰よりも誠実で、誰よりも人を信じた男。
亡きリーダーの遺志を継ぎながら、街を育てていきました。
そしてある夜、彼は一冊の日記を開きました。
それは街のリーダーが代々引き継いできた物でした。
夏、秋、そして冬。
旅人たちの想いがつながり、重なり、ひとつの灯りとなって彼の手の中にありました。
彼は静かに、最後のページを綴りました。
それからまた時が流れ――
春の男、かつて日記を拾ったおじさんは、北へ向かいました。
そこに街はもうありませんでした。けれど、地に芽吹いた小さな葉が風に揺れていました。
おじさんはそれを見て、微笑みます。
「じゃあ、ここから始めようか」
そうして村は生まれ、やがて人が集まり、希望が芽吹きました。
村の中心には噴水があり、そのベンチに、かつての旅の記録がそっと置かれました。